1. ロープが きれたら、おちるはずでは?
1. 吊るロープが切れたら
1. 問題設定 ── 巻上ロープ切断への備え
エレベーターの はこは、ロープで つって あります。ロープが きれたら、おちて しまいそうです。
でも、じっさいの エレベーターには、ロープが きれても、はこが おちつづけないように とめる そうちが ついて います[1]。
この そうちの なまえは、「ちょうそくき」と「ひじょうどめ そうち」です。ふたつは いっしょに はたらきます。
エレベーターのかごは、主ロープで吊られています。そのロープが切れたら、かごは落ちてしまうと考えるのが自然です。
ところが、かごを吊る巻上ロープが切れた場合でも、かごが落ち続けないように止める装置が、日本エレベーター協会の資料に紹介されています。名前は調速機と非常止め装置です[1]。
この2つが、どんな順番で、何を見て働くのか。歴史の入口から順にたどります。
エレベーターの安全装置は役割が分かれている。調速機や巻上機のブレーキは、かごの異常な増速を検出して止める。さらに、かごを吊る巻上ロープが切れた場合でも、調速機と非常止め装置がかごの落下を止める、と日本エレベーター協会の技術講座は説明する[1]。
調速機(ちょうそくき、英語でガバナー)と非常止め装置(ひじょうどめそうち)がその中心にある。以下、発明の場面(2章)、初期の機構(3章)、現在の調速機(4章)、数値と止め方(5章)、多重の安全(6章)の順に整理する。
2. オーチスは、どうやって しめしたの?
2. オーチスは自分で乗り、ロープを切らせた
2. 1854年の公開実演とその周辺
エリシャ・オーチスは、ロープが きれても おちない そうちを、はつめいした ひとです。
1854ねん、ニューヨークの クリスタルパレスの はくらんかいで、オーチスは だいに のりました。そして、だいを つる ロープを、おのできらせた と いわれます[3]。
だいは、ほんの すこし さがって、すぐに とまりました。
そのあと 1857ねんに、ニューヨークの デパートに、ひとが のる エレベーターの だいいちごうを つけた、と つたえられて います[4]。
エリシャ・グレーブス・オーチスは、ロープが切れても落下しない安全装置を発明した人物です。発明の年は、資料によって1852年とも1853年ともされるので、ここでは「1850年代の前半」とぼかしておきます[4]。
1854年、ニューヨークのクリスタルパレスの博覧会で、オーチスは昇降台に立ったまま、台を吊るロープを斧で切らせました。重い台は数インチ、つまり数センチから十数センチ落ちただけで、安全装置に止められたそうです[3]。
「完全に落ちなかった」のではなく、少しだけ落ちて止まった、という点が大切です。人前で自分の命を預けたからこそ、この装置は信じてもらえたのでしょう。
3年後の1857年には、ニューヨークの5階建ての百貨店に、Otis社初の乗客用の安全エレベーターが設置されたとされます。日付は資料の要約にあたる程度で、ここでは年だけにとどめます[4]。
エリシャ・グレーブス・オーチスによる落下防止装置の発明年は、ASMEが1852年、Otis社の歴史ページが1853年とし、資料で分かれる[3][4]。ここでは「1850年代前半」とする。
1854年、ニューヨークのクリスタルパレスの博覧会で、オーチスは昇降台に立ったまま、台を支えるロープを斧で切らせた。ASMEの記述では、重い台は数インチ(およそ数cmから十数cm)落ちたところで安全装置に止められた[3]。落下がゼロではなかった点を、正確に押さえておきたい。
1857年には、ニューヨークのE.V.ハウトウート百貨店(5階建て)に、Otis社初の乗客用の安全エレベーターを設置したとされる[4]。有名なせりふ「All safe, gentlemen」は、今回確認した資料には見当たらなかったため、扱わない。
3. さいしょの そうちは、どんな しくみ?
3. バネがのこぎり歯にかみつく
3. 初期機構 ── 張力の消失で作動するバネとラチェット
さいしょの そうちは、バネを つかって いました。だいが ロープで ぴんと ひっぱられて いる あいだは、バネが ちぢんで います。
ロープが きれると、ひっぱる ちからが きえて、バネが ぱっと ひらきます。すると、はこの りょうがわに ある、のこぎりのような はの ついた ぼうに、ぐっと かみつきます[5]。
ひもを ひっぱって おくと ゆるまない、ちいさな ばねしかけの おもちゃに、すこし にて います。ただし ほんとうは、もっと おおきくて、ながい ぼうに かみあう しくみです。
この ころの そうちは、「ロープが きれた」ことを、まるごと しらせて いました。
オーチスの初期の装置は、荷重でロープに引っぱられているあいだ、バネが縮んでいる作りでした。ロープが切れて引く力が消えると、バネが顎のように開いて、昇降路の両側にあるのこぎり歯状の棒にかみ、台を止めたと説明されています[5]。
つまり、この装置は「ロープの張力が消えたこと」をきっかけに働きました。切れた瞬間を、ロープ自身が知らせる仕組みです。
身近なたとえなら、指で押さえておいたバネ式のクリップが、指を離すと閉じる動きに似ています。ただし実際は、重い台を止めるための大きな部品で、のこぎり歯の棒と噛み合わせる点が違います。
あとで見る現在の調速機は、この考え方とは出発点が違います。
Encyclopedia.comの人物解説によれば、初期の装置は、荷重で引っぱられている間はバネが縮んでおり、ロープが切れて張力が消えると、バネが顎状に開いて、昇降路の両側にあるのこぎり歯状のラチェット棒に噛み合い、台を止めた[5]。
この機構は、ロープの張力消失という事態そのものを引き金にする。現代の調速機は、次章のとおり速度を検出して作動する点で原理が異なる。
なお、この項は引用元ページの記述(荷車用のバネ)に基づく二次資料の内容である。
4. いまの エレベーターは、なにを みはって いるの?
4. 見張るのは、切れたことではなく速さ
4. 調速機 ── 過速の検出と非常止め装置
いまの エレベーターは、ロープが きれたかどうかを、じかには みて いません。かわりに、はこの「はやさ」を みはる そうちが あります。それが ちょうそくきです。
はやさは、くるくる まわる ちからで しらべます。かさを くるくる まわすと、みずの つぶが そとへ とんで いきますね。はやく まわすほど、つよく とびます。そういう ちからを つかって います[1]。
はこが はやく なりすぎると、ちょうそくきが きづいて、ひじょうどめ そうちを はたらかせます。すると、はこは おちずに とまります。
ロープが きれた ときだけでなく、ほかの わけで はやく なりすぎた ときにも、まもって くれます。
現在のエレベーターの調速機は、遠心力を利用して「過速」、つまり速すぎる状態を見つけます[1]。
ここがおもしろいところです。調速機はロープが切れたかどうかを直接見ているのではありません。かごの速さだけを見張っています。ロープが切れて落ち始めれば、かごはどんどん速くなるので、結果として調速機が反応します。
回るものほど外へ引っぱられる力を使うので、回転が速いほど反応が大きくなります。傘を回すと水滴が外へ飛ぶのに似ていますが、実際には金属の部品が、決まった速さで働くように作られています。
エレベーターには、ロープが3種類あります。かごを吊る主ロープ、重さのつり合いをとる釣合ロープ、調速機につながる調速機ロープです[6]。
調速機は遠心力を利用して過速を検出する[1]。検出の対象は「ロープの切断」ではなく「かごの速度」である。ロープ切断時の落下は、結果として過速に至るため、調速機が反応して非常止め装置が働く。速度を見る方式のため、ロープ切れ以外の原因による過速にも対応できる。
エレベーターのロープには、主ロープ、釣合ロープ、調速機ロープの3種類がある[6]。調速機ロープが非常止め装置の作動にどうつながるかは、二次的な要約の記述にとどまり、原文で確認していないため、本稿では構造の詳細に立ち入らない。
3章の初期機構が「張力の消失」を検出したのに対し、調速機は「速度」を検出する。検出量が変わった点が、原理の違いである。
5. どのくらい はやく なると、とまるの?
5. 1.3倍と1.4倍、そして「少しずつ」止める
5. 作動速度の目安と次第ぎき式
国の しりょうでは、はこの はやさが きまった はやさの 1.3ばいいじょうに なると、まず ちからを きる スイッチが はたらく ことに なって います[2]。
それでも おちる はやさが 1.4ばいを こえる まえに、ひじょうどめ そうちが とめる ことが もとめられて います[2]。
たとえば、ふだんが 1ぷんに 60メートル すすむ エレベーターなら、1ぷんに 78メートル すすむ はやさで ちからを きり、84メートルの はやさに なる まえに とめる、という ことです。
すぐに ぎゅっと とめると、のって いる ひとが あぶないので、すこしずつ つよく ききます[2]。
国土交通省の確認項目の資料では、かごの速度が定格速度(ふだん走る速さ)の1.3倍以上になったら、動力を切る過速スイッチが働くことが求められています。それでも降下が続くとき、定格速度の1.4倍を超えないうちに、非常止め装置がかごの降下を自動で止めることも求められています[2]。ただし、定格速度が遅い機種などでは基準が異なる場合があるとされ、その細部はここでは扱いません。
たとえば定格が毎分60mなら、1.3倍は毎分78m、1.4倍は毎分84mです。これは資料の目安を当てはめた計算で、全ての機種に共通の固定値ではありません。
止め方にも決まりがあります。定格速度が毎分45mを超えるエレベーターでは、非常止め装置を「次第ぎき式」にして、平均減速度を9.8m/s²以下にすることが確認項目に挙がっています[2]。次第ぎきとは、少しずつ強くきいて止める方式です。
9.8m/s²は重力加速度と同じ大きさですが、あくまで平均の上限で、衝撃がゼロになるわけではありません。
止めるときは摩擦で大きな熱が出ます。超高速エレベーターの非常止め装置では、熱の衝撃に強いファインセラミック製の制動片(ブレーキシュー)が開発されました[1]。
国土交通省の確認項目資料では、かごの速度が定格速度の1.3倍以上になると動力を切る過速スイッチが調速機に求められ、降下速度がそれを超えても定格速度の1.4倍を超えないうちに、非常止め装置が自動的にかごの降下を止めることが挙がる[2]。定格60m/minなら78m/minと84m/minとなる。これは現行の一般的な確認項目であり、全機種共通の固定値とは断定しない(定格速度が遅い機種などでは基準が異なる場合があるとされ、原文の細部は本稿で追っていない)。また、法令条文そのものではなく確認項目の資料である点にも注意する。
定格速度が45m/minを超えるエレベーターの非常止め装置は、次第ぎき式(しだいぎきしき)であるか、平均減速度が9.8m/s²以下であるかが確認項目に挙がる[2]。9.8m/s²は重力加速度と同じ値だが、平均の上限であり、衝撃がなくなるという意味ではない。
制動は摩擦による。超高速エレベーター用には、高い摩擦と耐摩耗性・耐熱衝撃性が求められ、ファインセラミック製の制動片が新規に開発された[1]。ここから、制動時に大きな熱が出ると考えられるが、温度の数値は資料にない。
6. まもりは、ひとつだけ なの?
6. 何重にも重ねた安全装置
6. 多重の安全装置と、残る問い
まもりは、ひとつだけでは ありません。ちからを きる スイッチ、モーターの まわりを とめる ブレーキ、いちばん うえや したを いきすぎない スイッチ、そこに ぶつかるのを やわらげる そうちも あります[2]。
いくつも かさねて あって、ひとつだけに たよらない つくりに なって います。
ただし、「ぜったいに おちない」とまでは いえません。
非常止め装置だけがエレベーターを守っているわけではありません。国土交通省の資料には、過速時に動力を切る過速スイッチ、動力が切れたときにモーターの回転を止める制動機、端の階を行き過ぎたときのリミットスイッチ、かごや釣合おもりが底に衝突するのを防ぐ緩衝器などが並びます[2]。
ロープが切れたときの守りは、ロープの太さと本数だけに頼るのでなく、いくつもの装置を重ねた設計だといえます。ロープの本数や安全率の数値は、原文で確かめられなかったので、ここでは書きません。
ただし「絶対に落ちない」とまでは言えません。落下事故の頻度は、ここでは扱いません。
現在の日本のエレベーターには、非常止め装置のほかに、過速スイッチ、動力が切れたときにモーターの回転を止める制動機、端階の行き過ぎを防ぐリミットスイッチ、かごや釣合おもりが昇降路底部に衝突するのを防ぐ緩衝器(ばね式または油入式)などが、確認項目として挙がる[2]。
1850年代に「張力の消失」を引き金にして始まった落下防止は、現在は「速度の検出」を軸に、複数の装置で重ねて守る形に発展している。
残る問いは、主ロープの本数と安全率を定める法令の原文、調速機ロープと非常止め装置の連動の詳細、落下事故の実際の頻度である。これらは今回の資料で確認できていない。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
おでかけの ときに
エレベーターに のったら、かべや ドアの ちかくに、はりがみや ひょうじが ないか、さがして みましょう。ていいんや ていきの けんさの ことが かいて あるかも しれません。
ボタンを むやみに おしたり、とびはねたり しては いけません。おとなの ひとと いっしょに、そっと 見ます。
こうしきの じょうほう
にほんエレベーターきょうかいの ウェブサイトに、エレベーターの しくみを かいた しりょうが あります。
出かけてできること
エレベーターに乗ったとき、壁やドアの近くにどんな表示があるか探してみてください。定員や点検に関することが書かれている場合があります。ボタンをいたずらに押したり、跳ねたりしないでください。
公式情報
日本エレベーター協会のElevator Journalや、国土交通省の安全装置に関する資料には、調速機や非常止め装置の図が載っています。この記事で気になった数値の出どころを、自分の目で確かめられます。
出かけてできること
エレベーターの内部や乗り場に掲示された表示を観察し、記載の種類を比べる。何が掲示されているかは施設によって異なり、この稿では確認していない。
公式情報
日本エレベーター協会の機関誌Elevator Journal(No.3、No.13)と、国土交通省の安全装置の確認項目に関する資料を読み、調速機ロープの働きと、主ロープの本数・安全率の根拠を原文で確かめてみるのもよい。英語の一次資料としてはASMEとOtis社の歴史ページがある。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
日本の現行の仕組みは日本エレベーター協会と国土交通省の資料、オーチスの歴史はASMEとOtis社の資料による。初期機構の細部は二次的な要約に基づく。
- 日本エレベーター協会 Elevator Journal No.3(三菱電機 技術講座) https://www.n-elekyo.or.jp/about/elevatorjournal/pdf/Journal3_09.pdf (調速機・非常止め装置の役割、制動片)
- 国土交通省 エレベーター安全装置の確認項目に関する資料 https://www.mlit.go.jp/common/001066123.pdf (1.3倍・1.4倍、次第ぎき式、多重の安全装置)
- ASME, Elisha Graves Otis https://www.asme.org/topics-resources/content/Elisha-Graves-Otis (1854年の実演)
- Otis社 歴史ページ https://www.otis.com/en/uk/our-company/history (発明年、乗客用第1号)
- Encyclopedia.com, Otis, Elisha Graves https://www.encyclopedia.com/people/science-and-technology/technology-biographies/elisha-graves-otis (初期のバネとラチェットの機構)
- 日本エレベーター協会 Elevator Journal(フジテック) https://www.n-elekyo.or.jp/about/elevatorjournal/pdf/Journal13_07.pdf (ロープの3種類)
なおした ところ
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