1. ぶどうの しろい こなと、きゅうりの こなは おなじ もの?
1. ブドウの白い粉と、キュウリの白い粉は同じものなのか
1. ブドウの果粉とキュウリのブルームは、同じ物質なのか
ぶどうの かわに ついている しろい こなを、ゆびで ふいた ことは ありませんか。あれは「かふん」とか「ブルーム」と よばれます。
ぶどうの こなは、あぶらの なかまの 「しぼうさん」などで できた、もともとの せいぶんです。あめや あさつゆを はじいて、びょうきを ふせぎます。みずが にげるのも ふせいで、ぶどうを ながもちさせます[3]。
きゅうりにも、しろい こなが つく ことが あります。こちらも「ブルーム」と よばれます。でも、ぶどうの こなと なかみは べつです。
では、きゅうりの こなは、なにで できているのでしょう。
ブドウの皮にうっすらつく白い粉は、「果粉」またはブルームと呼ばれます。農林水産省の紹介によると、脂肪酸などでできた天然の成分で、雨や朝露をはじいて病気を防ぎ、水分が逃げるのを抑えて鮮度を保つ働きがあります[3]。ブドウが自分で作って、自分を守るために表面に出しているわけです。
キュウリの白い粉にも、同じ「ブルーム」という名前がついています。見た目は似ていますが、ブドウの粉とは中身が別だと説明されています。キュウリの粉は、いったい何でできているのでしょうか。
ブドウの果皮に浮く白い粉は「果粉」、あるいはブルームと呼ばれる。農林水産省の紹介では、脂肪酸などでできた天然成分で、雨や朝露をはじいて病気を防ぎ、水分の蒸発を抑えて鮮度を保つ役目がある[3]。
キュウリの白い粉も同じくブルームと呼ばれるが、成分は脂肪酸系ではない。名前が同じなので同じ物質のように聞こえるが、共通するのは「果実の表面に粉のように出る」という見た目だけである。ではキュウリのブルームは何でできているのか、次の章で成分から確かめる。
2. きゅうりの こなの なかみは、いわや すなの なかま?
2. キュウリの粉の中身は、岩や砂にも含まれるケイ素だった
2. キュウリのブルームの主成分はシリカ:腺毛にケイ素がたまる
きゅうりの こなの おもな なかみは、「ケイそ」という ものです。ケイそを ふくむ「シリカ」は、いわや すなにも はいっています[1]。
ぶどうの こなは、あぶらの なかま。きゅうりの こなは、いしの なかま。なまえは おなじでも、ぜんぜん ちがいます。
ケイそは、きゅうりの ねっこが つちから すいあげます。そして、みの ひょうめんに ある ほそい けから でて、しろい こなに なると、けんきゅうで せつめいされています[7]。
この こなは、きゅうりに もともと ある ぶっしつが でているだけで、からだに わるい ものでは ありません[4]。きゅうりに もともと ある ものです。
岡山大学の研究グループは、キュウリの実の表面の白い粉の主成分が、シリカ(SiO2)だと紹介しています[1]。シリカは砂や石の主要な成分でもあります。栃木県の試験場の報告も、過去の分析で、粉の無機成分の中ではケイ酸が主要だったと伝えています[2]。ケイ酸だけでできているとまでは書かれていないので、ここでは「主成分」にとどめます。
では、そのケイ素はどこから来るのでしょうか。植物の根が土から吸ったケイ酸が、実の表面にある腺毛と呼ばれる細かい毛の部分にたまり、粉のように出てくると、2025年の論文は報告しています[7]。
この粉は、キュウリにもともとある物質が表面に出ているだけで、危険性はないと説明されています[4]。
ここまで分かると、不思議なことが残ります。土から吸ったものが粉になるのなら、「吸わせない」ようにすれば、粉のないキュウリができるはずです。
岡山大学のプレスリリースは、ブルームの主成分がシリカ(SiO2)であるとしている[1]。栃木県農業試験場の報告(1991)も、先行研究の無機成分分析で、組成のうちケイ酸が主要だったと紹介する[2]。ただし、どちらも「ケイ酸のみ」とは述べていないため、本稿でも「主成分」に限定する。なお、シリカは砂や石の主成分でもあり、ブドウの脂肪酸系の粉とは、物質の種類として別のものだ。
ケイ素の由来については、2025年の論文(Xia et al.、BEC1の研究)が、根から吸収されたケイ素が実の表面の腺毛に沈着してブルームになると報告している[7]。
安全性については、農業情報サイトが種苗会社の説明を引いて、キュウリに存在する物質が表面に出ているだけで危険性はないと説明している[4]。
粉の材料が根から吸ったケイ酸なら、根がケイ酸を吸えなければ粉は出ないはずである。この予想を実際に確かめたのが、次の章の研究だ。
3. ピカピカの きゅうりは、どうやって つくるの?
3. 粉のないキュウリは、根を別のカボチャに替えて作る
3. ブルームレスの鍵は台木にある:輸送体の変異で、ケイ酸が吸えない
ぴかぴかで、こなの ない きゅうりを「ブルームレス」と いいます。ひかりが あって、人気が あります[1]。
おどろくのは、つくりかたです。きゅうりの たねを かえるのでは ありません。ある かぼちゃの 根の うえに、きゅうりを つぎます。この ことを「つぎき」と いい、した の かぼちゃを「だいぎ」と いいます。
この かぼちゃは、ケイそを ほとんど すえません。ケイそが こなければ、きゅうりの みの うえに しろい こなも でません[1]。
つまり、ピカピカの ひみつは、みでは なく、つちの したの 根に あったのです。
ブルームのないキュウリ(ブルームレス)は、光沢があるので消費者に人気があります。この種類は、ある特殊なカボチャを台木にして作られます。台木とは、接ぎ木をするときに根になる側の植物のことです。このカボチャの仲間は、土からのケイ酸の吸収が少ないという性質をもっています[1]。
岡山大学の研究によると、この台木のカボチャでは、根にケイ酸を取りこむはたらきをするタンパク質(輸送体)の、242番目のアミノ酸が変わっていました。そのせいで、タンパク質が細胞の膜まで運ばれず、土からケイ酸をほとんど吸えなくなります。その上に接ぎ木したキュウリは、ケイ酸が届かず、ピカピカの実になるといいます[1]。
変化が見つかったのは、キュウリではなく台木のカボチャです。実の見た目に関係していたのは、根でケイ酸を取りこむしくみでした。
こうして、粉のないキュウリは作れるようになりました。では、なぜ、そこまでして粉のないキュウリを作るようになったのでしょうか。
ブルームレスキュウリは光沢があり、消費者に人気がある。作り方は、ある特殊なカボチャ品種を台木にして接ぎ木することで、これらのカボチャ品種はケイ酸の吸収が少ない[1]。
岡山大学の研究(Plant Journal発表)は、その原因を突き止めた。台木カボチャでは、根にケイ酸を取りこむ輸送体の242番目のアミノ酸が変異しており、変異した輸送体は細胞膜に運ばれない。その結果、土壌からケイ酸を吸収できず、接いだキュウリには粉の材料が届かないため、実がピカピカになる[1]。変化しているのはキュウリではなく、台木のカボチャである点に注意したい。
この仕組みは、因果の順にすると、①輸送体の変異→②ケイ酸の吸収低下→③実へのケイ素の供給減→④ブルームが出ない、となる。「粉の材料は根から来る」という前章の推定と、きちんとつながる結果だ。
では、手間のかかる接ぎ木までして、粉のないキュウリを作り続けてきた理由は何か。次の章で確かめる。
4. どうして こなの ない きゅうりが ふえたの?
4. 店先で粉のないキュウリが主流になったのはなぜか
4. ブルームレスが市場の主流になった理由:見た目と日持ちの評価
2019ねんの きじでは、おみせで みる きゅうりの 9わりほどが、こなの ない ブルームレスだと されています[4]。
りゆうは いくつか あります。ひとつは、みためが よい こと。ひかって、おいしそうに みえます。もうひとつは、ながもちする こと[5]。
3つめは、おもしろい はなしです。しろい こなが、のうやくの のこりに みえて しまう ことが あるのです[4]。ほんとうは、からだに わるい こなでは ありません。
ブルームレスが 広がった のは、その きじの 30ねんほど まえからと いわれます[4]。
ブルームのないキュウリが主流になったのは、2019年の時点から見て約30年前からだと、種苗会社の説明を引いた記事は伝えています。理由は、ブルームが残留農薬のように見えてしまうこと、店先で見栄えがよいこと、日持ちがよいことなどです。2019年の記事では、市場に出回るキュウリの約9割がブルームレスだとされています[4]。農畜産業振興機構の資料にも、日持ちがよく見た目がよいことから、ブルームレスが主流になったとあります[5]。
栃木県の試験場の1991年の報告では、ブルームをほとんど出さない台木用のカボチャが育てられ、ブルームの少ないキュウリが作りやすくなっていました。市場での評価が高く、生産者が年間を通してブルームレスを作る状況になっていた、と報告されています[2]。
ただし、この報告から「1991年にはブルームレスが広く出回っていた」と読むのは行きすぎです。いつから主流になったかは、「約30年前(2019年時点)」までしか言えません。
同じ報告は、台木を替えた結果、味や草の勢い、病気、収量に課題が出ていたことも伝えています。見た目と引き換えに、何かを手放していないのでしょうか。
ブルームレスの普及時期について、種苗会社の説明を引いた2019年の記事は「30年ほど前から主流」と述べる。理由は、粉が残留農薬に見えてしまうこと、店頭の見栄えがよく日持ちがよいことなどで、2019年時点で市場の約9割がブルームレスだという[4]。農畜産業振興機構(ALIC)の資料も、日本で多い白イボキュウリにはブルームが出るものと出ないものがあり、日持ちと見栄えからブルームレスが主流と説明する[5]。
先ほどの章で見たとおり、粉そのものは無害である。それでも粉が敬遠されるのは、消費者の目に「汚れ」や「農薬」と映るためで、品質の問題ではなく、見え方の問題だと言える。
栃木県農業試験場の報告(1991)は、ブルームをほとんど出さない台木用カボチャが育成され、ブルームの少ないキュウリを作りやすくなったと報告する。市場評価が高く、生産者が年間を通してブルームレスを作る状況になっていた。一方、食味、草勢、病害、収量の問題も出ていたとされる[2]。ただし、この記述は1991年時点でブルームレスが広く流通していたことを示すものではなく、始まりの年は資料から決められない。
見た目と日持ちを手に入れる代わりに、何を手放したのか。次の章では、病害の問題を、熊本県の試験と2025年の論文から調べる。
5. こなが ない きゅうりは、なにが にがて?
5. 粉のないキュウリが苦手な病気:うどんこ病とケイ素
5. ブルームレスキュウリと、うどんこ病・ケイ素の関係:熊本県の試験と2025年の論文
ケイそは、こなに なるだけでは ないようです。ケイそが たりないと、きゅうりが よわく なる ことが あると いわれます。
くまもとけんの しけんでは、こなの ない きゅうりに なる だいぎを つかうと、「うどんこびょう」と いう びょうきが でやすい けいこうが ありました[6]。
2025ねんの ろんぶんでも、ケイそが たりないと、びょうきや さむさに よわく なると ほうこくされました[7]。
ただし、ぜんぶの きゅうりで そうなる わけでは ありません。ブルームレスの きゅうりを、ふつうの だいぎに つぐと、ケイそを すえて、つよさが もどった という ほうこくも あります。
熊本県の試験では、うどんこ病は、ブルームレス台木で出やすく、ブルーム台木では少なくなっていました[6]。これは台木を比べた結果で、すべての品種や条件で成り立つとは書かれていません。
2025年の論文は、キュウリのBEC1という遺伝子(ケイ素を外へ出す輸送体)が変異すると、ブルームがなくなり、ケイ素の蓄積が不足して、褐斑病の菌や低温への抵抗が弱まると報告しました[7]。粉の材料になるケイ素は、植物が病気や寒さに耐えることにも関係しているようです。
面白いのは、そのあとです。ブルームレスの穂木(上に接ぐ側)を、ふつうの台木に接ぐと、ケイ素の吸収と抵抗性が戻り、しかも実はブルームレスのままだったといいます[7]。根のほうの工夫次第で、見た目と強さの両方をねらえる可能性を示す報告です。
熊本県の農業研究成果情報では、うどんこ病の発生は、ブルームレス台木で多く、ブルーム台木で少なかった[6]。注意すべきは、これが台木の比較であり、全品種・全条件に一般化できない点である。
ケイ酸を吸いにくい台木で病気が出やすいという結果は、ケイ素が病気への強さに関わるという見方と合う。ただし熊本の報告は台木の比較であり、ケイ酸が病気を抑える機構そのものを示した研究ではない。
2025年のXiaらの論文は、キュウリのBEC1遺伝子(ケイ素の排出輸送体)の変異でブルームレスになり、ケイ素の蓄積不足から褐斑病菌(Corynespora cassiicola)や低温への抵抗性が弱まると報告した。さらに、ブルームレスの穂木を通常の台木に接ぐと、ケイ素吸収と抵抗性が回復し、ブルームレスの形質は保たれた[7]。これは「報告された」の範囲で受け止めたい。
ここで台木の2つの働きが分かれる。第3章の台木は、ケイ酸の吸収を止めることで粉を消す。2025年の論文は、粉の出口側の遺伝子を変えても、根でケイ素を吸えれば抵抗性は保てる可能性を示す。見た目と丈夫さを両立させる道は、1つではないかもしれない。
6. おみせで きゅうりを みくらべて みよう
6. スーパーで、キュウリの表面を見比べてみる
6. 見比べの視点と、原典に当たる道すじ
おみせで きゅうりを みるとき、ひょうめんを よく みて みましょう。ひかっていますか。うっすら しろい こなが ありますか。
こなの ある きゅうりと ない きゅうりが ならんで いたら、どちらも かって みくらべても おもしろいです。おみせの ものは、かうまえに さわりすぎないように しましょう。
こなが あっても、からだに わるい わけでは ありません。ぶどうの こなと くらべながら、「なかみが ちがうんだなあ」と おもいだして みて ください。
スーパーのキュウリは、2019年の記事では約9割がブルームレスとされていますが、粉のあるものを置いている店もあります。見つかったら、手に取って表面を見比べてみましょう。見つからなければ、家にブドウがあれば、皮の白い粉を指でそっとなぞり、キュウリの光沢と見比べるだけでも違いが分かります。ブルームレスは光沢があり、ブルームのあるものは、うっすら白くくもって見えるはずです。両方あれば、並べて光の当たり方を見てください。
見るときの問いは3つです。粉は表面のどこに多いか。トゲやイボのまわりに多いか。ブドウの皮の粉と、見た目や触った感じがどう違うか。粉が少ないと病気に弱いという話が、畑ではどう役に立つのかも、考えてみるとよいでしょう。
岡山大学のプレスリリースと、栃木県・熊本県の公開報告は、どれも無料で読めます。農家が見た目と強さをどう両立しようとしてきたかが、具体的に分かります。
確かめたい点は3つある。①表面の粉は、台木の違いで本当に増減するのか。②粉が少ないと病気に弱い、という熊本の傾向は、他の品種でも成り立つのか。③2025年のBEC1論文が示す「穂木の遺伝子と台木の吸収を分ける」考え方は、実際の栽培で使えるのか。
売り場では、ブルームレスの光沢と、ブルームのある品種の白いくもりを見比べられる。ブドウの果粉と並べると、「同じブルームでも物質が違う」ことが体感できる。
原典は次の3つが入口になる。岡山大学のプレスリリース[1]は台木の輸送体の話、栃木県の報告[2]は1991年の産地側の事情、熊本県の成果情報[6]は台木ごとの病害の差を扱う。英語論文[7]は、要旨だけでも、ケイ素と抵抗性の関係を確かめる手がかりになる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の「[1]」などは、下の出典の番号です。英語の論文は、要旨をもとに「報告された」の範囲で書いています。
- 岡山大学プレスリリース『ピカピカキュウリの謎が解けました』(2011年2月15日) https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/soumu_pdf/press-110215-1.pdf (粉の主成分、台木、輸送体)
- 本島俊明「キュウリのブルームレス台木用カボチャの特性」栃木県農業試験場研究報告 No.38(1991) https://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/nousi/kenpou/kp_038/kp_038_10.pdf (粉の成分、ブルームレス台木の経緯)
- 農林水産省 aff 2019年5月号 ぶどう特集 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1905_06/spe1_06.html (ブドウの果粉)
- 農畜産業振興機構(ALIC)野菜情報 冬春きゅうり https://www.alic.go.jp/content/000115460.pdf (ブルームレスが主流)
- 熊本県 農業研究成果情報(リンク先は No.440、2010年5月) https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/4833.pdf (台木とうどんこ病)
- Xia et al. (2025) J. Integr. Plant Biol.(BEC1の研究)/Zhang et al. (2025) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12225014/ (腺毛、BEC1、接ぎ木)
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