海の 上に 鳥が 集まる とき、下では 何が 起きて いる?

鳥が集まっているとき、水の中で何が起きているのか

鳥山・ナブラ・ベイトボール ── 海面で起きているひとつの事件

分野:海・釣り

船から 海を 見て いると、 とつぜん 鳥が 集まって くる ことが あります。

何十わも、ときには 百わ いじょうも。

鳴きながら ぐるぐる 回って、 つぎつぎに 海へ とびこんで いきます。

その 下の 水めんは、 ざわざわと わいて います。

あれは 何を して いるのでしょう。

じつは、水の 中で たいへんな ことが 起きて います。

船で海に出ていると、それまで何もなかった海面に、 急に鳥が集まってくることがあります。

何十羽、ときには百羽以上。鳴きながら旋回して、次々に水へ突っこんでいく。 その真下の海面は、雨が降っているみたいにざわざわと沸いています。

釣りをする人は、これを見つけると急に忙しくなります。 船の向きを変え、竿を持ち、そちらへ向かう。

鳥が騒いでいるだけなのに、なぜでしょう。

海の上のあの騒ぎには、鳥山ナブラベイトボール という 3つの呼び名があります。 じつはこの3つ、同じひとつのできごとを、別の場所から見た名前です。

海面に、突然鳥が集まる。何十羽が旋回し、次々に突っこむ。 真下の水面は泡立ったように沸き立っている。

この現象には、少なくとも3つの呼び名があります。 鳥山ナブラベイトボール

別々の言葉ですが、多くの場合、これらは同じ採餌と被食の連鎖のなかで 同時に起きています。 空から見るか、水面から見るか、水中から見るかで、呼び名が変わるということです。

この記事では、その事件を3つの視点から順に見ていきます。 追われる側の戦略、追う側の戦略、そしてそれを空から見つけている鳥の能力。 海面のわずか数分の出来事に、驚くほど多くのものが詰まっています。

読み方を切り替えられます。 画面の上にある「よみかた」のボタンで、小学校低学年むけ小学校高学年むけ中学生むけの 3つの書き方に切り替わります。むずかしいと思ったら、いつでもやさしい方に戻ってください。 選んだ読み方はブラウザが覚えているので、次に別の記事を開いたときも同じ読み方で始まります。

1. 3つの 名前は、同じ できごと

1. 鳥山、ナブラ、ベイトボール ── 見る場所がちがうだけ

1. 同じ事件の、3つの視点

海の 上の あの さわぎには、 3つの 名前が あります。

  • とりやま……空に 鳥が 集まって いる ようす。 鳥が 山のように 見えるから、そう よびます。
  • ナブラ……水めんが ざわざわ わいて いる ようす。
  • ベイトボール……水の 中で、 小さな 魚が 玉の ように なって いる ようす。

べつの できごとに 見えますね。

でも、たいていは 同じ ときに 起きて いる ことです。

見る ばしょが ちがうだけなのです。

  • 空を 見上げると → とりやま
  • 水めんを 見ると → ナブラ
  • もぐって 見ると → ベイトボール

ひとつの 大じけんを、 三かしょから 見て いる、と いう ことです。

まず、3つの言葉を整理します。

3つの言葉のちがい
言葉指しているものどこから見た姿か
鳥山(とりやま)海鳥が一か所に群がって騒いでいる状態空。遠くからでも見える
ナブラ追われた小魚が海面で逃げまどい、水面がざわつく状態海面。近づくと見える
ベイトボール小魚が球状に密集した群れ[1]おもに水中。水面近くまで来ていれば、上から見えることもある

別々の現象のようですが、多くの場合、これはひとつのできごとです。

何が起きているか

順番はこうです。

  1. 大きな魚(ブリやカツオなど)が、小魚の群れを見つける
  2. 小魚は逃げようとして、かたまり、球のようになる(=ベイトボール)
  3. 大きな魚は下から追い上げる。小魚は海面まで押しつけられる
  4. 海面が逃げまどう小魚でざわつく(=ナブラ)
  5. それを見た鳥が集まってくる(=鳥山)

つまり、鳥山は多くの場合、すでに始まっている食事に鳥が集まった結果です。 鳥が騒いでいるということは、その下でもう何かが起きている。

釣りをする人が鳥山を探すのは、そのためです。 鳥は、水中を見せてくれる看板になっているのです。

はじめに用語を整理します。3語は、多くの場合ひとつづきに起きる現象の、 異なる断面を指しています。

用語の対応
定義観測される層言葉の出どころ
鳥山海鳥が一か所に集中して採餌している状態空中〜海面上漁業・釣りの現場の語
ナブラ捕食者に追われた小魚が海面付近で逃げまどう状態海面漁業・釣りの現場の語
ベイトボール小魚などが捕食者から逃れるためにつくる球形の群れ[1]おもに水中(表層なら上からも)英語由来の外来語

ひとつの連鎖として読む

これらは因果でつながっています。

  1. 捕食者が群れを捕捉する(ブリ、カンパチ、カツオ、マグロなど)
  2. 被食者が密集する。個体が群れの内側へ向かおうとした結果、球状になる
  3. 捕食者が下方から追い上げる。逃げ場を減らすため、海面へ押しつける
  4. 海面が撹乱される(ナブラ)
  5. 海鳥が集まる(鳥山)。上からも攻撃が加わり、挟み撃ちになる

注目したいのは、鳥山が多くの場合いちばん最後に現れるという点です。 鳥が第一発見者であることもありますが、 目立つ形の鳥山になるのは、たいてい捕食が始まったあとです。

そして、この順序が実用上の意味を持ちます。 水中は見えませんが、鳥は空にいて遠くからでも見える。 見えないものの位置を、見えるものが教えている—— 漁業者や釣り人が鳥を探すのは、そのためです。

言い換えれば、鳥山は間接的な観測です。 暗黒物質の記事で、 見えないものをまわりのふるまいから見つけた話を書きましたが、 原理としては同じことを、漁師は昔からやってきたことになります。

2. 小さな 魚は、なぜ 玉に なるの?

2. なぜ小魚は、逃げずにかたまるのか

2. 密集という戦略 ── 希釈効果と混乱効果

おそわれた とき、 ばらばらに にげた ほうが いいと 思いませんか。

でも 小さな 魚は、ぎゃくの ことを します。

あつまって、玉に なるのです。

なぜでしょう。りゆうが 3つ あります。

その1 じぶんが えらばれにくく なる

もし 1ぴきで いたら、 おそわれるのは じぶんです。

でも、1000びきの 中に いたら どうでしょう。

じぶんが えらばれる ことは、 めったに ありません。

多いほど、あんぜんに なるのです。

その2 あいてが まよう

おなじ かたちの 魚が、 何千びきも きらきら 動いて います。

おそう ほうは、 「どれを ねらうか」が わからなく なって しまいます。

目が ちらちらして、 一ぴきに しぼれない。

その3 見はりの 目が ふえる

1ぴきだけなら、見えるのは じぶんの 目だけです。

でも 1000びき いれば、 たくさんの 目が まわりを 見はって います。

1ぴきが 気づいて 動くと、 その 動きが 波の ように つたわります。

だから 小さな 魚は、 にげずに あつまる。

こわいから かたまるのでは なく、 かたまった ほうが 生きのこれるからなのですね。

ふつうに考えると、おそわれたらバラバラに逃げたほうがよさそうです。 ところが小魚は逆をやります。集まって、球になる

これには、ちゃんとした理由が3つあります。

① 自分が選ばれる確率が下がる

1匹でいたら、おそわれるのは自分です。確率は1分の1。

けれど1000匹の群れにいたら、自分が食べられる確率はぐっと下がります。 群れが大きいほど、1匹あたりの危険は小さくなる。 これを きしゃくこうか(希釈効果)といいます。

「みんなでいれば安心」ではなく、 「数が多いほど、自分に当たりにくい」という、かなり冷たい理屈です。

② 相手が的をしぼれなくなる

同じ形、同じ大きさの魚が、何千匹もきらきら動いている。 追うほうは、どれをねらうか決められなくなります。

これを こんらんこうか(混乱効果)といいます。 目移りしているあいだに、群れは逃げていく。

イワシの体が銀色に光るのも、 個体を見分けにくくする一因になっているのかもしれません。

③ 見張りの目が増える

1匹だけなら、見えるのは自分の目だけ。 1000匹なら、2000個の目が四方を見張っていることになります。

そして、1匹が異変に気づいて動くと、その動きが波のように伝わります。 魚には そくせん(側線)という、 水の動きを感じるセンサーが体の横に走っていて、 となりの魚の動きを、目で見るのとは別の道で受け取れます。

目で見るより速い。だから群れ全体が、生きもののように一斉に向きを変えます。

球になるのは、恐怖で固まっているのではありません。 いちばん生き残りやすい形を選んでいる、ということです。

捕食されそうな状況で分散せず密集する。直感に反しますが、 これは統計的に合理的な行動です。

群れることの利点
効果内容はたらき方
希釈効果群れが大きいほど、個体が捕食される確率が下がるN匹の群れでは、自分が選ばれる確率はおよそ1/N
混乱効果同形の個体が高速で入り乱れ、捕食者が標的を定めにくくなる視覚的なノイズとして働く
多数の目探知にあたる感覚器の総数が増える1個体の発見が群れ全体に伝播する

球形になる理由

なぜ「球」なのか。個体の行動則から説明できます。

捕食者に襲われたとき、各個体は群れの内側へ移動しようとします。 外側にいるほど狙われやすいからです。 全員が同時に内側を目指せば、集団は最も密度の高い形、 すなわち球に近づいていきます。

つまりベイトボールは、統率された隊形ではありません。 個々の利己的な行動の結果として、自然にできあがる形です。 指揮官はいません。

情報はどう伝わるか

群れが一斉に向きを変えるとき、その伝達は視覚だけに頼っていません。

魚の体側には 側線 という感覚器官が走っており、 水圧や水流の変化を感知します。 隣接個体の動きが水流の変化としても伝わるため、 視覚だけに頼る場合よりすばやく反応できると考えられています。

個体はごく単純な規則 (近すぎたら離れる/隣と向きを合わせる/離れすぎたら近づく) にしたがっているだけですが、 集団としては複雑で滑らかな挙動が現れます。

中央の指令なしに、局所の規則だけで全体がまとまる。 インターネットの記事で見た 「全体を管理する者がいないのに、つながる」という構造と、 考え方はよく似ています。

ただし、万能ではない

密集は捕食者に対して有効ですが、代償もあります。

  • 密度が上がると、酸素や餌をめぐる競合が起きる
  • 群れごと発見されると、被害が集中する
  • 大型の捕食者にとっては、むしろ効率のよい獲物になる

実際、次の章で見るように、 捕食する側はこの「かたまる」性質を逆手に取っています。

3. おいかける ほうの さくせん

3. 追うほうも、ちゃんと考えている

3. 捕食側の戦略 ── 海面を壁として使う

こんどは、おいかける ほうを 見て みましょう。

大きな 魚は、 小さな 魚を 下から おいます。

よこや 上から おそう ことも ありますが、 ナブラに なる ときは、たいてい 下からです。

なぜだと 思いますか。

小さな 魚を、 水めんまで おいあげるためです。

水めんは、魚には かべです。 そこから 上には 行けません。

つまり、下から おうと、 魚の にげ場が どんどん なくなって いく。

これが ナブラの しょうたいです。

クジラの なかまには、 もっと すごい ことを する ものが います。

ぐるぐる 回りながら あわを はいて、 あわの かべを 作るのです[4]

にげ道を あわで ふさいで、 さいごに 下から 大きな 口を あけて とびだします。

どうぐを つかわずに、 あみを 作って いるようなものですね。

今度は、追うほうを見てみます。 ブリやカツオは、ただ突っこんでいるわけではありません。

海面は、魚にとって壁

大きな魚は、小魚を下から追います。横でも上でもなく、下から。

理由は単純です。水面より上へは、魚は逃げられないからです。

水の中は、上下左右どこへでも逃げられる空間です。 けれど海面だけは別で、そこから先には行けません。 海面は、魚にとって天井であり、壁なのです。

だから追うほうは、下から押し上げていく。 小魚は逃げ場を失い、水面ぎりぎりに押しつけられ、 その結果、水面が沸き立ちます。これがナブラです。

ナブラとは、逃げ場がなくなった小魚が作る模様だと言えます。

泡で網を作る

もっと手のこんだ狩りをする動物もいます。ザトウクジラです。

何頭かで小魚の群れの下に回りこみ(1頭で行う例も知られています)、 ぐるぐる旋回しながら泡を吐き出して、泡の壁を作ります[4]。 小魚は泡を嫌がって内側に集まり、逃げ道がなくなる。 最後に、参加している個体が下から大きな口を開けて浮上します。

道具を持たない動物が、その場で網を作っているようなものです。

上からも来る

そこへ鳥が加わります。海面に押しつけられた小魚は、 下から魚に、上から鳥に、同時にねらわれることになります。

群れて身を守るはずが、群れたせいで狙われている。 前の章の戦略が、ここでは裏目に出ているわけです。 どちらかが一方的に賢いのではなく、 追う側と逃げる側が、おたがいに手を打ちあっているのが分かります。

捕食側の行動を見ると、被食者の「密集」という性質を 前提にした戦術になっていることが分かります。

海面を境界として利用する

水中は3次元の空間で、被食者は原理的にどの方向へも逃げられます。 ところが海面は逃走不能な境界です。

そこで捕食者は、群れを下方から追い上げ、海面に押しつけます。 こうすると、逃走可能な方向が上半分ぶん失われます。

  • 被食者の自由度が3次元から実質的に減る
  • 群れの密度が上がり、捕食の効率が上がる
  • 海面付近に長時間とどまることになり、上空からも攻撃を受ける

ナブラとは、この「押しつけ」が海面に現れた痕跡です。 水面のざわつきは、逃走空間が失われていることの表示だと言えます。

協調的な狩り

さらに高度な例が、ザトウクジラの バブルネット・フィーディング です。

複数個体が群れの下方で旋回しながら泡を吐き、 泡の柱で囲いを作って魚群を閉じこめ、 最後に参加個体が口を開けて浮上する、という手順が知られています。複数個体で行う例が知られていますが、地域差があります[4]

注目すべき点がいくつかあります。

  • 物理的な道具ではないものを、道具として使っている(泡は壁ではないが、魚は避ける)
  • 複数個体の役割分担とタイミングの共有が必要になる
  • この行動は地域差があり、すべての個体群が行うわけではない

地域によって見られたり見られなかったりする行動は、 遺伝ではなく学習によって伝わっている可能性を示唆します。 動物の「文化」を考えるうえで、しばしば取り上げられる例です。

軍拡競争として見る

ここまでを整理すると、次のような対応関係が見えてきます。

追う側と逃げる側の対応
逃げる側追う側の対応
密集して個体を識別されにくくする群れごと囲い、まとめて捕らえる
三次元的に逃げる海面へ押しつけ、逃走方向を減らす
すばやく方向転換する複数個体で包囲し、退路を断つ

一方の対策が、他方の新しい戦術を生む。 こうした関係は、しばしば 軍拡競争 にたとえられます。 どちらかが正解にたどりついて終わる、ということが起きないのが特徴です。

4. 鳥は どうやって 見つけるの?

4. 鳥は、どうやってその場所を見つけるのか

4. 海鳥の探索 ── 視覚、におい、そして仲間

ここで、ふしぎな ことが あります。

海は とても 広いのに、 鳥は どうして その 場しょが わかるのでしょう。

りゆうは 3つ あると 言われて います。

その1 高い ところから 見る

鳥は 空に います。 高い ところからは、遠くまで 見えます。

水めんが 光ったり、ざわついたり すると、 遠くからでも 気づきます。

その2 においを かぐ

じつは、海の 鳥には においで さがすものが います。

海の においって、ありますね。 あの においは、 小さな 生きものが 出して いる ものです。

その においが 強い ところには、 えさが 多い。 クジラの けんきゅうでも、 そう いう ことが わかって います[3]

その3 なかまを 見る

一わが とびこむと、 それを 見た 鳥が とんで きます。

その 鳥を 見て、また べつの 鳥が 来る。

こうして、どんどん あつまるのです。

だから 鳥山は、 あっと いう まに 大きく なります。

ここで疑問がわきます。海はとても広い。 それなのに、鳥はなぜ「そこ」が分かるのでしょう。

① 上から見ている

いちばん分かりやすい理由です。鳥は空にいます。 高い場所からは、遠くまで見わたせます。

海面のざわつき、光の乱れ、水の色の変化。 船の上からは見えないものが、上空からは見えます。

② においをかいでいる

こちらは意外かもしれません。においで探している鳥がいるのです。

海の近くに行くと「磯のにおい」がします。 あれは、海にいる小さな生きものが出している成分のにおいです。

クジラを対象にした研究で、この成分の濃さと、 動物プランクトンの多さのあいだに関係があることが分かっています[3]。 においの濃いほうへ進めば、餌のある場所にたどりつける、ということです。

クジラを対象にした研究ですが、 においを頼りに餌場を探す海の動物は、ほかにも知られています。

③ 仲間を見ている

そして、いちばん速いのがこれです。

1羽が突っこむ。それを見た鳥が飛んでくる。 その鳥を見て、さらに遠くの鳥が来る。

鳥そのものが、次の鳥への合図になっているのです。 鳥山があっという間にふくらむのは、このためです。

どこまで飛ぶのか

海鳥の行動範囲は、想像よりずっと広いことが分かっています。

たとえばオオミズナギドリは、風の力を使ってあまり羽ばたかずに長距離を移動できます。 子育て中でも、岩手県の島(釜石市の三貫島や、山田町の船越大島)から北海道の釧路沖まで、 日帰りから最大2週間の「餌取り旅行」をすることが分かってきました[2]

釣り人が見つける鳥山の1羽は、 何百キロも旅をしてきた鳥かもしれない、ということです。

海洋は広大で、餌となる魚群は時間的にも空間的にも きわめて偏って分布します。 そのなかで海鳥がどうやって採餌場所を見つけているのかは、 研究の対象になってきました。

海鳥が採餌場所を見つける手がかり
手がかり内容有効な範囲
視覚海面の撹乱、色の変化、他個体の動き高度・天候・対象の規模に大きく左右される
嗅覚プランクトンの多い海域に由来する化学物質のにおいより広域。風向に依存する
社会的情報すでに採餌している他個体・他種の存在視認できる範囲。連鎖的に拡大する

においという手がかり

「磯の香り」の主成分のひとつが 硫化ジメチル(DMS) です。 これは海洋のプランクトンに由来する物質です。

熊本大学などの国際共同研究は、 海水・海洋大気中のDMS分布を動物プランクトンの分布とあわせて可視化し、 動物プランクトンの密度とDMS濃度のあいだに正の相関があることを示しました。 そして、クジラなどの海洋動物がDMSの濃度勾配を認識できれば、 餌の在処に到達できることを示しています[3]

この研究の対象はクジラですが、 においを手がかりに採餌海域を探す海洋動物は、ほかにも知られています。 海は無地に見えて、化学物質の濃淡でできた地図がある、 という見方ができます。

社会的情報という増幅

このうち、集まりを一気に大きくするのは、他個体の観察だと考えられます。

1個体の採餌行動が、視認可能な範囲の個体を引き寄せ、 その個体がさらに遠くの個体を引き寄せる。 情報が個体を媒介にして連鎖的に伝わるため、 鳥山は短時間で規模を拡大します。

これは、餌そのものの分布よりも速く情報が広がるということでもあります。 鳥山が短時間で膨らんで、また消えていくのも、 この性質と関係があると考えられます。

行動圏の広さ

海鳥の移動能力は、直感を超えます。

オオミズナギドリは風からエネルギーを得て、 ほとんど羽ばたかずに長距離を移動できます。 岩手県釜石市の三貫島や山田町の船越大島などを調査地とした繁殖期の追跡からは、これらの島の周辺から北海道の釧路沖まで、 日帰りから最大2週間におよぶ採餌旅行をすることが分かっています[2]

つまり、海面のひとつの鳥山は、 探索していた個体と、近くにいた個体が、 手がかりに反応して集まった結果だと言えます。

5. つりを する 人は、どう するの?

5. 鳥山を見つけた釣り人は、どうするのか

5. 現場の知識 ── 鳥山の読み方と、守られている約束

つりを する 人は、 鳥山を さがして います。

鳥が いる ところの 下には、 魚が いるからです。

でも、ちかづきかたが 大じです。

船で いきおいよく つっこむと、 どう なると 思いますか。

魚が にげて しまいます。

音や 波に おどろいて、 みんな 下に もぐって しまう。

せっかくの チャンスが なくなって しまうのです。

じぶんだけでは ありません。 ほかの 船の 人も こまります。

だから、 すこし はなれた ところで 止まって、 しずかに まつ

これが やくそくです。

海には せんが ないけれど、 みんなで まもる ルールは あるのですね。

鳥山は、釣り人にとって大きな手がかりです。 鳥がいる場所の下には、食べている魚がいる。

ただし、見つけたあとの行動については、 釣り人のあいだで言われている作法があります。

突っこむと、消える

船でまっすぐ突っこむと、たいてい失敗します。

  • エンジンの音と波で、魚が沈んでしまう
  • 鳥が散ってしまい、場所が分からなくなる
  • 近くの船にも迷惑がかかる

ナブラは長く続きません。数分で終わることもあります。 一度散らしてしまえば、そこで終わりです。

だから、離れて止める

手前で船を止め、そこから届く範囲を探る。 静かに近づき、進む先に投げる。

これは「上品にやろう」という話ではなく、 そのほうが結果が出るから続いている作法です。

陸からでも見える

鳥山は船だけのものではありません。 岸から見えることもあります。

  • 朝と夕方に多い
  • 潮の流れがぶつかるところ、堤防の先、岬のまわり
  • 鳥が同じ場所をぐるぐる回っていたら、その下を見る

鳥を見る目ができると、海の見え方が変わります。 何もない水面が、情報だらけの場所に見えてくるのです。

海での活動には危険がともないます。 ライフジャケットを必ず着ける、天気と波を確認する、 ひとりで行かない、立ち入り禁止の場所に入らない。 この記事は釣り方の手引きではありません。安全の判断は、必ず大人と一緒に。

鳥山とナブラは、漁業でも遊漁でも重要な指標として使われてきました。 ここでは、現場でどう扱われているかを整理します。

読み取れること

鳥の動きから読み取れること
鳥のようす推測されること
高いところを旋回している魚群を探している段階。まだ始まっていない可能性
低く飛び、次々に突っこむ捕食が進行中。魚が表層にいる
水面に浮かんで漂っているすでに終わったあと。食べ残しを拾っている

鳥の高度と行動から、事件の進行段階がある程度読めます。 「鳥がいる/いない」ではなく、何をしているかを見るのがポイントです。

接近の作法

ナブラは持続時間が短く、擾乱に弱い現象です。 船で直進して突入すれば、音と航跡波によって魚群は沈み、鳥は散ります。

そのため、手前で減速・停船し、届く範囲から探るのがよいと、釣り人のあいだではよく言われます。 法律で定められたものではなく、 共有される情報をめぐって自然にできてきた約束ごとだと言えます。

  • ナブラは誰のものでもなく、その場にいる全員が使える情報である
  • 先に散らした者が得をするわけではない(散れば全員が失う)
  • したがって「散らさない」ことが、全員にとって合理的になる

法律ではなく、繰り返し出会う関係のなかで成立している規範です。 共有資源をどう扱うかという問題は、 干潟の記事で扱った話とも通じます。

海上・海岸での活動には危険がともないます。 ライフジャケットの着用、気象・海象の確認、単独行動を避けること、 立入禁止区域に入らないことを守ってください。 この記事は釣法や航行の手引きではありません。 現場での判断は、経験のある人の指示に従ってください。

6. 鳥は 海を 見て いる

6. 鳥から見ると、海の変化が分かる

6. 海鳥を指標として使う ── 見えない海を、鳥ごしに見る

さいごに、少し べつの 話を します。

鳥は、えさを さがして 毎日 海を 見て まわって います。

人よりも、ずっと 広く。 ずっと 長い あいだ。

だから、 鳥を しらべると、海の ことが わかるのです。

こんな けんきゅうが あります。

鳥に 小さな きかいを つけて、 どこへ 行ったかを しらべました。

すると、その 鳥たちが えさを とる 場しょに、 プラスチックの ごみが うかんで いたことが わかりました[5]

鳥は、それを えさと まちがえて 食べて しまう ことが あります。

海の 上の あの さわぎは、 その ばしょで 生きものが つながって いる しるしです。

その しるしが、 これからも 見られると いいですね。

最後に、少し先の話をします。

海鳥は、餌を探して毎日海を見てまわっています。 人が船で行ける範囲より、ずっと広く、ずっと長い時間。

だから研究者は、鳥を通して海を見るという方法を使います。

鳥にカメラをつける

国立極地研究所などの研究グループは、 伊豆諸島の鳥島で繁殖するクロアシアホウドリに小型の記録装置をつけ、 どこを飛び、何を見ているかを調べました。

その結果、調べた13羽のうち9羽が、 海に浮かぶプラスチックごみや漁網などに遭遇していたことが分かっています[5]

海鳥のなかには、においを頼りに餌を探すものがいます。 海に漂うプラスチックには小さな生きものが付き、 餌のある場所に似たにおいを出すようになると考えられています。 そのため、餌とまちがえて食べてしまう。

嗅覚が優れているために、だまされてしまうわけです。

鳥山は、元気な海のしるし

鳥山が立つには、いろいろなものがそろっていなければなりません。

  • プランクトンが育っていること
  • それを食べる小魚がたくさんいること
  • 小魚を追う大きな魚がいること
  • それを見つけられる鳥がいること

どれかが欠けている場所では、あの光景はまず見られません。 鳥山は、その場所で海の食物連鎖が動いていることを示す、しるしのひとつなのです。

派手で分かりやすい現象ですが、 「にぎやかだ」という以上の意味があります。

海鳥は、人が直接観測しにくい海域を、日常的に広く移動しています。 この性質を利用して、海鳥を海洋環境の指標として使う研究が行われています。

バイオロギングという手法

動物に小型の記録装置を装着し、行動や周囲の環境を記録する方法を バイオロギング といいます。 日本の研究グループが強い分野のひとつです。

国立極地研究所などの研究では、 鳥島で繁殖するクロアシアホウドリに装置を装着し、 採餌海域での海洋ごみの分布を調査しました。 調査した13羽のうち9羽が、 発泡スチロールやプラスチック片、漁網などの海洋ごみに遭遇していたことが 報告されています[5]

嗅覚が裏目に出る

4章で見たとおり、海鳥の一部はにおいを手がかりに採餌します。

ところが、海中を漂うプラスチックの表面には微生物や小型生物が付着し、 餌場と同種のにおいを発するようになることが指摘されています。 結果として、嗅覚が優れているほど、誤食のリスクを負うという 逆説的な状況が生まれます。

これは、感覚器そのものの問題ではありません。 その感覚が前提としてきた環境のほうが変わったということです。 長い時間をかけて調整されてきた手がかりが、 短期間に導入された人工物によって無効化されている、と言えます。

鳥山は何の指標か

鳥山が成立するには、複数の階層が同時に機能している必要があります。

鳥山が成立する条件
階層必要なこと
基礎生産栄養塩と光があり、植物プランクトンが増えている
動物プランクトンそれを食べる層が育っている
小型魚類群れを作れるだけの資源量がある
大型魚類追い上げる捕食者が回遊している
海鳥その海域まで採餌に来られる個体群がある

どこかひとつが欠けても、あの光景は現れません。 鳥山は、その場所で食物網が上から下までつながっていることが、 目に見える形になったものだと言えます。

派手で一時的な現象に見えますが、 その背後には長い連鎖があり、 数分で消える光景が、海全体の状態を映していることになります。

7. じぶんでも 見て みる

7. 自分でも調べてみたくなったら

7. 自分で確かめる ── 観察の始め方

海に 行く きかいが あったら、 こんな ことを して みて ください。

  • 鳥を 数えて みる。 海に いる 鳥は、なんしゅるい いますか。 大きさ、色、とび方が ちがいます。
  • とびこみ方を 見る。 上から まっすぐ つっこむ 鳥と、 うかんだ まま 首を 入れる 鳥が います。
  • 水めんを じっと 見る。 ざわざわして いる ところは ありませんか。
  • 水ぞくかんで むれを 見る。 イワシの 大きな 水そうが ある ところが あります。 全員が 同じ 方に むく ようすを 見て ください。

海に 行けない ときは、 水ぞくかんが おすすめです。

この記事の内容は、実物で確かめられます。

  • 海鳥を見分ける。ウミネコ、カモメ、ミズナギドリ、カツオドリ。 大きさ、翼の形、飛び方がちがいます。図鑑を1冊持つと世界が変わります。
  • 捕り方を見る。上空から突っこむ鳥、水面から首だけ入れる鳥、 潜って追う鳥。同じ「魚を食べる鳥」でも方法が違います。
  • 水族館でイワシの群れを見る。 大きな水槽で群泳を見せている施設があります。 先頭がいないのに、全体が一斉に向きを変えるのを、 自分の目で確認できます。
  • ナブラを探す。朝夕、潮のぶつかるところ、堤防の先。 見つけたら、鳥の高さと動きを観察してみてください。

関連する記事

観察と記録から始められる分野です。特別な装備は要りません。

やってみる

  1. 種を同定する:観察できた海鳥を図鑑で調べ、 種ごとに採餌方法(急降下、表面つつき、潜水追跡)を分類する
  2. 時刻と場所を記録する:鳥山を見た日時・場所・潮汐・風向を残す。 数回ぶん貯まると、条件の傾向が見えてくる
  3. 群泳を観察する:水族館で、群れの向きが変わる瞬間を見る。 伝播が「先頭から」ではなく「どこからでも」始まることが分かる
  4. 持続時間を測る:ナブラが立ってから消えるまでの時間を計る。 現象の時間スケールが体感できる

調べる入口

考えてみると面白いこと

  • 指揮官のいない集団が、なぜ統一された動きをするのか。 必要な規則は最小でいくつか
  • においを手がかりにする戦略の、利点と弱点は何か
  • ナブラのような「誰のものでもない情報」を、 人はどうやって分けあってきたのか

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

この記事は、下にあげた公開情報をもとに書いています。文章や図を無断で転載してはいません。用語の定義など、短く引用した部分は、どこから引いたかを示しています。 生きものの行動には個体差・地域差があり、研究が進むにつれて説明が変わることもあります。 リンク先の内容や、リンク先で起きたことについて、当サイトは責任を負いません。

  1. コトバンク(デジタル大辞泉/小学館) 「ベイトボール」 (小魚などが捕食者から逃れるためにつくる球形の群れ、という定義)
  2. 東京大学大気海洋研究所 国際沿岸海洋研究センター 「オオミズナギドリ」 (風を利用した長距離移動、調査地である岩手県釜石市の三貫島・山田町の船越大島、島の周辺から釧路沖までの日帰りから最大2週間の採餌旅行)
  3. 熊本大学(2021年2月1日) 「磯の香りをたどればクジラは餌の在処にたどり着く」 (動物プランクトンの密度と硫化ジメチル濃度の正の相関。熊本大学大学院先端科学研究部ほかによる国際共同研究、Communications Biology 4 (2021))
  4. ナショナル ジオグラフィック日本版 「バブルネット・フィーディング」 (ザトウクジラが泡で魚群を囲いこむ採餌行動)
  5. 国立極地研究所(2021年7月9日) 「海鳥の目線で海洋ゴミの分布とアホウドリへの影響を調査」 (鳥島のクロアシアホウドリ13羽のうち9羽が海洋ごみに遭遇していたこと)

「鳥山」「ナブラ」は、漁業や釣りの現場で使われてきた言葉です。 辞書や学術用語として厳密に定義されたものではないため、 この記事では現場での使われ方にもとづいて説明しています。 地域によって指す範囲が少し違うことがあります。

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