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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

深呼吸こきゅうを すると、きもちが おちつくのは どうして?

深呼吸をすると気持ちが落ち着くのは、体の中で何が切りかわるからか

深呼吸で気持ちが落ち着く経路:息を吐くことは自律神経と脳にどう働きかけるのか

分野:からだ

じっけんで、まい日 5分、息を ゆっくり 吐はく れんしゅうを した 人たちは、同じ 時間の めいそうを した 人たちより、気分が よくなった、と つたえられて います[1]。

たった 5分で、どうして きもちが かわるのでしょう。この ページを 読むと、息を 吐はく ときに 体の 中で おきて いる ことと、まだ わかって いない ことが わかります。

毎日5分、息を長く吐く練習を続けた人たちは、同じ時間のマインドフルネス瞑想を続けた人たちより、気分がよく上向いた。そう報告した実験があります[1]。道具は何もいらず、使うのは自分の息だけです。

なぜ、息の吐き方を変えるだけで気持ちが動くのでしょうか。この記事を読むと、息を吐くときに体で起きていること、実験で分かったこと、まだ分かっていないことが分かります。

スタンフォード大学の無作為化試験では、毎日5分の呼吸法を続けた人の気分が、同じ時間のマインドフルネス瞑想より大きく改善し、息を長く吐く「周期的ため息」がとくに効果的だったと報告されている[1]。特別な器具はいらない。必要なのは自分の呼吸だけである。

なぜ、呼吸の仕方を変えるだけで気分が動くのか。この記事を読むと、息を吐くときに自律神経で起きること、試験で言えることと言えないこと、脳の仕組みで未解明の部分が分かる。

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2. 息だけが、自分で えらべる スイッチなの?

2. 心臓は止められないのに、息は自分で変えられる

2. 随意と不随意のあいだにある呼吸の位置

みんなの 心臓しんぞうは、「うごけ」と 思わなくても 動いて います。息も ふだんは 考えなくても つづきます。ねて いる ときも そうです。

でも 息は、とくべつです。「いま、とめよう」「ゆっくり しよう」と 自分で 決めて、かえる ことも できます。そんな 体の はたらきは、あまり 多くない、と イギリスの 病院の 文書に あります[4]。

だから、息は 気持ちを 動かす ときの 入り口に なります。心臓しんぞうに 「ゆっくりに なれ」と 言っても 聞いて くれませんが、息なら 自分で ゆっくりに できるからです。

赤ちゃんや 小さい 子は、ふつう おなかを ふくらませて 息を して います。これを 腹式呼吸ふくしきこきゅうと いいます。ねて いる ときなど、体が 休んで いる ときの 息も、おなかが 動く 息だと されて います[4]。一方、むねだけで いつも 息を して いると、体が きんちょうして、しんぱいな 気持ちが 強まる ことが ある、とも いわれます[4]。

では、これを 本当に たしかめた 人は いるのでしょうか。

心臓に「ゆっくり打て」と命令することはできません。けれども呼吸は、意識しなくても自動で続く一方、自分の意思で止めたり、ゆっくりにしたりもできます。このように、自動と意思の両方で動かせる体の働きは多くない、と英国の病院グループの説明資料にあります[4]。

この性質のため、呼吸は、直接は動かせない心拍や緊張へ、間接的に働きかける入り口になりえます。

赤ちゃんや小さい子どもは、ふつうおなかを動かす腹式呼吸をしています。睡眠中や消化中など、体が回復しているときの呼吸も腹式で、胸の上のほうの筋肉だけを使う呼吸をいつも続けると、緊張や不安が強まることがあると説明されています[4]。ただしこれは病院の患者向け資料の説明で、一つの研究の結論ではありません。

この説明は、本当に気持ちを変えるのでしょうか。それを試した実験があります。

呼吸は、意識しなくても自動で行われる不随意の働きでありながら、意識的にも制御できる数少ない体の機能である[4]。心拍は意思で直接動かせないが、呼吸は動かせる。心拍は自分の意思で直接変えられないが、呼吸は変えられる。そのため、呼吸で自律神経に働きかける方法が研究されている。

乳幼児は通常、腹式呼吸をしている。睡眠中や消化中など、体の回復過程にある時の呼吸も腹式であり、胸の上部の筋肉を主に使う胸式呼吸を常に続けると、緊張や不安が強まることがあると説明されている[4]。出典は病院の患者向け資料であり、因果関係を検証した試験の結論ではない点には留意する。

そのうえで、呼吸の操作に血圧を下げる効果があることは、複数の研究でわずかな低下が示唆されている[6]。ゆっくりした呼吸の練習が、少なくとも体の指標を動かす可能性は、実験で検討される段階に来ている。気分についてはどうか。

3. 5分の 息の れんしゅうで、気分は かわったの?

3. 毎日5分の呼吸で、気分はどのくらい変わったのか

3. 無作為化試験の結果と、その限界

スタンフォード大学で、実験じっけんが ありました。くわしく 調べた 人は 111人。ぜんぶ 元気な ボランティアで、子どもを 調べた 話では ありません[3]。

まい日 5分、いろいろな 息の れんしゅうや 「めいそう」を して もらって、気分の かわり方を くらべました。息の れんしゅうの ほうが、めいそうより 気分が よく なりました。なかでも、息を 長く 吐はく 「ため息」の ような れんしゅうが、いちばん よかったと つたえられて います[1]。

ただし、この 実験じっけんは、家に いながら インターネットで 行われました。やった かどうかは、本人の アンケートで たしかめて います。ですから、研究けんきゅうした 人たち 自身も、きまりを そろえきれて いない ところが ある、と 書いて います[1]。

「5分で ぜったい 気分が よくなる」とは 言い切れません。でも、息を 長く 吐はくと 体は どう かわるのでしょう。

スタンフォード大学の研究では、健康なボランティア111人が、毎日5分の呼吸法か、同じ時間のマインドフルネス瞑想を続けました。重い精神疾患のある人は対象から除かれていて、子どもを対象にした結果ではありません[3]。

結果は、呼吸法のグループのほうが、瞑想のグループより気分の改善が大きいというものでした。なかでも、息を長く吐くことに重点を置いた「周期的ため息」が最も効果的だったと報告されています[1]。1日5分の呼吸の練習を続けると、不安が軽くなり、気分がよくなるという説明も、大学の発表にあります[3]。

ただし、この試験は遠隔で行われ、毎日の実施状況はアンケートで確かめました。研究者自身も、一部の条件を管理しきれなかったことを限界として挙げています[1]。1つの試験の結果なので、すべての人に同じ効果があるとは言えません。

では、体の中で何が起きて、気分が変わるのでしょうか。脳の中をのぞいた研究があります。

試験の設計は次のとおりである。健康なボランティア111人が、毎日5分の呼吸法、あるいは同時間のマインドフルネス瞑想を続けた。重い精神疾患のある人は対象から除かれ、子どもを対象にした結果ではない[3]。主な結論は、呼吸法群のほうが瞑想群より気分の改善が大きく、とくに息を長く吐くことに重点を置く周期的ため息が最も効果的、というものである[1]。

この結果は有望だが、限界も大きい。試験は遠隔で行われ、実施状況は毎日の自己報告で確認した。著者らは、一部の変数の管理が弱かったことを限界として述べている[1]。自己報告の気分尺度は主観に依存しやすく、対象も健康なボランティアに限られる。したがって「5分の呼吸で誰でも気分が良くなる」とは、この試験からは言えない。言えるのは、この条件で、呼吸法が瞑想より大きな改善を示したという範囲までである。

この試験では周期的ため息が最も効果的だったが、研究全体でどの呼吸法が最も効くかは、結果が異なる場合があり、まだ決着していない。次に、脳の仕組みの側からは何が分かっているのか。

4. 脳のうの 中では、何が おきて いるの?

4. 脳の中の「息のリズム」は気持ちとつながっているのか

4. 呼吸中枢と覚醒系の接続:マウス実験からの手がかり

脳のうの 中には、息の リズムを つくる 場所が あります。マウスの 研究けんきゅうで、その 場所の 175こ くらいの 神経しんけいの 細ぼうが、目が さめて ドキドキする ときに はたらく 脳のうの ぶぶんへ 知らせを 送って いる ことが 見つかりました[7]。

その 細ぼうを とりのぞくと、マウスは とても おちついた、と つたえられて います。ため息も なくなりました[7]。

ただし、これは マウスの 話です。人間の 深呼吸こきゅうで 気持ちが かわる ことを、そのまま たしかめた ものでは ありません[7]。

マウスでは、息を おそくして しんぱいを へらす 回路も 見つかった、という 話も あります[8]。人でも 同じかは、まだ わかりません。でも、深呼吸こきゅうが なぜ 気持ちを おちつけるのかの すべては、まだ わかって いません。

ここまでで、息は 気持ちに かかわる ことが わかりました。では、息を つかう とき、さけたい ことは あるでしょうか。

呼吸のリズムをつくる脳の部位には、約175個の神経細胞があり、覚醒や興奮に関わる脳の領域へ情報を送っていることが、マウスの研究で分かりました[7]。その神経細胞を取り除くと、マウスはとても落ち着き、ため息もなくなったと報告されています[7]。息のリズムと「興奮の度合い」が、脳の中でつながっているらしいことを示す手がかりです。

ただし、これは動物実験で見つかった仕組みで、人の呼吸法の効果を直接示したものではありません。

別の研究もマウスで行われました。脳の前帯状皮質から脳幹へ向かう特定の神経回路を働かせると、呼吸が遅くなり、不安を示す行動が減ったと報告されています[8]。人でも同じように働くかは、まだ分かっていません。深呼吸が人間の不安を和らげる仕組みの全体も、完全には解明されていません。

息を使って落ち着くことの利点が見えてきました。では、呼吸が速くなりすぎると、体に何が起きるのでしょうか。

呼吸リズムを生む脳幹の部位の約175個の神経細胞が、覚醒や興奮に関わる脳領域へ情報を送ることが、マウスで示された。この細胞を除くとマウスは極めて落ち着き、ため息も消えた[7]。呼吸中枢が単にガス交換の司令塔にとどまらず、覚醒状態の調節にも関わりうることを示唆する。ただし、動物実験で見つかった機構であり、人の呼吸法の効果を直接示したものではない。

別のマウス実験では、前帯状皮質から脳幹への特定の神経回路を作動させると呼吸が遅くなり、不安行動が減った[8]。人でも同じかは未確認であり、この回路が人の深呼吸の効果をどこまで説明するかは、示されていない。

以上から、息を吐くと副交感神経が活性化して心拍が遅くなるという経路と、呼吸の中枢が覚醒の度合いへ影響しうるという経路が、二つの別の手がかりとして得られている。両者をどうつなぐかが、未解明の部分である。

この知識は、使い方を誤ると逆効果にもなる。速すぎる呼吸に何が起きるのか。

5. 息を はやく たくさん すると、どうなるの?

5. 息を速くたくさんするとどうなるのか

5. 過呼吸という逆向きの現象と、受診の目安

ここまでは、ゆっくり 吐はく 話でした。反対に、はやく たくさん 息を すると、からだに よく ない ことが あります。

これを 「かこきゅう」と いいます。速く 深く 息を しすぎて、血の 中の 二酸化炭素にさんかたんそが へりすぎ、めまいや 胸むねの いたみが 出る ことが あります[9]。

もし 友だちが 息を はやくして くるしそうなら、自分が あわてず、ゆったりした ことばで 声を かける ことが 大切だと されます[9]。そして、すぐに おとなに 知らせて ください。

はじめて そうなった とき、いたみや ねつが ある とき、いつまでも おさまらない ときや ひどく なる ときは、病院びょういんに れんらくします[9]。息の れんしゅうだけで なんとかしようと しないで ください。

深呼吸と似た言葉に、過呼吸があります。速く深い呼吸が続いて、血液中の二酸化炭素が減りすぎると、めまいや胸の痛みなどが出ることがあります[9]。落ち着くための呼吸は「ゆっくり吐く」ことが中心で、速くたくさん吸うこととは別物です。

そばにいる人が息を速くして苦しそうなときは、周りの人が落ち着いて、ゆったりした口調で声をかけることが大切とされます[9]。必ずおとなに知らせてください。

速い呼吸が初めて起きたとき、痛みや熱があるとき、家で対処しても続いたり悪化したりするときは、医療機関に連絡するよう書かれています[9]。呼吸法だけでは対応できない場合があるからです。

では、安全に、自分で息の変化を確かめるには、どうすればよいでしょうか。

速く深い呼吸が過剰になると、血中の二酸化炭素濃度が低下し、めまいや胸の痛みなどの症状が現れる[9]。落ち着くための呼吸の要点は「吐く息を長くすること」であり、「速く深く吸うこと」ではない。両者は方向が逆である。

医療者から不安やストレスなどによる過呼吸と説明されている場合の家庭での対処では、血中の二酸化炭素を増やすことを目標とし、周囲の人が落ち着いたゆったりした口調で声をかけることが大切とされる[9]。速い呼吸が初めて起きたとき、痛み・熱・出血を伴うとき、家での対処でも続く、あるいは悪化するときは、医療機関に連絡する[9]。呼吸法で扱える範囲には限りがあり、練習で対処できると思い込まないことが、ここでの境界になる。

この境界を踏まえたうえで、安全な範囲で自分の体で観察できることは何か。

6. 自分で 息を ためして みよう

6. 吐く息を長くして、自分で比べてみる

6. 自分の脈で、吐く息の効果を観察する

いえで できる こと

いすに すわって、ゆっくり 鼻から 息を いれます。つぎに、いれた 時間の 2ばいを めやすに、口から ながく 吐はきます。これを 5回 くりかえします。

はじめる 前と おわった あとで、胸むねの どきどきを くらべて みましょう。くるしく なったり、めまいが したら、すぐ やめて ふつうに 息を して ください。はやく たくさん 息を するのは しないで ください。

おとなに 聞いて みよう

おうちの 人に、「きんちょうした とき、どうして いる?」と 聞いて みましょう。息の 使い方も、人によって ちがうかも しれません。

5回の呼吸で比べる

椅子に座り、鼻から吸って、口から長く吐きます。吐く時間は、吸う時間の約2倍を目安にします。これを5回くり返して、前後の気持ちを比べます。苦しくなったりめまいがしたりしたら、すぐにやめて、ふつうの呼吸に戻してください。速く深く吸うことはしないでください。

脈で比べる

手首に指を当て、30秒の脈の数を数えます。5回の呼吸のあとにもう一度数えると、変化があるかもしれません。変わらなくても、これは1人の人の1回の記録で、実験の結果ではありません。

おとなと比べる

家の人にも、吐く息を長くして5回呼吸してもらい、気持ちの変わり方を聞いてみましょう。人によって感じ方がちがうことが分かります。

脈で観察する

椅子に座って手首の脈を30秒数え、その後、鼻から吸って口から長く吐く呼吸を、吐く時間を吸う時間の約2倍にして5回行い、再び脈を数える。苦しさやめまいが出たら中止し、速く深い呼吸はしない。差が出ても出なくても、1回の個人の記録にとどまり、試験の結果の代わりにはならない。

主張の強さを読み比べる

本文で使った資料は、病院の説明資料[4]、大学の発表[3]、学術誌の論文[1]、マウスの研究の報道[7]で、根拠の強さが違う。それぞれが「できる」「傾向がある」「示唆される」のどの言葉で書かれているかを読み比べると、一つの研究をどこまで信じてよいかの目安が見えてくる。

未解明の問い

どの呼吸法が最も効くのかは研究によって異なり、人の脳での仕組みも未解明である。論文[1]の限界の記述を手がかりに、どんな条件で試験をやり直せば確かめられるかを考えてみるとよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文で使った資料です。

  1. Balban et al. "Brief structured respiration practices enhance mood and reduce physiological arousal." Cell Reports Medicine (2023). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9873947 (5分の呼吸法の試験と限界)
  2. NCCIH "5 Things To Know About Relaxation Techniques for Stress". https://www.nccih.nih.gov/health/tips/things-to-know-about-relaxation-techniques-for-stress (闘争・逃走反応とリラックス反応)
  3. Stanford Medicine "'Cyclic sighing' can help breathe away anxiety" (2023). https://med.stanford.edu/news/insights/2023/02/cyclic-sighing-can-help-breathe-away-anxiety.html (息を吐くことと副交感神経、参加者)
  4. Guy's and St Thomas' NHS Foundation Trust "Abdominal breathing - Overview". https://www.guysandstthomas.nhs.uk/health-information/abdominal-breathing (呼吸と意思、腹式と胸式)
  5. Salk Institute "Pain and anxiety impact breathing on a cellular level". https://www.salk.edu/news-release/pain-and-anxiety-impact-breathing-on-a-cellular-level/ (痛みや不安と呼吸のリズム)
  6. NCCIH "Relaxation Techniques: What You Need To Know". https://www.nccih.nih.gov/health/relaxation-techniques-what-you-need-to-know (ゆっくりした呼吸と血圧)
  7. Stanford Medicine "Study discovers how slow breathing induces tranquility" (2017). https://med.stanford.edu/news/all-news/2017/03/study-discovers-how-slow-breathing-induces-tranquility.html (マウスの神経細胞)
  8. Salk Institute "Neuroscientists discover how the brain slows anxious breathing". https://www.salk.edu/news-release/neuroscientists-discover-how-the-brain-slows-anxious-breathing/ (意識的に呼吸をゆっくりにする回路)
  9. MedlinePlus "Hyperventilation". https://medlineplus.gov/ency/article/003071.htm (過呼吸の症状と対処、受診の目安)

なおした ところ

更新履歴

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