1. びんの なかまを みみに さしこむと、なにが きこえるの?
1. 耳にさしこむ道具は、何のために作られたのか
1. ニップル付きの共鳴器は、何を聞き分けるための器具だったか
ヘルムホルツが つかった どうぐには、ほそい とっきが ついて いました。この とっきを、みみに いれます[3]。
きいて いる おとの なかに、どうぐと おなじ たかさの おとが あると、どうぐが つよく ひびいて、みみに とどきます[3]。
がっきの おとや、人の こえは、いろいろな たかさの おとが まざって できて います。まざった ままだと、ひとつずつは ききとりにくいものです。そこで、ひとつの たかさだけを ひろう みみの どうぐが うまれました。
では、どうして この どうぐは、ひとつの たかさの おとにだけ こたえるのでしょう。
2. どうして ひとつの たかさの おとにだけ こたえるの?
2. 首が「おもり」、空洞が「ばね」:びんが決まった高さで鳴る理由
2. 振動数の式:首の空気が質量、空洞の空気がばねになる
びんの くちを ふくと、くちの ところの くうきが ゆれます。くちの くうきは「おもり」、びんの なかの くうきは「ばね」の やくを します[1]。
おもりと ばねは、ゆれる はやさが きまって います。ブランコが ゆれる はやさが きまって いるのと にて います。ただし、ブランコは くうきでは ありません。たとえ ばなしです。
びんが おおきい ほど、おとは ひくく なります。くびが ながい ほど、ひくく なります。くちが ひろい ほど、たかく なります[2]。
おおきさを かえれば、こたえる おとの たかさも かえられます。この せいしつを、どうぐに した 人が いました。
ヘルムホルツ共鳴は、空洞の中の空気が出入りして、その空洞に決まった高さで振動する現象です[1]。首の部分の空気が「おもり」、空洞の中の空気が「ばね」の役をします[1]。ばねにおもりをつけると、決まった速さで揺れるのと似ています。
音の高さ(振動数)は、式 f=(c/2π)√(A/(L×V)) で表されます。c は音速、A は首の断面積、L は首の長さ、V は空洞の体積です[2]。V と L は分母にあるので、体積が大きいほど、首が長いほど低い音になります。A は分子にあるので、首の断面積が大きいほど高い音になります[2]。
ワインびんを、口の直径約2cm、首の長さ約9cm、容積750cm³と置いた例では、式から118Hzが出ます。筆者のジョン・D・クックさんがスマートフォンのアプリで測った例では106Hzで、約10%低かったそうです[2]。首の外側の空気も一緒に動くため、と説明され、その分を補う「開口端補正」を入れると差が縮まります[2]。
びんの大きさを決めれば、反応する高さも決まります。これを、そのまま道具にした職人がいました。
ヘルムホルツ共鳴は、空洞内の空気が出入りして、固有の振動数で振動する現象である。首の部分の空気が質量(おもり)、空洞内の空気が圧縮されて元に戻ろうとするばねの役をする[1]。
振動数は f=(c/2π)√(A/(L×V)) と書ける(c は音速、A は首の断面積、L は首の長さ、V は空洞の体積)[2]。注意したいのは、A だけが分子にあることだ。体積 V が大きいほど、首の長さ L が長いほど振動数は低くなるが、首の断面積 A が大きいほど高くなる。「口が広いと低い音になる」と思いこみやすいが、逆である。
資料の例(口径約2cm、首約9cm、容積750cm³のワインびん)では、式の予測は118Hzで、筆者(J. D. Cook)がスマートフォンのアプリで測った一例では106Hz、約10%低かった(12÷118≒0.10)[2]。音速を秒速340m、断面積をπ×1cm²として、cm の単位で自分で計算し直すと約117Hzで、資料の118Hzとほぼ一致する。ずれの理由は、首の外側の空気も振動に加わり、実効的な首が長くなるためと説明される。この補正は「開口端補正」と呼ばれ、補正に使う係数は資料によって異なるため、数値は断定できない[2]。
体積で音の高さが決まるなら、体積を変えられる共鳴器は、音の高さを選べる器具になる。それを実現したのが、パリの楽器職人だった。
3. ガラスの つつから、きんぞくの どうぐへ。たかさを あわせられるように
3. ガラスの筒から金属製へ:すべらせて高さを変えた共鳴器
3. ケーニヒの金属製共鳴器:体積を変えて振動数を合わせる
ヘルムホルツは、1860ねんごろまで、てぢかに ある ガラスの つつなどを つかって いました[4]。
そこで、パリの がっきの しょくにん、ルドルフ・ケーニヒに、どうぐ づくりを たのみます。1859〜60ねんごろの ことです。きんぞくの どうぐを つくって もらうためです[4]。
まるい つつの かたちの ものは、つつを すべらせて、なかの ひろさを かえられます。よこには、こたえる おとの なまえが きざまれて いました[4]。
ひろさを かえると おとの たかさが かわる。その せいしつが、そのまま おとを あわせる しかけに なりました。
この どうぐで、ヘルムホルツは なにを ききとったのでしょう。
ヘルムホルツは1860年ごろまで、手近にあったガラスの筒などを共鳴器に使っていました[4]。やがて、パリの楽器職人ルドルフ・ケーニヒに、金属製の共鳴器づくりを頼みます。頼んだ年は、資料によって1859年とも1860年ごろともあり、「1859〜60年ごろ」と幅をもたせるのが安全です[4]。
金属製の円筒形の共鳴器は、筒をすべらせて空洞の体積を変えられ、側面には共鳴する音の名前が刻まれていました[4]。前の章の「体積が変われば音の高さが変わる」という性質が、そのまま調律のしくみになっています。
ロンドンの科学博物館にある共鳴器は、1880〜1900年ごろの製作とされ、ヘルムホルツ本人の初期の品ではありません[5]。それでも、同じ形の道具が長く作られ、使われ続けたことが分かります。
こうして、音の高さを選べる道具が手に入りました。ヘルムホルツは、これで何を聞いたのでしょうか。
ヘルムホルツは1860年ごろまで、手近なガラスの筒などを共鳴器にしていた。そこで、パリの楽器職人ルドルフ・ケーニヒ(Koenig)に共鳴器づくりを依頼する。依頼の年は、資料によって1859年とも1860年ごろともあるため、「1859〜60年ごろ」と幅をもたせて書くのが妥当である[4]。
金属製の円筒形の共鳴器は、筒をすべらせて体積 V を変えられ、側面に共鳴する音名(つまり振動数)が刻まれていた[4]。前章の式で V が分母にあることが、そのまま可変式の根拠になっている。
体積を変えたときの変化は、自分で計算できる。V を半分にすると、式の √(1/V) から振動数は √2=約1.41倍になる。音程にすると、半音6つ分(たとえばドからファ♯)に近い。1半音は約1.06倍なので、1.06の6乗がおよそ1.41になることからも確かめられる。V を1割だけ減らす場合は、1/√0.9≒1.05倍で、約5%高くなる。
なお、ロンドンの科学博物館が所蔵する共鳴器は1880〜1900年ごろの製作とされ、ヘルムホルツ本人の初期の品ではない[5]。調べるときは、製作者・製作年・所蔵館のどれの話かを分けて読む必要がある。
では、この調整できる道具で、ヘルムホルツは何を聞き取ったのか。
4. ふだんの おとの なかにも、どうぐと おなじ たかさの おとが あった?
4. 風や水の音の中にも、道具と同じ高さの音が聞こえた
4. 日常の雑音の中の固有音と、『音感覚論』での共鳴器の使い方
ヘルムホルツは、こう かいて います。どうぐの おとは、かぜの ヒューヒューや、しゃりんの ガタガタ、みずが はねる おとの なかにも、ときどき きこえて くる、と[3]。
びんと おなじ かたちが ない ところでも、まわりの おとの なかには、いろいろな たかさが まざって いるのでしょう。
ヘルムホルツは、『おんかんかくろん』という ほんも かいて います。この ほんの なかで、どうぐは、ことばや がっきの おとが、ちがう たかさの あつまりだと しめす じっけんに つかわれました[5]。
びんの なかまの かたちは、その あと、どこに ひろがったのでしょう。
ヘルムホルツは、共鳴器の固有の音が、風のヒューヒューという音、馬車の車輪のガタガタ、水のはねる音の中にも、ときどき聞こえてくる、と書いています[3]。静かな実験室の音だけでなく、身のまわりの雑音の中にも、決まった高さの成分が顔を出している、という実感が伝わる記述です。
ヘルムホルツの『音感覚論』では、共鳴器は、楽器の音や話し声が、異なる高さの成分でできていることを示す実験に使われました[5]。音を「高さごとの成分に分ける」という見方を、ガラスや真ちゅうの空洞で、耳に聞こえる形にしたことになります。
この1つの形は、150年以上たった今、まったく別の場所でも働いています。
ヘルムホルツ自身の記述によれば、共鳴器の固有音は、風のヒューヒューという音、馬車の車輪のガタガタ、水のはねる音の中にも、ときどき聞こえてきた[3]。雑音は、さまざまな振動数の成分を含むため、共鳴器の振動数に近い成分があれば、その音が浮かび上がるのだと考えられる。
ヘルムホルツの著書『音感覚論』(On the Sensations of Tone)では、共鳴器は、楽器の音や話し声が異なる振動数(倍音)の成分から成ることを示す実験に使われた[5]。
ここで押さえておきたいのは、共鳴器が「音を作る器具」でも「音を大きくする器具」でもなく、まず「音を分けて聞く器具」だった点である。では、この空洞の形は、今どこで使われているのか。
5. スピーカーや くるまの まど、ひこうきにも おなじ かたちが ある?
5. スピーカーの低音、窓の「ボボボ」、飛行機の壁にも同じ形がある
5. 同じ原理の応用:バスレフ型スピーカー・車の窓・吸音ライナー
スピーカーには、ひくい おとを ふやす ために、はこに くだを つけた ものが あります。バスレフと よばれます。くだの ながさと はこの ひろさで、ふえる おとの たかさが きまると いわれます[6]。
くるまの まどを すこし あけると、「ボボボ」と おとが する ことが あります。まどの すきまが ふえの くち、くるまの なかが ひびく はこに なって いるからと いわれます[7]。
ひこうきの エンジンの まわりの かべには、あなの あいた いたの したに、はちの すのような ちいさな へやが ならんだ ものが あります。この ちいさな へやが びんと おなじ はたらきを して、おとを よわめる はたらきを すると いわれます[8]。
スピーカーでは おとを ふやす ために、ひこうきでは おとを すう ために、おなじ かたちが つかわれて います。
スピーカーの「バスレフ型」は、箱に管(ポート)をつけて、ヘルムホルツ共鳴で低音を増やすしくみといわれます。管の長さと箱の容積で、強まる高さが決まるそうです[6]。びんの首が管、びんの中身が箱にあたります。
車の窓を少し開けると、「ボボボ」と低い音が出ることがあります。窓のすきまが笛の吹き口、車内が共鳴する箱のような役をするためと説明されます[7]。窓をもっと開ける、反対側の窓も開けるなどで収まりやすい、という紹介もあります[7]。同じしくみでも、ここでは音を出したい人ではなく、困る人が出てきます。
飛行機のエンジンの吸気ダクトの内壁などに使われる吸音ライナーは、穴のあいた表面板の下に、ハチの巣のような小部屋が並ぶ構造です。この小部屋がヘルムホルツ共鳴器として働き、音を弱めるとされます[8]。これだけでエンジン全体の騒音が消えるわけではありません。
スピーカーは低音を増やすため、吸音ライナーは音を弱めるため、窓は偶然に鳴る音として、同じ「首のある空洞」が登場します。びんの音は、自分の家でも確かめられます。
バスレフ型スピーカーは、箱にポート(管)を設け、ヘルムホルツ共鳴を使って低音を増強する方式とされる。ポートの長さと箱の容積で共鳴の振動数が決まる[6]。これは、式の L と V にあたる。びんの首がポート、びんの中身が箱に対応する。
車の窓を少し開けたときの「ボボボ」という低い音も、同じ原理で説明される。窓のすきまが笛の吹き口、車内が共鳴箱の役をして共振すると説明される[7]。窓をさらに開ける、反対側の窓も開けると収まりやすいという紹介もある[7]。
航空機エンジンの吸気ダクトなどの内壁に使われる吸音ライナーは、穴あきの表面板の下にハチの巣状の小部屋(セル)を並べた構造で、各セルがヘルムホルツ共鳴器として働き、音を弱めるとされる[8]。1つのセルの音への反応は、びんと同じく、小さな孔(首)と空洞の組み合わせで決まる。エンジン全体の騒音がこれだけで消えるとは書かれていない。
スピーカーは低音を増やすため、吸音ライナーは音を弱めるため、窓は偶然の鳴りとして、同じ「首のある空洞」が現れる。用途が逆でも、式の中身は同じである。
これらの原理は、家にあるびんやペットボトルでも確かめられる。
6. うちの びんや ペットボトルで、おとの たかさを ききくらべよう
6. 家のびんやペットボトルで、水を足して高さを聞き比べる
6. 体積を変えて検算する:ペットボトルの音の高さと、原典の探し方
おおきさの ちがう びんや ペットボトルを 2ほん さがします。くちに したの くちびるを かるく あてて、よこから そっと ふきます。ふえを ふく ときの ようにです。
どちらが ひくい おとでしょうか。つぎに、みずを すこし いれて ふいて みます。みずが ふえると、なかの くうきが へって、おとが たかく なります[2]。
ふく ときは、いきを すいこまない ように します。われやすい ガラスの びんは、おとなと いっしょに つかいます。
ヘルムホルツは、かぜの おとの なかにも びんの おとが きこえると かきました。かぜの つよい ひに、まどの そとの おとと くらべて みるのも おもしろそうです。
大きさのちがうびんやペットボトルを2本用意して、口の下くちびるに軽く当て、横から静かに吹いてみます。どちらが低い音かを聞き比べます。次に、水を少しずつ足して吹き、音がどう変わるか聞いてみます。水が増えると中の空気の体積が減るので、式からは音が高くなると考えられます[2]。
吹くときは、息を吸いこまないようにします。ガラスのびんは割れやすいので、おとなと一緒に使います。
ヘルムホルツは、風の音の中にも共鳴器の音が聞こえると書いています[3]。風の強い日に、家の外の音とびんの音の高さを聞き比べるのもおもしろそうです。同じ高さが聞こえるかどうかは、やってみないと分かりません。
口の形も変えてみます。ペットボトルの口に、ストローを短く切ってさしこんだ場合と、そのまま吹く場合を比べます。首が長くなると低くなる、という式の予想と合うか、耳で確かめてみてください[2]。
家のペットボトルで、体積の変化を自分で検算できる。500mL のペットボトルに、水を50mL(体積の1割)入れて吹くと、空気の体積が約1割減るため、式から振動数は約5%高くなると予想できる(1/√0.9≒1.05)。実際に半音ほど上がるかを、ピアノやリコーダーなど家にある楽器の音と比べて、耳で確かめるのがよい。
水を半分ほど入れると、予想は約1.4倍、半音6つ分近い上昇になる。ただし、ペットボトルの首は短くて太く、肩の部分の形も複雑なので、式の予測どおりの値にはならない可能性が高い。ずれの大きさ自体が、開口端補正や形の影響を考える材料になる。
吹くときは息を吸いこまないようにする。ガラスのびんは割れやすいので、おとなと一緒に使う。
原典に当たるなら、ケニオン大学の資料にケーニヒの共鳴器の写真と解説がある[4]。ケース・ウェスタン・リザーブ大学の物理学部のページは、ヘルムホルツ自身の記述の英訳を引用している[3]。科学博物館グループの所蔵品の解説と合わせて読むと、「ヘルムホルツ本人の品」と「後の製作品」の区別がつく[5]。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
式の数値・年は、下の資料にある内容をまとめたものです。応用の章は、資料の説明を紹介する強さで書いています。
- Wikipedia, "Helmholtz resonance" https://en.wikipedia.org/wiki/Helmholtz_resonance (現象の定義、首とおもり・空洞とばねの対応)
- John D. Cook, "Helmholtz resonator revisited" (2022) https://www.johndcook.com/blog/2022/07/20/helmholtz-resonator/ (振動数の式、ワインびんの予測と実測)
- Case Western Reserve University Physics, "Helmholtz Resonator" https://physics.case.edu/?p=801 (耳に入れて使う道具、日常の音の中の固有音)
- Kenyon College, "Koenig Helmholtz Resonator" https://physics.kenyon.edu/EarlyApparatus/Rudolf_Koenig_Apparatus/Helmholtz_Resonator/Helmholtz_Resonator.html (ケーニヒの真ちゅう製、体積を変える筒)
- Science Museum Group, "Helmholtz resonators" https://collection.sciencemuseumgroup.org.uk/objects/co8188641/helmholtz-resonators (音が複数の振動数の成分でできていることを示す実験、所蔵品の製作年)
- PHILE WEB オーディオ講座「バスレフ」 https://www.phileweb.com/magazine/audio-course/archives/2007/06/28.html (バスレフ型スピーカーのしくみ)
- car-me.jp 「車の窓を開けたときの音」の記事 https://car-me.jp/articles/9044 (窓を少し開けたときのボボボ音の説明)
- Wikipedia, "Acoustic liner" https://en.wikipedia.org/wiki/Acoustic_liner (吸音ライナーの構造)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。