1. 光は、目の なかを どう とおるの?
1. 光は目の中をどう進み、どこで信号に変わるのか
1. 角膜から視神経まで ── 光が電気の信号になる道のり
ものが 見えるのは、ものに あたった 光が、目に はいって くるからです。
光は、まず 目の いちばん 前の とうめいな まく、角膜を とおります[1]。それから 目の おくの 網膜に、小さな 絵のように うつります。
網膜には、光を うけとる 細かい ものが、たくさん ならんで います。ひとの 目では、ぜんぶで 1おく こ くらいと いわれます[2]。ここで 光は、電気の しんごうに かわります。しんごうは、視神経という 道を とおって、のうへ むかいます。
ところが、この とき 目の おくの 絵は、さかさまです。
光は、まず目の一番前にある透明なドーム状の角膜を通って、眼球の中に入ります。角膜は、網膜の上に光が像を結ぶのを助けています[1]。このあと光は水晶体を通ります。水晶体は、近くを見るときは厚く、遠くを見るときは薄くなって、ピントを合わせるといわれます[3]。
網膜に届いた光を受け止めるのは、錐体と桿体という視細胞です。数は、桿体が約1億個、錐体が約600万個とされ、資料によって少し幅があります[2]。視細胞は、光を色・形・動きといった情報に変えます[2]。ここで光は、電気的な反応という神経の言葉になります。
その信号は、網膜の中で神経節細胞に伝わり、軸索が束になって視神経となり、脳へ向かいます[1]。ところで、視細胞が約1億個あるのに、視神経の線維は約100万本です[4]。数の差は大きく、まとまり方も場所によって異なります。目の奥では、すでに情報が整理されているのです。
そしてもう一つ。この網膜の像は、景色と上下左右が逆になっています。
光は透明なドーム状の角膜から眼球に入り、角膜が網膜上に像を結ぶ助けをする[1]。続く水晶体は、毛様体筋とチン小帯の働きで厚みを変え、近くを見るときは厚く、遠くでは薄くなってピントを合わせるとされる。ただし調節の細部は資料により説明が分かれ、加齢で弾性が落ちると近くが見えにくくなる(老眼)[3]。
網膜では、錐体と桿体という視細胞が光を受け、色・形・動きなどの情報に変える[2]。数は桿体が約9千万〜1億個、錐体が約5〜6百万個で、数え方により差がある[2]。視物質ロドプシンでは、ビタミンAの仲間のレチナールが光で形を変え、それが引き金となって膜電位が変わる。分子の細部は暗順応の記事に譲り、ここでは「光が電気的な反応になる」点だけを押さえる。
信号は視細胞から双極細胞、神経節細胞へ進み、神経節細胞の軸索が視神経乳頭に集まって視神経になる[1]。その線維は約100万本で、約1億の視細胞に比べて桁が二つ小さい[4]。ただし、まとまり方は場所によって大きく違う。中心窩では錐体が最も密集し、桿体はほとんどない一方[1]、周辺では多数の視細胞の情報が1本にまとめられる。
こうして信号が脳へ届く。ところが、網膜に結ばれた像そのものは、外の景色と上下左右が逆である。
2. 目の おくの 絵が さかさまなら、どうして さかさに 見えないの?
2. 像が逆さなのに、世界が逆さに見えないのはなぜか
2. 倒立像と逆転めがね ── 「正立に見える」ことは、像の向きに依存するか
カメラの ように、レンズで 光を あつめると、うつる 絵は さかさまに なります。目の おくの 網膜も、同じです。
では、のうが 絵を ひっくり返して いるのでしょうか。じつは、そういう 係が あるわけでは ありません。
むかし、アメリカの ストラットンという 人が、こんな じっけんを しました。1890年代に、上下が ぎゃくに 見える めがねを、自分で つけ つづけたのです[5]。
はじめは、ものが さかさまに かんじられて、手を のばしても うまく とどきません。ところが 数日 すると、手の うごきが 少しずつ うまく なって、ものが まっすぐに 見える ときも あったと つたえられます[5]。
「さかさ」も 「まっすぐ」も、のうと 体の やくそくごとの ようなもの。もちろん、本当の しくみは、もっと むずかしいと されて います。
ストラットンは1890年代に、網膜の像を正立にする特殊なめがねを、自分でかけ続けました。最初は、物が逆さに感じられ、手を伸ばしても思うように届かなかったと伝えられています。ところが数日たつと、手の動きが少しずつ改善し、正立して見える瞬間もあったと報告されています[5]。
この実験から、ストラットンは「網膜像が逆さであることは、正立した見え方に必須ではない」と結論づけました[5]。日数や、完全に正立になったかどうかは、資料によってゆれがあります。
ここで、「脳が像をひっくり返し直している」と考えるのは、よくある思いちがいです。脳の中に、回転させる装置があるわけではありません。実験が示したのは、見え方の上下が、手を動かしたときの感覚とつながって決まっていく可能性です。
世界が逆さに見えないのは、「上」や「下」が、手や体の感覚と結びついているからかもしれません。少なくとも、逆さに見えるかどうかは、像の向きだけでは決まらないようです。
網膜の像は、レンズの働きで、外の景色と上下左右が逆の倒立像になる。17世紀のデカルトが、取り出した牛の目の網膜の位置にスクリーンを置き、小さな倒立像を示したという話も伝えられる。ただし逸話として語られるもので、ここでは断定しない。
問題は、その像が逆なのに、なぜ世界が逆さに見えないのかである。ストラットンは1890年代に、網膜像を正立にする逆転めがねを自分でかけ続けた。最初は物が逆さに感じられたが、数日たつと動作が少しずつ改善し、正立して見える瞬間もあったと報告されている。彼は「上下逆の網膜像は、正立した見え方に必須ではない」と結論した[5]。
この解説の日数は、7〜8日など資料により幅があり、完全に正立になったかどうかも一致しない。したがって「数日で慣れていった」程度が、資料の範囲で言えることである。また被験者は1人で、主観の報告に基づく実験であることにも注意したい。
注意すべき誤解が一つある。「脳が像を180度回転して戻している」という説明は、回転処理があるという意味ではない。実験が示唆するのは、「上」「下」が視覚だけでなく、手を伸ばす・歩くといった運動の経験と結びついて定まる、という見方である。
ここまでは、像の向きの話だった。では、像そのものに「欠け」があったら、どうなるのか。
3. 目には、見えない ところが あるって ほんとう?
3. 片目には「見えない場所」がある ── 盲点はなぜ気づかれないのか
3. 盲点 ── 視細胞のない場所を、視覚はどう扱うか
じつは 目の おくには、光を かんじる ところが ない ところが あります。網膜の うえで、血の くだや、視神経が とおる ところだからです[6]。ここを盲点と いいます。
でも ふだんは、ぜんぜん 気づきません。ひとつは、右と 左の 目の 盲点が、同じ ばしょでは ないからです。かたほうの 目で 見えない ところを、もう かたほうの 目が 見て います[7]。
もうひとつ。かたほうの 目だけで 見て いても、あなは 見えません。のうが まわりの ようすから、うめて いると 考えられて います[6]。
目の奥の網膜には、視細胞が存在しない部分があります。ここは、血管や視神経が眼球から出ていく通り道だからです。この部分に対応する視野の場所が、盲点です[6]。
それでも穴に気づかない理由は、二つあります。一つ目は、両目で見ているときは、左右の盲点が視野の別の場所にあることです。片方の目の欠けを、もう片方の目が補います[7]。
二つ目は、片目だけでも、穴が見えないことです。東京大学の紹介する研究では、盲点を囲むドーナツ型の光を当てると、盲点の内側には光が当たっていなくても、内側にも光があるように感じました[6]。見えない部分を、周りの情報から脳が補っていると考えられます。
つまり盲点は、「暗く見える場所」ではありません。何も見えていないのに、見えているように感じる場所です。次の章で、これを自分の目で確かめてみましょう。
盲点に対応する網膜の部位は、血管と視神経が通るため、視細胞を欠く[6]。したがって片目で見る限り、視野の中に必ず、受容器のない場所ができる。それでも日常では欠けに気づかないのは、少なくとも二つの機構が考えられるためである。
第一は両眼の補い合いである。左右の目の盲点は視野の同じ位置にはないので、一方の欠けを他方が補う[7]。第二は、片目でも欠けを意識しないことである。東京大学の紹介する研究では、盲点を囲むドーナツ型の光を提示すると、盲点内に光が当たっていないのに、内側にも光があるように感じられた[6]。
この現象は、「脳が周囲の情報から埋めている」と解釈されることが多い。ただし東京大学の記事は「補完」という語で断定していない。「補っていると考えられる」という強さで読むのが適切である。
ここで一つ、注意しておきたい。盲点が「ある」ことと、「見えない」ことは別である。視細胞がなければ、そこから届く信号はない。それでも知覚が途切れないのは、信号のない場所を、視覚が空白として扱っていないことを意味する。
4. 盲点を、紙と えんぴつで 見つけて みよう
4. 紙と鉛筆で、自分の盲点を探してみる
4. 自分の盲点を確かめる ── 条件と、結果の読み方
白い 紙に、左がわに ×、右がわに まるを、5センチ くらい はなして かきます。
左の 目を とじて、紙を 顔の 前に もちます。右の 目で、×を じっと 見ます。ゆっくり 紙を 近づけたり とおざけたり すると、あるとき、まるが すっと きえる ことが あります。
きえた ところが、盲点です。まわりの 白と 同じ いろに うまって、まるで 何も なかった ように 見えるでしょう。
ただし、むりを しないで、目が つかれたら やめましょう。
白い紙に、×印と丸を、5cmほど離して書きます。×は左、丸は右にします。右目だけで×を見つめ、左目は閉じます。紙を顔の前に持ち、ゆっくり近づけたり遠ざけたりしてみてください。ある距離で、丸が見えなくなります。
見えなくなった場所が、盲点です。紙の白地に溶けこんで、穴があいたようには見えないでしょう。逆に丸が「消えて、白で埋まる」ことに、驚くかもしれません。
見え方は人によって違い、距離は一定ではありません。目の疲れを感じたら、すぐにやめて休んでください。
確かめ方は簡単である。白い紙に×と丸を5cmほど離して書き、右目で×を見つめたまま、紙を前後に動かす。丸が消える距離があれば、そこが盲点にあたる。
消えた場所が黒い穴ではなく、背景と同じ白に見える点に注目したい。これは、視細胞がない場所の「欠け」が、そのまま見えるのではなく、周囲の情報を使った補完に近い形で知覚されることと整合する。ただし、この簡易な体験では、補完の仕組みそのものは分からない。
むしろ体験からは、「見えていると思っている世界の一部は、受け取った光の全部ではない」という感覚を得るのがよい。見え方には個人差があり、距離は一定ではない。無理をせず、疲れたら中止すること。
5. 目から のうへ、まだ 見て みたい ことは?
5. 目の奥の1億個が、脳で何になるのか
5. 色や明るさの情報は、脳にどう届くのか
のうに ついた しんごうは、右と 左で、じつは ふしぎな 分かれ方を します。右がわの のうは、りょう方の 目の 左がわの けしきを うけとります[1]。
さかさまの 絵、見えない ところ、それを うめる のう。目は カメラの ように 見えて、じつは のうと いっしょに 見せて いる ものなのかも しれません。
つぎは、色が どうやって わかるのか、くらい ところで なにが おきるのか。そんな ことも、さがして みたく なります。
脳に届いた信号は、左右で不思議な分かれ方をします。脳の右側は両目の左の視野からの情報を、脳の左側は両目の右の視野からの情報を受け取ります[1]。
ここまでの話を、一文にまとめるなら、こうなります。目は景色を写す窓ではなく、光を受け取って信号にするところまでを担い、「どう見えるか」は脳と体の感覚が作る部分が大きい、と考えられます。
色の見え方は、錐体の3つの種類が関わります。暗い所で見える仕組みでは、ロドプシンの働きが鍵になります。どちらも、このサイトの別の記事が詳しく扱っています。目から脳へ届く信号の中で、色や明るさがどう分けられるのか、気になった方は読み進めてみてください。
視覚の経路では、左右の視野の情報が脳の反対側に送られる。脳の右側は両眼の左視野の情報を、脳の左側は右視野の情報を受け取る[1]。ここまでの内容は、光が電気信号になる段階と、その後の処理の段階を分けて読むと整理しやすい。
確かな点は、視細胞が光を信号に変えること、盲点には視細胞がないこと、網膜像の向きが見え方の上下を決めきらないこと、である。一方、盲点の補完がどの段階で行われるのかは、東京大学の記事も断定していない。
この記事で触れなかった色覚(錐体3種の応答)と暗順応(ロドプシンの再生)は、同じサイトの別記事が詳しく扱っている。原典としては、東京大学の盲点研究の紹介記事と、ストラットンの1897年の報告を扱った解説を読むのがよい。原論文にあたると、実験条件や感覚の変化の記述を直接確かめられる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:医学の解説書、学会・大学の解説、辞典の項目、実験の解説を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- MSDマニュアル家庭版「目の構造と機能」。https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/20-%E7%9C%BC%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E7%9C%BC%E3%81%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%AD%A6/%E7%9B%AE%E3%81%AE%E6%A7%8B%E9%80%A0%E3%81%A8%E6%A9%9F%E8%83%BD (角膜、視神経、視野の左右、中心窩について)
- American Academy of Ophthalmology「What does the retina do?」。https://www.aao.org/eye-health/tips-prevention/what-retina-does (視細胞の数と、光を情報に変える働きについて。英語の資料)
- コトバンク「水晶体」。https://kotobank.jp/word/水晶体 (水晶体の厚みの変化とピント合わせについて。辞典の項目)
- 日本生理学会の解説。https://www.physiology.jp/content/7574/ (視神経の線維の数について)
- Stratton(1897)の逆転めがねの実験に関する解説(インスブルック大学の実験概説)。https://www.uibk.ac.at/media/filer_public/7a/1c/7a1ca04d-72fc-468f-b87e-ec7ae3d9571a/cortex-the-world-is-upside-down.pdf (逆転めがねの実験と結論について。英語の資料)
- 東京大学 UTokyo FOCUS「盲点の研究」。https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/a_00394.html (盲点の位置と、ドーナツ型の光の実験について)
- コトバンク「盲点」。https://kotobank.jp:443/word/%E7%9B%B2%E7%82%B9-142119 (両目で欠けを補い合うことについて。辞典の項目)
なおした ところ
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