1. でんげんを きっても、どこに おぼえて いるの?
1. 電源を切っても消えない理由:電子を小部屋に閉じこめる
1. 電源が要らない理由:絶縁体に囲まれた領域に電子を置く
パソコンの なかの ふつうの きおくは、でんげんを きると きえて しまいます。でも SSDは ちがいます。きっても データが のこります。
SSDの なかには、とても ちいさな 「へや」が、かぞえきれない ほど ならんで います。へやの まわりは、電気を とおさない かべで かこまれて います。ここに 電子を ためる か、ためないか。それが おぼえる ということです[1]。
かべで かこまれて いるので、電子は すぐには でて いきません。だから でんげんが なくても のこります。
たとえば、ふたの ついた 水そうに 水を ためて、水の 高さで 数を きめる ところを おもいうかべて ください。ふたが あるので、水は すぐには へりません。ただし、すきまが あれば、すこしずつ へります。本当は 水ではなく 電子で、もっと ずっと ちいさな はなしです。
SSDの中のフラッシュメモリには、メモリセルと呼ばれる小さな部屋が無数に並んでいます。キオクシアの技術解説によると、NAND型では、絶縁体に囲まれた電荷蓄積膜という部分に電子を出し入れすることで、データを記憶します[2]。電子を保持しているか放出しているか、つまり電子の「あり」「なし」が、情報になります[1]。
書き込むときは、ゲートに高い電圧をかけ、電子を絶縁体の壁越しに押しこみます。電子が絶縁体を通り抜けるこの現象は、トンネル効果と呼ばれます。入った電子の量が多いか少ないかで、そのセルの「しきい値電圧」(電流が流れ始める電圧)が変わり、これを読み取って0と1を判断します[2]。
壁は電気を通しにくいので、電子は外へ出にくく、電源を切っても内容が残ります。覚えているのは、数字というより「電子の量」なのです。ただし、壁があっても電子がまったく動かないわけではありません。それは第3章で見ます。
NAND型フラッシュメモリのメモリセルでは、絶縁体に囲まれた電荷蓄積膜(浮遊ゲート型では、酸化膜で電気的に孤立した浮遊ゲート)に電子を出し入れすることでデータを記憶する[2]。キオクシアはこれを、電子の「あり/なし」で情報を持つ仕組みとも説明している[1]。
書き込みでは、制御ゲートに高電圧をかけ、基板側の電子を絶縁体越しに蓄積膜へ送りこむ。電子が絶縁体を通り抜けるこの動作はトンネル現象と呼ばれる。蓄積膜に入った電子の量は、そのセルでトランジスタが導通し始める電圧(しきい値電圧)を変える。読み出しは、この電圧の高低を調べて0か1かを決める操作である[2]。浮遊ゲート型では、ゲートが絶縁されているため電子が閉じこめられ、電源を切っても残る(不揮発性)とされる[3]。
ここで一つ、注意したい。「電子が出られない」と「電子がまったく動かない」は同じではない。壁は完全な蓋ではなく、後の章で見るように、年単位の時間をかけて電子は少しずつ失われうる。電源が要らないことと、永久に消えないことは別の話である。
2. 「フラッシュ」という 名前は、どこから きたの?
2. なぜ「フラッシュ」と呼ぶのか:まとめて消すことと写真のフラッシュ
2. 「フラッシュ」の名の由来と、一括消去メモリが生まれた経緯
SSDの 中の きおくを 「フラッシュメモリ」と よびます。カメラの フラッシュと、なにか かんけいが あるのでしょうか。
この メモリは、たくさんの へやの 電子を、いっぺんに まとめて けせます。その ようすが、カメラの フラッシュが 一しゅんで 光る ことに にて いるので、この 名前が ついたと いわれて います[4]。
1984ねんに、ある 会社の 人が、まとめて けせる メモリを はっぴょうしたと、本田ざいだんの ページに あります。その 人は、のちに 2018ねんの 本田しょうを もらいました[4]。
名前を つけたのが だれかは、はっきり していません。同じ 会社の 人が つけたと いう せつも あります。
「フラッシュ」という名前は、写真のフラッシュに由来するといわれます。このメモリは、多くのセルに溜めた電子を、まとめて一度に消せます。その様子が、一瞬で光るカメラのフラッシュを連想させたというのです[4]。
本田財団の資料によると、東芝の舛岡富士雄氏は1984年に、電気的に一括して消せる半導体の不揮発性メモリの技術を発表しました。製品の発表は翌1985年です。氏はその業績で2018年の本田賞を受けています。NAND型は1987年に舛岡氏が発明したとキオクシアの記事は紹介しています[4][1]。
名づけた人については、英語版Wikipediaが同僚の有泉昭二氏としています[3]。ただし日本語の一次資料では確認できていないので、「同僚が名づけたといわれる」程度にとどめておきます。
さて、一括消去ができるとは、電子を自由に出し入れできるということです。それなのに、閉じこめた電子が勝手に減ることはあるのでしょうか。
「フラッシュ」の名は、一括消去の様子が写真のフラッシュを連想させたことによる、と紹介されている[4]。英語版Wikipediaは、命名者を同僚の有泉昭二氏とするが、これは二次資料のみの記述である[3]。
この名の背景にある出来事は、はっきりしている。本田財団のページが伝えるのは、舛岡富士雄氏による1984年の技術発表(電気的に一括消去できる半導体不揮発性メモリ)、1985年の製品発表、そして氏が2018年の本田賞を受けたことである[4]。NAND型の発明は1987年とキオクシアが紹介している[1]。
電子を自由に出し入れできる仕組みは、裏返せば、閉じこめた電子が時間とともに抜けていく可能性もあるということだ。次章でその実態を見る。
3. しまっておくと、どうして わすれて しまうの?
3. 閉じこめたはずの電子が、少しずつ漏れていく
3. 保持エラー:電荷が漏れると、しきい値電圧の分布がずれて重なる
へやの かべは あつくても、電子は すこしずつ ぬけて いくことが あります。さっきの 水そうなら、ふたの すきまから 水が すこしずつ もれて、へる ようすです。
電子が へると、へやの 「高さ」が ひくく なります。すると、SSDは 「これは 前に かいた 数だ」と よみまちがえる ことが あります。これを 研究する 人たちは 「ほじの エラー」と よびます[5]。
会社むけの SSDの 中には、でんげんが 入って いる あいだ、おぼえた じょうたいを たもつ しごとを 中で する ものが あります。でんげんが きれた SSDは、それが できません[7]。
ですから 長く しまうほど、ずれが たまって いきやすく なります。
書き込まれたセルから、電子が時間とともに漏れることを、研究者は「保持エラー」の原因と呼びます。Cai らの研究(2018年の回顧論文)は、保持エラーをフラッシュのエラーの主な原因の一つとしています[5]。
電子が減ると、しきい値電圧が下がります。同じ論文によれば、データをしまっておく時間が長くなるほど、高い電圧の状態は低いほうへずれ、各状態の電圧の幅も広がって、隣の状態と重なりやすくなります[5]。隣と重なると、0と1の読み違いが起きます。
もう一つ、同じ研究群では、書き換え回数が増えるほど保持エラーの率が高くなると報告されています。使い込んだセルほど電子を失いやすい、ということです[5]。
一部の企業向けSSDは、電源が入っている間、データの保持状態を保つ処理を内部で行います。電源が切れていると、それができません。Dellのサポート文書は、そのため長く電源を切ったままにしたドライブでデータ保持が心配になるとしています[7]。
書き込み後に電荷が漏れることで起きるエラーを保持エラー(retention error)と呼ぶ。Cai らの回顧論文(Seagate・カーネギーメロン大学、2018)は、これがフラッシュのエラーの主な原因だと整理している[5]。
漏れが問題になる理由は、電子の量が電圧として読まれるからである。保持時間が長いほど、高電圧側の状態のしきい値電圧は低いほうへずれ、同時に各状態の分布の幅が広がる。分布が広がると、隣り合う状態の裾が重なり、どちらの状態か判定できないセルが出る。これが読み誤りである[5]。さらに保持エラー率は、保持時間に加えて書き換え回数(P/Eサイクル)が増えるほど高くなる[5]。電子が絶縁膜を通るたびに素子が劣化するため、書き換え回数には上限があるとも説明される。目安の回数は資料ごとに大きく違うので、固定値は示さない[6]。
では、電源が入っていれば安全か。Dellの説明では、一部の企業向けSSDは通電中に、保持状態を保つバックグラウンド処理(リフレッシュなど)を行う。電源が切れた状態ではそれができないため、長期間通電しないと保持が不安になる[7]。処理の具体的な中身は製品ごとに異なる。
4. 1つの へやに たくさん おぼえさせると、どうなるの?
4. 1つの部屋に何段階を入れるか:容量と忘れやすさの関係
4. セルあたりのビット数を増やすと、電圧の差が狭くなる
SSDには、1つの へやに たくさんの 数を おぼえさせる ものが あります。水そうで いうと、水の 高さを 8だんかいや 16だんかいに わけて、数を きめる やりかたです。
だんかいが ふえるほど、となりの 高さとの ちがいは せまく なります。すこし 水が へっただけでも、よみまちがえやすく なると いわれます[8]。
その かわり、おなじ 大きさで たくさん おぼえられます。ちいさく ねだんも おさえやすい のは、この おかげです。
TLCやQLCのSSDでは、1つのセルに複数のビットを入れます。TLCは1セルに3ビット(8段階の電圧)、QLCは4ビット(16段階)を入れます。段階が増えるほど、隣り合う電圧の差が狭くなり、わずかな電子の漏れでも読み誤りが起きやすいといわれます[8]。
水そうにたとえると、高さを2段階(SLC)にするより16段階にするほうが、少し水が減っただけで別の段階に見えてしまいます。ただしこれはたとえで、実際には電子の量が電圧のずれとして読み取られます。
だから「何年もつか」は、セルの種類で変わると考えられます。年数は製品や条件で大きく違うため、ここでは具体的な数字は挙げません。
1つのセルに何ビットを入れるかで、必要な電圧の段階数が決まる。TLCは3ビットで8段階、QLCは4ビットで16段階とされる。全体の電圧の範囲が同じなら、段階が増えるほど隣り合う状態の間隔は狭くなる。前章で見たとおり、保持エラーは電圧が下がり分布が広がる現象なので、間隔の狭いQLCのほうが同じだけ電子が漏れても読み誤りに近づきやすい、という理屈になる[8]。ただしこの章のセル種別ごとの比較は二次資料に基づく目安である。
保持できる年数はセル種別・製品・書き換えの進み具合で大きく違い、一律の年数は示せない。書き換え回数も資料で大きく異なり、同じTLCでも数百回から数千回までのばらつきがある[6]。
容量を増やす工夫は、同時に「電子の量のわずかな差を読み分ける」難しさを増やす。忘れやすさは、種類・使われた回数・保管温度が重なって決まる、と読むのが妥当だろう。
5. どれくらい しまうと、データが よみにくく なる? おんどは かんけいする?
5. 規格の数字から読む、しまっておける期間と温度
5. JEDECの保持基準と温度:「1年で消える」のではなく「最低限の保証」
「何か月で きえる」と、きまっては いません。SSDの きまりを つくる なかまが、「これくらいは おぼえて いて ほしい」という 目安を もうけて います。
SSDの きまりを つくる なかま(JEDEC)の 目安として、ある ページは、ふつうの 人向けの じょうけんで 温度30度で 1年、会社向けの じょうけんで 40度で 3か月と しめして います[9]。
1年と 3か月では、4ばい ちがいます。でも これは しゅるいも 温度も ちがう ものの くらべなので、「温度が 10度 あがると 4ばい はやく わすれる」という 意味では ありません。
電子は あたたかいほど ぬけやすいと されて います。しまう ときは、あつい ところを さけるのが よさそうです[3]。
電源を切ったままの保持期間について、JEDECという業界団体の基準(JESD218系)は、一般向けは30℃で1年、企業向けは40℃で3か月としています。ただし数字は規格の原文ではなく、VAST Dataが載せた表からのものです。JEDECのClient/Enterprise条件として二次資料が示す目安、と受け取ってください[9]。
これは「1年で必ず消える」ではなく、最低限満たすべき保証の目安です。実際には個体や温度で差があります。Dellは、企業向けでは電源オフ中に最低3か月の保持が求められるとして、約2.5か月ごとに通電することを勧めています[7]。ただし3か月はサーバーや企業向けの下限であり、パソコンや家庭用機器にそのまま当てはまるとは限りません。
1年と3か月を並べると、12か月÷3か月で4倍の差ですが、両者は用途も温度も違います。10℃の差が4倍になる、とは読めません。
電源オフ時の保持について、JEDECの保持基準(JESD218系)は、一般向け(client)では30℃で1年、企業向け(enterprise)では40℃で3か月を求めるとされる。ただし規格原文は入手できず、VAST Dataのナレッジベースが載せた表を経由している[9]。以下はJEDECのClient/Enterprise条件として二次資料が示す目安として読む。
ここで注意したいのは、これが「1年で必ず消える」という意味ではなく、規格が求める最低ラインだという点だ。実際は個体差と温度で変わる。Dellは、企業向けでは電源オフ中に最低3か月の保持が求められるとして約2.5か月ごとの通電を勧めるが、3か月は企業向けの下限であり、一般向けの基準とは別である[7]。
検算してみる。1年は12か月、3か月との比は4倍だが、これは温度(30℃と40℃)と用途の両方が異なる値の比であり、「10℃で4倍」とは言えない。温度の効果だけを見るなら、別の資料が必要になる。温度が高いほど電子は抜けやすいとされるが、倍率を一般化できる数値は示せない[3]。VAST Dataは、30℃より高い環境では1年以下になりうるとしている[9]。
結論として、電子が漏れる速さは、セルの種類、書き換えの回数、温度、そして通電しているかどうかで変わる。どれも単独では決まらない。
6. しまって ある きかいを、どう あつかえば いいの?
6. 引き出しの古いUSBメモリやSDカードを、どう確かめるか
6. 手もとの古い記憶装置で、「何年・何℃・何回」を確かめる
おうちに、つかっていない USBメモリや SDカードが ないか、おとなと いっしょに さがして みましょう。
見つけたら、メモを つくります。「いつから しまって いるか」「しまって いる ばしょは、夏に あつく なるか」の 2つです。
だいじな データが 入って いるなら、おとなに たのんで、ときどき パソコンに つないで もらいます。つなぐだけで ずれを なおして くれるかは、きかいに よって ちがうので、コピーを とっておくのが いちばんです。
電子で おぼえて いる、という ことを しると、いつもの きかいが ちょっと ちがって 見えて きます。
家の引き出しに眠っている古いUSBメモリやSDカードを、保護者といっしょに探してみてください。確かめるのは次の2つです。
(1) いつからしまってあるか。(2) しまってある場所は、夏に暑くなるか。窓際や車の中は避けるほうが無難です。
大切なデータが入っているなら、コピーを別の場所にも取っておくことをおすすめします。通電することが回復につながるかどうかは、機器の種類や状態で変わるため、通電だけに頼らないほうが安全です。
記事で触れた数字は、いずれも条件つきの目安です。見つけた機器ごとに「しまった時期」と「暑くなりそうな場所か」を日本語でメモしておくと、あとで見返すときの手がかりになります。仕組みをもっと知りたいときは、キオクシアの技術解説(NAND型フラッシュメモリ)が日本語で読めます[2]。
手もとのUSBメモリやSDカード、古いSSDを一つ選び、「最後に通電した時期」「保管場所の温度の幅」「おおよその書き換えの多さ」の3つを書き出してみる。この3つを、まず書き出してみる。セルの種類も関係するので、これだけで寿命が分かるわけではない。書き換えが多く、暑い場所に長く置かれ、通電していなかった機器ほど、読み誤りが増える可能性は高いと考えられるが、個々の機器の寿命を言い当てる式はない。
規格の原典(JESD218・219)はJEDECから入手できる可能性がある。今回の記事では二次資料を経由した数字(30℃で1年、40℃で3か月)があったので、一次資料にあたると、条件の定義まで確認できる。論文では、Cai らの回顧論文(arXiv:1805.02819)に、保持エラーと温度・書き換え回数の実測が載っている[5]。
大切なデータの保管では、通電よりも複数の場所へのコピーのほうが、確実な備えになる。電子の量で覚える仕組みは、時間と温度の前では「ほぼ永久」ではなく「条件つきの期間」で考える必要がある。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の参照番号と対応しています。規格や公称値のうち二次資料経由のものは、本文でそのように断っています。
- キオクシア『“記憶の技術”はどこから来て』 https://www.kioxia.com/ja-jp/insights/history-of-our-memory-201910.html (電子のあり/なしによる記憶、NAND型の発明)
- キオクシア NAND型フラッシュメモリ技術解説 https://www.kioxia.com/ja-jp/rd/technology/nand-flash.html (電荷蓄積膜、トンネル、しきい値電圧)
- Wikipedia, Flash memory https://en.wikipedia.org/wiki/Flash_memory (浮遊ゲート、温度と電圧低下の例、命名者の説。二次資料)
- 本田財団 2018年本田賞 https://global.honda/jp/news/2018/c180928b.html (一括消去メモリの発表、名前の由来)
- Cai ら, 2018 (arXiv:1805.02819) https://www.arxiv.org/abs/1805.02819 (保持エラーと電圧分布のずれ)
- Wikipedia(日本語)フラッシュメモリ https://ja.wikipedia.org/wiki/フラッシュメモリ (書き換え回数・保持期間の目安。二次資料)
- Dell サポート KB 000198930 https://www.dell.com/support/kbdoc/en-ca/000198930/ssd-data-retention-considerations-when-powering-off-systems-for-a-prolonged-duration (電源オフ中は保守動作ができないこと)
- Wikipedia, Multi-level cell https://en.wikipedia.org/wiki/Multi-level_cell (TLC・QLCの段階数。二次資料)
- VAST Data KB(JEDEC表の再掲) https://kb.vastdata.com/docs/risk-of-data-retention-on-solid-state-devices-stored-without-power (JEDECの保持基準の表。二次資料)
なおした ところ
更新履歴
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