1. あなも ボタンも ないのに、どうやって きょくを ふくの?
1. 穴もボタンもない木の管で、どうやって曲を吹くのか
1. 穴もバルブもない管で、旋律はどう成り立つのか
リコーダーには あなが あります。トランペットには ボタンが あります。ゆびで おさえて、おとを かえます。
アルペンホルンには、どちらも ありません。ただの ながい つつです。くちを つける ところは、カップの かたちを した 木の ふきぐちです[1]。
それでも きょくが ふけるのは、唇の ふるわせかたと いきの つよさで、おとを えらぶからです[3]。この ふしぎな しくみを、つぎから じゅんばんに みて いきます。
2. つつを ながく すると、どうして おとが ひくくなるの?
2. 管を長くすると、音はなぜ低くなるのか
2. 管が長いほど低くなる理由と、約3.5mが示す基音
たいこは、おおきさで おとが かわります。ふえや ラッパでは、つつが ながい ほど ひくい おとが でます。
ふえの なかを おとが いったりきたり する じかんが、ながい ほど ながく なるからです[4]。
トロンボーンは、トランペットの 2ばいほどの ながさで、1オクターブほど ひくい おとが でます[5]。アルペンホルンの 3メートルいじょうは、そのくらい ひくい おとの ための ながさです。
ただし、ほんとうの おとは、つつの ふとさや ひろがりにも えいきょうされます。ながさだけで きまる わけでは ありません。
管の中を音が往復する時間は、管が長いほど長くなり、そのぶん周波数は低くなります[4]。金管楽器の基本の高さを決めるのは、管の長さです。たとえばテナートロンボーンはB♭管のトランペットの約2倍の長さで、約1オクターブ低い音が出ます[5]。
円すい形の管の共鳴は、同じ長さの両端が開いた円筒管と同じで、基本の波長は管の長さのおよそ2倍になります[6]。3.5メートルなら波長は約7メートルです。波長が長いほど低い音になるので、アルペンホルンの基音はたいへん低い音になります。
ただしこれは目安です。先端のラッパ状の広がり(ベル)は共鳴の周波数を上げ、とくに低い共鳴を大きく上げるので[5]、実際の長さと計算が少しずれることがあります。
長さは、演奏できる調も決めます。調ごとの長さの表では、F管が約3.68メートル、E管が約3.89メートル、E♭管が約4.05メートルで、スイスで多い嬰ヘ(Fis)の管は約3.47メートルと紹介されています[7]。
では、そんなに低い基音の楽器で、ふつうの旋律はどう吹くのでしょう。
管の中を音が往復する時間は管が長いほど長く、そのぶん周波数は低くなる[4]。金管楽器では管の長さが基本の高さを決めるため、テナートロンボーンがB♭管のトランペットの約2倍の長さで約1オクターブ低いという対比が成り立つ[5]。
円すい形の管の基本周波数は、同じ長さの両端開口の円筒管と同じで、基本波長は管長の約2倍になる[6]。音速を343m/sとし、理想的な両端開口管とみなすと、3.47mなら基音はおよそ49Hzと計算できる。ただしこれは理想的な管として計算した目安で、実際の基音の高さとは異なる。ベルの広がりは共鳴周波数、とくに低い共鳴を大きく上げる[5]。
調と長さの対応は、F管3.68m、E管3.89m、E♭管4.05m、スイスで多い嬰ヘ(Fis)/変ト(Ges)管約3.47mと紹介され、全体では約2.45m〜4.05mの幅がある。ドイツではF管が好まれるという[7]。
では、これほど低い基音を持つ楽器で、旋律はどの音を使って吹かれるのか。
3. 唇だけで、おとを えらべるの?
3. 唇だけで音を選ぶ:倍音という「はしご」
3. 唇の振動数で倍音を選ぶ:間隔が上でせまくなる列
ながい つつは、ひとつの おとだけを だすのでは ありません。いちばん ひくい おとの うえに、たかい おとが はしごの ように ならんで います。この ならびを「倍音」と よびます。
唇を はやく ふるわせて、いきを つよく すると、はしごの うえの おとが でます。ゆっくり ふるわせると、したの おとです[3]。
この はしごは、うえに いくほど、だんと だんの あいだが せまく なります[5]。したの ほうは おとが とびとびで、うえの ほうは ちかく ならぶのです。
ただし、おとの はしごは、ほんとうの はしごでは ありません。おとの たかさの ならびを、たとえた ものです。
長い管は、いちばん低い音(基音)のほかに、その上に整数倍の高さの音がいくつも並んで鳴る性質をもっています。この列が倍音列です。
奏者は、唇の振動の速さと息の強さで、どの倍音を鳴らすかを選びます[3]。唇を速く震わせて息を強くすれば高い倍音、ゆっくりなら低い倍音です。穴を押さえる代わりに、唇が「どの段を使うか」を決めている、と考えると分かりやすいでしょう。
倍音は上へいくほど、隣り合う音の高さの間隔がせまくなります[5]。周波数の差が同じでも、音の高さは比で感じられるので、上へいくほど音程は小さく聞こえるのです。基音のすぐ上は1オクターブ、その次は5度、その次は4度……と間隔が縮まり、さらに上では全音や半音に近い間隔で音が並びます。
金管楽器では、隣り合う音が近い高い倍音を使って旋律を吹く、とUNSWの解説にあります[5]。旋律に使いやすいのは、間隔がせまくなった上のほうの倍音だと考えられます。
円すい形の管の共鳴は、基本周波数の整数倍に並ぶ倍音列をなす[6]。奏者が操作するのは唇の振動の速さと息の強さで、振動を基音のどの整数倍に合わせるかによって鳴る倍音が決まる[3]。
注目すべきは、倍音どうしの音程の間隔が上へいくほど小さくなる点である[5]。周波数の差は同じでも、音程は比で決まるので、上ほど狭く聞こえる。たとえば第8〜12倍音は、理想管の計算で約395、445、494、544、593Hzほどになり、間隔はおよそ全音から半音に近づく。この数値は先の理想管の目安であり、実際の楽器の値ではない。
したがって、隣り合う音が近い、通常の旋律に近い音の並びが得られるのは、高い倍音の領域だと推論できる。ただし「長いから旋律が吹ける」という因果は、複数の事実を組み合わせた推論である。
4. 3メートルも あるのに、いちばん ひくい おとは ふかないの?
4. 3.5メートルあるのに、基音をほとんど吹かない理由
4. 最低音は使われず、第16倍音まで使う:金管に共通する弱い基音
おどろく ことに、アルペンホルンの いちばん ひくい おとは、ほとんど ふかれないと いわれます[1]。
ふく ひとは、したから 1ばんめの おとから 16ばんめの おとの あいだを つかいます。4オクターブほどの ひろさです。じょうずな ひとは 20いじょうの おとを だします[1]。
たとえば トランペットでも、いちばん ひくい ひびきは よわくて、だしにくいと いわれます[5]。アルペンホルンの いちばん ひくい おとが つかわれにくいのも、これと にて いるのかも しれません。
ながい つつは いちばん ひくい おとが とても ひくく、その うえの おとを ひろい はんいで つかえます。「ひくい おとを だす ため」と いうより、うえの おとを つかう ための ながさと、かんがえる ことが できます。
基音は、ペダルトーンとも呼ばれ、アルペンホルンではほとんど吹かれません。奏者が使うのは、第1から第16倍音あたりの、約4オクターブの範囲です。アマチュアで13音ほど、名手は20音以上を出すといいます[1]。
トランペットなどの金管では、いちばん低い共鳴は倍音列に入らず、弱くて吹きにくいことが知られています。ペダルノートは、唇の非線形な振動で出す音です[5]。アルペンホルンの基音がほとんど使われないのも、金管に共通する事情と近いのかもしれません。
ここで、前の章の話がつながります。管が長いと基音がとても低く、その上の倍音列を、広い音域で使えます。長さが調と基音を決め、その上の倍音列が旋律の土台になる、ということです。3.5メートルの長さは、「低い音を出すため」というより、「その上の倍音の列を旋律に使うため」と考えるとつじつまが合います。
ただし、これは資料にある事実を組み合わせた推論で、長い理由をはっきり述べた資料ではありません。
この楽器の基音(ペダルトーン)はほとんど吹かれず、奏者が使うのは第1〜第16倍音ほど、約4オクターブの範囲だという。アマチュアは13音ほど、名手は20音以上を使う[1]。
基音が使われにくい背景として、金管全般では最低の共鳴が倍音列に入らず、弱くて出しにくいことが知られる。ペダルノートは唇の非線形な振動により出る[5]。これはトランペットの説明である。
では、なぜ長い管が選ばれるのか。管が長いほど基音は低くなり、その上の倍音列も全体に低い音高に置かれる。F管の約3.68mとスイスで多い嬰ヘ管の約3.47mは調ごとの長さの違いで、どちらも倍音列の音を使って演奏する点は同じである。長さが調と基音を決め、その上の倍音列が土台になるという事実に、上方では間隔がせまく旋律に向くという前章の性質を組み合わせた推論であり、「だから長い」とまで述べた資料はない。
5. 「アルペンホルンの ファ」は、どんな おと?
5. 「アルペンホルンのファ」は、ふつうの音階にない音
5. 11番目の倍音が平均律とずれる:「アルペンホルンのファ」
ふいていると、「ファ」でも「ファの シャープ」でも ない おとが でて きます。11ばんめの おとで、「アルペンホルンの ファ」と よばれて います[3]。
ピアノの おとと くらべると、すこし ずれて いるのです。7ばんめと 13ばんめの おとも、ずれて います。
まちがいでは ありません。この ラッパの おとの ならびが、もともと そう なって いるのです。
倍音列の11番目の音は、ファ(F)より高く、嬰ヘ(F♯)より低くなります。ピアノなど平均律の楽器の音階にはない高さで、「アルペンホルンのファ」と呼ばれます[3]。
7番目と13番目の倍音も、平均律の音からずれています。この三つの中で、いちばん聞き分けやすいのが11番目だといわれます[3]。
この「ずれ」は、奏者の失敗ではなく、倍音列の性質です。アルペンホルンの響きを特徴づける音として、味わわれてきました。
第11倍音は、ファ(F)より高く嬰ヘ(F♯)より低い、平均律にない音で、「アルペンホルンのF」と呼ばれる。第7・第13倍音も平均律の音とずれており、この三つの「ずれた」音の中では、第11倍音がもっとも聞き分けやすい[3]。
ずれは、倍音が基音の整数倍に並ぶという自然の列と、平均律という人が決めた音の割り振りが一致しないことから生じる。管の長さを変えても、この関係は変わらない。
では、こうした楽器の長さや調は、いつ、だれが決めたのか。
6. ながさは、だれが きめたの? むかしの あいずから あわせて ふくまで
6. 長さは誰が決めたのか:牧童の合図から合奏まで
6. 長さに標準規格はあるのか:牧童の信号から合奏の標準調律へ
「アルペンホルン」という ことばは、1527ねんの スイスの しゅうどういんの かいけいぼに のって いるのが、いちばん ふるい きろくと されて います[8]。
むかしは、なつの やまで、うしかいや おとなが、とおくに いる ひとに あいずを おくる ために ふきました。うしを よんだり、となりの ぼくじょうと れんらくを とったり しました[9]。いまは その ような つかいかたは ありません。
いまの スイスでは、おとの たかさを そろえて、ふたりや おおぜいで ふく ことも できます[8]。
ところが、ながさや ふとさには、みんなで そろえた きまりが ありません。つくる ひとの くふうで かわります[10]。おとの たかさだけは、そろえて あります。
「アルペンホルン」という語は、1527年のザンクト・ウルバン修道院の会計簿に初めて出てくる、とスイスの歴史事典が伝えています[8]。昔はアルプスの各地で、夏に牧童が合図の道具として使いました。放牧地から牛を呼び戻したり、隣の牧場や谷の人と連絡をとったりするためで、音は遠くまで届きました[9]。この信号の役目は、いまはなくなっています。
現在は、標準化された調律のおかげで、二重奏や三重奏、アルペンホルンの合奏もできるそうです[8]。
一方で、スイスのアルペンホルンはトウヒなどの軟らかい木で作られた円すい形で、穴がなく、半音階が出せません。長さや内径について共通の標準規格はなく、作り手ごとの秘伝のように作られてきた、と2026年にarXivで公開されたEPFL(ローザンヌ連邦工科大学)のプレプリント(査読前の論文)は述べています。この研究は、目標の音に近づく形を計算で探しているところです[10]。調律は標準化され、長さや内径には規格がない、と対象を分けて読むと分かりやすいでしょう。
長いだけでなく、作り手が「どの調に合わせるか」を決めてきた楽器、と考えられます。
アルペンホルンという語は、1527年にザンクト・ウルバン修道院の会計簿に初めて現れる、とスイス歴史事典(HLS)は記す。かつては夏の牧童が信号に使い、牛を呼び戻す、隣の牧場や谷の人と連絡するなど、遠くまで届く音が役に立った。信号の役目は現在ではなくなった[8][9]。
ここで冒頭の問いに戻る。長さに規格がない楽器で、どうやって合奏するのか。HLSによれば、現在は標準化された調律があり、デュオ、トリオ、カルテット、アルペンホルン合奏が可能だという[8]。一方、2026年にarXivで公開されたEPFLのプレプリント(査読前の可能性がある)によると、スイスの楽器はトウヒなどの軟材製の円すい管で、穴がなく半音階を出せず、長さや内径の標準規格もなく、組み立てに関する指針もない。作り手ごとの秘伝として作られてきたため、目標の音に近づく形状を計算で探す試みが進んでいる[10]。
長さは物理が一つの値を決めるのではなく、「どの調に合わせるか」という選択と、作り手の経験で決まる。調ごとの長さの表(約2.45m〜4.05m)が幅をもつのは、その表れと考えられる[7]。
7. じぶんでも しらべて みたく なったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
きょう できる こと
うちに きれいな ホースが あれば、つかう まえに おとなの ひとと いっしょに たしかめて、ふきぐちを つくって みましょう。そとで ふきます。ながい ホースと みじかい ホースで、おとが かわるか ためして みます。
しらべる とき
もっと しりたく なったら、おうちの ひとと いっしょに、がいこくごの ページの しゃしんや ずを みて みるのも おもしろいです。
今日できること
家にあるきれいな園芸ホースを、使う前に大人と確認してから、外で試してみます。ホースに口をつけ、唇を「ぶー」と震わせて音を出します。長いホースと短いホースで、音の高さが変わるかを聞き比べます。唇の震わせ方を変えると、音がとびとびに変わるかも試してみてください。音が出にくい人もいるので、出なくても失敗ではありません。
資料を読むなら
スイスの歴史事典(HLS)[8]や、スイスの国際放送局swissinfoの記事[3][9]は、写真や図とあわせて読めます。体験とは別の、読んでみたい人むけの読み物です。外国語のページなので、大人と一緒に読むとよいでしょう。
今日できること
家にあるきれいな園芸用ホースなどの筒を、使う前に大人と確認したうえで使い、唇を震わせて音の高さを比べる。長さを変えて、音が低くなるか、唇の振動数を変えると別の高さに飛ぶかを聞く。結果は人や筒によって異なる可能性が高い。
資料を読むなら
体験とは別の、任意の読み物として。UNSW Music Acousticsの金管楽器の解説[5]は、倍音列と間隔の変化を図で説明している。EPFLの論文[10]は、アルペンホルンの形状を数理的に扱う研究で、査読前の可能性がある。歴史は、スイスの歴史事典(HLS)[8]で確かめられる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。外国語のものが多く、いくつかは二次資料です。
- Wikipedia: Alphorn. https://en.wikipedia.org/wiki/Alphorn (大きさ・基音・使う音域)
- Alphorn-Center(ドイツ語). https://alphorn-center.de/ueber-das-alphorn.html (平均の長さと調)
- swissinfo(アルペンホルンの音響). https://www.swissinfo.ch/eng/culture/acoustics/7682604 (倍音の選び方・11番目の倍音)
- UNSW Music Acoustics: Woodwind. https://phys.unsw.edu.au/jw/woodwind.html (管の長さと音の高さ)
- UNSW Music Acoustics: Brass. https://newt.phys.unsw.edu.au/jw/brassacoustics.html (金管の長さ・倍音の間隔・ベル)
- Fisica on Music(モデナ・レッジョ・エミリア大学). https://fisicaondemusica.unimore.it/Canna_conica_en.html (円すい管の共鳴)
- Austria-Forum: Alphorn. https://austria-forum.org/af/AustriaWiki/Alphorn (調ごとの長さの表)
- 歴史的スイス事典 HLS. https://hls-dhs-dss.ch/articles/011890 (語の初出・標準の調律と合奏)
- swissinfo(アルペンホルンの歴史). https://www.swissinfo.ch/eng/culture/history/7682832 (牧童の信号)
- Marcinnò ほか(EPFL), arXiv 2607.22823. https://arxiv.org/pdf/2607.22823 (長さに標準規格がないこと。査読前の可能性)
なおした ところ
更新履歴
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