1. 夜の 神社の 森で、なにが とんで いるの?
1. 日がくれた神社の森から、座布団が飛び出す
1. 夜行性の樹上生活者 ── 樹洞で休み、夜に滑空する
夕がた、神社の 大きな 木の あなから、ムササビが かおを 出します。ひるの あいだは、あなの 中で ねて いました[1]。
ムササビは、木の 上で くらす、リスの なかまです。夜に うごいて、木の め、は、はな、み、たねなどを 食べます[4]。
木から 木へ うつる ときは、まえあしと うしろあしの あいだの まくを ひろげます。その すがたは、大きさも かたちも、ざぶとんの ようだと いわれます[3]。
でも、ざぶとんの かたちは、どうやって つくるのでしょう。
2. ざぶとんの かたちは、どこで きまるの?
2. 長さ約8cmの骨が、体を座布団に変える
2. 針状軟骨 ── 約8cmの骨が飛膜の形を決める
ひみつは、てくびの ちいさな ほねに あります。ながさは やく 8センチメートル。プラスチックの つまようじ くらいの かたさだと いわれます[1]。
ふだんは、うでの ほねに そって かくれて います。とぶ ときに、ぐいっと 90どまで ひらきます。すると、からだが しかくい ざぶとんの かたちに なります[1]。
ムササビは 大きな どうぶつです。からだの 長さは 27〜48センチメートルくらい、おもさは 700グラムから 1キログラムを こえるくらいです[2]。
この ざぶとんで、どう まがったり、バランスを とったり するのでしょう。
3. とびながら、どう まがるの?
3. 手首の角度としっぽで、空中の向きを整える
3. 翼端としての手首と、バランサーとしての尾
てくびの ほねを うごかして、かくどを かえると、とぶ はやさや とおさ、すすむ みちを かえられると かんがえられて います[6]。ひこうきの つばさの さきの ところと、にた はたらきだとも いわれます。
ながい しっぽも、だいじです。とんで いる あいだ、からだが ぐらぐらしない ように、バランスを とる やくめを します[1]。じめんに おりる まえに、ブレーキに なると いう せつめいも あります。
では、ムササビは どれくらい とおくまで とぶのでしょう。
4. ふだんは、どれくらい とぶの?
4. 野外の記録は、100mより17〜33m
4. 滑空比と水平距離 ── 野外観察の数値を読む
神社の 森 5か所で、ムササビが とぶ ようすを しらべた けんきゅうが あります。とんだ きょりの へいきんは、しらべた ばしょに よって 17〜33メートルでした[5]。
これは、学校の プールの 長さ(25メートル)と おなじ くらいです。100メートルを こえる きろくも ありますが、すくなく、まわりに 木が ない ばしょなどで 見られた ようです[5]。
とぶ はやさは、1びょうで 7〜13メートルほど。じそくに すると 25〜48キロメートルくらい です[5]。
こんなに とべるのに、どうして ふだんは みじかい のでしょう。
神社の森5か所での野外観察では、ムササビの滑空の水平距離の平均は、調査地によって17.1〜33.1mでした。25mプールの端から端までと、ほぼ同じくらいです。水平方向の速さは、秒速7.0〜13.3m。時速にすると約25〜48kmです[5]。
よく使われる「滑空比」は、水平に進んだ距離を、落ちた高さで割った数字です。このムササビでは典型的に1〜3で、1m落ちるあいだに1〜3m進むという意味です。
最長の記録は、報告によって100mを超える数字があります。まれで、間に木がない場所に限られました[5]。紹介によって数字が少しずつちがい、最長は115mとも、120m超ともいわれます[9]。そこで本文では「100mを超えることもある」程度にとどめます。
最長の記録とくらべると、ふだんの滑空はずっと短いことになります。ふだんは、持っている力をすべて使っていないように見えます。
安藤・白石(1993)は、神社林5か所の野外観察で、滑空の水平距離の平均が調査地により17.1〜33.1m、滑空比は典型的に1〜3、水平速度は秒速7.0〜13.3mだったと報告した[5]。滑空比は水平距離を落下した高さで割った値で、1〜3なら、1m落ちる間に1〜3m進む。秒速を時速に直すと約25〜48kmである。
最長の滑空は、同論文の要旨にある115mがまれな例で、間に木がない場所に限られた。ほかの紹介では120m超、160mとするものもあり、数字は資料によって割れる[9]。そのため、ここでは「100mを超えることもある」と幅で述べる。
注意すべきは、平均値が最長記録より大幅に短い点だ。同論文は、なぜ動物が最大の滑空力で飛ばないのかを論じている[5]。その理由は、次の章で考える。
5. ふだんの とびかたが みじかいのは、どうして?
5. ふだんの滑空が短い理由は、まだ分かっていない
5. 最大距離を求めない滑空 ── 安定性と制御という見方
ムササビは、ふだん 17〜33メートルくらいを とびます。でも、どうして みじかいのかは、むずかしい もんだいで、こたえは まだ はっきり していません。
ひとつの ヒントが、アメリカに います。ミナミムササビという、ムササビの なかまです。みじかい ところを とぶ とき、いちばん とおくへ とぼうと しないで、あんていして おりる ことを だいじに して いると かんがえられて います[7]。
ただし、これは べつの どうぶつの けんきゅうです。ムササビも 同じとは 言い切れません。
でも、ねらった 木に ぴたりと おりる ために、ほどほどに とぶのは、うなずける はなしです。
6. モモンガは、ムササビと どう ちがうの?
6. モモンガはムササビよりずっと小さく、山の森にすむ
6. ニホンモモンガ ── ムササビとの体格差と生息環境
モモンガも、まえあしと うしろあしの あいだの まくで すべります[8]。でも、ずっと 小さい のです。
からだの 長さは 14〜20センチメートルくらい、おもさは 150〜220グラムほど。ムササビの 3ぶんの 1より かるい です。
やまの 森に すんで、夜に 木の は、め、き の かわ、たね、キノコを 食べます[8]。
7. ムササビの いえは、どんな 森?
7. ムササビの家になる、神社の大木の森
7. 社寺林と樹洞 ── 生息地としての大木の森
かながわけんで、神社や おてらの 森を 中心に 691か所を しらべた ところ、248か所で ムササビが いる しょうこが 見つかりました[4]。ふんや、すがたを 見た ことなどが しょうこです。
ムササビは、あなの ある 大きな 木が ないと くらせません。ところが、そんな 木の 森は、へって いたり、ばらばらに なったり して います[2]。
ムササビの とびかたは、木と 木が すぐ そばに ある 森に あわせて できて いる のかも しれません。
神奈川県の調査では、神社やお寺の森を中心に691か所を回り、そのうち248か所で、ムササビの生息が確認されました。生息の証拠は、糞や目撃などです[4]。大木の樹洞がある森が、ムササビの家になっているわけです。
ところが、社寺林の伐採や、樹洞ができるような大木の森の減少と、森どうしの分断が、ムササビの生息をおびやかしているといわれます[2]。滑空は距離に限りがあるので、木と木がつながる森が大切なのだと考えられます。
夜の森を座布団が飛ぶ光景は、昼のあいだ眠る穴と、飛び移れる大木が続く森があって、はじめて見られるものです。
神奈川県の調査では、社寺林を中心に691か所で現地調査を行い、うち248か所で生息を確認した(直接観察19か所、糞239か所、重複あり)[4]。大木の樹洞がある森が、ムササビの生息地になっている。
京都府の資料は、社寺林の伐採、天然林や発達した二次林の減少、樹洞ができるような林の減少とその孤立化を脅威として挙げている[2]。平均17〜33mという滑空の実態と合わせると、木と木のあいだが離れすぎない森が、滑空する動物にとって重要だと考えられる。この点は資料の記述ではなく、数値からの推論である。
なお、森の孤立化と滑空距離の関係を直接調べた研究は、今回の資料には含まれていない。この問いは、読者が確かめる余地のあるテーマだ。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
かみで ひこうきを つくって、おなじ ところから とばして みましょう。どれだけ すすんだか、あるいて はかります。おりかたを かえると、すすむ きょりが どう かわるか、くらべて みましょう。ひとに むけて とばさないように します。
出かけてできること
ひるに、おうちの ひとと 神社や 大きな 木の ある こうえんへ いって、木に あなが ないか、さがして みましょう。木には のぼらず、ゆびを いれたり しません。
こうしきの 情報
すんで いる ところの はくぶつかんや、じちたいの ホームページに、ムササビの しょうかいが のって いる ことが あります。
今日できること
紙飛行機を作って、同じ場所から同じ強さで飛ばし、進んだ距離を歩いて測ってみてください。折り方を変えると、距離がどう変わるかを比べられます。人に向けて飛ばさないようにします。
出かけてできること
昼のうちに、家の人と神社や大きな木のある公園へ行き、樹洞がありそうな木を探してみましょう。木には登らず、穴に手や物を入れないようにします。
公式情報
お住まいの自治体や、近くの博物館のホームページに、ムササビの紹介や観察会の案内が載っていることがあります。
今日できること
紙飛行機を同じ場所から同じ強さで飛ばし、進んだ距離を測る。折り方を変えると距離がどう変わるかを比べられる。人に向けて飛ばさない。
出かけてできること
昼のうちに、家の人と神社林や大木のある公園へ行き、樹洞のできていそうな木を探す。木には登らず、穴に手や物を入れない。
公式情報
自治体のレッドデータブックや博物館の資料(参考にした情報源の[2][3]など)では、地域ごとの生息状況の書かれ方を比べるのもよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
体のしくみと生態は自治体・博物館の資料と県の調査報告に、滑空の数値は学術誌の論文要旨に、海外の話は学会の発表要旨に依拠する。最長記録や体重の上限は資料で数字が割れるため、幅で書いた。
- 飯能市「きっとす」令和4年1月(夜の森を滑空する動物、ムササビ) https://www.city.hanno.lg.jp/material/files/group/65/26758920aecb2.pdf (針状軟骨・尾・樹洞)
- 京都府レッドデータブック「ムササビ」 https://www.pref.kyoto.jp/kankyo/rdb/bio/db/man0018.html (大きさ・生息地の減少)
- 宮崎県総合博物館「わ通信 vol.9」(2018) https://miyazaki-archive.jp/museum/common/images/sec/download/wakuwaku_vol9.pdf (座布団のような姿)
- 神奈川自然誌資料27「神奈川県におけるムササビの分布」(2006) https://nh.kanagawa-museum.jp/assets/icp/pdf/27_27_40.pdf (分布・食べ物・社寺林の調査)
- Andō & Shiraishi (1993) 哺乳類科学 18(1) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jmammsocjapan/18/1/18_1_19/_article/-char/en (野外の滑空距離・速度)
- Smithsonian Magazine "How Squirrels Fly" https://www.smithsonianmag.com/science-nature/how-squirrels-fly-37372905/ (手首の軟骨の働きの紹介)
- SICB abstract: Kinematics of short glides in the Southern Flying Squirrel https://sicb.org/?p=32422 (別種の短い滑空の研究)
- 大分県レッドデータブック「ニホンモモンガ」 https://www.pref.oita.jp/10550/reddata2011/pdf/rdb/04/hn013.pdf (モモンガの生態)
- orbis-pictus「ムササビ」 https://orbis-pictus.jp/en/article/musasabi.php (最長滑空の紹介)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。