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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

玉ねぎを きると、なみだが 出るのは なぜ?

玉ねぎを切ると涙が出るのはなぜか ── 「足りない酵素」を探した話

玉ねぎの涙のもとは、どう作られるのか ── ニンニクとの比較から見つかった酵素LFS(2002年)

分野:自然

玉ねぎを きると、なみだが 出ます。この なみだの もとを つくって いる のは、玉ねぎの 中に ある、ある 酵素こうそです[1]。しかも、この こうそが 見つかったのは 2002年で、それまでは ちがう せつめいが ただしいと 思われて いました[2]。

どうして 20年ほど前まで、だれも 気づかなかったのでしょう。ニンニクとの くらべっこが ヒントに なった 話から、なみだの もとの 見つけかたが わかります。

玉ねぎを切ると涙が出るのは、切ったあとに目にしみる成分が勝手にできるからではなく、玉ねぎの中の専用の酵素がそれを作っているからです[1]。しかもこの酵素が見つかったのは2002年のことで、それまでは別の説明が信じられていました[2]。

台所で毎日のように起きることなのに、なぜ最近まで正体が分からなかったのでしょうか。ニンニクとの比べっこがヒントになった発見の筋道が分かります。

玉ねぎを切ると涙が出るのは、傷ついた細胞の中で、催涙成分合成酵素(LFS)が涙のもとを作るためである[1]。この酵素が報告されたのは2002年で、それまでは酵素1つで足りると考えられていた[2]。

成分そのものは1970年代に分かっていたのに、なぜ酵素だけが長く見落とされたのか。ニンニクにもある酵素だけでは涙の成分ができない。比較から「足りない酵素」を探した2002年の発見を、資料から読み解く。

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1. なみだの もとは、だれが つくって いるの?

1. 涙のもとは、切った瞬間に酵素が作っている

1. 催涙成分は、専用の酵素LFSが作る

玉ねぎの 中には、なみだの もとに なる ざいりょうが ねむって います。ほうちょうで きると、こわれた ところで ざいりょうが こうそと 出あって、つぎつぎに かわって いきます。

2002年、ハウス食品の 研究者けんきゅうしゃたちが、なみだの もとを つくる、そのための こうそを 見つけたと はっぴょうしました[1]。名前は「なみだの もとを つくる こうそ」、えいごの ちぢめ名で LFS(エルエフエス)と いいます。

では、それまでの 人は、なみだの もとが どうやって できると 考えて いたのでしょう。

玉ねぎの細胞には、涙のもとになる前の材料が入っています。包丁で切ると細胞がこわれ、材料と酵素が出会って、いくつかの段階を経て目にしみる成分に変わります。

2002年、ハウス食品の今井真介らは、その最後の段階を受け持つ酵素を見つけたと報告しました[1]。催涙成分合成酵素、英語の略称でLFSと呼ばれます。この酵素は、玉ねぎにもともとある別の酵素(アリイナーゼ)が作った中間の物質に働いて、涙のもとを完成させます[6]。

つまり涙は、アリイナーゼとLFSという2つの酵素の連係でできます。しかしこの「2つ目」は、長いあいだ知られていませんでした。

玉ねぎを切ると涙が出る原因は、催涙成分プロパンチアール-S-オキシドである。2002年、ハウス食品の今井真介らはNature誌で、この成分を作る専用の酵素、催涙成分合成酵素(LFS)を報告した[1]。

後の研究によると、細胞が壊れると、前駆体(1-PRENCSO)にアリイナーゼが働いて中間体の1-プロペンスルフェン酸ができる。LFSはこの中間体にだけ働き、催涙成分を作る[6]。つまり涙のもとは、アリイナーゼとLFSの2段階の酵素反応でできる。アリイナーゼだけでは完成しない。

では、2002年より前の研究者たちは、この2段目をどう考えていたのか。

2. 20年まえまで、人は どう 考えて いたの?

2. 2002年までは「材料が分かれば、涙の成分は自然にできる」と考えられていた

2. 2002年以前の説明 ── 「アリイナーゼのあとは自然にできる」

2002年より まえは、こうだと 考えられて いました。玉ねぎの ざいりょうを アリイナーゼと いう こうそが こわす。すると、なみだの もとは、そのあと ひとりでに できる[2]。

この 話は、すじが とおって いるように 見えます。こうそは 1つで たりる、あとは ほうって おいても いい、と 思えるからです。

ところが、この 考えを ゆさぶる 手がかりが、となりの やさいに ありました。

2002年より前、研究者たちはこう考えていました。玉ねぎの材料をアリイナーゼが分解すると、涙のもとは、そのあと自然にできる[2]。

この説明は、一見すると筋が通っています。酵素が1つ働けば反応が進み、あとは放っておいても完成するなら、探すものはもう残っていないからです。

ところが、この説明をゆさぶる手がかりが、別の野菜にありました。

2002年以前の理解では、玉ねぎの前駆体(PRENCSO)がアリイナーゼで分解されたあと、催涙成分(プロパンチアール-S-オキシド)は自然に生成すると考えられていた[2]。この見方では、酵素は1つで足り、後半は非酵素的な反応として扱われる。

この見方が長く保たれた理由の1つは、成分そのものが1970年代に特定されていたことにある[5]。成分が分かっていれば、できる経路も分かった気になりやすい。しかし、成分の構造が分かることと、それを作る酵素が全て分かることは別の話である。

この説明に疑いが生じたのは、玉ねぎと同じアリイナーゼを持つ別の野菜を比べたときだった。

3. ニンニクは、どうして なみだが 出ないの?

3. 同じ酵素を持つニンニクで、涙が出ないのはなぜか

3. ニンニクという対照 ── アリイナーゼだけでは催涙成分は作られない

ニンニクを きっても、なみだは 出ません。ところが、ニンニクにも アリイナーゼは あります[3]。

もし アリイナーゼだけで なみだの もとが できるなら、ニンニクでも 目が しみて いいはずです。そこで 研究者たちは、玉ねぎの ざいりょうに ニンニクの アリイナーゼを 入れて 見ました。それでも、なみだの もとは できませんでした[3]。

玉ねぎには、アリイナーゼの ほかに、まだ 見つかって いない こうそが ある。そう 考えるしか ありませんでした[3]。

たとえば、おべんとうの ざいりょうが そろって いても、さいごの 一手間を する 人が いないと できあがりません。ただし これは わかりやすく した たとえで、本当の しくみは もっと ふくざつです。

ニンニクを切っても涙は出ません。しかしニンニクもアリイナーゼを持っています[3]。

もしアリイナーゼだけで涙の成分ができるなら、ニンニクでも目がしみるはずです。研究者たちは、玉ねぎの材料(PRENCSO)にニンニクのアリイナーゼを加える実験をしました。結果は、涙の成分ができない、というものでした[3]。

ここから「玉ねぎには、まだ知られていない酵素がある」という結論が出てきます。同じアリイナーゼを持つ2つの野菜を比べる、という単純な発想が、足りない酵素の存在を教えてくれたのです。

では、すでに成分が分かっていたのに、なぜその酵素は見落とされたのでしょうか。

決め手になったのは、ニンニクとの比較である。ニンニクもアリイナーゼを持つが、切っても涙は出ない。さらに、玉ねぎの前駆体にニンニクのアリイナーゼを加えても、催涙成分は生じなかった[3]。アリイナーゼだけでは催涙成分は作れず、「別の、足りない酵素」が必要だと分かったのである。

この対照実験の論理は単純だが強い。アリイナーゼを共通にもつ玉ねぎとニンニクを比べると、アリイナーゼだけでは涙の成分はできないと分かり、足りない酵素が玉ねぎ側にあると絞り込める。その後の研究は、この酵素が1-プロペンスルフェン酸に特異的に働くことを示し、2段階の反応としてモデルが整えられた[6]。

ところで、成分が1970年代に特定されていたのに、この酵素はなぜ見落とされたのか。

4. こうそは、どうして 見おとされて いたの?

4. 成分が分かっていたのに、酵素が見落とされた理由

4. 緑変の研究から気づかれた酵素 ── 見落としと発見の経緯

なみだの もとが どんな ものかは、1970年代に すでに 分かって いました。でも、それを つくる こうそは、見おとされて いました[5]。

見つけた 人たちの 話では、なみだの もとを つくる こうそを とりだして しらべるのは、むずかしく なかったそうです[5]。どうして 見おとされて いたのかは、はっきりとは わかって いません。

見つける きっかけは、ハウス食品の 研究者が 調べていた、べつの ふしぎ でした。玉ねぎと ニンニクを まぜた とき、まれに 食べものが みどり色に かわる ことが あります。その しくみを しらべて いるとき、この こうその ことに 気づいた、と 会社は せつめいして います[4]。

なみだの ことを しらべて いたのでは ありません。べつの ふしぎを おいかけて、なみだの もとの なぞに たどりついたのです。

涙の成分そのものは、1970年代に特定されていました。しかしそれを作る酵素は見落とされていた、と、涙の出ない玉ねぎの発明者は語っています[5]。精製して調べること自体は、難しくなかったとも話しています[5]。

きっかけは、涙とは別の研究でした。ハウス食品の研究者は、玉ねぎとニンニクのペーストを混ぜたとき、まれに緑色に変わる現象を調べる中で、LFSの存在に気づいたと説明しています[4]。レトルトカレーでごくまれに起きる緑変の原因を調べる研究だった、ということです。

涙の謎を直接追ったのではなく、別の「なぜ」を追う途中で、涙のもとを作る酵素が顔を出したことになります。

成分の特定が1970年代、酵素の報告が2002年。この間のずれについて、涙の出ない玉ねぎの発明者は、成分は分かっていたが、それを作る酵素が見落とされていたと述べる。精製して調べるのは難しくなかった、とも語る[5]。

なお、この見落としは「技術が足りなかった」ためではない、という発言である点が重要である。調べる動機が無かった、あるいは自然に生成すると見なしていた、と読むのが自然だが、これは発言からの推測であり、資料が理由を断定しているわけではない。

発見の端緒は、涙とは別の問題だった。ハウス食品の研究者の説明では、1990年代、レトルトカレーでまれに生じる玉ねぎ・ニンニク由来の緑変現象の原因を調べる中で、LFSの存在に気づいたとされる[4]。この経緯は、同社側の説明にもとづく。

こうして見つかった酵素は、止めたらどうなるのか。その実験が、のちの「涙の出ない玉ねぎ」につながる。

5. こうそを とめた 玉ねぎは、どう なるの?

5. 酵素を止めた玉ねぎでは、涙の成分が大きく減った

5. LFSを抑えた玉ねぎ ── 活性の低下と、増えた別の成分

こうそが なみだの もとを つくって いるなら、その こうそを はたらかなく させたら どうなるでしょう。

研究者たちは、LFSの はたらきを おさえた 玉ねぎを つくって 見ました。その 玉ねぎでは、きずを つけても、なみだの もとが ずっと 少なく なりました[6]。かわりに、べつの イオウの なかまの 物が ふえたと 発表されて います[6]。

この 玉ねぎは、ハウス食品が「スマイルボール」と いう 名前で、2015年から 売って いると せつめいして います[4]。2013年には、この 研究で イグ・ノーベル化学しょうを もらいました[4]。

ひとつ 気に なる ことが あります。玉ねぎは、どうして わざわざ なみだの もとを つくるのでしょう。ある ものしりの 人は、むしや びせいぶつから 身を まもる 役目が あるのかも しれない、と のべて います[3]。

足りない酵素を見つけたなら、それを止めたらどうなるか、が次の問いになります。

2008年の研究では、RNA干渉という方法でLFSの遺伝子の働きを抑えた玉ねぎを作りました。6株では、LFSの活性が大きく下がり、傷をつけても涙の成分が大きく減りました[6]。かわりに、中間の物質が別の硫黄の化合物に変わる量が増えました[6]。

ただし、数字の読み方には注意が必要です。報告されている「最大1544分の1」は酵素の活性の下がり方で、涙の量が1544分の1になったという意味ではありません[6]。

この方向の玉ねぎについて、ハウス食品は「スマイルボール」の名で2015年から青果として販売していると説明しています[4]。2013年には、この研究でイグ・ノーベル化学賞を受けました[4]。

さらに、専門家のひとりは、涙の成分は虫や微生物から玉ねぎを守る役目をもつかもしれない、と述べています[3]。

LFSを止めたら何が起きるか。Eadyらは、RNA干渉でLFSの発現を抑えた形質転換タマネギ(6株)を作り、傷つけたときの化合物を測った。LFSの活性は最大で1544分の1まで低下し、催涙成分の生成が大きく減った[6]。この「1544分の1」は酵素活性の低下幅であって、涙の量の低下ではない点に注意が要る。

注目すべきは、減った分の行き先である。LFSが使わなくなった1-プロペンスルフェン酸は、別の経路でジ-1-プロペニルチオスルフィネートなどの硫黄化合物に変わり、その量が増えた[6]。涙を減らすだけではなく、玉ねぎの中の化学のバランスが動いたことになる。

ハウス食品は、この方向の玉ねぎを「スマイルボール」の名で2015年から青果として販売していると説明している[4]。なお、既存の発表では品種や発表時期の説明が異なる場合があり、年号は同社の説明として読むのがよい。2013年には、イグ・ノーベル化学賞を受けた[4]。

残る問いは、涙のもとが玉ねぎにとって何なのか、である。研究者の1人は、酵素を持たない玉ねぎは虫や微生物に襲われやすいかもしれない、と述べた[3]。これは可能性の指摘で、風味への影響も含め、単純には言えない[3]。

涙は台所の困りごとだが、植物にとっては身を守るための仕掛けなのかもしれない。

6. 台所で、くらべっこを して みよう

6. ニンニクと玉ねぎで、「涙が出るか」を比べてみる

6. ニンニクと玉ねぎを切って、涙やにおいを比べる

おうちの 人に たのんで、玉ねぎと ニンニクを それぞれ きって もらいましょう。ほうちょうは、かならず おとなに つかって もらいます。

きった ときに、目に しみるか、においは どうかを くらべて、ノートに 書いて みて ください。どちらも アリイナーゼは もって いる はずなのに、おなじ ことに なるでしょうか。

この 小さな ちがいの うらに、2002年まで 知られて いなかった こうそが かくれて います。

家族に頼んで、玉ねぎとニンニクを切ってもらいましょう。包丁は大人に使ってもらいます。

目にしみるか、においはどうかを、2つ比べてみてください。アリイナーゼを持つ点では同じなのに、涙の出方は大きく違うはずです。その違いが、研究者たちがLFSにたどりついたきっかけでした。

切ったときの目のしみ方に加えて、においが立つまでの時間も比べると、記録が増えます。

ニンニクと玉ねぎを切ったとき、涙やにおいがどう違うかを比べて記録すると、アリイナーゼだけでは涙が決まらないという論理を、台所で追体験できる(包丁は大人に使ってもらう)。

目へのしみ方だけでなく、においが立つまでの時間も比べて記録すると、違いの手がかりが増える。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:ニュース記事、研究者の論文、会社の発表を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. FoodNavigator「An end to kitchen tears?」(2002年10月18日)。https://www.foodnavigator.com/Article/2002/10/18/An-end-to-kitchen-tears/ (2002年のLFSの報告)
  2. Scientific American ブログ「Ignobels 2013: The Tearless Onion」。https://www.scientificamerican.com/blog/scicurious-brain/ignobels-2013-the-tearless-onion/ (2002年より前の考え方)
  3. Science News の記事。https://www.sciencenews.org/?p=34770 (ニンニクとの比較、専門家の見方)
  4. ハウス食品グループ ニュースリリース(マイナビ農業掲載)。https://agri.mynavi.jp/prtimes/2025_03_07_302683/ (緑変の研究、スマイルボール、イグ・ノーベル賞)
  5. Improbable Research「Interview with the tearless onion inventors」(2015年)。https://improbable.com/2015/10/28/interview-with-the-tearless-onion-inventors/ (酵素が見落とされていたこと)
  6. Eady ほか「Silencing onion lachrymatory factor synthase causes a significant change in the sulfur secondary metabolite profile」Plant Physiology 147(2008年)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2492635 (2段階の反応、LFSを抑えた実験)

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