1. ワタを とる とき、なにを とって いるの?
1. ワタと種を取るとき、取っているのは何か
1. 白い芯の正体:胎座とは何か
ピーマンを たてに 切ると、中に 白い ワタと、たくさんの たねが 見えます。ごはんの とき、ワタを とる 人も いるでしょう。
この 白い ところの 名前は「たいざ」です[1]。たねが くっついて いる ところ、という いみです。
たいざは、花の「しぼう」という ふくろの 中に あります。ここに、あとで たねに なる「はいしゅ」が つきます。たねの ベッドの ような ところだと 思うと、わかりやすいです。
白い芯は「胎座」
ピーマンを縦に切ると、内側に白いワタがあり、そこに種がたくさんついています。このワタの正体は、胎座(たいざ)と呼ばれる部分です[1]。
胎座は、植物の子房(しぼう)の中で、のちに種になる胚珠(はいしゅ)がつく場所です[1]。ピーマンやトウガラシでは、種のついた白い芯のような部分がそれにあたります。つまり、種のベッドのような場所です。
名前は動物の「胎盤」に似ていますが
胎座は、動物の胎盤と似た名前です。ただ、栄養を送る役目まで同じとは限らないので、この記事では「種がつく場所」と書くにとどめます。
では、種がつくだけの場所なのでしょうか。じつはトウガラシでは、ここに別の役目があります。
ピーマンやトウガラシ(ナス科トウガラシ属)の果実を切ると、種子が付着した白い芯のような組織が見える。これが胎座である[1]。胎座とは、植物の子房の中で、のちに種子になる胚珠が接する部分を指す語である。
動物の胎盤と名前が似ているが、栄養を送る働きまで同じと断定できる資料は用意できていない。そのため本稿では、胎座を「種子がつく場所」として扱い、栄養供給の役目には踏みこまない。
では、種がつく場所というだけの組織が、なぜトウガラシの話で何度も登場するのか。それは辛味の作られる場所と深く関わるからである。
2. からさの「こうじょう」は、たねじゃ なかった
2. 辛さを作る場所は、種ではなく白い部分だった
2. カプサイシノイドの合成部位:種子ではなく隔壁の表皮
からい とうがらしを 食べて、たねが からい、と 感じた 人も いるかも しれません。でも、からさを つくって いる ところは、たねでは ないと いわれて います[2]。
からさの もとは「カプサイシノイド」と いう せいぶんです。これは、たねの まわりの 白い ところ(たいざと、その つづきの かべ)の ひょうめんで つくられます。たいざと かべは つながって いて、きれいには 分けにくいのです。
たねは、その 白い ところに さわって、からさが うつった だけだと 考えられて います[3]。
とうがらしを さわった 手で 目を さわると、あぶないので、さわった あとは 手を よく あらいましょう。
種が辛いわけではない
「トウガラシは種が一番辛い」と聞いたことがあるかもしれません。ところが、東京農業大学の論文の要旨では、辛味成分のカプサイシノイドは、果実の内部の隔壁(かくへき)という部分の表皮の細胞で作られ、細胞の外側にたまるとされています[2]。
隔壁は、胎座とつながって、実の内側を仕切っている組織です[3]。二つはつながっていて、どこまでが隔壁でどこからが胎座かは分けにくいため、「胎座・隔壁」とまとめて呼ばれることが多いようです。この記事では、やわらかく「白い部分」と書きます。
種に辛さが移る
では、種が辛く感じるのはなぜでしょうか。2007年に発表された研究では、辛いトウガラシの種に見つかったごく少量の辛味成分は、白い部分に触れて付いたものと説明されています[3]。
種はあくまで「辛さがうつる側」で、辛さが生まれるのは白い部分の表面です。この白い部分を、辛さの工場と呼んでもよさそうです。
それなら、その工場を動かす遺伝子も、白い部分で働いているのでしょうか。
トウガラシ属の辛味成分カプサイシノイドは、果実内部の隔壁の表皮細胞で合成され、表皮細胞とクチクラの間にたまると報告されている[2]。種子自体では合成されない。
この点は、Journal of Experimental Botanyに2007年に掲載された研究の要旨とも合う。そこでは、カプサイシノイドが辛い品種の果実の隔壁(interlocular septum)にだけ見つかるとされ、種子から検出された微量の成分は、胎座などに触れて付着した試料の汚染として説明されている[3]。つまり、「種が辛い」という感覚は、種に辛味が付着した結果だと読める。
ただし、この隔壁は、胎座を外側の果皮につなぐ組織である[3]。胎座と隔壁は連続しており、境界は分けにくい。そのため、辛味の合成部位を述べる文献では「胎座・隔壁」と並べて呼ぶことが多い。本稿もそれに従い、厳密な線引きはせず「白い部分(胎座とその続き)」と書く。
では、辛味を作る酵素の遺伝子は、実際にこの部位で働いているのか。
3. からさを つくる スイッチも、白い ところに あった
3. 辛さを作る遺伝子は、胎座で強く働くと報告された
3. pAMT遺伝子の発現部位:胎座で特異的に働く
2023ねん、京都大学の けんきゅうグループが、おもしろい ことを しめしました[4]。
からさを つくる ために 大切な「いでんし」が あります。からい とうがらしの 中で、この いでんしが 白い ところ(たいざ)で とくに はたらいて いた、というのです。この 白い ところは、たいざと その つづきの かべが つながった ぶぶんです。
いでんしは、体の 中の 「つくりかたの 本の 1ページ」の ような ものです。そのページが ひらかれる ところが、からさを つくる 白い ところでした。
ただし 本当は、ひとつの けんきゅうの けっかです。ほかにも しくみが あるかもしれません。
京都大学が2023年に示したこと
2023年12月、京都大学の研究グループは、カプサイシンを作るのに特化したpAMTという遺伝子が、カプサイシンの合成部位である胎座で、とくに強く働いていることを示したと発表しました[4]。
辛さを作るための遺伝子が、辛さの生まれる白い部分で強く働いていた、ということです。胎座と隔壁は分けにくくつながっているので、ここでも「胎座とその続き」を含めた白い部分として読みます。辛味成分がたまる場所を調べた研究と、遺伝子が働く場所を調べた研究は、どちらも胎座とその近くを指していたことになります。
ここまでで言えること
種が辛いのではなく、白い部分で辛さが作られる。この見方は、成分がたまる場所の研究と、遺伝子が働く場所の研究の両方から支えられています。ただし、これはトウガラシでの話です。
では、同じ白い部分をもつピーマンは、なぜ辛くならないのでしょうか。
京都大学のグループは2023年12月、カプサイシン合成に特化したpAMT遺伝子が、「カプサイシン合成部位である胎座で特異的に発現している」ことを示したと発表した[4]。
この結果は、前の章の化学的な知見と整合する。成分がたまる場所の解析(隔壁表皮での合成)と、遺伝子が働く場所の解析(胎座での発現)が、同じ白い部分とその続きを指しているからである。ただし、胎座と隔壁の境界は分けにくく、二つの研究が完全に同じ細胞を見ているとは限らない。ここでは、両者が近い領域を示した、という程度に読むのが安全である。
一つの研究結果を、すべてのトウガラシ類に当てはめることもできない。それでも、種子ではなく白い部分に辛味合成の場があるという点は、複数の方向から示されている。
残る問いは、辛さの工場を持つ仲間であるピーマンが、なぜ辛くないのかである。
4. ピーマンは、なぜ からくないの?
4. 辛くないピーマンは、工場を持っていないのか
4. 辛くない品種:辛味遺伝子の欠失・変異と、残る不確かさ
ピーマンも、とうがらしと 同じ なかまです。白い ワタも ちゃんと あります。それなのに、からくない のは どうしてでしょう。
ある けんきゅうでは、からくない ひんしゅには、からさを つくる いでんしが こわれて いたり、なくなって いたり する ものが ある、と 書かれて います[5]。
つまり、白い ところは ある けれど、からさを つくる 仕事を しない ようです。
ただし、これは しらべられた ひんしゅの はなしです。
辛味づくりに関わる遺伝子が働かない品種
辛くない品種を調べた研究では、辛味を作る遺伝子(Pun1)が欠けていたり、変化していたりする例が報告されています[5]。辛さの蓄積を決める場所にあたるPun1座では、大きく欠けたタイプが見つかっているそうです。
つまり、ピーマンは白い部分そのものをなくしたのではなく、白い部分で辛味を作る働きが起きない、と考えられます。
調べられた品種での話
ただし、これは研究された品種での報告です。市販のピーマン一つひとつが同じ仕組みで辛くないと言い切ることはできません。
辛くない品種にも、種がつく白い部分は残っています。
では、その白い部分は、台所ではどう扱われているのでしょうか。
辛味の生合成にかかわるPun1座は、カプサイシノイドの蓄積を決めており、研究された辛くない品種ではpun1型(大きな欠失)が報告されている[5]。つまり、辛くない果実でも胎座に当たる組織はあり、辛味を作る遺伝子の働きだけが失われている例がある、と整理できる。
ただし、これは研究された品種での報告であり、特定のピーマンの辛くなさをPun1の欠失と断定することはできない。本稿では「報告されている」程度の強さにとどめる。
ピーマンが辛くないのは、白い部分がないからではない。辛味を作る働きが起きないためだ。
辛さの工場が休んでいるだけなら、その白い部分は料理ではどう扱われているのか。
5. 白い ワタは、とって いいの? のこして いいの?
5. ワタは取るもの? 食べてもよいもの?
5. 台所での扱い:取る理由と、残す理由
りょうりでは、ワタを とる 人が 多いです。ワタが のこると、見た目と くちあたりが わるく なるからだ、と せつめいされて います[7]。
いっぽうで、ピーマンの たねと ワタは 食べられます。ワタには においの もとに なる せいぶんが 入っている、という しょうかいも あります[6]。
だから、のこして いためて 食べる 人も います。ただし、体に いいと 言いきる しりょうは ありません。
取る理由
料理の下処理では、ピーマンやパプリカの内側には縦にワタがついていて、残ると見た目と口あたりが悪くなるので取るとよい、と説明されることが多いです[7]。
残す理由
一方で、ピーマンの種とワタは食べられます。レシピ記事では、ワタには香り成分のピラジン、種にはカリウムやポリフェノールが含まれるとされ、取り除かずに食べると栄養をむだにせず、食品ロスも減らせると紹介されています[6]。ただし、健康への効果は「期待される」程度で、薬のように考えるものではありません。
この記事で見てきたこと
ワタは種のつく場所であること、トウガラシではそこが辛さの生まれる場所であること、辛くない品種にも種がつく白い部分は残っていること。この記事で見てきたのは、この三つです。
調理の現場では、ピーマンやパプリカの内側には縦方向にワタが付いており、残ると見た目と口あたりが悪くなるので取り除くよう勧められることが多い[7]。
これに対し、ワタには香り成分のピラジン、種にはカリウムやポリフェノールが含まれ、取り除かずに食べると栄養をむだなくとれて食品ロスも減る、という説明もある[6]。ただしこれはレシピ系の二次資料の記述である。健康効果は「期待される」程度に読むべきである。
白い部分が果実の中で何のためにあるのか、という進化的・生理的な理由は、この記事では「種のつく場所」以上には踏みこまない。
この記事で扱ったのは、胎座が種のつく場所であること、トウガラシではそこが辛味の合成の場であること、辛くない品種にも同じ組織が残ること、の三点である。
自分でも しらべて みよう
ワタのつく場所を、自分の目で確かめる
確かめられること、さらに読むなら
おうちの 人に、ピーマンを たてに 切って もらいましょう。ほうちょうは おとなが 使います。
切ったら、たねが どこに くっついて いるか 見て みましょう。白い ワタの どこに つながって いるでしょうか。
ワタを とった ピーマンと、のこした ピーマンを おとなに いためて もらい、食べくらべても いいです。あじや くちあたりは どう ちがうでしょう。
からい とうがらしは、手で さわると いたく なります。さわる ときは、おとなに 聞いて からに しましょう。
ピーマンを縦に半分に切って、種がどこについているかを見てみましょう。包丁は大人に使ってもらいます。種が、白い芯のどの部分につながっているかを観察すると、胎座の場所が実感できます。
ワタをつけたまま炒めた場合と、取った場合の口あたりを比べるのもよいでしょう(炒めるのは大人にやってもらいます)。
もっと知りたくなったら、京都大学の2023年12月の研究発表[4]が出発点になります。辛くない品種の仕組みについては、まだ分からないことが多そうです。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の参照番号と対応します。
- Wikipedia「胎座」 https://ja.wikipedia.org/wiki/胎座 (胎座の定義。出典の記載が不十分という注記あり)
- 杉山立志(東京農業大学)論文要旨 https://nodai.repo.nii.ac.jp/records/2000007 (辛味成分の合成部位)
- Journal of Experimental Botany 58(5), 2007 https://academic.oup.com/jxb/article/58/5/979/486285 (隔壁と胎座、種の辛味の説明)
- 京都大学 研究成果(2023年12月22日) https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-12-22-2 (pAMT遺伝子が胎座で働くこと)
- PMC4386094 Pun1がコードするタンパク質のカプサイシン合成酵素活性 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4386094/ (辛くない品種の遺伝子の欠失)
- 美的.com(門司紀子さんのレシピ記事) https://www.biteki.com/1899609/ (種とワタを食べる場合の紹介)
- 家電Watch「調理の下処理29」(2017年) https://kaden.watch.impress.co.jp/docs/column/precooking/1162681.html (ワタを取る理由)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
- 安全のための注意書きを直した(6章のピーマンを切る・炒める観察)。理由: 包丁と火を使う作業は、子どもではなく大人にやってもらうと分かるようにするため。
- 中学生向けの題名を、日常の疑問が先に来る形に見直した。
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