1. なぜ V字に なると いいの?
1. 前の鳥がつくる「上向きの流れ」
1. 上昇流(アップウォッシュ)仮説
とりが つばさを うごかすと、うしろの 空気には、上や下に むかう ながれが できます。ななめ うしろを とぶ とりは、その ながれのうち、上に むかう ぶぶんに のれる かも しれません。
うみの なみに のって、すべる ような ものです。ただし、空気は 目に 見えないし、なみとは ちがう ところも あります。
これが、V字に なる 理由だと、ながい あいだ 考えられて きました[1]。でも、ほんとうに そうなのかは、たしかめる のが むずかしかったのです。
鳥が翼を動かすと、その周りの空気が動きます。前を飛ぶ鳥の斜め後ろには、空気が上向きに流れる場所ができ、そこを飛べば持ち上げてもらえる、というのが定番の考え方です[1]。
これはあくまでたとえ話で、波に乗るサーファーに少し似ています。ただし空気は見えませんし、羽ばたく翼のまわりの流れは、波よりずっと複雑です。
この「上昇流を使う」という説明は広く信じられてきましたが、空気力学として確かな裏づけは長く得られていませんでした[1]。
前の鳥の翼の後ろには、翼端から巻き上がる渦のため、斜め後方に上昇流(upwash)の領域ができ、真後ろには下降流(downwash)ができる。斜め後ろの鳥がこの上昇流に入れば、揚力を得る分だけ自分の羽ばたきを減らせる、というのがV字編隊の省エネ仮説である。
これは広く信じられてきた考えだが、Portugalら(2014)の論文は、その確かな説明は長く得られなかったと述べている[1]。1970年にはLissamanとShollenbergerが、翼端をそろえた約25羽以上の編隊なら、揚力に必要な動力が約2.9分の1になり、飛べる距離が約70%延びると計算した。ただし、羽ばたく鳥を固定翼機のように扱い、羽ばたきのタイミングは無関係とした理論値であり、実測ではない[6]。
2. ペリカンの 心ぞうで しらべた
2. 心拍で測った、最初の実証
2. 心拍数によるモモイロペリカンの測定(2001)
2001ねん、しらべた 人たちは、ペリカンに V字で とぶ くんれんを させました。そして、心ぞうが うつ かずを はかりました。
心ぞうの うつ かずは、からだが つかう エネルギーの めやすです。V字で とぶと、心ぞうの うつ かずが へり、らくに とべる ことが しめされました[2]。
どのくらい らくかは、しらべ方や しょうかいする 人で かずが すこし ちがいます。「1わりくらい」と 考えて おくと よさそうです[7]。
3. はばたく タイミングまで あわせて いる?
3. 羽ばたきのタイミングまで合わせていた
3. 翼端軌跡のコヒーレンス(2014)
2014ねん、ホオアカトキと いう とりの むれが しらべられました。この とりたちは、人が うんてんする ひこうきに ついて、わたる くんれんを うけて いました[1]。
V字の なかの とりは、つばさの さきの うごきが、前の とりと そろう ように、はばたいて いました。上に むかう ながれを、はばたく たびに もらえる ように、です[1]。
ふしぎな ことに、まうしろに いる とりは、はばたきを、わざと ずらして いました。前の とりが つくる、下に むかう ながれを、さける ためかも しれません[1]。
とりが 空気の ながれを 感じて いるか、あらかじめ 考えて いるように 見える、と 研究した 人たちは 書いて います[1]。
2014年、Portugalらは、人が操縦する超軽量機の後について渡るよう訓練されたホオアカトキの群れを調べました。V字の中の鳥は、理論から予想される位置にいて、翼の先が描く軌跡が前の鳥とそろうように羽ばたいていました。上昇流を羽ばたきの1周期ぶんずっと受けとめられるようにしているらしい、と報告されています[1]。
意外なのは、真後ろを飛ぶ鳥です。この鳥は羽ばたきを前の鳥と逆のタイミングにずらしていて、前の鳥の下降流による悪い影響を減らしているのかもしれない、と述べられています[1]。
論文は、鳥が近くの仲間の翼がつくる空気の乱れを、感じ取るか予測しているようだ、と結論しています。これまで複雑すぎて鳥にはできないと思われていたことを、やっているように見える、という控えめな言い方です[1]。鳥が計算している、と決まったわけではありません。
Portugalら(2014, Nature)は、ヒトが操縦する超軽量機に続く渡りの訓練を受けたホオアカトキ(Geronticus eremita)の群れを調べた。V字の位置にいる個体は、理論予測に合う位置を取り、翼端の軌跡が前の個体と揃うように同位相で羽ばたく(wingtip path coherence)。これにより上昇流を羽ばたきの全周期で最大限利用できるという。真後ろの個体は翼端軌跡の一致がなく逆位相で、下降流の悪影響を減らしている可能性がある[1]。
この論文は、こうした複雑な仕組みが、近くの個体の航跡構造への気づきと、それを感じ取るか予測する能力を示すと結論する[1]。「気づき(awareness)」は示唆であり、鳥が計算していると断定する根拠ではない。なお、個体数は報道では14羽とされるが、要旨で確認していないため、ここでは数を示さない。
この結果は、羽ばたきのタイミングが編隊を左右する要因だと示し、1970年の理論の前提を修正した[6]。
4. せんとうは じゅんばんこ
4. 先頭は、順番に交代する
4. 先頭位置の交代と直接互恵(2015)
いちばん 前の とりは、空気の ながれを もらえません。つかれそうです。それでは、ずっと おなじ とりが 前なのでしょうか。
2015ねん、人に みちびかれて わたる わかい ホオアカトキが しらべられました。先頭で とぶ 時間が ながい とりは、ほかの とりの うしろで とぶ 時間も ながい ことが わかりました[3]。
ペアに なった とりどうしで、なんども 先頭を こうたい して、時間を つりあわせて いたのです[3]。じゅんばんこ、と いえそうです。
先頭の鳥は、前の鳥のつくる流れを使えません。それなら、誰かが損をする仕組みなのでしょうか。
2015年、Voelklらは、人に導かれて渡る若いホオアカトキを調べました。先頭を飛んだ時間が長い鳥ほど、ほかの鳥の後ろで飛べた時間も長い、という関係が見つかりました[3]。
鳥どうしがペアで先頭を頻繁に入れ替えることで、この釣り合いを取っていると考えられています。論文は「順番こ」(直接互恵)の可能性を示唆しています[3]。ただし、鳥が意図して助け合っているとか、計算しているとまでは、言えません。
Voelklら(2015, PNAS)は、ヒトに導かれて渡る若いホオアカトキの群れを調べ、個体が先頭で飛ぶ時間の長さが、他個体の航跡内で利益を得られる時間の長さと相関することを示した。個体は、ペアどうしでの先頭位置の頻繁な交代によってこれを釣り合わせており、順番に先頭を務める互恵的な関係(direct reciprocity)が示唆される[3]。
「協力している」は著者の示唆であり、意図や計算を伴うとは断定されていない。
5. はかって みたら、ちいさかった
5. 実際に測ると、得は小さめだった
5. 航跡内飛行の測定値(2024)
2024ねん、わたりの とちゅうの ホオアカトキに、くわしい 記ろく そうちを つけた けんきゅうが ありました。ほかの とりの うしろを とぶと、はばたきが へり、心ぞうの かずが さがりました[4]。
でも、さがった はばは、いちばん 大きい ときで 4.2パーセントでした。ペリカンの けんきゅうとは、しらべた じょうけんが ちがうので、かずを そのまま くらべる ことは できません[4]。
この けんきゅうの だいめいは、「ちいさな しょうエネ」でした。それでも、ながい わたりの あいだ つづけば、やくに たつ のかも しれません。
2024年、Perinotらは、渡りの最中のホオアカトキに高精度の位置記録計をつけ、羽ばたきの強さや回数、心拍数を調べました。ほかの鳥の後ろ(航跡の中)を飛んでいるときは、体の動きの強さ(DBA)と、実質の羽ばたき回数が減りました。心拍数も、最大で4.2%下がっていました[4]。
4.2%は「最大」の値で、平均ではありません。論文の題名も「小さな省エネ」です。ペリカンの研究とは鳥も飛び方も条件も違うので、数字を単純に比べることはできません[4]。
とはいえ、何日も飛び続ける渡りでは、小さな差でも積み重なるかもしれません。長い渡りでどれほど役立つかは、まだ分かっていません。
Perinotら(2024, Proc. R. Soc. B)は、渡り中のホオアカトキに高精度GNSS記録計を装着し、他個体の航跡内を飛ぶ場合に、動的身体加速度(DBA、羽ばたきの強さの目安)・実効羽ばたき頻度・心拍数が下がることを示した。心拍数の低下は最大4.2%で[4]、論文題も「小さな省エネ」である。
最大値であり平均ではない点に注意がいる。ペリカンは大型の鳥・人による訓練飛行、ホオアカトキは自然に近い渡りと、条件が異なるため、数字の差を種の優劣や1つの真値に読み替えてはいけない。
6. ハトの むれでは、どうかな
6. ハトは、群れで飛ぶと羽ばたきが増えた
6. 群れの形と鳥の大きさ ── V字が成り立つ条件
V字に ならない むれも あります。2011ねんには、ハトの むれが しらべられました。ハトは、ほかの 鳥の ちかくを、とくに うしろを とぶと、はばたきの かずが ふえました[5]。
ペリカンの ように 空気の 力で 楽に なる わけでは なく、かえって 力を つかうかも しれません。V字は、大きな とりが、ほぼ おなじ とび方を する ときの、とくべつな ばあいかも しれない、と ろんぶんは 書いて います[5]。
小さな とりでは、前の とりの ながれが すぐ 弱く なる かも しれない、と 話す 研究者も います[7]。まだ わからない ことが 多い 話です。
2011年、Usherwoodらは、ハトのぎゅっと集まった群れ(V字ではありません)を調べました。ほかの鳥の近く、とくに後ろを飛ぶと、羽ばたきの回数が増えました。ペリカンのような空気力学的な得はなく、むしろ費用がかかっているかもしれない、と報告されています[5]。
論文は、V字は大型の鳥が、ほぼ一定の飛び方をするときに成り立つ特別な場合かもしれない、と述べています[5]。
鳥の大きさの違いを指摘する研究者もいます。航跡の上昇流は大きな鳥のほうが長続きし、小さな鳥では早く弱まるかもしれない、という見方です。ただし、これは一人の研究者の見解を紹介した記事にあるもので、確立した結論ではありません[7]。
「V字にすれば必ず楽になる」とは言えないようです。
Usherwoodら(2011, Nature)は、ハトの密集した群れ(V字ではない)で、他個体の近く、とくに後ろを飛ぶと羽ばたき頻度が増えることを報告した。ペリカンのような空気力学的な利益はなく、密集群での飛行にはむしろ相当なエネルギー費用がかかる可能性がある、という[5]。論文は、V字が大型の鳥でほぼ定常の飛行という特別な場合に成り立つのかもしれないと述べる。
鳥の大きさへの依存については、Bret Tobalskeの見方がAudubon誌に紹介されており、航跡の上昇流は大型の鳥ほど持続し、小型の鳥では早く減衰しうるという[7]。二次資料であり、確立した結論ではない。省エネ以外の理由(視界の確保、群れの連絡など)も考えられているが、今回は一次資料で確かめていないので、ここでは扱わない。
7. そらを 見あげて みよう
7. 自分でも調べてみたくなったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
V字や、ならんで とぶ 鳥の むれを 見つけたら、先頭の 鳥が かわるかどうか、見て みましょう。安全な ばしょから、見える あいだ 列の 形を 見て みましょう。先頭が こうたい するとは かぎりません。
太陽を 見つめたり、道路に 出たり しないよう、気を つけて ください。
もっと 知りたい 人は、としょかんで 鳥の とび方の 本を さがして みましょう。
V字や斜めの列の群れを見つけたら、先頭の鳥が入れ替わるか、列の形が変わるかを、しばらく目で追ってみてください。この記事の研究は、ホオアカトキやペリカンのような大型の鳥が中心なので、身近な鳥でも同じことが起きるとは限りません。見えなくても、それも観察の結果です。太陽を直接見たり、道路に出たりしないよう気をつけてください。
調べるなら、Portugalらの論文[1]とVoelklらの論文[3]の要旨は、順番こや羽ばたきの話を知る入り口です。また、家にある紙に、見かけた鳥の列の形や先頭の交代を描いて記録し、日をかえて見た列と比べてみるのもおすすめです。
手軽な確かめとして、V字や斜め列で飛ぶ群れを見つけ、先頭個体が入れ替わるか、列の形が変わるかを記録できる。この記事の数値は、ペリカンやホオアカトキのような大型鳥の研究であり、身近な鳥に当てはまるかは観察しないと分からない。太陽を直接見たり、道路に出たりしないよう注意する。
日本語でできる確かめとして、家にある紙に列の形を描き、日や場所ごとに比べる方法もある。資料案内として、原典は Portugal et al., Nature(2014)[1]、Weimerskirch et al., Nature(2001)[2]、Voelkl et al., PNAS(2015)[3]、Perinot et al., Proc. R. Soc. B(2024)[4]、Usherwood et al., Nature(2011)[5]の要旨が読める。1970年の理論の位置づけは、J Exp Biol(2016)の解説がまとまっている[6]。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った事実の出どころ。論文は要旨(PubMed・PMC・Nature・PNAS)で確認し、本文は確認できていない。Audubon誌と J Exp Biol の解説は二次資料。
- Portugal et al. "Upwash exploitation and downwash avoidance by flap phasing in ibis formation flight" Nature (2014) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24429637/ (上昇流・羽ばたきの位相・気づきの結論)
- Weimerskirch et al. "Energy saving in flight formation" Nature (2001) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11607019/ (ペリカンの心拍数による測定)
- Voelkl et al. "Matching times of leading and following suggest cooperation through direct reciprocity during V-formation flight in ibis" PNAS (2015) https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1413589112 (先頭の交代)
- Perinot et al. ホオアカトキの航跡内飛行の測定(題は「小さな省エネ」の趣旨) Proc. R. Soc. B (2024) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11387054/ (航跡内飛行での心拍数の低下)
- Usherwood et al. "Flying in a flock comes at a cost in pigeons" Nature (2011) https://www.nature.com/articles/nature10164 (ハトの群れ)
- "Lissaman, Shollenberger and formation flight in birds" J Exp Biol 219(18) (2016) https://journals.biologists.com/jeb/article/219/18/2778/15470/Lissaman-Shollenberger-and-formation-flight-in (1970年の理論と研究の流れ)
- Audubon Magazine "Why Birds Fly in V Formation" https://www.audubon.org/magazine/why-birds-fly-v-formation-migration-science (省エネの数字の紹介・鳥の大きさの見方)
なおした ところ
更新履歴
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