1. ヘルメットの 中には、なにが あるの?
1. かたい殻の内側に、白い層がある
1. 衝撃を吸収するのは帽体(ぼうたい)ではなく、内側のライナーだ
ヘルメットを 外から みると、つるつるで かたい かわが あります。でも、中を のぞくと、しろくて やわらかい ところが あります。
東京都の しらべでは、自転車の ヘルメットは、外がわの かたい かわと、中の しょうげきを うける ところ、あごひもなどで できて います[1]。ころんだ とき、これらが へこんだり こわれたり して、ぶつかった ちからを うけとめます[1]。
つまり、ヘルメットは「はねかえす」より「へこんで うけとめる」ものです。この 中の ところは、ほとんどが 空気の あわ。ここで ふしぎな ことが おきます。
自転車用ヘルメットは、外側のシェル、内側の衝撃吸収材(ライナー)、あご紐などでできています。東京都の報告書は、転倒したときにシェルやライナーが凹んだり壊れたりすることで衝撃のエネルギーを吸収し、頭へのダメージを軽くする、と説明しています[1]。
ここで大事なのは、ヘルメットが衝撃を「はね返す」のではなく、自分が変形して受けとめる、という点です。変形する量が大きい部分が、ライナーです。
ライナーによく使われる発泡スチロールは、無数の気泡が集まったもので、体積の約98%が空気、材料はわずか2%といわれます[2]。そのため、つぶれやすく、緩衝にすぐれた材料になります。ただし、これは一般の発泡スチロールの値で、ヘルメット用ライナーの密度は製品ごとに違います。
自転車用ヘルメットは、外側の帽体(シェル)、内側のライナー、あご紐などから成る。東京都商品等安全対策協議会の報告書は、転倒時にシェルやライナーが凹んだり破壊したりすることで衝撃エネルギーを吸収し、頭部へのダメージを軽減する、と整理している[1]。
注目したいのは、吸収の方法が「変形・破壊」である点だ。かたい殻が衝撃を跳ね返しているのではなく、壊れることを前提にした部品が仕事をしている。その中心がライナーで、素材がEPSの場合、無数の独立した気泡の集まりで、体積の約98%が空気、原料はわずか2%とされる[2]。
ただしこの98%は一般のEPSの値で、ヘルメット用ライナーの密度は製品ごとに違う。また、ライナーの素材はEPSだけではないが、このメモでは扱わない。では、つぶれることがなぜ頭の保護になるのか。次の章で、頭が止まる時間に注目して読む。
2. 頭が とまる 時間を のばすと、どうなるの?
2. 頭が止まるまでの「約6ミリ秒」をのばす
2. ライナーは、頭が止まるまでの約6ミリ秒をのばす
かたい ゆかに 頭が ぶつかると、頭は ほんの 一しゅんで とまります。ヘルメットの あわは、この 「とまるまでの 時間」を、すこし のばします。
あるしりょうでは、ヘルメットを つけた 頭が とまるまで、およそ 6ミリびょうだと 書かれて います[3]。6ミリびょうは、1びょうを 1000に わけた 6つぶんです。
たとえば、ボールを うけとる とき、手を ぴたっと とめるより、うしろへ ひきながら うけると いたく ありません。それと にた 考えです。ただし、ボールと ちがい、ヘルメットの あわは ひきもどせず、つぶれて 時間を かせぎます。
この あわは、つぶれる とき、ぶつかった ちからの 一ぶを ねつに かえると いわれます[3]。
かたい地面に頭が当たると、頭は一瞬で止まります。止まるまでの時間が短いほど、頭にかかる力は大きくなります。ヘルメットのライナーは、つぶれることでこの時間を少しのばし、頭にかかる力を和らげます。
アメリカの自転車ヘルメット安全研究所(BHSI)のページには、ライナーがつぶれながら衝突のエネルギーの一部を熱に変え、頭が止まるまでの時間をのばす、という説明があります。その例では、頭が止まるまでは約6ミリ秒です[3]。6ミリ秒は、0.006秒のことです。この数字は同じページが挙げている目安で、すべての衝突に共通する値ではありません。
たとえると、野球のグラブでボールを捕るときに、手を後ろへ引きながら受けると痛くないのと似ています。ただし、ライナーは手のように元へ戻れず、自分がつぶれることで時間を稼ぎます。
どれだけ和らげられるかは、泡の性質と厚みで決まる、と同じページは説明しています[3]。
ヘルメットを着けた頭が硬い面に衝突するとき、頭の速度は短い時間でゼロになる。同じ速度変化でも、止まるまでの時間が長いほど加速度は小さい。ライナーの役割は、自らつぶれながらこの時間をのばすことにある。
BHSIのページは、ライナーがつぶれる際に衝突エネルギーの一部を熱に変え、減速の過程をゆるやかにして、頭が止まるまでの時間が約6ミリ秒になる例を挙げる[3]。0.006秒である。ただし、これは同ページの目安の数字で、衝突条件によって変わる。そのため、数値をそのまま一般化しない。
減速の程度は、泡の特性(密度など)と厚みに左右される、とも説明されている[3]。厚みも、ライナーがつぶれて衝撃を受けとめる働きに関係する。
では、「頭が止まる様子」は、どうやって数字で確かめるのだろうか。
3. ヘルメットの 強さは、どう たしかめるの?
3. 人の頭の模型を、金属の台に落とす
3. 模擬頭部を落とす試験は、300Gと4ミリ秒を基準にする
ヘルメットを 人に つけて ぶつける わけには いきません。そこで、人の 頭の かたちを した もけいに ヘルメットを つけて、金ぞくの だいの 上に おとします[1]。
そのとき、頭の もけいに かかった ちからを はかります。日本の 自転車用の きまりの ひとつ(SGの きじゅん)では、ちからが 300G いかで なくては なりません[1]。Gは、じめんが ものを ひっぱる ときの はやさの かわり方(じゅうりょくかそくど)の 大きさを ものさしに した たんいで、1Gが ふだんの じゅうりょくです。はかって いるのは 頭の もけいの かそくどで、300Gは、その 300ばいの はやさの かわり方が 頭の もけいに おきた ということです。
また、ヘルメットの きまりが ない ものは、ある ものと くらべて、しょうげきを やわらげる ちからに 大きな ちがいが ありました[1]。ヘルメットは、なにに つかうかで、つくりが ちがうのです。
ヘルメットを人につけて試すことはできないので、試験では人頭模型にヘルメットをかぶせ、金属の台(アンビル)の上に落として、衝撃の加速度を測ります[1]。
東京都の報告書によると、自転車用のSG基準では、衝撃加速度が2,940 m/s²(300G)以下であることに加え、1,470 m/s²(150G)以上になる時間が4ミリ秒以下であることが求められます[1]。1Gは重力加速度のことで、300Gは地球の重力の300倍の加速度です。
つまり、大きさだけでなく、「大きな力がかかる時間が短いか」も見られています。前の章の、止まる時間をのばすという考え方が、そのまま基準になっていると読めます。ただし、これはSG基準の抜粋で、JISやEN規格は試験の条件が異なります。
同じ報告書は、自転車用の規格に合う表示のないヘルメットと、自転車用規格のヘルメットでは、衝撃吸収性に大きな差があったと報告しています[1]。また、コンピュータ・シミュレーションでは、縁石に頭が当たる場面で、ヘルメットを着けると、脳にかかる圧力が下がる結果が示されています[1]。これは実測ではなく、計算の結果です。
試験では、人頭模型にヘルメットを装着してアンビルの上に落下させ、衝撃加速度を測る。東京都の報告書によれば、SG基準は、衝撃加速度が2,940 m/s²(300G)以下で、かつ1,470 m/s²(150G)以上の時間が4ms(0.004秒)以下であることを求める[1]。ピークの高さだけでなく、高い加速度が続く時間も条件になっている。前章で見た、停止時間をのばすという考え方が、基準の形になったものといえる。ただし、これはSG基準の抜粋で、JIS T 8134:2018やEN規格では試験条件が異なる[1]。
同報告書は、自転車用規格の適合表示がないヘルメット(軽作業用など)と、自転車用規格のヘルメットを比べ、衝撃吸収性能に大きな差があったと報告する[1]。目的に合った規格かどうかで、ライナーの働きが違ってくる、ということである。
また、縁石に頭が当たる場面のコンピュータ・シミュレーションでは、ヘルメットの着用によって、脳にかかる圧力や頭蓋骨にかかる応力が下がる結果が示されている[1]。ただし、これは実測ではなく計算上の結果で、条件を変えれば値も変わる。
ここまでは、ライナーが働いたときの話だ。では、同じヘルメットで、同じ場所に続けて衝撃を与えたらどうなるか。
4. おなじ ところに 3回 ぶつけると、どうなるの?
4. 同じ場所に3回ぶつけると、守る力は落ちていった
4. 同じ場所に3回ぶつけると、119G→297G→590Gと増え、「1回きり」といわれる
東京都の しけんで、自転車用の ヘルメットの おなじ ところに、3回 つづけて しょうげきを あたえました[1]。すると、あたえる たびに、やわらげる ちからが おちて いきました[1]。
ぐらふを みると、1回目は 119G ぐらい、2回目は 297G ぐらい、3回目は 590G ぐらいでした。3回目は 1回目の 5ばいほどです。きまりの 上げんの 300G も こえました[1]。これは 1つの ヘルメットの けっかです。
あわの かべが つぶれて しまうと、つぶれる よゆうが なくなるからです。ですから、つよく ぶつけたら かえると よいと いわれます[3]。
東京都の試験では、SG基準の自転車用ヘルメットの同じ場所(前頭部)に、約1.1mの高さから3回続けて落としました。すると、衝撃を与えるたびに、衝撃吸収の性能が下がりました[1]。
報告書のグラフから読むと、衝撃加速度は約119G、約297G、約590Gと上がっています。3回目は1回目の約5倍で、SG基準の上限300Gの約2倍です。ただし、これは1つの検体のグラフからの読み取りで、すべてのヘルメットに当てはまるとはいえません。
理由として、BHSIは、硬い泡の多くは気泡の壁がつぶれると衝撃をやわらげる力を失うため、衝撃を受けたあとは交換するよう勧めている、と説明しています[3]。これは「ほとんどの硬い泡」の話で、すべての素材に当てはまるわけではありません。
最初の「ほとんど空気の層」が、つぶれて働く層だと分かると、「1回きり」と勧められる理由も見えてきます。
報告書は、SG基準の自転車用ヘルメットの同じ箇所(前頭部)に、落下高さ約1.1mで3回続けて衝撃を与え、衝撃を与えるごとに衝撃吸収性能が低下したと報告する[1]。グラフから読み取ると衝撃加速度は約119G、約297G、約590Gで、3回目は1回目の約5倍(590÷119≒4.96)、SG基準の上限300Gの約2倍(590÷300≒1.97)である。ただし、数値はグラフの読み取りで、1検体の結果でもあるため、一般化はできない。
この傾向は、ライナーの働き方から説明できる。つぶれることで時間をかせぐ部品は、一度つぶれると、つぶれる余地が減る。BHSIは、ほとんどの硬い泡は気泡の壁が壊れると衝撃を管理する能力を失うため、衝撃のたびに交換するよう勧めている[3]。「ほとんどの硬い泡」という限定があり、素材によって事情は異なりうる。
つまり、ライナーは、一度の大きな衝撃を受けとめるために自分を使い切る部品だと読める。ただし、ここまでの試験は、まっすぐ当たる場面が中心である。実際の転倒では、頭は斜めにぶつかることも多い。
5. ななめに ぶつかると、なにが おきるの?
5. ななめにぶつかると「ねじれ」が起こる
5. 斜めの衝撃の回転を、MIPSの低摩擦スリップ層で減らす
ころぶ とき、頭は ななめに ぶつかる ことも あります。すると、頭が とまっても、中の のうは すぐに とまらず、ねじれるように うごく ことが あります[4]。
スウェーデンの 大学の 先生は、のうは この ねじれの うごきに とくに よわいと せつめいして います[4]。
そこで、ヘルメットの 中に、つるつるの ところを いれる くふうが うまれました。MIPS(ミップス)と いいます[5]。ななめに ぶつかった とき、ヘルメットが 頭に たいして すこし すべるので、すべる ことで、ねじれの うごきを へらそうと する くふうです[5]。
頭が斜めにぶつかると、頭が急に止まったあとも、脳は動き続けたり伸びたりします。この「回転の動き」について、スウェーデンのKTH(王立工科大学)のクライヴェン教授は、回転は脳の組織をもっとも引き伸ばし、重い損傷につながりうると説明しています[4]。
この回転を減らすくふうが、MIPSです。ヘルメットの内側に、摩擦の少ないスリップ層を置き、斜めの衝撃でヘルメットが頭に対してわずかにすべるようにして、脳に伝わる回転の動きを減らす仕組みです[5]。1990年代後半にスウェーデンで開発され、開発した3人は2019年にポーレム賞を受けたとされます[5]。
ただし、MIPSは認証制度ではなく、製品に付いた仕組みの名前です。効果の大きさの数字は企業側の説明が中心なので、ここでは仕組みの説明にとどめます。
頭が斜めに衝突すると、直線的な減速のほかに、回転の動きが生じる。KTHのKleiven(クライヴェン)教授は、脳は回転にとくに敏感で、回転は脳組織をもっとも大きく引き伸ばして重い損傷につながりうる、と説明する[4]。つまり、前章までのライナーの「つぶれる」働きだけでは、この回転を十分に減らせない場面がありうる。
そこで開発されたのがMIPSだ。ヘルメット内側に低摩擦のスリップ層を置き、斜めの衝撃でヘルメットが頭に対してわずかにすべるようにして、脳に伝わる回転の動きを減らす[5]。1990年代後半にスウェーデンで開発され、創業者3人(Halldin、von Holst、Kleiven)は2019年にポーレム賞を受賞した[5]。創業者の名に、KTHの記事と同じKleivenの名がある。
ただし、MIPSは規格や認証の制度ではない。効果の大きさとして挙げられる数字は企業側の説明で、独立した研究での確認を、このメモでは示せない。仕組みの説明までにとどめる。
6. 家の 食品トレーで、つぶれる ようすを みて みよう
6. 発泡スチロールの容器で、「つぶれたら戻らない」を見る
6. 食品トレーで「つぶれて守る」を観察し、東京都の資料を読む
おうちに ある、あらって かわかした 白い 食品トレーや はっぽうスチロールの はこの はしを つかいます。ヘルメットの あわと おなじ ものでは ありませんが、「つぶれて もどらない」ようすを 見られます。
おや ゆびで、はしを ゆっくり おして みます。へこんだ ところは、手を はなしても もどりません。つぎに、おなじ ところを もう 一ど おすと、さいしょより かるく へこむか、くらべて みましょう。
手を きらない よう、かどの するどい ところは さけ、おうちの 人と やって ください。
洗って乾かした食品トレーや、発泡スチロールの箱の端が使えます。ヘルメットのライナーと同じものではありませんが、「つぶれたら戻らない」様子の見当がつきます。
端を親指でゆっくり押してへこませ、手を離して戻るか確かめます。次に、同じ場所をもう一度押して、最初と力のいり方が違うかを比べます。違いが感じられたかどうかは、トレーの材質や厚みでも変わるので、結果を無理に合わせる必要はありません。
ヘルメットを選ぶときは、自転車用の規格に合った表示があるか、一度大きな衝撃を受けていないか、という見方が使えます。原典は、東京都の報告書の概要で、グラフの読み方まで説明されています[1]。
刃物や、角の鋭い部分でけがをしないよう、使う前に縁をよく見て、大人と一緒に行ってください。
この記事の中心は、ヘルメットが「硬さ」ではなく「つぶれること」で働くという点だった。家庭では、洗って乾かした食品トレーや発泡スチロールの箱の端を指でゆっくり押し、へこみが戻らない様子と、同じ場所を2回押したときの力のいり方の違いを観察できる。ただし、ヘルメット用ライナーとは密度も素材も異なるため、あくまで感覚をつかむ手がかりだ。縁で手を切らないよう、大人と行うこと。
資料を読むなら、まず東京都商品等安全対策協議会の報告書概要[1]を勧める。繰り返し衝撃試験のグラフは、本文の数字を読み取った元の資料だ。読むときは、試験条件(落下高さ・衝撃を与えた箇所)と検体数に注意するとよい。
本文で使ったBHSIのライナーのページ[3]は英語の参考資料で、読まなくても東京都の報告書概要だけで流れは追える。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。ヘルメットの効果や使い方は、製品の取扱説明書やメーカー、公的機関の案内にしたがってください。
- 令和5年度東京都商品等安全対策協議会報告書 概要(自転車用ヘルメット)。https://www.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/tosei/14_01_262 (ヘルメットの構造、試験方法と基準、繰り返し衝撃試験、シミュレーションについて)
- 発泡スチロール協会(JEPSA)。https://www.jepsa.jp/ (発泡スチロールの約98%が空気という値について)
- Bicycle Helmet Safety Institute: Liners。https://helmets.org/liners.htm (ライナーがつぶれて停止時間をのばすこと、交換の勧めについて。英語の二次資料)
- KTH 王立工科大学のニュース記事(Svein Kleiven教授)。https://www.kth.se/en/om/nyheter/centrala-nyheter/han-vet-hur-hjarnan-deformeras-nar-olyckan-ar-framme-1.1457200 (回転の動きと脳について)
- MIPS: Polhem Prize 2019。https://mipsprotection.com/?p=5197 (MIPSの考え方と開発の経緯について。企業側の説明)
なおした ところ
更新履歴
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