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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

ぶんせき てんびんの かずは、どうして かぜや きあつで かわるの?

気圧が20hPa下がるだけで、200gの分銅が0.6mg重く表示される ── 分析天びんは何でゆれるのか

分析天びんの表示は何で動くのか ── 空気の浮力・気流・振動・対流・静電気・室温

分野:技術

きあつが 1000ヘクトパスカルの ときに あわせた てんびんで、あとから きあつが 980ヘクトパスカルに さがると、おなじ 200グラムの ぶんどうが、0.6ミリグラムだけ おもく はかれる けいさんに なります。ぶんどうは なにも かわって いないのに、です。

ぶんせき てんびんは、とても ほそかく はかる きかいだからです。この きじを よむと、きあつ、かぜ、あたたかい もの、せいでんきが、どう かずに でるのかが わかります。

気圧1000hPaのときに校正した天びんで、あとから気圧が980hPaに下がると、同じ200gの分銅が、天びんの上で0.6mgだけ重く表示される計算になります。分銅は何も変わっていないのに、です。

なぜ、気圧のような遠い話が、皿の上の重さに出てくるのでしょうか。それは、分析天びんが、ふだん気にならない小さな力まで読みとってしまうほど細かい器械だからです。この記事を読むと、気圧・風・振動・温かい試料・静電気・室温が、それぞれどのように表示を動かすのかが分かります。

1000hPaのときに校正した天びんで、校正後に気圧が980hPaに下がった場合(簡易計算)、ステンレス製の200gの分銅にかかる空気の浮力が約2%減り、分析天びんの表示は約0.6mg増える[1]。皿の上の物は何も変わっていない。

なぜ表示が動くのか。それは、最小表示0.1mg以下の天びんが、ふだんは無視できる力まで拾うからである。この記事を読むと、空気の浮力という最大の要因と、風・振動・対流・静電気・室温の効き方、およびそれぞれの限界が分かる。

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1. ぶんせき てんびんは、どれくらい ほそかく はかるの?

1. 東京―大阪を2cm刻みで読む天びん

1. 分解能1/2500万 ── 分析天びんの定義と細かさ

さいしょう ひょうじが 0.1ミリグラム いかの てんびんを、ぶんせき てんびんと よびます[1]。0.1ミリグラムは、1グラムの 1万ぶんの 1です。

たとえば、250グラムまで はかれて 0.01ミリグラムまで よめる てんびんが あります。これは、とうきょうから おおさかまでの 500キロメートルを、2センチメートルずつ よみわける ほそさに あたります[2]。

こんなに ほそかく よめるので、ふだんは きに ならない ちいさな ちからも、かずに でて しまいます。まず、いちばん おおきな ちからから みて いきましょう。

電子天びんのうち、最小表示が0.1mg以下のものを分析天びんと呼びます。いちばん細かいものでは、最小表示が0.0001mg(0.1μg)のウルトラマイクロ天びんまであります[1]。

例として、ひょう量250gで最小表示0.01mgの分析天びんを考えます。250g÷0.01mgは2500万なので、分解能は1/2500万です。これは、東京―大阪間を500kmとして、その道のりを2cm刻みで読むことにあたります[2]。

ここまで細かく読むと、ふつうの台所のはかりなら無視される小さな力まで、表示に入ってきます。その中で、いちばん大きな原因は何でしょうか。

電子天びんのうち、分解能(ひょう量÷最小表示)が1/10万以上のものは、ほとんどが電磁平衡式である。そのなかで最小表示0.1mg以下のものを分析天びんと呼び、最小表示0.0001mg(0.1μg)のウルトラマイクロ天びんまである[1]。

電磁平衡式は、皿に載せた質量でさおが動かないよう、位置センサーの信号に応じてコイルに電流を流し、電磁石の力で押し戻す。この電流の大きさが、重さの値になる[1]。つまり、天びんが測っているのは、試料にかかる力であり、皿に力が加わる経路があれば、物の量が同じでも表示は動く。

ひょう量250g・最小表示0.01mgなら分解能は1/2500万で、500kmを2cm刻みで読むことにあたる(500km÷2500万=2cm。筆者の検算でも一致)[2]。この細かさのもとで、まず最大の要因である空気の浮力を見る。

2. きあつが さがると、どうして おもく はかれるの?

2. 気圧が下がると、どうして分銅が重く表示されるのか

2. 空気の浮力 ── 0.03gの浮力が2%動くと0.6mg

くうきにも、おもさと ちからが あります。ものを くうきの なかで はかると、くうきが すこし うえに おし あげて くれる ので、ほんの すこし かるく はかれます。これを ふりょく と いいます。

200グラムの ステンレスの ぶんどうでは、この ふりょくは 0.03グラムくらいです[1]。

きあつが 1000ヘクトパスカルの ときに あわせた てんびんで、あとから きあつが 980ヘクトパスカルに さがると、くうきが うすくなり、ふりょくも ちいさく なります。ふりょくが 2パーセント へると、ひょうじは 0.6ミリグラム ふえます。これは けいさんで でた かずです。

ぶんどうは かわって いません。かわったのは、まわりの くうきの ちからです。

空気にも重さがあります。1立方メートルで約1.2kgです。物を空気中で量ると、物は空気に押し上げられる(浮力)ので、その分だけ軽く量られます。200gのステンレス分銅(密度8g/cm³、体積25cm³)にかかる浮力は、約0.03g(30mg)です[1]。

1000hPaのときに校正した天びんで、校正後に気圧が980hPaに下がると、空気がうすくなり、浮力は2%減ります。30mgの2%は0.6mgなので、表示は200.0006gになります。気温と湿度が同じ場合の簡易計算ですが、皿の上の分銅は同じなのに、表示だけが動く理由はこれです[1]。

米国の国立標準技術研究所(NIST)の手順書は、補正しない場合、空気の浮力の影響が質量測定でしばしば最大の誤差要因になると述べています[3]。

では、浮力はどんな物でも同じように効くのでしょうか。

空気の密度は約1.2kg/m³(0.0012g/cm³)である。ステンレス分銅(密度8g/cm³)で体積25cm³の200gなら、浮力は約0.03gになる。1000hPaで校正した後に気圧が980hPaになったなら、誤差は0.03g-0.03g×980/1000≒0.6mgで、表示は200.0006gとなる[1]。気温・湿度が一定という前提の簡易計算で、向きは校正に使う分銅(8g/cm³)より軽い試料の場合のものである。

NISTのSOP 2は、補正しないと、浮力の影響は質量測定でしばしば最大の誤差要因になると述べ、高精度の測定では補正すべきだとする。空気の密度は、温度・気圧・相対湿度を測って計算する[3]。

ここで、校正に使う分銅と同じ密度の物なら浮力の差はほぼ消えるはずなのに、なぜ0.6mgが残るのか。校正した時点との空気の差が、残るからである。そして、試料が軽ければ影響はもっと大きくなる。

3. かるい ものほど、くうきの えいきょうを うけるの?

3. 軽い物ほど、空気の浮力の影響を受けやすい

3. 試料の密度と慣用質量 ── 8g/cm³ から離れるほど誤差が出る

てんびんは、ふつう てつに ちかい おもさの ぶんどうで あわせて あります。ぶんどうと おなじくらい つまった ものなら、くうきの えいきょうは ほとんど きえます[3]。

でも、みずや きのように かるい ものは ちがいます。おなじ おもさでも、かさが おおきい ぶん、おし あげられる ちからも おおきいからです。

いわゆる きまった じょうけんでは、1グラムの みずは 1.051ミリグラム、きは 1.352ミリグラム、かるく ひょうじされます[4]。これは ほんとうの おもさとの ちがいで、きあつが うごいた ぶんでは ありません。

天びんは、ふつう密度約8g/cm³の鋼の分銅で調整されます。そのため、鋼に近い密度の物なら、空気の浮力の差がほぼ打ち消されます。NISTの資料によれば、国際的な約束(慣用質量)も、基準の分銅密度8.0g/cm³・基準温度20℃・空気密度0.0012g/cm³と決められています[3]。

ところが、密度が500〜4000kg/m³の物や、それより軽い物は、空気密度の変化による誤差が大きくなり得る、とポーランドの天びんメーカーRADWAGは説明します。基準条件(1013hPa・20℃・湿度40%)では、1gの水は真空中の値より1.051mg、木材(800kg/m³)は1.352mg軽く表示されます[4]。

この表の数字は、真空中の値との差です。気圧が動いたときの変化とは別の話なので、混ぜないでください。

それでは、実際の気圧は、どれくらい動くのでしょうか。

天びんは密度約8000kg/m³の鋼の分銅で調整される。鋼に近い密度の試料ならほぼ正しく量れるが、密度500〜4000kg/m³の試料やそれより低密度の試料は、空気密度の変化による誤差が大きくなり得る[4]。水や木は、まさにこの範囲に入る。

国際的な約束(慣用質量)は、基準の分銅密度8.0g/cm³、基準温度20℃、空気密度0.0012g/cm³とされる[3]。基準条件(1013hPa・20℃・湿度40%)では、1gの水は真空中の値より1.051mg、木材(800kg/m³)は1.352mg軽く表示され、100gの水なら105.127mgに達する[4]。

これらの値は真空中との差であって、気圧が動いたぶんの変化ではない。では、気圧が動くと、表示はどれだけ変わるのか。実測の結果を見る。

4. ほんとうに きあつの へんかで、かずが うごくの?

4. 気圧の変化は、実験でどれくらい表示に出たのか

4. 密閉室の実験と、実際の気圧の振れ幅

メーカーの しけんでは、とじた へやの きあつを 30ヘクトパスカルだけ かえて、おなじ ものを はかりました。きあつを かえると、あるみにうむ(3.59グラム)の ひょうじは 21マイクログラム、ゴム(5.5グラム)は 103マイクログラム かわりました[4]。

これを くうきの かるさから けいさんして ただしく なおすと、ちがいは 2と 4マイクログラムまで ちいさく なりました[4]。

1マイクログラムは 1ミリグラムの 1000ぶんの 1です。55グラムの ゴムなら、およそ 1ミリグラムの ちがいに なる けいさんです。

2012年の きろくでは、10にちかんで きあつが あわせて 55ヘクトパスカル うごいて います[4]。

RADWAGは、コンプレッサー付きの密閉室で、気圧を996hPaから966hPaへ30hPa変えて、同じ試料の表示を比べました。補正しない場合、アルミ(3.59g)で21μg、ゴム(5.5g)で103μg、表示が変わりました。空気密度から補正すると、差は2μgと4μgまで縮みました[4]。

比例関係で考えると、55gのゴムなら約1mgの差になります。ただし、これは一社の密閉室での実験で、屋外の天気で同じ値が出ると断定はできません。

実際の気圧は、どのくらい動くのでしょうか。同じ資料に載る2012年の記録では、2月7〜16日の10日間で気圧が計55hPa、13〜15日の間だけで35hPa動いています。資料は標準的な変化を約30hPaとみて見積もっています。これは、NISTが述べる空気密度の日ごとの変動は通常3%以内、という数字とも合います(1013hPaの3%は約30hPa)[4][3]。

気圧が数日のうちに30〜50hPaも動くなら、浮力だけで表示は動き続けます。現場の人たちは、これをどう抑えているのでしょうか。

RADWAGの密閉室実験では、気圧を996hPaから966hPaへ30hPa変えると、補正なしでは同じ試料の表示が、アルミ(3.59g)で21μg、ゴム(5.5g)で103μg変わった。空気密度から補正すると差は2μgと4μgまで縮んだ。比例関係から、55gのゴムなら約1mgの差になる[4]。ただし、コンプレッサー付きの密閉室という限られた条件の、一社の実測である。

実際の気圧の記録として、同資料は2012年2月7〜16日の10日間で計55hPa、13〜15日の間だけで35hPa動いた例を載せ、標準的な変化を約30hPaとみて質量変化を見積もっている。記録地点は資料に明記がなく、台風や低気圧の例とは断定できない[4]。

NISTは、空気密度の日ごとの変動は通常3%以内とする[3]。1013hPaの3%はおよそ30hPaなので、二つの資料は整合する。

A&Dの2015年の学会発表では、防振台・風防・温湿度の制御を備えても、低気圧の接近・通過時には繰り返し性が悪くなることが知られ、当時は解決できない現象と認識されていた[5]。ただし、原因が浮力だけとは資料に書かれていない。気圧以外の要因もあるはずだ。

5. かぜや ゆれは、どう つたわるの?

5. 風と振動は、建物が揺れなくても表示に入る

5. 気流と振動 ── 強風の日に何が起きるか

かぜが さらに あたると、ひょうじが ふらふら します。ぶんせき てんびんは、ひとが かんじにくい よわい かぜでも、かずが ゆれる ことが あります[1]。

エアコンの ふきだしぐちや、へやの でいりぐち、ひとが あるく ばしょは、かぜを うけやすい ところです。だから、てんびんには ガラスの かこい(ふうぼう)が ついて います。

ゆれ(しんどう)も かずを ふあんていに します。とくに ゆっくりした ゆれに ちゅうい が ひつようです。2かい いじょうや、じばんが やわらかい ばしょで おきやすい とされます[1]。

あるメーカーの しけんでは、つよい かぜの ひに 1マイクログラムの てんびんの ちょうしが おちました。たてものは ゆれて いませんでした[5]。

風が皿に当たると、計量値が不安定になります。分析天びんは、人が感じにくい弱い風でも表示が乱れることがあります。受けやすいのは、エアコンの吹き出し口、部屋の出入口の近く、人が歩く場所です。対策は、風の当たらない場所に置くことと、風防(ガラスの囲い)です[1]。米国薬局方(USP)の章 <1251> も、すきま風がなく、空調のダクトやオーブンから離れた場所に置くよう求めています[6]。

振動も同じです。特に低周波の振動に注意が必要で、起きやすいのは、2階以上、風の強い日、免震構造の建物での地震時、埋立地や川岸、海岸など地盤の弱い場所です。対策は除振台や、1階の壁際への設置などです[1]。

A&Dの2015年の発表では、感度1μgのマイクロ天びんで、熊谷気象台の風速と繰り返し性の悪化に強い相関がありました。最大風速10m/sの日は悪化し、建物の揺れは振動計では確認されませんでした。風が弱く(4m/s以下)温度変化が1℃の3日間は、平均1.3μgで、カタログ値の2.5μgを下回りました。数μgを保つには、地域の風速が3〜4m/s以内であることが必要と報告されています[5]。1メーカーの特定の条件での結果なので、0.1mgの分析天びんにそのまま当てはめることはできません。

ところで、風も振動もない部屋で、手に持ったものを置いただけで表示が変わることがあります。

風が皿に当たると計量値が不安定になる。分析天びんは、人が感知しにくい弱い風でも不安定になることがある。受けやすいのは、エアコンの吹き出し口・部屋の出入口近く・人の歩く場所で、対策は風防と、風の当たらない場所への設置である[1]。USP<1251>も、すきま風がなく、空調ダクトやオーブンから離れた、固く水平で振動を伝えにくい台への設置を求める[6]。

振動が伝わるときも計量値が不安定になり、特に低周波に注意が必要とされる。起きやすいのは、2階以上、風の強い日、免震構造の建物での地震時、埋立地・川岸・海岸など地盤の弱い場所である。2012年7月3日(東京湾M5.4、設置地震度2)を含む一晩では、繰り返し性の平均は、除振台なしが3.4μg、ありが2.3μgだった[1]。

A&Dの2015年の発表では、感度1μgのマイクロ天びんで、熊谷気象台の風速と繰り返し性の悪化に強い相関が見られた。最大風速10m/sの日は悪化し、建物の揺れは振動計では確認されなかった。風が弱く(4m/s以下)温度変化1℃の3日間は平均1.3μgで、カタログ値2.5μgを下回り、数μgを保つには地域の風速が3〜4m/s以内であることが必要とされた[5]。ただし、これは1社・特定条件の結果で、0.1mgの分析天びんには直接当てはまらない。風は力として皿に伝わるが、気圧の影響とは別の経路である。

風や振動を抑えても、なお表示が動く場合がある。試料そのものの状態が原因のときである。

6. あたたかい ものや せいでんきも、かずを かえるの?

6. 温かい試料・静電気・室温がつくる、見えない力

6. 熱対流・静電誘導・感度ドリフト

あたたかい ものを のせると、まわりの くうきが あたたまって うえに のぼります。この うえむきの ながれが さらを かるく し、かずは すこし ちいさく なります[1]。ひとの て の ねつでも おきる ので、ピンセットを つかいます。

ふゆの かわいた ひには、せいでんきも おきます。ビニールのような ものを のせると、さらが ひっぱられ、かずが ずれる ことが あります[1]。

へやの おんどが かわると、てんびん じたいの ちょうしも かわります。200グラムの てんびんで 2ど かわると、おおきいと 0.8ミリグラム くらい ずれる れいが あります[1]。

周囲より温かい試料を量ると、皿のまわりに上昇気流(対流)ができます。この気流が皿を軽くする向きに働くため、表示はマイナス方向にずれます。試料が周囲の温度になじむと、ずれは小さくなります。USP<1251>も、熱対流のため見かけの重さが真の重さより小さくなると述べています[1][6]。対策は、試料を事前に室温になじませることと、手で直接持たずにピンセットなどを使うことです。

帯電した樹脂や粉を量るときは、静電誘導で周囲に逆符号の電荷ができ、試料と天びんのあいだにクーロン力が働いて誤差になります。帯電物が近づくと、表示はマイナス方向へドリフトします。冬の乾燥した時期や、湿度の低い部屋で起きやすく、対策は除電器と金属シールドです[1]。USP<1251>も、湿度が低いと静電気がたまりやすいと述べています[6]。

室温が変わると、天びん本体の感度も変わります(感度ドリフト)。例として、ひょう量200g・最小表示0.1mgで、±2ppm/℃の天びんは、室温が2℃変わると、200gの表示が最大±0.0008g(±0.8mg)変わりえます(200g×2×10⁻⁶×2℃)。±2ppm/℃は、この例の機種の値で、すべての天びんの値ではありません[1]。

こうしてみると、天びんの表示を動かすものは、空気・気流・振動・熱・電気と、入り口がいろいろあります。では、現場の人は、どうやってそれらと付き合っているのでしょうか。

周囲より温かい試料を量ると、皿付近に対流による上昇気流が生じて皿を軽くするため、表示はマイナス方向にずれる。試料が周囲温度になじむと、ずれは小さくなる。USP<1251>も、熱対流のため見かけの質量が真の質量より小さくなると述べる[1][6]。対策は、試料を事前に室温へなじませることと、手で直接持たずピンセットなどを使うことである。

帯電した樹脂や粉を量ると、静電誘導で周囲に逆符号の電荷ができ、試料と天びんのあいだにクーロン力が働いて誤差になる。帯電物が近づくと、表示はマイナス方向へドリフトする。冬の乾燥期や低湿度の部屋で起きやすく、対策は除電器と金属シールドである[1]。USP<1251>も、低湿度では静電気がたまりやすいとする[6]。

室温が変わると、天びん本体の感度が変わる(感度ドリフト)。ひょう量200g・最小表示0.1mgで、±2ppm/℃の天びんの場合、室温が2℃変わると、200g×(±2×10⁻⁶)×2℃=±0.0008gとなり、199.9992〜200.0008gの表示になりうる[1]。±2ppm/℃は例として挙げられた機種の値であって、すべての天びんの値ではない。

気圧は浮力という空気の性質を通して、風・振動・対流は皿に働く力として、静電気は試料と天びんのあいだの力として、室温は天びん本体の感度の変化として、それぞれ表示に入る。経路が違うから、対策も違う。

7. かずを ゆらさない ために、どんな くふうが あるの?

7. 表示を落ち着かせるために、現場で守られている使い方

7. 設置・ウォームアップ・現場校正 ── できることと残る誤差

だから、ぶんせき てんびんを つかう ひとは、いろいろ くふうを します。かぜの あたらない ばしょに おく。ふうぼうの とびらは、ちいさく あけしめする。ものは ピンセットで もつ[2]。

つかう まえに でんげんを いれて、あたためて おく ことも だいじです。そして、おいた ばしょで ぶんどうを つかって あわせ(こうせい)ます[2]。

こうせいで、おんど・じゅうりょく・ふりょくの えいきょうは なおせます。でも、そのあとで きあつが かわった ぶんは、のこります。だから、ほんとうに くわしく はかるときは、くうきの かるさを けいさんして なおす ことも あります[3]。

A&DのJASIS2019の発表資料には、「測定のコツ」として、天びんを十分にウォームアップ(通電)してから量ること、風防のドアをできるだけ小さく開閉すること、被計量物に体温が移らないよう手袋やピンセットを使うこと、設置場所で定期的に校正することが挙げられています[2]。

校正時点の温度・重力・浮力の影響は、設置場所で分銅を使って校正することで合わせられる、とされています[2]。ただし、校正は、校正した時点の気圧や気温を合わせるものです。その後に気圧が動いたぶんは、校正では消えません。だから、NISTは、高精度の測定では、温度・気圧・湿度から空気密度を計算して補正することを求めています[3]。

つまり、分析天びんの表示は、試料の重さだけでなく、置いた場所の空気・熱・電気の状態にも左右されます。

A&DのJASIS2019資料は、測定のコツとして、十分なウォームアップ(通電)と予備荷重、風防のドアを小さく開閉すること、被計量物へ体温が移らないよう手袋やピンセットを使うこと、設置場所での定期的な校正を挙げる[2]。

校正時点の温度・重力・浮力の影響は、設置場所での分銅による校正で合わせられるとされる[2]。ただし、これは校正した時点の気圧・気温に合わせるもので、その後の気圧の変化まで消えるわけではない。NISTが高精度の質量測定で空気浮力の補正を求め、温度・気圧・相対湿度から空気密度を計算するのは、そのためである[3]。

風・低気圧通過時の繰り返し性の悪化については、今回の資料が主にA&D1社の2015年の発表であり、現在の機種で改善しているかは別に確かめる必要がある[5]。

分析天びんの表示は、試料の重さだけでなく、設置環境の空気・熱・電気の状態を含んだ値である。条件を知れば、表示の揺れから環境の変化を読み取ることもできる。

天びんの まわりの くうきを ながめて みよう

風防のある天びんと、天気図を見比べてみよう

資料の読み方 ── 天びんの環境条件と原典

今日できること

てんきよほうで、きあつの ヘクトパスカルを 見て みましょう。1日で どのくらい かわるか、ノートに かいて みます。ふだん あまり かんじない くうきの ちからが、かずに なって あらわれます。

出かけてできること

がっこうの りかしつや、かがくかんに、ふうぼうの ついた てんびんが あれば、どこに おいて あるかを 見て みましょう。まどや ドアから とおいかも しれません。

こうしきの 情報じょうほう

てんびんの メーカーの ホームページで、「てんびんの つかいかた」を さがして みましょう。

今日できること

天気予報で、気圧のhPaの数字を見て、数日のあいだにどのくらい動くかをノートに書いてみましょう。30hPaは、気圧1013hPaのときの約3%にあたります。本文の浮力の例を思い出して、気圧が動くと浮力がどれだけ変わるか、考えてみましょう。

出かけてできること

学校の理科室や科学館に風防つきの天びんがあれば、どんな場所に置かれているか見てみましょう。窓や出入口から離れているか、台がしっかりしているかが、この記事の話につながります。

公式情報

天びんメーカーのホームページに、設置環境や測定のコツの資料があります。NISTの手順書は英語ですが、浮力補正の考え方を詳しく説明しています。

おわりに

気圧の数字が、皿の上の重さに出てくる。その不思議さを知ると、天気予報の気圧の数字の見え方が、少し変わるかもしれません。

この記事で使った数字について

0.6mg、1mgなどの数字は、資料の例や簡易計算です。すべての天びん・天気で同じとは限りません。

今日できること

天気予報や気象庁の観測値で、数日間の気圧の推移をノートに記録し、30hPa(1013hPaの約3%)の振れがどれくらいの頻度で起きるかを調べる。本文の簡易計算(0.03g×2%)に当てはめて、自分で表示の変化を見積もってみる。

出かけてできること

理科室や科学館で、風防つきの天びんの置き場所(窓・出入口・空調からの距離、台の固さ)を観察する。この記事で挙げた、設置条件のどれが満たされているかを確かめる。

公式情報

NIST「SOP 2 Applying Air Buoyancy Corrections」(英語)は、空気密度の計算式と補正手順を載せる。A&Dの技術資料(出典[1][2][5])には、設置環境と誤差の実測例がある。資料はいずれもメーカーまたは機関の見解であり、条件を読んでから使う必要がある。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

今回は、日本のメーカー(A&D)の技術資料で仕組みと対策を、NISTの手順書で空気浮力の一般論と国際的な約束を、RADWAGの資料で密閉室の実測を、USPで設置環境の要件を突き合わせた。

  1. 環境と測定技術 Vol.47 No.1(2020)「電子天びんの誤差要因と対策」A&D 菅野将弘 https://www.aandd.co.jp/pdf_storage/tech_doc/balance/t_balance_jemca_2020_47_1.pdf (分析天びんの定義・浮力・風・振動・対流・静電気・室温)
  2. A&D JASIS2019 発表資料「精密計量は正しく行えていますか?」 https://www.aandd.co.jp/pdf_storage/tech_doc/exhibition_presentation/t_jasis_20190905_02.pdf (分解能のたとえ・測定のコツ)
  3. NIST SOP 2 Applying Air Buoyancy Corrections (NIST IR 6969-2019) https://www.nist.gov/document/sop-2-applying-air-buoyancy-20190506pdf (空気浮力の補正・慣用質量・空気密度の変動)
  4. RADWAG "Buoyancy force in mass measurement" https://radwag.com/pdf/artykuly/en/buoyancy_force_in_mass_measurement.pdf (試料の密度による誤差・気圧実験・気圧の記録)
  5. A&D 第32回合同シンポジウム発表資料(2015)「天びんの設置環境評価方法」 https://www.aandd.co.jp/pdf_storage/tech_doc/balance/t_and-meet_report_201505.pdf (低気圧・風速の影響)
  6. United States Pharmacopeia <1251> Weighing on an Analytical Balance https://drugfuture.com/Pharmacopoeia/usp38/data/v38332/usp38nf33s2_c1251.html (設置場所・熱対流・静電気)

なおした ところ

更新履歴

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