1. 「ヘチ」って、なに?
1. 「ヘチ」とは、何のことか
1. 「ヘチ」という言葉の意味
「ヘチづり」と いう つりかたが ある。名前を きくと、「ヘチ」と いう さかなが いるように おもうかもしれない。でも、そうでは ない。
「ヘチ」とは、みなとや 岸の かべの、すぐ きわの ことだ[1]。かべに ぴったり そって いる、せまい 水の ところを さす ことばである。もともとは「ふち(はしの こと)」と いう ことばが、なまって「へち」に なったと いう せつも ある[2]。
つまり「ヘチづり」とは、「かべの すぐ きわで する つり」と いう いみの 名前だった。ねらう さかなは クロダイ。竿で 糸を たらすだけの、とても シンプルな どうぐで つる[1]。
「ヘチ釣り」という釣り方がある。名前だけ聞くと、「ヘチ」という魚がいるように思えるが、そうではない。
「ヘチ」とは、港や岸壁のすぐきわのことである[1]。壁にぴったり沿った、狭い水際を指す言葉だ。もとは「ふち(へり・端の意味)」ということばが訛って「へち」になったという説もある[2]。
つまりヘチ釣りとは、「壁のすぐきわで行う釣り」という、場所を表した名前だったことになる。ねらう魚はクロダイ。竿で糸を垂らすだけの、驚くほどシンプルな道具立てで釣る[1]。
東京湾や大阪湾の岸壁に立つ釣り人たちが、「ヘチ、ヘチ」と口にする釣り方がある。「ヘチ釣り」。名前だけ聞くと、ヘチという魚がいるように思えるが、そうではない。
「ヘチ」は魚の名前ではなく、岸壁やふ頭のすぐきわ、コンクリートの壁にぴったり沿った、ごく狭い水際を指す釣り用語である[1]。語源には、「縁(ふち)」が訛って「へち」になったとする説がある[2]。
つまりヘチ釣りとは、「岸壁のきわで行う釣り」という、場所そのものを表した名前だったことになる。狙う魚はクロダイ。仕掛けはごくシンプルで、専用竿と、糸を垂らすだけの道具立てである[1]。壁のすぐわき、わずか数十センチの範囲に、エサをそっと落としていく。
2. なぜ クロダイは、かべの きわに いるの?
2. なぜクロダイは、壁のきわに集まるのか
2. なぜクロダイは、岸壁のきわに集まるのか
岸の かべの 水の 中には、貝や フジツボが びっしり くっついた ところが ある[3]。その 中には、カニや 小さな エビも かくれて いる[3]。クロダイは、これを 食べに やって くる。まるで、かべに「ごちそうの たな」が あるような ものだ。
クロダイは なんでも 食べる さかなで、小さな さかなや カニ、貝、海そうまで 口に する[4]。強い 犬歯と、貝を かみくだく 歯が ならんで いて、貝を からごと わって 食べられる[4]。
それに クロダイは、海の 水と 川の 水が まじった ところでも へいきで、川を のぼる ことさえ ある[4]。だから 大きな 町の まんなかの、コンクリートの かべの 下にも すみつく ことが できるのだ。
だから、かべの きわに えさを おとせば つれる、と いう わけだ。じっさい つりびとが つかう えさも、ボサガニ(小さな カニ)や イガイなど、かべに くっついて いる ものと おなじだ[3][5]。中でも イガイは、クロダイ いがいの 魚が ほとんど 食いつかないので、ねらった 魚だけを つりやすいと いう[1]。
岸壁の水面下には、フジツボやイガイ(ムール貝の仲間)がびっしりと張りついた層ができている[3]。この層の中には、カニやゴカイの仲間、小さなエビも潜んでいる[3]。クロダイは、これを食べにやってくる。
クロダイはとても雑食性の強い魚で、小魚や甲殻類、貝類、海藻まで口にする[4]。あごの前には3対の犬歯があり、横には歯が何列も並んでいて、貝を殻ごと砕いて食べることができる[4]。
さらにクロダイは、海水と川の水が混じり合う汽水域にも平気で入り込み、川をさかのぼることさえある[4]。だから、コンクリートの護岸が続く大都市のすぐ足もとにも、すみつくことができるのだ。
だから、壁のきわにエサを落とせば釣れる、というわけだ。実際に釣り人が使うエサも、ボサガニ(イワガニの仲間)やイガイなど、壁に張りついているものと同じものが使われる[3][5]。中でもイガイは、クロダイ以外の魚がほとんど食いつかないため、狙った魚だけに的を絞りやすいという利点があるとされる[1]。
岸壁の水面下には、フジツボやイガイ(ムール貝の仲間)がびっしりと張りついた層ができている[3]。この「イガイの層」の中には、カニやゴカイの仲間、小さなエビなども潜んでいる[3]。クロダイは、この層を食べにやってくる。
クロダイはきわめて雑食性の強い魚で、小魚や甲殻類、貝類、海藻、時にはスイカやみかんまで口にすることが知られている[4]。顎の前方には3対の犬歯があり、側面には3列以上の臼歯が並ぶ[4]。この歯の組み合わせによって、貝殻ごと砕いて中身を食べることができる。
さらにクロダイは、海水と淡水が入りまじる汽水域にも平気で入り込み、川を遡ることさえある[4]。海に近いコンクリート護岸の下でも、河口の濁った水の中でも生きていける適応力の高さが、この魚を大都市のすぐ足もとにまで呼び寄せている。
この「壁に貝やカニがいる、だからクロダイが集まる」という関係が、ヘチ釣りという釣法の土台になっている。実際、釣り人が使うエサもボサガニ(イワガニの仲間)やイガイ、フジツボなど、壁に張りついている生きものそのものである[3][5]。中でもイガイは、クロダイ以外の魚がほとんど食いつかないため、狙った魚だけに的を絞りやすいという利点があるとされる[1]。
3. 竿も リールも、とても シンプルな つりかた
3. 竿もリールも、とてもシンプルな釣り方
3. 竿もリールもシンプルな、不思議な釣り方
ヘチづりで つかう どうぐは、竿と リール、それに 糸と 針、小さな おもり。とても かんたんな くみあわせだ[1]。リールは ブレーキの ない シンプルな ものを つかう[5]。
つりかたも かわって いる。かべの すぐ きわに、そっと えさを おとして、糸を ぴんと はらずに、しずかに しずめて いく。まるで、かべから えさが はがれおちたように 見せるのが コツだ[1]。
クロダイが えさを くわえると、しずんで いく 糸の はやさが、ふっと かわる。竿の さきに でる うごきを まつのでは なく、この 糸の へんかを、目や 手の 感じで とらえるのが、ヘチづりの いちばん 大事な ところだ[6]。
ヘチ釣りの仕掛けは、糸とハリス、針、そしてガン玉と呼ばれる小さなオモリだけで組まれる[1]。竿は2〜3m程度のものが多く、リールはブレーキの付いていないシンプルな「タイコ型」を使う[5]。
釣り方も独特だ。壁のすぐきわにエサをそっと落とし、糸を張らず緩めず、自然に沈んでいくのに任せる。まるで壁からエサがはがれ落ちてきたかのように見せかけるのがコツだという[1]。
クロダイがエサをくわえると、沈んでいく糸の速さがふっと変わる。竿先のアタリを待つのではなく、この糸の変化そのものを目で見て、あるいは指先の感覚でとらえるのが、ヘチ釣りの核心である[6]。
ヘチ釣りの仕掛けは、道糸とハリス、針、そしてガン玉と呼ばれる小さなオモリだけで組まれる[1]。専用の竿は2〜3m程度のものが多く、リールは「タイコ型」と呼ばれる、ドラグ(ブレーキ)の付いていない単純な構造のものを使う[5]。
釣り方も独特である。壁のすぐきわにエサをそっと落とし、糸を張らず緩めず、自然に沈んでいくのに任せる。まるで、壁からエサがはがれ落ちてきたかのように見せかけるのがコツだという[1]。
クロダイがエサをくわえると、沈んでいく糸の速さがふっと変わる。竿先にアタリが出るのを待つのではなく、この糸の変化そのものを、目で見て、あるいは指先の感覚でとらえるのが、ヘチ釣りの核心である[6]。
4. クロダイは、名前が かわる さかな
4. クロダイは、名前が変わる魚
4. クロダイは、名前を変える魚
クロダイと いう さかなは、じつは 名前の よびかたが、ばしょや 大きさに よって かわる、ややこしい 魚でも ある。
東の ほうでは、大きく なるに つれて 名前が かわる「出世魚」として あつかわれる[4]。西の ほうでは「チヌ」と いう 名前が よく つかわれ、東北では「クロ」、むかしの 東京では「ケイズ」と、ばしょごとに いろいろな 名前が ある[4]。
「チヌ」と いう 名前は、大阪わんの むかしの 名前「茅渟(ちぬ)の 海」から きたと いう せつが 有力だ[7]。むかし、その あたりの 海は 魚が たくさん とれる ゆたかな 海で、その 中でも クロダイが よく とれたので、「ちぬの 海の 魚」で「チヌ」と よばれるように なったと いう[8]。
クロダイには もう ひとつ、おもしろい とくちょうが ある。多くは 2〜3さいまで オスとして そだち、4〜5さいに なると メスに かわる[4]。かべの きわで じっと して いる 1ぴき 1ぴきが、年れいに よって オスだったり メスだったり する──そう おもうと、糸の 先に いる 魚の すがたが、すこし ちがって 見えて くるかもしれない。
クロダイという魚は、名前の呼び方そのものが地域や成長段階でくるくる変わる、ややこしい魚でもある。
関東地方では、成長につれてチンチン→カイズ→クロダイと名前が変わる、いわゆる「出世魚」として扱われる[4]。関西地方では「チヌ」という呼び名が広く使われ、東北では「クロ」、東京の古い呼び方では「ケイズ」、北陸では「カワダイ」、山陰では「チンダイ」と、地方ごとにさまざまな名前を持つ[4]。
「チヌ」という呼び名の由来は、大阪湾の古い呼び名「茅渟(ちぬ)の海」にあるとする説が有力とされる[7]。かつて大阪湾の一帯は「茅渟の海」と呼ばれ、イワシやエビ、カニなどとともにクロダイがよく獲れる豊かな漁場だった。その代表的な魚だったことから、「茅渟の海の魚」つまり「チヌ」と呼ばれるようになったという[8]。
クロダイにはもう一つ、面白い生態がある。多くの個体は2〜3歳まではオスとして育ち、4〜5歳になるとメスに変わる[4]。すべての個体が性転換するわけではなく、条件によってオスのまま留まる個体もいるという[4]。壁際でじっと構えている1匹1匹が、実は年齢によってオスだったりメスだったりする──そう考えると、糸の先にいる魚の姿も、少しちがって見えてくるかもしれない。
クロダイという魚は、実は名前の呼び方そのものが地域や成長段階でくるくる変わる、ややこしい魚でもある。
関東地方では、成長するにつれてチンチン→カイズ→クロダイと名前が変わる、いわゆる「出世魚」として扱われる[4]。関西地方では「チヌ」という呼び名が広く使われ、東北では「クロ」、東京の古い呼び方では「ケイズ」、北陸では「カワダイ」、山陰では「チンダイ」と、地方ごとに実にさまざまな名前を持つ[4]。
「チヌ」という呼び名の由来は、大阪湾の古い呼び名「茅渟(ちぬ)の海」にあるとする説が有力とされる[7]。かつて和泉国(現在の大阪府南部)の沿岸一帯は「茅渟の海」と呼ばれ、イワシやエビ、カニなどとともにクロダイがよく獲れる豊かな漁場だった。その代表的な魚だったことから、「茅渟の海の魚」つまり「チヌ」と呼ばれるようになったという[8]。
クロダイにはもう一つ、面白い生態がある。多くの個体は2〜3歳まではオスとして育ち、4〜5歳になるとメスに変わる「雄性先熟」と呼ばれる性転換をする[4]。ただし雌性ホルモンが不足したオスは性転換せず、すべての個体がメスになるわけではないという[4]。壁際でじっと構えている1匹1匹が、実は年齢によってオスだったりメスだったりする──そう考えると、ヘチ釣りで糸を垂らす先にいる魚の姿も、少しちがって見えてくるかもしれない。
港の かべを のぞいて みよう
港の岸壁を、のぞいてみよう
岸壁の下をのぞいて、貝の層を観察してみる
近くに 港や 川ぐちが あったら、水の 上から そっと のぞいて みよう。コンクリートの かべに、黒っぽい 貝や 白い つぶ(フジツボ)が びっしり くっついて いるのが 見えるはずだ。その 中に、クロダイが 食べに くる カニや 虫が かくれて いる。
しお(水の たかさ)が かわる 時間に 同じ ばしょを 見くらべると、ふだん 水の 中に かくれて いる かべの 生きものの だんが、どこまで 広がって いるか、じぶんの 目で たしかめる ことが できる。
水べは あぶない ばしょでも ある。かならず 大人と いっしょに 行き、かべから 身を のりださないように、気を つけて のぞいて みよう。
近くに港や川口があったら、水面からそっとのぞいてみよう。コンクリートの壁に、黒っぽい貝や白いつぶ(フジツボ)がびっしりくっついているのが見えるはずだ。その中に、クロダイが食べにくるカニやゴカイの仲間が隠れている。
潮の満ち引きで水位が変わる時間帯に同じ場所を見比べると、ふだん水の中に沈んでいる「壁の生きものの層」がどこまで広がっているか、自分の目で確かめることができる。
水辺は危険な場所でもある。必ず大人といっしょに行き、壁から身を乗り出さないよう気をつけよう。
近くに港や河口があれば、水面をのぞきこんでみてほしい。コンクリートの護岸に、黒っぽい貝や白い粒(フジツボ)がびっしり張りついているのが見えるはずだ。その層の中に、クロダイが食べにくるカニやゴカイの仲間が隠れている。
潮の満ち引きで水位が変わる時間帯に同じ場所を見比べると、ふだん水中に沈んでいる「壁の生きものの層」がどこまで広がっているか、実際に目で確かめることができる。出典にあげた記事には、仕掛けや当たりの取り方をさらに詳しく説明しているものもある。気になったら、そちらものぞいてみてほしい。
水辺は転落の危険がある場所でもある。必ず大人といっしょに行き、壁から身を乗り出さないよう気をつけよう。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
- 釣りビト百科「クロダイのヘチ釣りとは?名手が仕掛け・エサ・釣り方でこだわるポイント」。 https://web.tsuribito.co.jp/beginner/kurodai-hechi-fishing-guide (「ヘチ」が岸壁ギリギリの水際を指す言葉であること、ヘチ釣りが東京湾発祥で横浜エリアで広く楽しまれていること、竿・リール・仕掛けの構成、エサにボサガニやイガイが使われること、イガイがクロダイ以外の魚が食いつきにくく狙いを絞りやすいことは同出典による)
- Weblio辞書「へちの意味や使い方」。 https://www.weblio.jp/content/へち (「へち」が端・隅を指す言葉で、「縁(ふち)」が訛ったものが語源とされることは同出典による)
- TSURINEWS「クロダイのヘチ釣りの魅力4選 道具シンプルで入門費用安いのに釣れる」。 https://tsurinews.jp/213896/ (ヘチ釣りの仕掛けが道糸・ハリス・針・ガン玉だけの非常にシンプルな構成であること、クロダイが河口の際でエサをついばんでいる様子が見られること、主なエサがカラス貝・カニ・フジツボであることは同出典による)
- Wikipedia「クロダイ」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/クロダイ (クロダイが悪食で小魚・甲殻類・貝類・海藻などさまざまなものを捕食すること、顎の前方に3対の犬歯・側面に3列以上の臼歯があること、河口の汽水域や河川の淡水域まで進入すること、関東ではチンチン→カイズ→クロダイと呼び名が変わる出世魚であること、関西でチヌ・東北でクロ・東京でケイズ・北陸でカワダイ・山陰でチンダイと地方名があること、2〜3歳までオスで4〜5歳でメスに変わる雄性先熟を示すことは同出典による)
- TSURI HACK「5分でわかるヘチ釣り(落とし込み)|仕掛け・時期・釣り方を元釣具屋が解説」。 https://tsurihack.com/5632 (竿が2〜3mのヘチ釣り専用竿であること、鈎・ハリス・ガン玉の号数構成、イガイが現地採集する代表的なエサでカニやパイプ虫・地エビなども使われることは同出典による)
- FishCast Blog「クロダイ攻略ガイド ── 落とし込み・ヘチ・フカセの使い分け」。 https://fishcast.jp/blog/guide-kurodai-fishing (ヘチ釣りがオモリをほぼ使わず、沈んでいく糸の変化(落下速度の違和感)でアタリを取る釣法であることは同出典による)
- コトバンク「茅渟(チヌ)とは? 意味や使い方」。 https://kotobank.jp/word/茅渟-566238 (「茅渟」が和泉国沿岸(現在の大阪湾東部、堺市から岸和田市を経て泉南郡に至る一帯)を指す古称であること、クロダイの別称でもあることは同出典による。魚名が地名に由来する経緯そのものはプライドフィッシュ[8]による)
- プライドフィッシュ「茅渟の海のクロダイ|大阪府」。 https://pride-fish.jp/JPF/pref/detail.php?pk=1458975523 (大阪湾が古くから「茅渟(チヌ)の海」と呼ばれ、クロダイをはじめ魚介類がよく獲れる豊かな海だったこと、その代表的な魚だったことからチヌと呼ばれるようになったとされることは同出典による)
なおした ところ
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