1. どうして 手が 冷たいのに、ぬれて いるの?
1. 同じ手のひらが、冷たいのに湿っている
1. 冷たい手と湿った手は、同じ「いざ」の備えなのか
みんなの まえで はなす ことに なりました。じゅんばんを まつ あいだ、むねが どきどきします。
となりの 子と あくしゅを すると、「手、冷たいね」と いわれました。でも じぶんの 手のひらを みると、すこし しめって います。
手が 冷たいのは、血の ながれが かわるからだと いわれます。しめるのは、汗が でるからです。この ふたつは、べつべつの しくみで おきて いるようです。まず、冷たいほうから みて みましょう。
みんなの前で話す順番が近づくと、心臓が速くなり、口の中も乾いてきます。そんなとき、手を握り合った友だちに「冷たいね」と言われたことがある人は多いかもしれません。
ふしぎなのは、同じ手のひらがそのとき湿っていることです。暑くて汗をかいているわけでもないのに、冷たくて、しかも湿っている。
この二つは、体の中で別々の仕組みで起きていると考えられています。どちらも「いざ」という場面に向けた備えと説明されます。まずは、冷たくなるほうから見ていきましょう。血管の中で、いったい何が起きているのでしょうか。
人前で話す直前に手が冷え、同時に手のひらが湿るという経験は、広く知られている。冷えは血流の減少、湿りは汗の分泌であり、体の中では別々の仕組みが関わっているようだ。ところが、どちらも「いざ」という場面に向けた備えとして説明されることが多い。
この記事で考えたいのは、冷たさと湿りが、どちらも緊張への備えなのかということだ。冷たい手は故障のしるしではなく、体が先に準備を始めているしるしかもしれない。では、体の中のどこで、何が動いて指先が冷えるのか。まず血管の側から調べる。
なお、この記事で扱うのは、一時的な緊張による変化である。冷えが長く続く場合は別の話になるので、そのときは大人や医師に相談してほしい。
2. 手が 冷たいのは、血管が ちぢむから?
2. 「いざ」の号令で、皮膚の血管が縮む
2. 交感神経が働くと血管が縮む ── 冷えを起こす最初の号令
体には、きんちょうした ときに はたらく 神経が あります。交感神経という なまえです。
この 交感神経が はたらくと、ほとんど すべての 血管が ちぢんで、血圧が あがる ことが あります[4]。
ちぢんだ 血管は、ほそく なった ホースの ようです。ただし ほんとうは、ホースと ちがって、血管は 体が じぶんで しめたり ゆるめたり して います。
あたたかい 血が 手の ほうへ とどきにくく なると、皮膚の 温度が さがります。きんちょうして 手が 冷たいのは、こう せつめいされます。では、どれくらい さがるのでしょう。
体の中には、「いざ」というときに働く交感神経があります。ブリタニカ国際大百科事典の説明では、交感神経が働くと、ほとんどすべての血管が縮んで血圧が上がり、副腎髄質からアドレナリンという物質が出やすくなります[4]。
手のひらや指先の皮膚も、この号令を受け取ります。手足の毛のない皮膚には、交感神経の線維が多く分布していて、血管の開け閉めを調節している、と皮膚の血流の総説は述べています[1]。同じ総説には、精神的な動揺でも血管の一部が閉じる、という趣旨の記述もあります[1]。
血管が縮むと、血の流れる量が減ります。温かい血が指先に届きにくくなるので、皮膚の温度が下がり、手は冷たく感じます。
つまり、心臓がどきどきするのも、手が冷えるのも、同じ「いざ」の号令の一部と考えられます。では、指先は実際に何度くらい下がるのでしょうか。
手が冷える入り口には、交感神経がある。ブリタニカ国際大百科事典によると、交感神経が働くと、ほとんどすべての血管が収縮して血圧が上がり、副腎髄質(ふくじんずいしつ)でアドレナリンの分泌が促される[4]。全身の血管の抵抗が上がれば、血圧が上がるのは当然である。
では、手の皮膚はどう関わるのか。皮膚の血流を扱う総説(Walløe, 2016)は、手足の毛のない皮膚では、血管の開け閉めが交感神経(アドレナリン作動性の線維)に調節されている、と述べる[1]。同じ総説は、精神的な動揺(mental disturbance)でも血管の一部が閉じる、という趣旨の記述を載せている[1]。
血管が縮めば血流が減り、温かい血が末端に届きにくくなって、皮膚温が下がる。これが、緊張で手が冷えるという一般的な説明の骨組みである。心臓の拍動が速くなる変化と、手の冷えは、同じ交感神経の活動から出てくる別々の結果として理解できる。
ただし、これは仕組みの説明であって、「どれくらい下がるか」は別の問いである。次は数字を見る。
3. ゆびさきは なん度 さがるの? はなさきも?
3. 指先は最大約2℃、鼻先は3〜6℃下がったという実験
3. 指先は最大約2℃、鼻先は3〜6℃ ── 実験の数字の読み方
おどろく ことに、ゆびさきの 温度は、はかる ことが できます。こわい 場面を つくる 実験では、ゆびさきが 2度 ちかく さがった という ほうこくが あります[2]。
ただし 2度は、その 実験での いちばん 大きな 数字です。だれでも 2度 さがる わけでは ありません。
イギリスの 大学では、29人が きょうりょくした 実験が ありました。おとを きき ながら、スピーチの じゅんびを して もらいます。すると、はなの さきの 温度が 3〜6度 さがりました[3]。
しかも、きんちょうが おわると、数分で もとに もどった そうです。つぎは、どうして ゆびさきなのかを かんがえます。
実際にどのくらい下がるのかを調べた研究があります。恐怖を起こさせる実験を集めた総説(Ioannou ら, 2014)には、指先の温度が最大で約2℃下がり、これは血管の収縮によると考えられた、という報告が出てきます[2]。
ただし「最大約2℃」は、その実験での大きな値です。誰でも2℃下がるという意味ではありません。
もう一つ、英国のサセックス大学の発表を紹介します。29人が協力した実験で、白色雑音を聞きながらスピーチの準備をしてもらうと、ストレスがかかっている間、鼻先の温度が3〜6℃下がりました。そして、ストレスが終わると数分で元に戻ったそうです[3]。これは大学のニュース記事の数字なので、「この実験では」と受け取るのがよいでしょう。
鼻先も指先も、体の中心から遠い場所です。そこで、「遠くの血管から先に縮むのか」という疑問が出てきます。次は、指先の血管のつくりを見てみましょう。
冷えは、実験でどれくらい測られているのか。サーモグラフィ(赤外線を使う温度撮影)を心理学に使う総説(Ioannou ら, 2014)は、恐怖を起こさせる実験で、指先の温度が最大約2℃下がり、これは血管収縮によると考えられた、と紹介している[2]。「最大約2℃」は特定の実験での上限であり、誰でも2℃下がるという意味ではない。
鼻先の例もある。サセックス大学のニュース発表によれば、29人が協力した実験で、白色雑音を聞きながらスピーチの準備をする課題中に鼻先の温度が3〜6℃下がり、課題が終わると数分で元に戻った[3]。この数字は論文原文ではなく大学の発表に基づく。条件も人数も限られた一つの実験であり、そのまま一般化はできない。
それでも、紹介した実験では、指先や鼻先の温度が下がる例が報告されている。鼻先の実験では、緊張が去れば戻ったという。では、なぜ体の端から冷えるのか。次に、指先の血管の特別なつくりを調べる。
4. ゆびさきの 血管には、ちかみちが ある?
4. 指先には血の「近道」があり、緊張で閉じる
4. 指先の動静脈吻合(AVA)── 血が通る近道の開け閉め
手や 足の ゆびさきの 皮膚には、ちいさな ちかみちが たくさん あります。これは、うごく 血管と、もどる 血管を まっすぐ つなぐ ものです。
つめの したでは、1平方センチに 600こ ほど あると、研究の まとめに あります[1]。1平方ミリに すると、6こ ほどです。
この ちかみちは、交感神経に ひらいたり とじたり されます。きんちょうで とじると、血が ゆびさきへ いかなく なります。
そのぶん、血は 筋肉の ほうへ まわる、という せつめいも あります[5]。はしったり、にげたり する ときの じゅんびだと かんがえられます。
指先の血管には、少し変わったつくりがあります。毛のない皮膚には、小さな動脈と小さな静脈を直接つなぐ「動静脈吻合(AVA)」という近道が多く、先ほどの交感神経が開け閉めしている、と総説は述べます[1]。
数字も示されています。爪の下の皮膚では1cm²あたり約600個、親指のつけ根のふくらみ(母指球)や小指側のふくらみでは約100個です[1]。1cm²は100mm²なので、爪の下では1mm²あたり約6個、ふくらみでは約1個の計算になります。手のひら全体が同じ密度ではない、という点にも注意が要ります。
緊張でこの近道が閉じると、指先に回る血が減ります。そして、皮膚の血管が縮む一方で、骨格筋の血管は広がり、血の行き先が筋肉のほうへ寄る、という説明もあります[5]。走ったり逃げたりする体の準備の一つと考えられています。
ただし、緊張で冷えるのが手足の指先に特別なことなのか、そこは今回の資料では断定できません。次は、冷たいのとは反対に出てくる、手のひらの汗を見ます。
冷えが指先や鼻先に目立つのは、なぜか。手足の毛のない皮膚には、小動脈と小静脈を直接つなぐ動静脈吻合(AVA)が多い。Walløe(2016)の総説によれば、AVAは交感神経(アドレナリン作動性の線維)が密に分布し、開閉を調節されている。密度は爪床で約600個/cm²、母指球・小指球の皮膚で約100個/cm²とされる[1]。1cm²は100mm²なので、爪床では約6個/mm²、母指球・小指球では約1個/mm²に当たり、部位によって大きく違う。
同じ総説は、精神的な動揺でAVAが閉じる、とも述べている[1]。AVAは、毛細血管を通らず皮膚の血流を一気に増やす近道であり、閉じれば指先に回る血が減る。この近道の開閉は、本来は体温の調節に使われる仕組みである。緊張で冷えが起きるのは、その調節に、緊張の信号が割りこむからだと読める。
では、減った血はどこへ行くのか。国内の生理学の解説では、交感神経の作用として、骨格筋の血管が広がる一方、皮膚・粘膜・内臓の血管が縮むという説明がある[5]。体が動く準備の一つと考えられている。走る、戦う、逃げるといった動きの準備と考えると、全体の筋が通る。
もう一つ注意したいのは、「緊張で冷えるのが手足の指先に特有か」という点である。総説の記述だけでは、手に特有だと断定できない。指先は血管が縮みやすい場所の一つ、と受け取る程度が安全だ。一方、手のひらには、冷えとは逆向きの変化も起きる。
5. 手のひらの 汗は、なんの ために でるの?
5. 手のひらの汗は、すべり止めの役目なのか
5. 精神性発汗はなぜ手のひらに出るのか ── すべり止め説と限界
あつい 日の 汗は、体を ひやすために ぜんしんに でます。きんちょうの 汗は ちがいます。手のひらと 足の うら、わきだけに でます[6]。
この 汗は、すずしい 場所でも でる ことが あります。では、なんの ために でるのでしょう。
ひとつの せつめいは、すべりどめです。むかしの 研究で、ラットや イヌなどが はしる ときに、足の うらに 汗が でると しらべました。くすりで 汗を とめると、ゆかと すべりにくさが 大きく さがりました[7]。
ただし これは ほかの どうぶつの 実験です。人の 手でも おなじだと わかった とは いえません。
手のひらの汗は、暑いときの汗とは別物です。汗には、体温が上がったときに全身に出る温熱性発汗と、精神的な緊張で手のひら・足の裏・わきだけに出る精神性発汗があります。精神性発汗は、快適な温度でも起こります[6]。
では、なぜ手のひらなのでしょうか。一つの説明が「すべり止め」です。1975年の研究(Adelman ら)は、足の裏に汗腺をもつラットやイヌなどが走るときに足の裏に汗が出ることを調べました。そして、薬で汗を止めると、床との静止摩擦の係数が大きく下がったと報告しています[7]。
これは、汗が足の裏のすべり止めとして働く可能性を支える結果です。木登りのとき、手のひらが少し湿っていたほうが、ぐっと握りやすい。そのイメージに近いです。ただし、あくまで動物の実験で、人の手のひらで同じ効果が確かめられたとまでは言えません。
こう考えると、冷たい指先と湿った手のひらは、矛盾するものではなさそうです。血流を絞る備えと、握る・踏ん張る備えが、同じ手に同時に置かれているのです。最後に、これを自分で観察する方法を考えます。
手のひらの汗は、暑さの汗とは性質が違う。汗には、体温が上がったときに全身に出る温熱性発汗と、精神的な緊張で手のひら・足の裏・わきだけに出る精神性発汗(せいしんせいはっかん)があり、後者は快適な温度でも起こる[6]。快適な温度でも起こるので、冷房の効いた部屋でも、緊張で手が湿ることがある。
では、何のための汗なのか。Adelmanら(1975)は、足の裏に汗腺をもつ哺乳類(ラット、テンレック、ハイラックス、イヌ)で、走るときに足の裏の発汗が起こること、そして硫酸アトロピンで発汗を止めると静止摩擦係数が大きく下がることを報告した[7]。これは、手のひら・足の裏の汗がすべり止めとして働く説を支える結果である。なお、ここでの紹介は論文の要旨に基づく。
限界もはっきりしている。実験の対象は人以外の動物であり、人の手のひらで同じ効果が確かめられたとは言えない。また、手の汗が気化して手が冷たく感じられるという説明も見かけるが、今回の資料からは因果として書けない。
ここまでをつなぐと、緊張した体は、血流を絞って指先を冷やす一方、手のひらには汗を出す。どちらも「いざ」の行動、つまり握る・走る・踏ん張る動きへの準備と整理できる。もっとも、「そう読める」ことと「証明された」ことは別である。
6. きんちょうした ときの 手を、じぶんで みて みよう
6. 緊張した場面で、指先と手のひらを観察してみる
6. 自分の指先と手のひらで確かめる ── 観察の道すじと原典
こんど きんちょうする 場面が あったら、すこしだけ 気を つけて みましょう。ゆびさきを じぶんの ほっぺに あてて、冷たいかを みます。手のひらも みて、しめって いるかを たしかめます。
そして、おわって 数分 たったら、もう いちど ゆびさきを ほっぺに あてます。もとに もどって いたら、研究の 話と にて います。
ともだちと くらべて、「どちらが ふつうか」を きめなくて いいのです。ひとり ひとり ちがって いいのです。
もし 手が いつまでも 冷たいままなら、おうちの 人や おいしゃさんに はなして ください。
家にあるものだけで、観察ができます。発表や試合など、少し緊張する場面の前に、指先を自分のほっぺたに当ててみます。冷たいかどうかを感じて、あとで書き留めておきます。手のひらが湿っているかも見ておきます。
そして、終わって数分たってから、もう一度指先をほっぺたに当てます。冷たさが戻っていれば、サセックス大学の実験で鼻先が数分で戻ったという報告と重なります[3]。戻らなければ、緊張以外の理由もありえます。
ただし、人によって差があります。友だちと比べて「どちらが普通か」を決めるのは、この観察の目的ではありません。手が長く冷たいままのときは、家の人や医師に話してください。
観察したことは、「冷たさ」と「湿り」を、それぞれ「強い・ふつう・弱い」の3段階でメモしておくと、あとで見比べやすくなります。場面ごとに並べると、自分の手のくせが見えてくるかもしれません。
自分でも、指先の冷たさと手のひらの湿りを観察できる。発表や試合の前など、軽く緊張する場面で、指先を自分の頬に当てて冷たさを確かめ、手のひらの湿り具合を見る。終わって数分後にもう一度指先を頬に当て、冷たさが戻っているかを確かめる。サセックス大学の実験では、鼻先が数分で元に戻ったとされる[3]。戻り方を、その報告と並べて考えてみるとよい。
この観察から言えるのは、せいぜい「自分の場合はこうだった」という範囲である。温度計を使わない体感の比較は、研究の数字とは別物として扱う。友だちと比べて優劣や異常を決めることも、観察の目的ではない。手が長く冷たいままのときは、緊張だけでは説明しにくいので、家の人や医師に相談してほしい。
記録は、「冷たさ」と「湿り」をそれぞれ「強い・ふつう・弱い」の3段階でメモしておくと見比べやすい。発表前、試合前、授業中など場面ごとに並べれば、自分の手が何に反応しやすいかが見えてくるかもしれない。体感の記録なので、研究の数字と直接比べず、自分の変化を追う目的で使う。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
数字や仕組みは、下の資料を読み比べて書きました。サセックス大学の数字は大学の発表に基づき、論文原文では確かめていません。
- Walløe L. 「Arterio-venous anastomoses in the human skin and their role in temperature control」Temperature 2016。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4861183 (指先の血管のつくり、AVAの密度と神経支配)
- Ioannou S, Gallese V, Merla A. 「Thermal infrared imaging in psychophysiology」Psychophysiology 51, 2014。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4286005 (恐怖を起こす実験での指先の温度変化)
- University of Sussex ニュース「New study from Sussex: your nose shows how stressed you are」。https://www.sussex.ac.uk/news/article/69206-new-study-from-sussex-your-nose-shows-how-stressed-you-are (鼻先の温度変化の実験。大学の発表)
- ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「交感神経」(コトバンク)。https://kotobank.jp/word/%E4%BA%A4%E6%84%9F%E7%A5%9E%E7%B5%8C (交感神経が血管と血圧に与える働き)
- 日本の生理学の解説資料(PDF)。https://www.niwell.or.jp/education/docs/506.pdf (筋肉と皮膚の血管の反応のちがい)
- 図解ワンポイント生理学(看護roo!)「発汗」。https://www.kango-roo.com/learning/2301/ (温熱性発汗と精神性発汗のちがい)
- Adelman S ほか 「Sweating on paws and palms: what is its function?」1975。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1200160/ (足の裏・手のひらの汗とすべり止めの実験。要旨に基づく)
なおした ところ
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