1. きる まえの ニンニクの なかは、どうなって いるの?
1. 切る前のニンニクの中では、材料と道具が別々にしまわれている
1. 区画化 ── アリイン(基質)とアリイナーゼ(酵素)の隔離
ニンニクの さいぼうの なかには、アリインと いう ざいりょうが たくさん ためて あります。これだけでは、あの にお いの ぶきには なりません[1]。
ぶきに かえるには、アリイナーゼと いう こうそが いります。こうそは、ざいりょうを べつの ものに かえる はたらきを する ものです。ふだんは、ざいりょうと こうそが、さいぼうの べつの ばしょに しまわれて いるようです[2]。
たとえば、ざいりょうが はいった はこと、どうぐが はいった はこが、べつべつに おいて ある ようすです。かじられたり きられたり して はこが こわれると、ふたつが まざって、ぶきが できはじめます[2]。ただし、ほんとうの さいぼうは、はこよりも ずっと ふくざつです。
武器になる前の「材料」
新鮮なニンニクの細胞には、アリインという物質がたくさんためられています。調理などで組織が傷つくと、アリインは抗菌作用などをもつ、硫黄を含む多様な物質に変わります[1]。
材料と酵素は別の場所に
日本植物生理学会のQ&Aによると、ネギの仲間のこうした物質は、植物が外敵から身を守るためのものです。傷つくと、ニンニクの細胞質にあったアリイン類(材料)が、液胞にあるアリイナーゼという酵素と混ざり合い、反応が始まります[2]。
材料と道具をわざわざ別々にしまっておき、必要なときにだけ混ぜる。この構造のおかげで、ニンニクは自分の細胞を傷めずに、組織が傷ついたときに強い物質を作れると考えられます。
2. きらなくても、タマネギは みはりを して いる?
2. 切られなくても、タマネギは見張りをしているのか
2. 細胞質型アリイナーゼと「二段構え」の仮説
タマネギの アリイナーゼは、かたちが ふたつに わかれる ようです。2024ねんの けんきゅうで、ある タマネギの なかまの いでんしを しらべたところ、アリイナーゼは 64こ ありました。そのうち 14こは、えきほうに はこばれる めじるしを もち、50こは もって いませんでした[3]。
めじるしの ない 50こは、さいぼうの なかに とどまって、きずが なくても すこしずつ ぶきを つくって いるのでは、と けんきゅうした ひとたちは かんがえました。けれども、これは「そうかも しれない」と いう かせつです[3]。
この かんがえでは、ふだんは すこしの みはりを して、かじられたら たくさん つくる、ふたつの まもりが ある ことに なります[3]。
64個のうち、信号をもたない50個
2024年のタマネギのゲノム解析では、調べた1系統のゲノムでアリイナーゼが64個見つかりました。このうち14個は、液胞へ運ばれるための信号配列をもち、50個はもっていませんでした[3]。64個のうち50個というと、およそ78%にあたります。
「切らなくても作る」は仮説
信号配列のない型は細胞質にとどまり、細胞が傷つかなくても、材料のイソアリインから防御物質イソアリシンを作っているのではないか、と研究者たちは考えました[3]。これはゲノム解析からの推定で、仮説の段階です。ニンニクで同じことが分かっているわけでもありません。
二段構えの見方
同じ論文は、無傷のときは細胞質型が一定の防御を保ち、組織が壊れると液胞型が生成を増やす、という二段構えの見方を示しています[3]。見張りが日ごろから立ち、襲われると応援が来る、というイメージです。
無傷の細胞でも防御はあるのか。この問いに、2024年のタマネギのイソアリシン関連遺伝子の網羅解析が、一つの仮説を与えた。調べた系統(DHW30006)のゲノムにはアリイナーゼが64個あり、液胞への輸送を指示するシグナル配列をもつものが14個、もたないものが50個だった(50/64は約78%)。シグナル配列をもたない型は細胞質にとどまり、損傷がなくてもイソアリインと反応してイソアリシンを作るのではないか、と著者らは仮説を立てた[3]。
この仮説から、無傷組織では細胞質型が一定の防御水準を維持し、組織が損傷を受けると液胞型が生成量を高める、二段構えの防御という見方が導かれている[3]。ただし、これはゲノム解析にもとづく推定である。タマネギ固有の知見で、ニンニクなど他種で同様かは、この資料の範囲では言えない。
3. この ぶきは、だれに きくの?
3. この武器は、菌や虫や鳥にどう働くのか
3. 防御物質の標的 ── 抗菌作用と忌避作用の範囲
ニンニクの ぶきの ひとつ、アリシンは、ばいきんや かびの なかまに たいして、すこしの りょうでも ひろく はたらくと ほうこくされて います[4]。
ネギの なかまの エキスは、ばいきんや かび、センチュウなどに つよく はたらき、むしや、はたけを あらす どうぶつ、とりにも、さける はたらきが あると ほうこくされて います[3]。
ただし、これは エキスを つかった けんきゅうの はなしで、ひとつひとつの どうぶつに ききめが あるかは、べつの はなしです。
4. ネギを となりに うえると、むしは こなく なるの?
4. ネギを隣に植えると、アブラムシは来なくなるのか
4. 混植実験 ── 定着は変わらず、摂食行動が乱れた
「ネギを となりに うえると、むしが こない」と いう はなしを きいた ことが ある かもしれません。これを じっけんで しらべた ひとが います。
ポロネギを ピーマンの となりに おいて、モモアカアブラムシの ようすを みました。すると、アブラムシが ピーマンに とまったり、ほかの かぶに うつったり する ようすは、かわりませんでした。かわったのは、しるの すいかたです。ようぶんの はいった しると、みずの とおる しるを すう わりあいが、ふだんと ずれて、うまく たべられなく なって いたのです[5]。
けれども、ふしぎな ことも あります。アブラムシの いきのこりや、うむ こどもの かずには、かえって ぷらすに はたらく ばあいも ありました[5]。ネギの においが、すこしの ときは むしを かえって げんきに する ことが あるのか、と かんがえる ひとも います。
実験室の結果
2021年の実験では、ポロネギ(リーキ)をピーマンの隣に置き、モモアカアブラムシの行動を調べました。アブラムシがピーマンにとまったり、別の株へ移ったりする行動は、変わりませんでした。一方で、植物の栄養の通り道の汁と、水の通り道の汁を吸う割合がふだんからずれて、食べ方に悪い影響が出ました[5]。
つまり、このときのネギは「来させない」のではなく、「食べ方を乱した」ようです。
むしろ有利な面もあった
同じ実験では、アブラムシにとって有利な変化として、生存、体重、産む子の数への影響も見られました。少しの刺激が、かえって逆に働く現象の可能性も議論されています[5]。
研究によって見え方が分かれる
2024年の論文は、ネギ属の混植で害虫や病気が減るという報告が多いと紹介しています。無傷のチャイブでもアブラムシの訪れが減ったという別の研究も、引用されています[3]。ポロネギの実験とは、一見ずれています。条件や植物が違うと結果が変わる、という例なのでしょう。
「ネギを隣に植えると虫が来ない」は、実験ではどう見えるのか。ポロネギをピーマンの隣に置いた実験(モモアカアブラムシ)では、アブラムシのピーマンへの定着行動は変わらなかった。一方、師管液(栄養の通り道の汁)と木部液(水の通り道の汁)を吸う割合がふだんからずれるという、摂食行動への悪影響が見られた[5]。ところが同じ研究では、生存・体重・産仔数にはむしろ有利な影響も出ており、少量の刺激が逆に作用する現象の可能性が議論された[5]。
この結果は、混植に関する他の記述とずれて見える。2024年の論文は、ネギ属の混植で害虫・病害が減るとする報告が多いと述べ、その中で、無傷のチャイブでもピーマンへのアブラムシの飛来が減るという先行研究を引用している[3]。定着が変わらなかった実験と、飛来が減った研究が並ぶのは、条件(種、植物、観察する行動)が違うためと考えるのが自然だろう。ただし、これは総説内の引用であり、単純に結論を一つにまとめることはできない。
5. なみだが でない タマネギは、ぶきを すてたの?
5. 涙の出ないタマネギは、防御を弱めた品種なのか
5. 催涙成分とスマイルボール ── 涙の成分に関わる働きを弱めた品種
タマネギを きると、なみだが でます。この なみだの もとは、なみだを だす せいぶんを つくる こうそ(LFS)が、はたらく ためです。2002ねんに、ハウスしょくひんの けんきゅうしゃが みつけ、ざっし ネイチャーに はっぴょうしました[6]。
みつけた きっかけは、「ニンニクにも ざいりょうは あるのに、なぜ ニンニクでは なみだが でないのか」と いう ふしぎでした[6]。
この ふしぎから、2015ねん10がつに、きっても なみだが でない、からみの ほとんど ない タマネギ 「スマイルボール」が、かずを かぎって うり だされました。いでんしを くみかえた ものでは ありません[7]。
なみだの もとの はたらきを よわめた タマネギ、と いえそうです。こまった むしが ふえるか どうかは、しりょうに かかれて いません。
涙の成分を作る酵素の発見
タマネギの涙の成分は、アリイナーゼの反応でできた不安定な物質に、催涙成分合成酵素(LFS)が働いてできます。これを2002年にハウス食品の研究者らが発見し、ネイチャー誌に発表しました。出発点は、同じ前駆物質がニンニクにもあるのに、ニンニクで涙が出ないのはおかしい、という疑問でした[6]。
涙の出ないタマネギ
ハウス食品グループは2015年10月、切っても涙が出ず、辛みがほとんどないタマネギ「スマイルボール」を数量限定で発売しました。重イオンビームの照射などで作られた品種で、遺伝子組み換えではありません[7]。
涙の成分に関わる働きを弱めた品種、という対比は面白いですが、害虫に弱いかどうかは資料に書かれていないので、ここでは結論を出しません。
タマネギで涙が出るのは、なぜか。催涙成分は、アリイナーゼの反応で生じた不安定な物質に、催涙成分合成酵素(LFS)が作用してできる。この酵素を2002年にハウス食品の研究者らが見つけ、Nature誌に発表した。きっかけは、同じ前駆物質があるニンニクで催涙成分ができないのはおかしい、という疑問だった[6]。
この酵素が涙の原因なら、働きを弱めれば涙の出ない品種が作れる。実際、ハウス食品グループは2015年10月、辛みがほぼなく切っても涙が出ない「スマイルボール」を数量限定で発売した。重イオンビーム照射などの非遺伝子組み換え手法による作出である[7]。涙の成分に関わる働きを弱めた品種という点で、この記事の対比として興味深いが、害虫への強さについては資料に記述がなく、論じない。
6. ニンニクや タマネギは、イヌにも おいしいの?
6. 人には料理の味でも、イヌには有害なことがある
6. 防御の相手は人間ではない ── イヌの赤血球への影響
ネギの なかまの ぶきは、ひとの ためでは なく、しょくぶつ じしんを まもる ために ある ものです。ひとには おいしい あじでも、どうぶつに とっては ちがう ことが あります。
イヌが タマネギや ニンニクを たべると、ちの なかの せきけっきゅうと いう つぶが こわれて、ひんけつに なる ことが、じゅういの せかいで しられて います[8]。だから、イヌには あげないように しましょう。
植物が守る相手
ここまで見てきた物質は、ネギの仲間が自分を守るためのものです。人間が料理で楽しむ辛みや香りは、その副産物として味わっているのかもしれません。
イヌには与えない
タマネギやニンニクを食べたイヌでは、赤血球にハインツ小体という変化ができ、溶血性貧血になることが獣医学で知られています。実験では、乾燥タマネギを1回与えただけで、1日以内にこの変化がたくさん見られました[8]。そのため、イヌには与えないのが基本です。
防御物質は植物自身のためのもので、人間の食の都合とは関係がない。イヌはタマネギやニンニクで赤血球にハインツ小体が生じ、溶血性貧血を起こすことが獣医学で知られている。実験では、乾燥タマネギの単回経口投与から1日以内に、多数のハインツ小体が観察された[8]。
人間が楽しむ辛みや香りは、本来は外敵に向けた防御の副産物にあたる。そのため、種によって影響が異なっても不思議ではない。ここでは、イヌに与えない、という実用上の注意にとどめる。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
きょう できること
おうちの 人と いっしょに、ニンニクを まるごと ひとつ、においを かいで みましょう。つぎに、おうちの 人に はんぶんに きって もらい、きりくちを かぎます。さいごに、きった ところを すこし つぶして もらって、もう いちど かぎます。
においは どう かわりましたか。じぶんの はなで、「きずが つくと ぶきが できる」と いう はなしを たしかめられます。ほうちょうは おうちの 人に つかって もらい、においを かぐときは ゆっくり、ちかづきすぎないように しましょう。
今日できること
家にあるニンニクで、においの変化を比べてみましょう。まず丸ごとの状態でにおいを確かめ、次に大人に半分に切ってもらって切り口を、最後に切り口を少しつぶしてもらってからもう一度、においを確かめます。
変化を言葉で書き留め、1分後、10分後とにおいが変わるかも見てみましょう。刃物は大人が扱い、においはゆっくり、近づきすぎないようにかぎます。
もっと知りたくなったら
ネギを隣に植えた実験の結果が、条件によって違うのはなぜか。タマネギは切らなくても防御しているのか。この記事で出会った二つの問いを、資料から読み直してみるのもよいでしょう。
家でできる比較
刃物は大人が扱うこと。ニンニクを、丸ごと、半分に切った直後、さらにつぶした直後の3つの状態でにおいを比べ、1分後・10分後の変化も書き留める。におい方の変化から、傷ついたときに物質が作られる、という区画化の説明が自分の感覚と合うかを確かめられる。切ってからの時間や室温などの条件をそろえることが、比較の前提になる。
資料を読むなら
日本植物生理学会のQ&Aと、千葉大などの2015年のニュースリリースが、ニンニクの仕組みの入口になる。タマネギの涙の成分については、日本農芸化学会の受賞内容説明とハウス食品グループのニュースリリースが、日本語で読める。英語の論文は、そのあとの発展として手に取ればよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の参照番号は、下のリストの番号に対応します。タマネギが切られなくても防御しているという話は、ゲノム解析にもとづく仮説として扱っています。
- 千葉大学・理化学研究所・ハウス食品・湧永製薬 ニュースリリース(2015年8月3日) https://www.chiba-u.jp/about/files/pdf/20150803_1.pdf (アリインの貯蔵と変換)
- 日本植物生理学会 みんなのひろば Q&A https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=6099 (物質と酵素の区画)
- Frontiers in Plant Science 2024, onion isoallicin-omics(PMC11668612) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11668612 (アリイナーゼの二つの型・二段構え・抽出物の作用・混植の総説)
- Sci Rep 2018, チオスルフィネート類の抗菌・抗真菌比較(PMC5928221) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5928221 (アリシンの抗菌作用)
- Baudry et al. 2021, Scientific Reports(PMC7889937) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7889937 (ポロネギとアブラムシの実験)
- 日本農芸化学会 イグ・ノーベル賞 受賞内容説明(2013年) https://www.jsbba.or.jp/wp-content/uploads/file/news/news_20130913_ignovel.pdf (催涙成分合成酵素の発見)
- ハウス食品グループ ニュースリリース(2015年10月22日) https://elb.housefoods-group.com/newsrelease/pdf/20151022tamanegi.pdf (スマイルボールの発売)
- Harvey & Rackear 1985, Veterinary Pathology(PubMed) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3042636/ (イヌとタマネギ。ハインツ小体)
なおした ところ
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