1. もみじの 花は、どんな 花なの?
1. 春の若葉のかげで、もみじは小さな花を咲かせている
1. 若葉と同時に咲く風媒花 ── 4〜6mmの花は何のために目立たないのか
もみじの 花が さくのは、4月から 5月ごろです。わかい 葉が ひらく ころに、えだの さきから、小さな 花が 下むきに さきます[2]。
大きさは 4から 6ミリメートルほど。1円玉の はば(2センチメートル)の 5分の 1 から 3分の 1 くらいです。色は、赤みが かった むらさき色に 見えます。
この 花は、虫では なく 風で 花粉を はこぶ 花だと いわれます[2]。目立つ 花びらが なくても、風が はこんで くれるのです。
では、同じ 場所に 立つ もみじの 木は、いっせいに 同じ 花を さかせるのでしょうか。
春の公園で、もみじの若葉の下を見上げると、枝先から小さな花がぶら下がっていることがあります。サクラのように枝いっぱいに咲くわけではないので、気づかない人がほとんどです。
百科事典(Wikipedia)の概説によると、イロハモミジの花期は4〜5月で、若葉と同時に、直径4〜6mmの暗紫色の花を下向きに出します。1本の木に雄花と両性花をつけ、花粉は風で運ばれる風媒花です[2]。花の色は、資料によって「赤」「暗紫色」と書き方が分かれるので、赤みがかった暗い紫色と考えておけばよさそうです。
直径4〜6mmは、1円玉の直径(2cm)の5分の1から3分の1ほどです。虫を呼ぶ大きな花びらはなく、風で花粉を飛ばす花なので、人目につかない姿でもふしぎではありません。
ところが、同じ林の中のもみじでも、花の咲く順は木によってちがうことがあります。
なぜイロハモミジの花は、人に気づかれないほど小さいのか。百科事典(Wikipedia)の概説によれば、花期は4〜5月で、若葉と同時に直径4〜6mmの暗紫色の花が枝先から下向きに出る。雌雄同株で、雄花と両性花をつけ、風媒花である[2]。花粉の運び手が風であれば、虫を引き寄せるための大きな花びらは必須ではない、と読める。
花色の記述は資料ごとにゆれる。「赤」とする説明もあれば「暗紫色」とする説明もある。同じ花が光の当たり方や時期で見え方を変える可能性があり、ここでは「赤みがかった暗い紫色」程度にとどめる。
花が風で受粉するなら、花粉の出る時期と、受け取る時期が木ごとに合うかどうかが問題になる。実際、カエデの仲間では、花粉を出す時期と受け取る時期の順序が木によって異なる例が報告されている。
2. 同じ 林の もみじは、花の さく じゅんばんが ちがうの?
2. 同じ林のもみじでも、花の咲く順番は木によってちがう
2. 雄性先熟・雌性先熟・雄の個体の混在 ── 開花順のちがう木が同じ集団にいる
カエデの なかまの 一部には、花の さく じゅんばんが ちがう 木が、同じ 場所に まざって いる ものが あります[3]。
ひとつは、先に おばな(花粉を 出す 花)が さく 木。もうひとつは、先に めばな(たねに なる 花)が さく 木です。おばなだけを つける 木も まざって います。
花粉を 出す 時と、花粉を 受ける 時の じゅんばんが、木に よって ちがうのです。
ただし、なぜ ずらして さくのかは、しりょうに 書かれて いません。わかって いる ことは、ここまでです。
さて、さいた 花は、秋に どんな すがたに なって いるのでしょう。
福岡教育大学の福原達人さんの解説によると、カエデ属の一部の種では、集団の中に、雄花が先に咲く木、雌花が先に咲く木、雄花だけの木が混ざっているそうです[3]。この資料の中に、イロハモミジも含まれるとされています。
この性質は「雌雄異熟」と呼ばれます。同じ木の中でも花粉を出す時期と受け取る時期がずれることがあり、集団全体では、そのタイミングのちがう木が入りまじります。
では、この仕組みは何のためにあるのでしょうか。「自分の花粉で受粉するのを防ぐため」という説明を見かけることがありますが、今回の資料はそう書いていません。目的については、言い切らないでおきます。
確かなのは、同じ場所のもみじでも、花粉を出す時期と受け取る時期の順序が木によってちがうことがあるということです。受粉した花は、やがて、秋に別の姿に変わります。
風で受粉する花にとって、花粉を出す時期と受ける時期が重なるかどうかは大きい。福岡教育大学の福原は、カエデ属の一部の種で、集団の中に雄性先熟の個体、雌性先熟の個体、雄個体が混在すると述べている[3]。イロハモミジはその例に含まれる。
雄性先熟とは、雄しべの機能が雌しべより先に働く性質、雌性先熟はその逆である。つまり、同じ種の集団の中に、花の働く順序の異なる木が同居していることになる。雄個体は雄花だけをつけるので、種子はつくらない。
この現象を「自家受粉を避けるため」と説明する本も多いが、福原の資料にはその目的は書かれておらず、ここでは仕組みの存在だけを事実として扱う。
花粉を出す時期と受ける時期が木ごとに異なる集団で、受粉に成功した花は、夏を越えて翼のある果実になる。では、その果実はどのように旅立つのか。
3. 花は 秋に、どんな たねに なるの?
3. 秋、花は翼のあるタネになって風に乗る
3. 翼果の形成と散布 ── 翼が回転と揚力を生む
秋に なると、花の あった ところに、はねの ような ものが ついた みが できます。「よくか」と いいます[2]。
はねの 長さは、1から 2センチメートルくらい。10月ごろ みのると、風を うけて、くるくる 回りながら とんで いきます[2]。
回ると、ゆっくり おちます。ヘリコプターの はねの ように 回って、風に のって 遠くまで とべるように なります。
もみじの たねは、そのあと、どこで 冬を すごすのでしょうか。
受粉した花は、夏のあいだに果実になります。イロハモミジの果実は翼果で、1〜2cmほどの翼がついています。百科事典(Wikipedia)の概説では、10月ごろに熟すと、風を受けて回転しながら飛ばされるとされています[2]。熟す時期は地域や木によって差があるので、10月ごろは目安です。
回りながら落ちる翼果については、2009年に科学雑誌『Science』に載った研究が知られています。回転する翼の前のふちに小さな渦ができて、回らない場合の約2倍の揚力が得られると報告されました[4]。落ちるのが遅くなれば、風の影響を受ける時間が長くなり、遠くへ運ばれる可能性があります。
こうして、小さな花は秋に、風で旅するタネになります。けれども、旅の終わりは、安全な場所とはかぎりません。
受粉後の果実は、どのように散布されるのか。イロハモミジの果実は翼果で、1〜2cm程度の翼をもち、10月ごろに熟すと、風を受けて回転しながら飛散する[2]。ただし、成熟時期は地域・個体差があり、この日付は目安にとどまる。
回転の効果は実験で調べられている。Lentinkらは2009年の『Science』論文で、カエデの種子が回りながら落ちるとき、翼の前縁に竜巻状の渦(前縁渦)ができ、回転しない種子の約2倍の揚力を生むと報告した[4]。揚力が大きければ落下速度は遅くなり、水平方向に運ばれる距離が伸びる余地が生じる。ただし、これは報告された研究の話で、実際に種子が何メートル飛ぶかは、風や樹高に左右される。
散布された種子は、一定の期間を環境にさらされて過ごすことになる。この段階で、種子の性質が問題になる。
4. たねは、ふゆの あいだ どうして いるの?
4. タネは冬をどう過ごし、いつ芽を出すのか
4. 種子の貯蔵条件と発芽の時期 ── 一斉に発芽しない可能性
もみじの たねは、ずっと 元気に 生きて いられる わけでは ありません。しまい方の じっけんでは、おんどと、たねの 中の 水分が、あるはんいに 入って いないと、め を 出す ちからが のこりませんでした[5]。ぼくそうの たねより、いたみやすかったそうです。
では、自然の 中では どうでしょう。えんげいの 本では、たねは 3月に め を 出すと されて います[6]。
ただし、すべての たねが 同じ 年に 出るとは かぎりません。2年目に 出る たねも ある、という せつめいも あります[7]。
ゆっくり 目ざめる たねが あると、その 年の 天気が わるくても、のこる たねが あるかも しれません。ただし、これは しりょうの せつめいの 一つです。
秋に地面へ着いたタネは、そのまま春まで待つのでしょうか。日本緑化工学会誌に載った貯蔵試験では、イロハモミジの種子は、温度と含む水分の量が一定の範囲でないと、発芽する力が保てませんでした。3℃なら含水率10.8%以下、23℃なら8.0%以下の条件で発芽率が保たれ、牧草の種より傷みやすかったそうです[5]。種は、しまい方にうるさい性質のようです。
では、自然の中では、いつ芽を出すのでしょうか。園芸の解説では、種はそのままでも3月に発芽するとされます。冷蔵庫に入れて保管し、3月にまいて育てる方法もあるそうです[6]。
一方、横浜市の公園緑道に関する資料の抜粋には、晩秋から冬にまいた種が3〜5月に芽を出すが、モミジの仲間には2年目に発芽するものもあり、一斉には発芽しない、という説明があります[7]。これは一部の抜粋にもとづく説明なので、「そういう種もあるらしい」と受け取っておきます。
無事に芽を出した小さな苗は、どんな場所で育つのでしょうか。
散布された種子は、翌春までの間、どのような条件に置かれるのか。日本緑化工学会誌の貯蔵試験では、イロハモミジの種子は、3℃では含水率10.8%(相対湿度57%)以下、23℃では含水率8.0%(31%RH)以下の場合に発芽率が維持され、比較対象の牧草(CRF)より劣化しやすかった[5]。温度が低いほうが、許容される含水率の上限が高い。ただし、これは貯蔵試験の結果で、屋外の土の上で同じことが起こるとは限らない。
発芽時期については、園芸情報で、種子はそのままでも3月に発芽し、冷蔵庫に保管して3月にまいても株を増やせる、とされる[6]。ただし、これは園芸向けの説明である。
横浜市の資料の検索抜粋には、晩秋〜冬にまいた種が3〜5月に芽を出すが、モミジ類は2年目に発芽するものもあり、一斉には発芽しないようになっている、とある[7]。モミジ類には、2年目に発芽する種子もあるとされる。
では、発芽した芽生えは、成長の途中でどのような制約を受けるのか。光と、周りの木の存在である。
5. 日かげや、まわりの 木が 多い ところでは、どう そだつの?
5. 日かげにも耐えるもみじは、周りの木とどう競っているのか
5. 耐陰性と競争 ── 糺の森の毎木調査が示す成長の抑制
もみじの 木は、せいちょうが はやく、日かげにも たえると いわれます[2]。大きく なると、高さ 4から 15メートル、みきの 直径は 80センチメートルを こえることも あります[2]。
ただし、日かげが すき、という わけでは ありません。庭に うえるなら、午前中だけ 日が 当たる 場所や、木かげの ような 半日かげが よいと いわれます。西日が 当たると、葉が かわいて、丸まって しまうそうです[6]。
京都の しもがもじんじゃの 森では、30年ちかい 調査から、まわりに 大きな 木が 多いほど、もみじの みきの 太りかたが ゆっくりに なって いました[8]。
まわりに 大きな 木が 多いと、もみじの みきは ゆっくり 太く なります。
もみじの芽生えが育つのは、広い野原の真ん中とはかぎりません。百科事典(Wikipedia)の概説では、イロハモミジは成長が早く、日かげにも耐える木だとされます。大きくなると、樹高は4〜15m、幹の直径は80cm以上になることもあります[2]。
ここで注意したいのは、「耐える」と「日かげが好き」はちがうという点です。庭に植える場合は、午前中だけ日が当たる場所や木かげの半日陰が無難で、西日が当たると葉が乾燥して丸まる、と園芸の解説は述べています[6]。
森の中の成長を調べた研究もあります。京都の下鴨神社の糺の森で、1991年から2018年までの毎木調査を使った分析では、イロハモミジの幹の太りかたは、周りに競争相手になる大きな木が多いほど遅くなっていました。対象は胸の高さの直径10cm以上の木で、芽生えの研究ではありません[8]。
耐える力と、競争に負けない力は、別のもののようです。
日かげに耐えられるなら、どこでも同じように育つのか。百科事典(Wikipedia)の概説によれば、イロハモミジは成長が早く、日陰にも耐える。樹高は4〜15m、幹の直径は80cm以上に達することもある[2]。しかし、園芸情報は、庭植えでは半日陰(午前中だけ日が当たる場所か木陰)が無難で、西日が当たると葉が乾燥して丸まると述べる[6]。「耐える」ことは、「日かげで最もよく育つ」ことを意味しない。
成長を制限する要因として、競争がある。田端らは、京都・下鴨神社の糺の森の1991〜2018年の毎木調査データを使い、成長速度が対象木のサイズだけでなく周囲の競争木の影響も受け、いずれの期間でも偏回帰係数が負であること、つまり競争が強いほど成長が抑えられることを示した[8]。ただし、対象は胸高直径10cm以上の個体であり、芽生えや稚樹の成長にそのまま当てはめることはできない。
以上から、イロハモミジの育ち方は、光の条件と、周囲の木との関係の両方に影響されると整理できる。
ここまで見てきた一年の流れは、身近な木でも確かめられるだろうか。
6. 近くの もみじで、なにを 見られるの?
6. 近くのもみじで、花とタネの季節を見分けてみよう
6. 名前の由来から観察へ ── 葉の裂片を数え、季節ごとに同じ木を見る
この もみじの 名前の 由来は、葉の さけめを 「いろはにほへと」と 数えた ことだと いわれます[1]。ためして、数えて みましょう。
春は、わかい 葉の かげで、下を むいた 小さな 花を さがします。秋は、はねの ついた たねを 見つけたら、手に のせて、上から そっと 落として みます。
木から 実を とる ときは、えだを おらないでください。他の 人の 庭には 入らないでください。
イロハモミジという名前は、葉の裂片を「イロハニホヘト」と7つ数えられることに由来するといわれます。本州中部以南、四国、九州に分布する落葉高木です[1]。近くのもみじの葉を1枚見て、裂け目を数えてみると、名前の由来が確かめられます。
春は、若葉の下の小さな花を探します。花が見つかったら、同じ木を秋にもう一度見ます。花のあった場所に翼のあるタネができているかを見比べると、花がタネになる流れを自分の目で確かめられます。
タネを拾ったら、手に持って、胸の高さから静かに離してみます。回りながら落ちるのが分かります。
木の枝を折ったり、他人の敷地に入ったりしないようにします。
この記事の流れは、近所の木で検証できる。イロハモミジの名前は、葉の裂片を「イロハニホヘト」と7つ数えられることに由来するとされ、本州中部以南・四国・九州に分布する落葉高木である[1]。葉の裂片を実際に数えれば、由来の説明が自分の木に当てはまるかを確かめられる。
観察は、春・秋・翌春の3回に分ける。春は若葉の下の花(4〜6mm、暗紫色、下向き)、秋は同じ枝先の翼果、翌春は足もとの芽生えを見る。春は花、秋は翼果を同じ木で観察する。翌春は、近くで芽生えを探す。翼果の落ちた場所と芽生えの位置が一致するとは限らない。
数値の根拠を確かめたいときは、種子貯蔵試験は日本緑化工学会誌48巻1号、競争と成長は同誌46巻1号が入口になる。カエデの種子の落下は、Science 324巻(2009年)に原典がある。
観察の際は、枝を折らない、私有地に入らないという基本を守る。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の記述は、次の資料の内容にもとづいています。各資料の使い方を、末尾の()に書きました。
- 林野庁 東北森林管理局「樹木図鑑 イロハモミジ」。https://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/sidou/jumoku/shubetu/irohamomiji.html (名前の由来と分布について)
- Wikipedia日本語版「イロハモミジ」。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%83%8F%E3%83%A2%E3%83%9F%E3%82%B8 (花・翼果・樹高と耐陰性について。百科事典的な概説)
- 福岡教育大学 福原達人「花の形態(雌雄異熟)」。https://staff.fukuoka-edu.ac.jp/fukuhara/keitai/shiyuuijuku5.html (カエデ属の花の咲く順のちがいについて)
- Caltech news「Dickinson reveals that the twirling seeds of maple trees spin like miniature helicopters」(Lentink ほか, Science 324:1438, 2009)。https://www.eas.caltech.edu/news/dickinson-reveales-that-the-twirling-seeds-of-maple-trees-spin-like-miniature-helicopters-as-they-fall-to-the-ground (回転する翼果の渦と揚力について)
- 日本緑化工学会誌 48巻1号(2022)種子貯蔵試験。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsrt/48/1/48_172/_article/-char/ja (種子の貯蔵条件と発芽率について)
- 育て方ネット「イロハモミジの育て方」。https://sodatekata.net/flowers/page/945.html (発芽の時期と庭植えの場所について。園芸情報)
- 横浜市 公園緑道資料。https://www.city.yokohama.lg.jp/kohoku/kurashi/machizukuri_kankyo/jimusho/koen_ryokudo/aigokai.files/0095_20241223.pdf (2年目に発芽する種子について。検索結果の抜粋から読んだ箇所を含む)
- 日本緑化工学会誌 46巻1号(田端ほか)。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsrt/46/1/46_21/_article/-char/ja (糺の森の毎木調査と、競争が成長に与える影響について)
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