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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

目を とじても はなに さわれて、つめたさも わかるのは、からだの どんな しくみの おかげ?

目をとじても自分の鼻にさわれ、冷たさが分かるのは、皮膚のどんなセンサーのおかげか

冷たさと触覚を感じるセンサー:TRPM8とPIEZO2は、何をどこまで受け持っているのか

分野:からだ

め を かくして、じぶんの はなに ゆびを さわらせて みて ください。ふつうは できます。でも、ある いでんしが はたらかない ひとは、これが できない ことが あると ほうこく されて います。

ゆびの いちを おしえて くれるのは、なに でしょう。ひやっと する かんじは、どこで わかるのでしょう。この ページを よむと、ひやっと する かんじと ふれた かんじを うけもつ、ふたつの センサーの はたらきと、まだ わからない ところが わかります。

目隠しをして、自分の鼻に指でふれてみてください。ふつうは簡単にできます。ところが、PIEZO2という遺伝子に変異のある人の中には、目隠しをすると、自分の鼻にもふれられない人がいると報告されています[2]。

指の位置や、物にふれた感じは、何が脳に伝えているのでしょうか。冷たさは、どのセンサーが受け持つのでしょうか。この記事を読むと、PIEZO2とTRPM8の受け持ちと、それでも説明しきれない部分が分かります。

PIEZO2遺伝子に変異のある人は、目隠しをすると自分の鼻にも指でふれられないことがある、と米国立衛生研究所(NIH)の記事は紹介している[2]。体の位置の感覚が、ふれた感覚と同じ分子に支えられているためである。では、冷たさを感じるセンサーは何で、どこまで説明できているのか。

この記事を読むと、触覚と位置感覚を担うPIEZO2、冷たさに関わるTRPM8、そして両者が「すべてではない」と分かる根拠が分かる。

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1. め を とじても、はなに さわれるのは なぜ?

1. 目隠しで鼻にふれられないのはなぜ?

1. PIEZO2が働かないと、目隠しで自分の鼻にふれられない

め を つぶったまま、ゆびで はなの さきを さわる。きっと できる はずです。ゆびが いま どこに あるか、からだが しっているからです。

この かんかくに かかわる センサーの ひとつが、PIEZO2です。ふれた かんじや、ふるえを かんじる ときにも はたらきます。

この いでんしに へんかが ある ひとは、ふれた かんじや ふるえが わかりにくく、からだの いちの かんかくも ない と いわれます。そのため、め を かくすと、じぶんの はなにも さわれない ことが あります。

では、そのとき、ほかの かんかくは どうなって いるのでしょう。

目を閉じたまま、指で鼻の先にふれる。ふつうの人にはできることです。指が今どこにあるかを、体がいつも感じ取っているからです。この「体の位置の感覚」を固有感覚といいます。

NIHの記事によると、PIEZO2遺伝子に変異のある人は、皮膚に当たる振動や軽いタッチが分からず、固有感覚もまったくない状態でした。そのため、目隠しをすると、物を探して手でふれることも、自分の鼻にふれることもできませんでした[2]。

この感覚に関わるセンサーの一つが、PIEZO2です。押される・引っぱられるといった力が体のはたらきに関わる組織で作られるタンパク質です。触覚や痛みの感じ方にも関わっています[3]。つまり、力を受けとめるセンサーとして働くと考えられています。

では、人以外の動物でも、同じことが起こるのでしょうか。

目を閉じたまま、指で自分の鼻先にふれる。ふつうの人にはたやすいが、この動作は、指や鼻にふれた感覚と、手足や指の位置を絶えず感じる固有感覚などに支えられている。NIHの記事によれば、PIEZO2遺伝子に変異のある人は、皮膚に加わる振動や軽い接触を感じられず、固有感覚も欠いていた。そのため、目隠しをすると物を探してふれることも、自分の鼻にふれることもできなかった[2]。

PIEZO2が作るタンパク質は、機械的な力が触覚や痛みなどに影響する組織で発現している[3]。ここから、力を受けとって信号に変えるセンサーとして働くと考えられる。マウスの研究も同じ方向を示す。PIEZO2を固有感覚の受容器だけで取り除くと、運動が著しく難しくなり、骨格にも異常が出た[3]。軽く触れる感覚に重い欠陥が出るマウスの報告もあり、人で確かめる前に、触覚に必要であることが示されていた[4]。

しかし、感覚は触覚だけではない。冷たさは別のセンサーが受け持つのか。次章で見る。

2. ひやっと する かんじは、どの センサー?

2. 冷たさを感じ取るTRPM8の発見

2. 冷たさを感じ取るTRPM8:遺伝子を欠いたマウスの実験

つめたい みずに ふれた とき、ひやっと します。この かんじを うけもつ センサーの ひとつが、TRPM8です。

アメリカの けんきゅうでは、マウスの この いでんしを なくして みました。マウスは ふつう、ちょうどよい あたたかさの ばしょを このみます。ところが、TRPM8の ない マウスは、18℃から 31℃の あいだでは、どこが すきか えらびませんでした。この あたりの おんどの ちがいが、わからなく なって いたのです。

この センサーは、ミントの「すーっと する」かんじとも かんけいが あります。ミントを たべると ひんやり するのは、TRPM8が はんのう するからだと せつめい されて います。

冷たい水にふれると、ひやっとします。この感覚を作る中心の一つが、TRPM8というセンサーです。アメリカのスクリップス研究所の発表は、マウスで、この遺伝子が冷たさを感じる力の大部分に責任を持つと報告しています[1]。

実験は、遺伝子を持たないマウスで温度の好みを調べるものでした。ふつうのマウスは、居心地のよい温度の場所を選びます。TRPM8を持たないマウスは、18℃から31℃の範囲で、温度の好みをほとんど示しませんでした[1]。部屋の温度くらいの差が、分からなくなっていたと考えられます。

この遺伝子は、メントールやイシリンという物質による「すーっと冷たい」感覚の元にもなっています[4]。ミントを食べたときにひんやりするのは、気温が下がったからではなく、冷たさのセンサーが反応するからだと考えられています。

では、TRPM8さえあれば、冷たさは全部説明できるのでしょうか。

冷たさのセンサーとして最初に注目された一つが、TRPM8である。スクリップス研究所の発表は、マウスにおいて、この遺伝子が冷たい温度を感じる力の大部分を担うと報告した[1]。実験では、TRPM8を欠いたマウスは、18〜31℃の範囲で温度の好みを実質的に示さなかった。つまり、この中間の温度域では、温度差を区別する感覚が失われていた[1]。

TRPM8は、冷たさに反応するだけでなく、メントールやイシリンで生じる冷涼感のもとにもなっている[4]。ミントでひんやりするのは、実際に温度が下がったためではなく、冷たさのセンサーが化学物質で動かされるためと考えられる。

また、冷たさの信号には別の働きもある。同じ発表によれば、TRPM8を介した冷たさの刺激は、ある種の急性痛をやわらげる作用の一部を担っている可能性が、マウスの実験で示唆された[1]。

では、TRPM8を欠けば冷たさは全部失われるのか。実験の数字をよく見ると、そうではない。

3. TRPM8が ないと、つめたさは ぜんぶ わからないの?

3. TRPM8だけでは説明できない冷たさ

3. 「感覚が失われた」の範囲:TRPM8以外の経路と、PIEZO2の守備範囲

じつは、そうでは ありません。さきの じっけんで なくなったのは、18℃から 31℃の あいだの かんかくです。TRPM8の ない マウスでも、ある けんきゅうでは 10℃より ひくい おんどを さけました。ただ、べつの けんきゅうでは けっかが ちがいました。

つめたさに はんのうする しんけいも、すこしだけ のこって いました。ふつうの マウスでは 16.7%、TRPM8の ない マウスでは 4%です。つめたさには、ほかの しくみも かかわって いると かんがえられます。

PIEZO2も おなじです。この いでんしに へんかが ある ふたりの ひとは、いたみ、かゆみ、おんどは ふつうに かんじられました。なくなる かんかくは、ふれた かんじと、からだの いちが ちゅうしんです。

先ほどの「感覚が失われた」は、実験で温度の好みを調べた18〜31℃の範囲での話です。この実験への論評によると、Bautistaらの実験では、TRPM8を持たないマウスも10℃以下の低い温度は避けました。ただ、研究によって結果はちがいます[6]。冷たさ全体が消えたわけではありません。

同じ解説には、冷たさに反応する神経の割合も出ています。ふつうのマウスでは16.7%、TRPM8を持たないマウスでは4%でした[6]。少数ですが残っているので、TRPM8以外の仕組みも冷たさの感覚に関わると考えられます。

PIEZO2にも同じ見方ができます。PIEZO2に変異のある9歳と19歳の2人は、痛み、かゆみ、温度は正常に感じられました[5]。弱くなっていたのは、体の位置の感覚(固有感覚)と、振動や手のひらへの軽い接触など一部の触覚でした。痛みについては、日焼けなどで皮膚が傷ついたときに、ふつうは強くなる痛みの感じ方が起こらなかった、という報告もあります[2]。

ほかにも、辛いトウガラシの成分と、痛いほどの高温の両方に反応するTRPV1というセンサーが、温度を感じる神経にあります[4]。感覚ごとに、担当のセンサーがいるのです。

では、センサーが働かないとき、人は日常をどう過ごしているのでしょうか。

前章の「感覚が失われた」は、温度の好みを調べた18〜31℃に限った話である。コメンタリーによれば、Bautistaらの実験ではTRPM8欠損マウスも10℃以下では冷たさを避ける行動を取り戻したが、研究間で結果は一致していない[6]。冷たさに応じる神経の割合も、野生型の16.7%に対して欠損マウスでは4%と減っただけで、ゼロではない[6]。TRPM8以外の経路が冷たさに関わることを示している。

PIEZO2にも同じ限界がある。PIEZO2に変異のある9歳と19歳の2人は、痛み・かゆみ・温度を正常に感じた。失われていたのは触覚と体の位置の感覚が中心で、感覚が全部なくなるわけではない[5]。さらにNIHの記事は、日焼けのようにけがをしたときに、ふつうは強まる痛みへの敏感さが、PIEZO2変異のある人では起こらなかったと述べる[2]。PIEZO2は、触覚と位置感覚だけでなく、けがのあとの痛みの感じ方にも関わるらしい。

これに対し、温度でも痛みでもよく名前が出るもう一つのセンサーがTRPV1である。トウガラシの辛み成分カプサイシンと、痛みを伴う高温の両方に反応し、温度を感じる神経に特有のセンサーとされる[4]。このように、冷たさ・熱さ・触覚は、別々の分子が分担している。

とはいえ、PIEZO2のヒトでの研究は、血縁のない2人の患者による初期のものである[5]。数が少ない以上、この2人の様子をすべての人にあてはめることはできない。

4. センサーが はたらかない ひとは、どうして いるの?

4. 見ることで補う力と、これからの問い

4. 視覚による代償と、研究に残る問い

PIEZO2に へんかが ある ふたりは、ふれた かんじや からだの いちを、おもに「め」で おぎなって いました。ゆびが どこに あるか、じぶんの めで みて たしかめるのです。

わからない ことも のこって います。おなじ つめたさの しんごうが、ときには ふゆかいに、ときには いたみを やわらげる ことも あります。のうが これを どう よみわけて いるのかは、まだ わかって いません。

PIEZO2に変異のある2人は、触覚と体の位置の弱さを、視覚などほかの感覚に大きく頼って補っていたと報告されています[5]。見て確かめれば、指の位置は分かります。ひとつの感覚が弱いとき、ほかの感覚が支えになっているようです。

研究には、まだ残された問いがあります。同じ冷たさの信号が、あるときは不快に、あるときは痛みを和らげるように感じられる理由は、脳がそれをどう読み分けているのかを含めて、まだ分かっていません。また、PIEZO2の働き方がマウスと人でどう違うのかも、完全には分かっていません。人の腸にもPIEZO2を持つ細胞がありますが、腸の中身を「ふれて」感じているのかどうかは、今後の研究が必要です。

PIEZO2に変異のある2人は、触覚と位置感覚の弱さを、視覚などほかの感覚に大きく依存して補っていた[5]。見ることが、ほかの感覚の弱さを支える手がかりになっていたことになる。

残された問いも多い。同じ冷たさの信号が、場面によって不快にも、痛みをやわらげる心地よさにもなる理由は、脳での解釈の仕方を含めて分かっていない。PIEZO2の働き方のマウスと人での違いも、完全には理解されていない。人の消化管にもPIEZO2を持つ細胞があり、腸の内容物を「ふれて」感じているかどうかは、さらなる研究が必要である。

5. うちで ためして みよう

5. 家でできる、感覚の確かめ方

5. 自分の感覚で確かめ、原典に当たる

めを とじて さわる

おとなの ひとに そばに いて もらい、め を とじて、ゆびで じぶんの はなの さきに さわって みましょう。ゆびが どこに あるか、からだが しっている ことが わかります。

ミントで ひんやり

ミントの はいった はみがきこや あめで、いきを すうと、すずしく かんじます。きおんは かわって いません。つめたさの センサーが、ミントの せいぶんに はんのう して いると かんがえられて います。

目を閉じて鼻にさわる

まわりに物がない場所で、目を閉じ、人さし指を伸ばした腕を横に広げます。そこから、ゆっくり指を自分の鼻先へ運びます。指と鼻の位置を感じる力を、自分の体で確かめられます。

ミントとふつうの息を比べる

ミント味のあめをなめて息を吸い、そのあと何もない状態で息を吸って比べます。涼しく感じるのは、気温ではなくセンサーへの働きかけだと考えられます。TRPM8の反応が、日常で体験できる例です。

自分の感覚で確かめる

目を閉じて、人さし指を自分の鼻先へ近づけてみる。位置感覚が働いていることを、体で確かめられる。また、ミント味のあめをなめて息を吸い、何もないときと比べると、気温が変わらないのに涼しく感じる。第2章のメントールとTRPM8の関係を、日常で体験する例になる。

資料を読むなら

遺伝子欠損マウスの実験はスクリップス研究所の記事[1]、PIEZO2のヒトでの観察はNIHの記事[2]とNCCIHの発表[5]、TRPM8欠損マウスの限界は論評[6]にある。2021年のノーベル生理学・医学賞の解説[4]は、温度と触覚のセンサーがどう見つかったかをまとめている。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文で使った資料です。

  1. Scripps Research. Team Sheds Light on Long-Sought Cold Sensation Gene (2007). https://www.scripps.edu/newsandviews/e_20070507/cold.html (TRPM8欠損マウスの実験)
  2. NIH. A Feel For Collaboration. https://research.nih.gov/node/202278 (PIEZO2変異のある人の観察)
  3. NIH Catalyst. Under Your Skin: Molecules and Cells for Touch and Pain. https://irp.nih.gov/catalyst/26/3/under-your-skin-molecules-and-cells-for-touch-and-pain (PIEZO2の発現とマウスの結果)
  4. Hot to touch: the story of the 2021 Nobel Prize in Physiology or Medicine. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8560496/ (TRPM8・TRPV1・PIEZO2の解説)
  5. NCCIH/NIH. “Sixth sense” may be more than just a feeling. https://www.nccih.nih.gov/news/press-releases/sixth-sense-may-be-more-than-just-a-feeling (PIEZO2変異のある2人の研究)
  6. Mice left out in the cold: commentary on the phenotype of TRPM8-nulls. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1988789/ (TRPM8欠損マウスに残る冷たさの感覚)

なおした ところ

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