1. みぎか ひだりかは、どうして わかるの?
1. 右か左かは、どうして分かるのか
1. 左右の判断を支える両耳間の時間差と強度差
めを とじて、みぎの ほうで てを たたいて もらいます。みぎだと、すぐ わかります。
みぎの ほうの おとは、みぎの みみに さきに とどきます。ひだりの みみには、ほんの すこし おくれて とどきます。おくれは 1びょうの 1000ぶんの 1にも なりません[1]。
それに、ひだりの みみは あたまの かげに なります。おとが ちいさく なります。
では、まえから きた おとは、どうでしょう。みぎも ひだりも、おなじ ときに おなじ おおきさで きこえます。
目を閉じて、右のほうで手をたたいてもらうと、音が右から来たことはすぐに分かります。
右前方からの音は、右耳に先に届き、左耳にはわずかに遅れて届きます。その差は1ミリ秒(1000分の1秒)にも満たないのに、人はこれを検出して左右を判断できます。ただし、この手がかりが働くのは、およそ1.5kHz以下の低めの音に限られるそうです[1]。
高い音には別の手がかりがあります。左耳は頭の陰に入り、高い音ほど回りこみにくいため、左右の耳で音の大きさに差ができます。真横からの音では、6kHzで約20デシベルの差ができ、200Hzではほぼゼロと説明されています[1]。
ここまでは、両耳の差が手がかりです。では、正面から来た音はどうでしょう。
2. まえと うえは、なにで わかるの?
2. 正面と真上は、何が区別するのか
2. 両耳間差のない方向を、耳介のスペクトル手がかりが補う
まえと うえと うしろでは、みぎと ひだりの ちがいが ほとんど ありません。それでも、ひとは おとの むきを だいたい わかります。かたほうの みみだけでも わかる ことが あります[1]。
たすけて いるのは、みみの でこぼこです。おとが みみに あたると、はねかえったり、さえぎられたりします。むきが ちがうと、あたりかたも ちがいます。
たとえば、トンネルの かべで はねかえる こえを おもいだして ください。でこぼこの かべだと、こえの ひびきかたが かわります。みみも おなじように、おとの ひびきを むきごとに かえて います。ただし、みみは トンネルよりも ずっと ちいさな ものです。
正面・真上・真後ろのように左右の耳からほぼ等距離にある方向では、時間差も大きさの差も小さくなります。それでも人は、前後や上下をかなり言い当てられます。しかも、片耳だけで聞いても分かることがあります[1]。
助けているのは、耳のでこぼこ(耳介)です。音は耳介で反射したり遮られたりして、来た方向によって音色が複雑に変わります。音色というのは、高さごとの強弱の並び方のことです[1]。
この変化は、波長が短い高い音ほどはっきり出ます。一般に、およそ5〜8kHz以上の帯域の変化が有効な手がかりだと説明されています[1]。耳の大きさと形によって決まる、自分の耳だけの手がかりです。
では、その耳の形を変えたら、どうなるのでしょうか。
左右の耳からほぼ等距離にある方向では、両耳間差が小さくなり、耳介の手がかりが役立つ。音は耳介で反射・遮蔽され、到来方向に応じてスペクトルが複雑に変化する。前後・上下の判断が可能であり、片耳でも成り立つのはこのスペクトル手がかりによる[1]。
耳介の効果は耳の大きさ・形との関係で決まり、波長の短い高い音ほど変化が顕著になる。一般におよそ5〜8kHz以上の帯域が有効だとされる[1]。この特性は頭部伝達関数(HRTF)と呼ばれ、頭と耳介の複雑な反射・回折が生む。正面方向の特性には、強まる帯(ピーク)と弱まる帯(ノッチ)ができる[2]。
この仕組みが正しいなら、耳介の形を変えれば上下の判断が変わるはずだ。それを確かめた実験がある。
3. みみに かたを いれたら どう なった?
3. 耳に型を入れる実験で、何が起きたか
3. 耳介にモールドを入れた2つの実験
けんきゅうの ひとたちが、おとなの ひとの みみに かたを いれました。みみの でこぼこが かわります。
すると、おとの うえしたの きき わけは、いれた すぐ あとに おおきく わるく なりました[3]。
べつの けんきゅうでは、まえと うしろの とりちがえが、7ばいぐらいに ふえました。うえしたの ずれも、2ばいより おおく なりました。でも、みぎ ひだりの きき わけは、ほとんど かわりませんでした[4]。
みぎひだりは りょうみみの ちがい、うえしたは みみの かたち。やくわりが わかれて いるのです。
4. かたを いれた みみは、また きき わけられる?
4. 型をはめた耳は、学び直せるのか
4. 新しい耳への学び直しと、元の耳との共存
だいじょうぶです。かたを いれた ままでも、ときが たつと、うえしたの きき わけは よく なって いきました[3]。
もっと ふしぎな ことが あります。かたを はずしても、もとの みみの ときの ききかたが じゃまに なりませんでした。ふたつの ききかたを つかい わけられたのです。
どれくらいで なれたのかは、ここでは かきません。ひとの あたまは、あたらしい てがかりを おぼえる ちからを もって いるようです。
5. ふくろうの みみは どう なって いる?
5. ふくろうは、耳の形も位置も左右でちがう
5. メンフクロウの非対称な耳と、音の地図
ふくろうは、まっくらな ところでも、えものを つかまえます。おとだけで、むきを あてるのです。
メンフクロウの のうには、おとの いちの ちずが あると、しらべた ひとたちが います。よこの むきと うえしたの むきが、ちずに なって いるそうです[5]。
この ふくろうは、みぎと ひだりの みみの ばしょと かたちが ちがいます。わざと ずらして あるような かたちです[6]。
6. みみの かたちは、ひとり ひとり ちがうの?
6. 耳の形は、人によってちがう
6. 個人差と加齢 ── 耳の大きさが手がかりを動かす
みみの かたちは、ひとり ひとり すこしずつ ちがいます。だから、おとが みみで かわる かわりかたも、ひとに よって ちがいます[2]。
おとなに なって みみが おおきく なると、てがかりも かわります。ぜんぶ、じぶんの みみに あわせて おぼえて いるのです。
自分でも しらべて みよう
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
めを とじて、おうちの ひとに ちょっと はなれた ところから、すずを ならして もらいます。みぎ、ひだり、まえ、うしろ、うえの じゅんで ならして もらい、どこか あてて みましょう。みみの ちかくでは ならさない やくそくです。
つぎに、てを みみの うしろに あてて、おなじ ことを して みます。きこえかたが かわった きが するか、たしかめて みましょう。かわる かどうかは、ひとに よります。
目を閉じて、家族に、少し離れた場所から鈴やスプーンの音を、右・左・前・後ろ・上の順に鳴らしてもらいます。どの方向か、当ててみます。音は小さめにして、耳に近づけすぎないようにしてください。
手を耳の後ろにあてて同じことをして、当たりやすさが変わるか確かめてみるのもよいでしょう。変わるかどうかは人それぞれです。
耳介の仕組みをもっと知りたい人は、出典の倉片憲治さんの解説が、日本語で読める入口になります。
日本語で読めるのは、倉片憲治「音の方向知覚とその加齢変化」(日本音響学会誌)と、NICT情報通信研究機構の季報。型の実験の原典は Hofman ら(Nature Neuroscience, 1998)と Carlile と Blackman(JARO, 2013)。
身近な確かめ方としては、目を閉じて家族に音を鳴らしてもらい、方向を当てる。耳の後ろに手を当てて、当たりやすさが変わるかを比べる方法もある。変化の有無には個人差があるはずで、効果を断定しない。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。型の実験や海外の論文は、英語の資料です。
- 倉片憲治「音の方向知覚とその加齢変化」日本音響学会誌 https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2020/04/89-23-24.pdf (両耳間差・耳介の手がかり・加齢)
- 武本ほか「個人に適した3次元聴覚再生のための音響シミュレーション技術」NICT情報通信研究機構 季報 Vol.56 https://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/kihou-vol56no1_2/0403.pdf (頭部伝達関数の個人差)
- Hofman, Van Riswick & Van Opstal (1998) Relearning sound localization with new ears, Nature Neuroscience https://sonicfield.org/library/relearning-sound-localization-with-new-ears (型を入れた耳の学び直し)
- Carlile & Blackman (2013) Relearning Auditory Spectral Cues for Locations Inside and Outside the Visual Field, JARO https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3946140 (前後の取り違え・上下の誤差・視野の内外)
- Gruber Neuroscience Prize 2005 press release https://gruber.yale.edu/press/2005-gruber-neuroscience-prize-press-release (ふくろうの音の地図)
- Kettler, Griebel, Ferger & Wagner (2017) eNeuro 4(6) https://www.eneuro.org/content/4/6/ENEURO.0238-17.2017 (ふくろうの耳の非対称と時間差・強度差)
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