1. この あそびで いちばん むずかしい ことは、なに?
1. 「走る」より「止まる」が主役の遊び
1. 鬼の背中を目ざす遊びで、むずかしいのは「止まること」
この あそびでは、鬼が かべや 木の ほうを むいて、「だるまさんが ころんだ」と いいます。そのあいだに、ほかの 子は 鬼に ちかづきます。
鬼が ふりむいたら、ぜんいん ぴたっと 止まります。うごいた 子は つかまります。
はしるのが はやい 子が かつ あそびでは ありません。いちばん たいせつなのは、うごかずに 止まる ことです。ようちえんの ちょうさでは、96.9%の ようちえんで あそばれて いたと いう すうじも あります。
鬼が壁や木に向かって「だるまさんがころんだ」と唱えている間に、ほかの子は少しずつ近づきます。鬼が振り向いたら、全員が動きを止めます。動いてしまった子は鬼に捕まります。鬼ごっこの仲間ですが、鬼は基本的に自分の場所から動きません[1]。速く走る力より、ぴたりと止まる力がものをいう遊びです。
幼稚園を対象にした保育の調査では、この遊びの実施率は96.9%でした。縄跳び(98.6%)、かごめかごめ(98.3%)、かくれんぼ(96.7%)と並ぶ高さです[2]。ただしこれは幼稚園での実施率で、全国の子ども全員が遊んでいる割合ではありません。
こんなに広く遊ばれているのに、唱える言葉は土地ごとにちがうようです。
鬼が壁や木に向かって「だるまさんがころんだ」と唱える間に、ほかの子は鬼へ近づく。振り向かれたときに動いていた子は捕まる。鬼ごっこの変種のひとつだが、鬼が基本的に自陣から動かない点がふつうの鬼ごっことはちがう[1]。この遊びで求められるのは速さよりも、体を急に止める力と、止まったまま耐える力である。
幼稚園の保育実態を扱った論文は、この遊びの実施率を96.9%と報告している。縄跳び(98.6%)、かごめかごめ(98.3%)、かくれんぼ(96.7%)と並ぶ高さで、伝承遊びの中でも定番に入る[2]。ただしこの数字は幼稚園に限った実施率であり、子ども全体の何割が遊ぶかを示すものではない。
これほど定着している遊びなのに、鬼が唱える文句は全国で同じではない。何が、どうちがうのか。
2. ぼうさんが へを こいた? キャベツの うんどうかい?
2. 地域のかけ声は、なぜこんなに自由なのか
2. 「坊さんが屁をこいた」は、どこの言い方か:地域差と、その意味のなさ
かけごえは、ところに よって ちがいます。(10この おとに ならない いいかたも あるかもしれません。)
かんさいでは「ぼうさんが へを こいた」。みやぎでは「くるまの トンテンカン」。みやざきでは「キャベツの うんどうかい」。みえでは「かえるの かんぴんたん」と いう ところが あります。
ことばの いみは、ほとんど ありません。ことばの けんきゅうを して いる 先生は、とにかく 10に なるように、てきとうに くみあわせた ものだと 話して います。
あなたの まちでは、どんな ことばでしょう。
関西では「坊さんが屁をこいた」、宮城では「車のトンテンカン」、宮崎では「キャベツの運動会」、三重では「かえるのかんぴんたん」。社会言語学者の篠崎晃一さん(東京女子大学)は、取材に対して、これらの言葉に意味はなく、とにかく10になるように適当に組み合わせたものだ、と答えています[6]。ウィキブックスにも、関西と三重の例が挙がっています[5]。ここで紹介した言い方は、どれも10拍です。地域や時代によっては、10拍ではない言い方もあるかもしれません。
実際に数えてみると、どれも10拍になります。「ぼ・う・さ・ん・が・へ・を・こ・い・た」、「く・る・ま・の・ト・ン・テ・ン・カ・ン」、「キャ・ベ・ツ・の・う・ん・ど・う・か・い」。「ん」も1拍、「キャ」は1拍と数えると、元の「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ」とそろいます。
意味が通ることより、10拍にそろうことが大事にされている点が、この遊びのかけ声のふしぎな特徴です。では、10拍にそろえる理由について、どんな説があるのでしょうか。
地域によってかけ声が大きく変わる例は、複数の資料に挙がっている。関西の「坊さんが屁をこいた」、三重の「かえるのかんぴんたん」はウィキブックスにもあり[5]、J-CASTニュースの取材記事には、宮城の「車のトンテンカン」と宮崎の「キャベツの運動会」も出ている。社会言語学者の篠崎晃一氏(東京女子大学)は、これらに意味はなく、とにかく数が10になるように適当に組み合わせたものだと述べた[6]。
この「10になる」は、拍(モーラ)で数えると確かめられる。「ぼ・う・さ・ん・が・へ・を・こ・い・た」は10拍、「く・る・ま・の・ト・ン・テ・ン・カ・ン」も10拍、「キャ・ベ・ツ・の・う・ん・ど・う・か・い」も、拗音の「キャ」を1拍とすれば10拍で、元の「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ」と一致する。意味より拍数が優先されているからこそ、「坊さんが屁をこいた」のような、子どもが笑う言葉が入りこめたと考えられる。ただしこれは筆者が拍数を数えた結果で、資料がそう説明しているわけではない。また、ここに挙げたのは10拍の例であり、地域・年代によっては10拍でない言い方もありうる。
では、10拍にそろえる理由について、どんな説があり、どこまで言えるのか。
3. どうして 10 なの?
3. 「いち、に、さん……」が10拍の文に化けた説
3. 10まで数える代わりに文が使われたとされる説:その強さと限界
むかしは、「いち、に、さん……」と 10まで かぞえて いたと いわれて います。
10まで かぞえるのは、ちょっと めんどうです。ちいさい 子は、かずを まちがえる こともあります。そこで、10この おとの ことばに おきかえた、と せつめいされて います。
ほかにも「へいたいさんが とおる」や「ぼんさんが へを こいだ」と いう ことばも しられて います。どれも 10この おとです。
もとは「いち、に、さん……」と10まで数えていたのが、10拍の文に置き換わったとされています。ウィキペディアなどの記述では、数えるのが面倒で、幼い子も加わりやすくするため、という説明です[4]。「兵隊さんが通る」「ぼんさんがへをこいだ」といった言い換えも知られています。
数を数える遊びは多く、数え歌のようにリズムで10まで言えれば、数をまちがえる心配もありません。ただ、いつ、誰がそうしたのかを示す資料は見当たらないので、「そう考えられている」という強さで読むのがよさそうです。
数えていた時代があったのなら、この遊びはかなり古いのでしょうか。
この遊びはもと、「いち、に、さん……」と10まで数えていたものが、10拍の文に置き換わったと説明されることがある。数えるのが煩わしく、幼い子も加わりやすくなるから、という理由づけである[4]。「兵隊さんが通る」「ぼんさんがへをこいだ」も、同じ10拍の言い換えとして知られる。
この説の限界は、いつ、誰が、どこで置き換えたのかを示す出典が見当たらないことにある。数えるのが面倒という理由も、子どもの遊びを観察した記録というより、後から付けられた説明に近い。そのため「10まで数える遊びが先にあった」と断定するのは避け、有力な説のひとつとして読むのが妥当だろう。
数え言葉が先にあったとしても、それが何年前までさかのぼるのかは別の問題である。
4. この あそびは、いつから あるの?
4. 明治生まれの人の記憶にない遊び
4. 起源を示す記録は見当たらず、「比較的新しい」という推測が残る
じつは、いつから ある あそびか、はっきりした きろくは みつかって いません。
こくりつこっかいとしょかんの こたえでは、本に「めいじ生まれの 人の きおくには ない ようです」と かいて ある、と しょうかいして います。あんがい あたらしい あそびかも しれません。
でも、これは「かも しれない」と いう はなしです。ふるさとを しりたい ときは、おじいさんや おばあさんに、むかしの あそびを きいて みると いいでしょう。
国立国会図書館の「レファレンス協同データベース」には、「だるまさんがころんだの由来や起源」を尋ねた質問があります。回答では、2001年に出た本『子どもに伝えたい伝承あそび』を引いて、この遊びは明治生まれの人の記憶にはないようで、伝承遊びの中では比較的新しい遊びかもしれない、と紹介しています[3]。
ここで大切なのは、「かもしれない」という推測であることです。起源や最初の記録を示した資料は、この回答にもありません。「江戸時代からある」と言い切れないのと同じく、「明治より新しい」とも言い切れません。分かっているのは、古い記録がはっきりしない、というところまでです。
起源のなぞが残る一方で、遊びの名前の「だるま」のほうは、ずっと古い歴史をたどれます。
日本でこの遊びが始まった時期を示す初出文献や一次資料は、手がかりとして挙がっていない。国立国会図書館のレファレンス協同データベースの回答は、2001年刊『子どもに伝えたい伝承あそび』を引き、この遊びは明治生まれの人々の記憶にはなく、伝承遊びの中では比較的新しい遊びかもしれない、とだけ述べる[3]。
この回答は、あくまで推測を紹介したものである。起源を示す記録は添えられていないから、「江戸時代からある」とも「明治以降に生まれた」とも決められない。さらに、前の章の「数え言葉から10拍の文へ」の変化がいつ起きたかも、出典に書かれていないため、この2つを組み合わせて年代を推定することもできない。
起源の記録が薄いのに対して、名前に入っている「だるま」は、玩具としての歴史がたどれる。遊びの名前と、倒れても起き上がるだるまは、どうつながるのか。
5. ころんでも おきあがる「だるま」って、なに?
5. 転んでも起き上がる「だるま」の来た道
5. 起き上がりこぼしからだるまへ:玩具の系譜と、遊びの名前との距離
だるまは、手も 足も ない、あかい ふくを きた 人の かたちの おもちゃです。そこを おもく して あるので、たおしても すぐ おきあがります。
むかしの 中国から 日本に つたわった おもちゃが もとに なったと いわれて います。こどもの すがたの「おきあがりこぼし」に かわり、やがて「だるま」に むすびついた、と せつめいされて います。
ころんでも おきあがる すがたは、「ななころび やおき」の ことばに かさなって、えんぎものに なりました。
あそびの なまえの「だるま」と、この おもちゃが どう つながるのかは、ここでは むすびつけません。
だるまの祖先は、10世紀の日本の辞書にも出てくる酒の席の玩具「酒胡子」と、明の時代の中国の「搬不倒」とされます。1401年に日本と明の公式な貿易が始まった頃に伝わり、老人の姿の「不倒翁」が子どもの姿の「起き上がり小法師」に変わり、やがて禅宗の祖・達磨と結びついた、と解説されています[7]。この道筋は解説記事の説で、断定はできません。
辞典には、張り子の起き上がりだるまは享保年間(1716〜36年)以降に登場したとあります。手足がなく赤い衣の僧の形で、底を重くして、倒れてもすぐ起き上がるように作ります[8]。赤は、疱瘡(天然痘)が赤を嫌うという俗信によるとされます。会津では、蒲生氏郷が藩士の内職として小法師を作らせて正月に売らせたのが始まり、という言い伝えもあります[9]。
倒れても起き上がる姿は、「七転び八起き」に重ねられ、縁起物になりました。一方で、遊びの名前の「だるま」とこの玩具のつながりは、ここでは結びつけません。読む人が想像する余地として残しておきます。
起き上がり小法師・だるまの祖先は、10世紀の日本の辞書にも載る酒席の玩具「酒胡子」と、明代の中国の「搬不倒」だとされる。1401年に日明の公式貿易が始まったことで日本に伝わり、老人姿の「不倒翁」が子ども姿の「起き上がり小法師」に変わり、禅宗の祖・達磨と結びついたという解説がある[7]。ただし、これは解説記事の説であり、経路を史実として確定したものではない。
辞典類によれば、張り子の起き上がりだるまは享保年間(1716〜36)以降に登場した。手足がなく紅衣の僧の形で、底を重くして倒してもすぐ起き上がる仕組みである。赤は、疱瘡が赤を嫌うという俗信による[8]。起き上がり小法師の起源については、会津藩主の蒲生氏郷が1500年代末に、藩士の内職として作らせ正月に売らせたのが始まりという伝承があるが、これは「言われる」の段階にとどまる[9]。
倒れても起き上がる姿は「七転び八起き」に重ねられ、江戸時代から縁起物の代表のひとつになった[8]。だとすれば、名前に「だるま」を持つ遊びが「転んだ」と唱えるのは興味深い。しかし、両者の因果関係は、ここでは結びつけない。
遊びの名前の由来に決着がつかないまま、この遊びは国境を越えて見つかる。
6. ほかの くににも、にた あそびは あるの?
6. 世界にもある「止まる遊び」
6. 世界の似た遊びと比べて見えること
にた あそびは、せかいの あちこちに あります。
アメリカなどの えいごの くにでは「レッド ライト、グリーン ライト」。イギリスでは「グランドマザーズ フットステップス」や「スライ フォックス」などと よばれます。かんこくにも、にた あそびが あります。
えいごの ウィキペディアでも、この あそびを しょうかいして います。「うごいて いい? ダメ?」を くりかえす あそびは、せかいの 子どもが たのしんで いるのです。
英語版ウィキペディアの「Statues(彫像)」の項目は、よく似た遊びが各国にあることを紹介しています。北米では「Red Light, Green Light」、英国では「Sly Fox」「Grandma's Footsteps」「Fairy Footsteps」などと呼ばれます。韓国には「ムグンファ コチ ピオッスムニダ」という遊びがあり、同じ型の遊びとして並べられています[10]。
ただし、似ているからといって、日本の遊びがどこかから来たとは言えません。この項目も、起源をつなげるために書かれたものではありません。「止まる」「近づく」という簡単な決まりは、離れた場所でも思いつかれたのかもしれません。
では、自分の住む地域では、どんなかけ声なのでしょうか。
英語版ウィキペディアの「Statues (game)」は、北米の「Red Light, Green Light」、英国の「Sly Fox」「Grandma's Footsteps」「Fairy Footsteps」など、各国に似た遊びがあることを挙げる。韓国のムグンファ コチ ピオッスムニダも、同じ型の遊びとして並べられている[10]。
ここで注意が要るのは、類似は伝来の証拠にならないことである。「鬼に近づき、振り向かれたら止まる」という規則は単純なので、別々の場所で生まれたとしても不思議はない。逆に、どこから広まったかを示す資料も、この記事の範囲では示されていない。
国内の各地で唱える言葉が10拍だけを守って自由に変わるのも、規則が単純だからこそ、土地の言葉を入れやすい、ということかもしれない(これは筆者の見立てで、資料の説明ではない)。残る問いは、自分の町ではどんな言葉かである。
7. じぶんの まちの かけごえを さがして みよう
7. 自分の町のかけ声を集めてみる
7. かけ声を集める:10拍の数え方で確かめる
おうちの 人や、ちかくの 人に、「だるまさんが ころんだの かけごえは、なんて いって いたの?」と きいて みましょう。ちがう ことばが きけるかも しれません。
きいた ことばは、1つずつ 手を たたきながら、10こに なるか かぞえて みましょう。
じぶんで 10この おとの かけごえを つくって、ともだちと あそんでも たのしいです。ばしょは、ひろい ところで、ぶつからない ように きを つけて ください。
おうちの人や近所の人に、「子どものころ、だるまさんがころんだのかけ声はなんて言っていた?」と聞いてみましょう。自分の町だけの言い方が見つかるかもしれません。
聞いた言葉は、手をたたきながら1拍ずつ数えて、10拍になるかを確かめます。ならなければ、「ん」や「ー」の数え方を変えてみると、どんな決まりでそろえているかが見えてきます。
自分で10拍の言葉を作って遊ぶのも楽しいはずです。ひろい場所で、ぶつからないように気をつけましょう。資料を読むなら、国立国会図書館のレファレンス協同データベースで、「だるまさんがころんだ」の項目を検索できます。
この遊びを調べる道すじは、2つに分けられる。ひとつは、周囲の人から、自分の地域のかけ声を聞き取ることである。聞いた言葉は拍で数え、10拍になるかを確かめる。拍数が10にそろわない例が見つかれば、それは10拍説への反例になりうる。
もうひとつは、原典にあたることである。国立国会図書館のレファレンス協同データベースの回答は、引用された本の名前も挙げており、そこから民俗遊びの専門書へたどれる。ただし、この回答自体が示すのは推測にとどまる。起源に近づくには、聞き取りと文献の両方を重ねる必要がある。
遊ぶときは、広い場所で、ぶつからないように気をつける。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典は、遊びの規則、実施率、起源の記述、かけ声の地域差、玩具の歴史、世界の類似遊びの確認に使いました。ウィキペディア系の記述は、他の資料と突き合わせて使っています。
- 調布市「だるまさんがころんだみんなで!」解説資料 https://www.chofu-schools.jp/chofu8/tokushoku/documents/darumasangakoronda0717.pdf (遊びの規則)
- 川崎医療福祉学会誌 20巻2号(2011)461-464頁 https://i.kawasaki-m.ac.jp/mwsoc/journal/jp/2011-j20-2/461-464_kurato.pdf (幼稚園の実施率)
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベース「だるまさんがころんだの由来や起源」 https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?id=1000033823&page=ref_view (起源の推測)
- ウィキペディア「だるまさんがころんだ」 https://ja.wikipedia.org/ (10数える説)
- ウィキブックス「だるまさんがころんだ」 https://ja.wikibooks.org/ (地域差の照合)
- J-CASTニュース 2014年3月17日 https://www.j-cast.com/2014/03/17199430.html (地域差と専門家の話)
- 和樂web「だるまの起源」 https://intojapanwaraku.com/culture/189552/ (だるまの祖先の説)
- コトバンク「達磨」 https://kotobank.jp/word/%E9%81%94%E7%A3%A8 (だるま玩具の辞典の記述)
- ウィキペディア「起き上がり小法師」 https://ja.wikipedia.org/ (会津の言い伝え)
- Wikipedia "Statues (game)" https://en.wikipedia.org/wiki/Statues_(game) (世界の類似遊び)
なおした ところ
更新履歴
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