1. まっくらでも、なぜ むきが わかるの?
1. 根は下へ、茎は上へ
1. 重力屈性とは何か
ねが したへ、くきが うえへ のびる。これを、重力屈性と いいます[1]。むずかしい ことばですが、「じゅうりょくの むきに あわせて、まがる せいしつ」と おぼえれば だいじょうぶです。
うえも したも みえない つちの なかでも、ねと くきは むきを まちがえません。しょくぶつは、じゅうりょくの むきを、からだの どこかで かんじて いるようです。
重力屈性という性質
地上では、根は重力の向きへ、茎はその反対へ伸びます。この性質を重力屈性といいます[1]。光の見えない土の中でも、種は上下を取りちがえずに育ちます。
感じるための場所が、どこかにある
人の目や耳のような器官がない植物は、重力を感じる場所を、体のどこかに持っているはずです。それは根のどこなのか。最初にこの問いに迫ったのが、ダーウィンでした。
地上では、茎は重力と反対向きに、根は重力の向きに成長する。この性質を重力屈性という[1]。光の届かない土中でも、根と茎は向きを間違えない。
動物には平衡感覚の器官があるが、植物にはそのような器官が見当たらない。では植物は、重力の向きをどこで、何を使って感じているのか。以下では、その手がかりを歴史順に追う。
2. ダーウィンは、ねの さきを きって みた
2. ダーウィンが根の先を切った
2. 1880年、ダーウィンの先端実験
いきものの 進化で ゆうめいな ダーウィンは、しょくぶつの うごきも しらべました。1880年に 本に まとめた 中に、ねの さきを きる じっけんが あります[4]。
ダーウィンの 本には、さきを きられた ねは じゅうりょくが わからなく なり、あたらしい さきが そだつと、また ふつうに まがるように なったと 書かれて います[4]。
ダーウィンは、ねの さきを 「からだの つくりが かんたんな 動物の のうの ように はたらく」と たとえました[5]。のうが あると いったのでは なく、「のうの ように」と いう たとえです。
先端を切ると、重力が分からなくなる
ダーウィンは1880年の『植物の運動力』に、根の先端を切り取る実験を記しています。切られた根は重力に反応しなくなり、新しい先端が育つと、また正常に戻ったといいます[4]。
先端が重力を感じ、その刺激が、曲がる部分へ伝わっている。ダーウィンはそう考えました[4]。
「下等動物の脳」というたとえ
同じ本の結論で、ダーウィンは根の先端を「下等動物の脳のように働く」と表現しています[5]。根に脳があると言ったのではなく、感覚を受け取って動きを指図する役目がそこにある、という比喩です。ただしダーウィンは、先端の中の何が重力を感じるのかまでは、まだ知りませんでした[4]。
3. さきの さいぼうの なかで、おもい つぶが しずむ
3. 根冠の細胞の中で、重い粒が沈む
3. 根冠のコルメラ細胞が重力を感じる──デンプンをためた粒が沈んで伝える説
ねの いちばん さきには、根冠と いう ぼうしのような ところが あります。その 中の 細胞に、でんぷんを たくさん ためた、おもい つぶが はいって います[2]。この つぶは 平衡石と よばれます。
ペットボトルに ビーだまを いれて たてると、したに たまります。ねの さきでも、おもい つぶが じゅうりょくの むきへ しずんで、「こっちが したです」と ばしょで しらせると かんがえられて います[2]。ただし 本当は、つぶは ビーだまのように かたくは ありません。
この かんがえの はじまりは、1900年ごろまで さかのぼります[2]。
根冠のコルメラ細胞
根の先端を覆う根冠のなかでも、重力を感じる場所は、コルメラ細胞と呼ばれる細胞だとされています[2]。ここで感じる場所と、実際に曲がる場所は別で、曲がるのは少し上の、よく伸びる部分の細胞です[2]。
デンプンをためた粒が沈む
コルメラ細胞には、デンプンを多量にためた重いアミロプラストという粒があり、平衡石とも呼ばれます。アミロプラストが細胞の中で重力の向きに沈み、信号のもとになるという考えが、デンプン平衡石説です[2]。説の起源は、ハーバーラントとネメツが1900年ごろに出した提案にさかのぼります[2]。
日本語の解説でも、根を横にして重力の向きを変えると、アミロプラストが新しい下側へ移動し、その後はほとんど動かないと紹介されています[3]。
4. しらせを うけた ねは、どうやって まがるの?
4. 信号が届くと、根は曲がる
4. オーキシンの偏りと根・茎の逆の応答
つぶが しずんだ あと、しょくぶつは 「オーキシン」と いう ホルモンの ながれを かえます[2]。オーキシンは、しょくぶつの なかで はたらく ものの なまえです。
ねの したがわの 生長が おさえられて、ねは したへ まがります。この ときの うごきは、つぶが しずんでから すう分の うちに はじまると いわれます[2]。
5. しずんだ あと、なにが つたえるの?
5. 沈んだ位置を、どう伝えるのか
5. 2023年、LZYタンパク質の報告
おもい つぶが しずむと いう かんがえは、1900年ごろに でて いました。けれど、その あと 「ここが した」という しらせが、どうやって さいぼうの ひょうめんまで つたわるのかは、ながい あいだ わかって いませんでした[6]。
2023年、日本の 基礎生物学研究所の 教授たちが、その ヒントを 見つけたと 発表しました。「エルゼットワイ」と いう たんぱくの なかまが、ねの さいぼうで、つぶから さいぼうの まくへ うつって、つぶの いちを つたえると いう ものです[6]。
100年以上の空白
平衡石が沈むという説は1900年ごろに出ましたが、その位置の情報が細胞の表面へ、どう伝わるのかは、長く分かっていませんでした。基礎生物学研究所のプレスリリースは、この仕組みを「100年以上」の間、解けなかったと述べています[6]。
LZYタンパク質が動く
2023年8月、基礎生物学研究所の森田(寺尾)美代教授らが、科学雑誌『サイエンス』に発表しました。LZYというタンパク質が、根の細胞でアミロプラストから細胞膜へ移ることで、アミロプラストの位置、つまり重力の向きを細胞膜に伝えます。それがオーキシンの輸送の調節につながる、という報告です[6]。
もちろん、平衡石説の全部が決着したわけではありません。ここで解けたのは、位置の情報を伝える部分についての報告です。
6. うちゅうでは、どこへ のびるの?
6. 宇宙では、向きが決まらない
6. 無重力での成長方向
宇宙の じゅうりょくが ほとんど ない ところでは、くきも ねも、かってな むきに のびます[7]。じゅうりょくを かんじる しくみが、はたらかないからだと いわれて います。
そこで、ひとつの むきから ひかりを あてます。すると、くきは ひかりの ほうへ、ねは はんたいへ のびます[8]。
ちじょうでは あたりまえに おもえた 上と 下は、じつは じゅうりょくを かんじる しくみが あって、はじめて きまって いたのです。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
おうちで かんがえて みよう
にわや ベランダに、まめや たねを うえた 人は、めが 出たとき ねと くきが どちらへ のびて いるか 見て みましょう。おおきな はちの 土を ほりおこすのは やめて、そっと 見るだけに します。
もっと しりたい とき
「じゅうりょくくっせい」「ダーウィン しょくぶつの うんどうりょく」を としょかんで さがして みましょう。
今日できること
発芽した豆や種が、根と茎をどの向きに伸ばしているかを観察してみます。鉢を横に倒したときの様子を、写真で数日おきに記録するのも一つの方法ですが、鉢の中の根を掘り返したりはしません。
もう少し知りたいとき
JAXAの「宇宙で植物はどう育つ?」[1]や、有人宇宙技術部門のFAQ[7][8]は日本語で読めます。基礎生物学研究所のプレスリリース[6]には、LZYの発見が日本語でまとめられています。
今日できること
発芽した種を観察し、根と茎の向きを調べる。鉢を横に倒して数日おきに撮影すれば、屈曲の様子を記録できる。根を掘り返して傷つけない。
資料をあたる
基礎生物学研究所のプレスリリース[6]は日本語版がある。重力感受の総説[2]は英語だが、図から根冠と平衡石の位置関係が読める。国内の解説[3]は日本語で、平衡石の沈降を中心に紹介している。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の事実は、次の資料を突き合わせて書きました。
- JAXA「宇宙で植物はどう育つ?」 https://humans-in-space.jaxa.jp/biz-lab/case/detail/003668.html (重力屈性の定義)
- Journal of Experimental Botany (2015) "New insights into root gravitropic signalling" https://academic.oup.com/jxb/article/66/8/2155/496922 (コルメラ細胞・平衡石説・オーキシンの偏り)
- 「化学と生物」55(9)「植物の重力屈性の分子メカニズム」 https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=854 (アミロプラストの沈降の日本語解説)
- Popular Science Monthly, Vol. 38 (1890) "The Root-Tip" https://en.wikisource.org/wiki/Popular_Science_Monthly/Volume_38/November_1890/The_Root-Tip (ダーウィンの先端実験の引用)
- Darwin Correspondence Project「The power of movement in plants」 https://www.darwinproject.ac.uk/letters/darwins-works-letters/movement-plants (「脳のように働く」のたとえ)
- 基礎生物学研究所 プレスリリース(2023年8月) https://www.nibb.ac.jp/press/2023/08/11.html (LZYタンパク質の発見)
- JAXA 有人宇宙技術部門 FAQ(無重力での成長方向) https://humans-in-space.jaxa.jp/faq/detail/000743.html (無重力では勝手な方向に伸びる)
- JAXA 有人宇宙技術部門 FAQ(光を当てる方法) https://humans-in-space.jaxa.jp/faq/detail/000744.html (光屈性を使って向きをそろえる)
- Wikipedia「重力屈性」 https://ja.wikipedia.org/wiki/重力屈性 (根と茎でオーキシンへの反応が逆になること。補助的)
なおした ところ
更新履歴
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