1. しゃっくりは どうして おきるの?
1. 役に立たないのに、生まれる前から出るのはなぜか
1. 「ヒック」の正体と、胎児期から出るという謎
しゃっくりは、おなかと むねの あいだに ある おうかくまくが、きゅうに ちぢむ ことで はじまります。すぐ あとに、のどの なかの せいもんが、ぱたんと とじます。「ヒック」と いう おとは、この せいもんが とじる ときに でます[1]。
ちぢんでから とじるまでは、およそ 0.035びょうと いわれます。1びょうを 30に わけた ひとつぶんぐらいです[2]。
ひきがねは、いが ふくらんだ とき、あつい ものを のんだ とき などです。でも、わけが わからない ことも おおいそうです[1]。
ふしぎな ことに、おなかの なかの あかちゃんも しゃっくりを します。ものを のみこむ はんしゃや、いきの はんしゃが でるより まえからだと いわれます[2]。なぜ のこって いるのでしょう。
しゃっくりは、胸とおなかの境目にある横隔膜が、急に縮むところから始まります。そのすぐあとに、のどの奥の声門が音を立てて閉じます。「ヒック」という音は、この声門が閉じるときの音です[1]。
筋肉が強く縮んでから声門が閉じるまでは、約35ミリ秒、つまり約0.035秒という報告があります。1秒の30分の1ほどです[2]。
きっかけには、胃がふくらむこと、お酒、熱いものや刺激の強いものなどがあげられます。ただ、はっきりした原因が見つからないことも多いようです[1]。
不思議なのは、生まれる前の赤ちゃんです。胎児では、飲み込む反射や呼吸の反射が現れるより前に、しゃっくりが出るといわれます[2]。生まれる前から出るしゃっくりには、どんな意味があるのでしょうか。
しゃっくりは、横隔膜の不随意な収縮に続いて声門が急速に閉鎖することが繰り返される現象で、「ヒック」という音は声門の閉鎖時に生じる[1]。呼吸筋の強い収縮から声帯の閉鎖までは約35ミリ秒(約0.035秒、1秒の約30分の1)とされる[2]。
短期的な誘因は、胃の膨満、飲酒、熱いものや刺激物の摂取などだが、明らかな原因がない例も多い[1]。誘因が曖昧で目的も分からないのに、なぜこの反射は消えないのか。手がかりの一つは、胎児にある。胎児ではしゃっくりが、嚥下や呼吸の反射より前に現れるとされる[2]。
肺で呼吸も、口から飲むこともしていない時期に出る反射は、少なくとも「息を整える」「飲み込んだものを動かす」といった出生後の用途だけでは説明しにくい。そこで出されたのが、以下の3つの仮説である。いずれも仮説であり、定説ではない。
2. おたまじゃくしと にて いるって ほんとう?
2. おたまじゃくしの呼吸に似ている、という説
2. 両生類のえら換気の名残説(Strausら, 2003)
おたまじゃくしは、えらで いきを します。2003ねんに、しゃっくりは この えらで いきを する うごきの なごりでは ないか、と いう せつが でました[3]。
にて いる ところは、いくつか あります。すう ときに せいもんが とじる こと。はいで いきを する ように なる まえから、はったつ して いる こと。すう くうきの にさんかたんそを ふやすと、おさまる こと、です[3]。
でも、これは「せつ」です。きまった こたえでは ありません。
どうして なごりが のこるのでしょう。この せつでは、しゃっくりを つくる しくみが、ちちを のむ うごきや ふつうの いきの うごきを つくる ときに、やくに たったから かも しれない、と かんがえます[3]。
おたまじゃくしは、えらで水から酸素をとります。Strausらは2003年に、しゃっくりはカエルなど両生類が使うえら呼吸の運動パターンの名残ではないか、という仮説を出しました[3]。
根拠にされたのは、共通点です。息を吸っているときに声門が閉じること、肺で呼吸するより早い時期から発達すること、吸う空気の二酸化炭素を増やすと抑えられること、などがあげられています[3]。
では、なぜ人間にまで残ったのでしょう。同じ説では、しゃっくりを生む神経の回路が、乳を吸うことや、ふだんの呼吸に使う別の回路を作るときに役立ったから、残っているのかもしれないと考えます[3]。使い道がなくなったのではなく、ほかの大切な働きの土台になったのかもしれない、という見方です。
ただし、これは仮説であって、定説ではありません。別の説も出ています。
Strausらは2003年、しゃっくりは、カエルなどの二生活型(水中と空気中の両方で呼吸する動物)のえら換気に見られる古い運動パターンの発現ではないか、という系統発生仮説を出した[3]。根拠は、吸気中に声門が閉じる点、肺呼吸より早く発達する点、吸う空気のCO₂を増やすと抑えられる点などの共通性である[3]。
では、えら呼吸の名残なら、なぜ哺乳類で消えなかったのか。同説では、この運動パターンの回路が、咽頭や胸壁の筋肉が担う他の有用な機能、たとえば吸乳や通常の呼吸のパターン発生器の発達を可能にしたため残った、と考える[3]。つまり「無用の遺物」ではなく、別の回路づくりの副産物という位置づけである。
ただし、共通点は状況証拠にとどまる仮説であり、定説ではない。同じ時期に、まったく別の方向から説明を試みた研究もある。
3. あかちゃんの おなかの くうきを だす ため?
3. 飲み込んだ空気を出す「ゲップ」の仲間という説
3. 乳児のゲップ反射説(Howes, 2012)
こんどは、ちがう かんがえです。しゃっくりは、あかちゃんが のみこんだ くうきを だす「ゲップ」の しくみが すすんだ ものでは ないか、と いう せつです[2]。
あかちゃんは、ミルクを のむ ときに、くうきも いっしょに のんで しまいます。それが いに たまると くるしいので、だす ひつようが あります。
うまれたばかりの あかちゃんは、じかんの さいだい 2.5%ぐらいを、しゃっくりに つかうと いわれます[2]。1日に すると、さいだいで 36ぷんぐらいです。
この せつも ひとつの かんがえです。ほかの せつと、いっしょに しょうかいされて います[2]。
Howesは2012年に、もう一つの仮説を出しました。しゃっくりは、赤ちゃんが飲み込んだ空気を胃から出すために進化した「ゲップ反射」ではないか、というものです[2]。
赤ちゃんはミルクを飲むとき、空気も一緒に飲み込みます。それをうまく出せる反射があれば、赤ちゃんには都合がよさそうです。この総説によると、新生児は時間の最大で2.5%をしゃっくりに使うといいます。1日24時間の2.5%は、計算すると約36分です[2]。
おたまじゃくし説とゲップ説は、同じ総説の中で、並べて紹介されています[2]。どちらかが正解と決まったわけではなく、研究者の考え方が分かれているのです。
では、しゃっくりをしている赤ちゃんの体の中で、実際に何が起きているのでしょうか。
Howesは2012年、しゃっくりを、乳児の胃から嚥下された空気を排出するよう進化したゲップ反射とみなす仮説を提出した[2]。新生児は時間の最大2.5%をしゃっくりに費やすとされ、1日(1440分)に換算すると最大で約36分になる[2]。
この仮説は、乳児期に頻度が高いという観察とは整合する。だが、その整合は因果を証明しない。同じ総説でStraus説も紹介されており、両者は排他的でなく、見ている問いも違う。Strausらは「起源」を、Howesは「乳児期の働き」を主に論じている[2][3]。
起源や用途を推測するだけでなく、実際に乳児の脳で何が起きているかを測ろうとした研究が、2019年に出る。
4. しゃっくりで、あかちゃんの のうは なにを して いるの?
4. しゃっくりのたびに、赤ちゃんの脳は反応している
4. 新生児の脳活動の研究(Whiteheadら, 2019)
2019ねんに、イギリスの ロンドンだいがくの ひとたちが、あかちゃんの のうを しらべました。早く うまれた あかちゃんと、よていどおりに うまれた あかちゃん、あわせて 13にんが きょうりょく しました[4]。
しゃっくりで おうかくまくが ちぢむ たびに、のうに おおきな でんきの はんのうが おきて いました[4]。
この けっかから、しゃっくりは、あかちゃんの のうが「いきの きんにくを どう うごかすか」を おぼえる のに、やくに たつ かもしれない、と かんがえられて います[4]。
ただし、「かも しれない」と いう ところまでです。やくわりが はっきり わかった わけでは ありません。
2019年、ロンドン大学(UCL)の研究グループが、早産で生まれた赤ちゃんと、予定どおり生まれた赤ちゃん、合わせて13人の協力を得て、しゃっくりの最中の脳の反応を調べました[4]。
すると、しゃっくりで横隔膜が縮むたびに、脳に大きな電気的な反応が起きていました[4]。体が勝手に動いているだけに見えるしゃっくりが、脳にも大きな信号として届いていたのです。
研究者たちは、これが赤ちゃんの脳が呼吸の筋肉の動きをつかむ学習に役立つ可能性を示す、と考えています[4]。ただし、調べた人数は13人で、役立っていると証明された段階ではありません。
しゃっくりのたびに赤ちゃんの脳に反応が起きることが分かりました。研究者は、呼吸の筋肉の動きを学ぶことに関係する可能性を考えています。では、大人のしゃっくりを止める方法には、どんな根拠があるのでしょうか。
Whiteheadら(2019, Clinical Neurophysiology[7])は、早産児と正期産児の計13人を対象に脳の電気活動を記録した。しゃっくりで横隔膜が収縮するたびに、脳に大きな事象関連電位が生じていた。初期の2つの電位に続いて、3つ目の電位もみられたと報告されている[4]。
これを、赤ちゃんの脳が呼吸筋の動きをマッピングする学習に、しゃっくりが役立つ可能性を示す結果と解釈している[4]。ただし、「役立つ可能性」を示す研究であり、役割が証明されたものではない。対象も13人にとどまる。
3つの仮説は、互いに矛盾しない部分がある。起源(えら呼吸の名残)、乳児期の用途(ゲップ)、脳の発達(学習)は、別々の問いに答えている。では、成人のしゃっくりを止める方法の根拠はどう考えるべきか。
5. いきを とめると、とまりやすいと いわれるのは なぜ?
5. 息をこらえると止まりやすい、と説明されるのはなぜか
5. 二酸化炭素による抑制と、民間療法の位置づけ
しゃっくりの はんしゃは、からだの なかの にさんかたんそが ふえると、おさえられる ことが あると いわれます[2]。
いきを とめると、にさんかたんそが たまる、と せつめいされる ことが あります。でも、ためして みる ことを すすめる ものでは ありません。
でも、これで かならず とまる わけでは ありません。いしゃの ほんには、いきを とめる、みずを すばやく のむ といった やりかたに、ほかより とくに すぐれた ものは ない、と かいて あります[1]。
ですから、いきを とめる ことは、むりに しないで ください。くるしく なったら、すぐ やめます。
しゃっくりの反射は、血液の二酸化炭素が増えると抑えられるといわれます[2]。息をこらえると二酸化炭素が増えるので、この理屈で説明されることがあります。ただし、試すよう勧めるものではありません。
この理屈は、おたまじゃくし説の「共通点」の一つとも重なっています。えら呼吸の動きにも、二酸化炭素で抑えられる性質があるからです[3]。
ただし、理屈があることと、確実に効くことは別です。MSDマニュアルは、息止めや水を素早く飲むといった民間療法について、ほかと比べて特に優れたものはないと述べています[1]。
そのため、息をこらえることは無理にしないでください。この記事は、効く方法を保証するものではありません。
6. つよく すう くだは、しゃっくりを とめたの?
6. 強く吸う道具は、しゃっくりを止めたのか
6. 吸引管FISST ── 自己申告92%をどう読むか
2021ねんに、アメリカの だいがくの ひとたちが、つよく すわないと みずが でない くだを ほうこくしました[5]。
この くだを つかうと、おうかくまくが ちぢみ、ごくんと のむ うごきも おきます。このとき、2つの しんけいが いっしょに しげきされて、とまるのでは ないか、と せつめい されて います[6]。
249にんに、インターネットで たずねると、およそ 92%が「とまった」と こたえました[5]。
でも、くらべる ぐるーぷが なく、みんな ほんにんの ほうこくです。ほんとうに くだの おかげかは、これからの けんきゅうで たしかめる ひつようが あります。
2〜3にち いじょう つづく ときは、おうちの ひとと いっしょに、いしゃに みて もらいましょう[1]。
2021年6月、アメリカのUTヘルスサンアントニオなどの研究者が、JAMA Network Openに、強く吸わないと水が出ない管を報告しました。FISSTと呼ばれています[5]。
説明によると、強く吸うと横隔膜が縮み、吸うことと飲み込むことで喉頭蓋が閉じます。その結果、横隔神経と迷走神経という2つの神経が同時に刺激されて、しゃっくりが止まるというのです[6]。この仕組みは著者らの説明で、確定ではありません。
249人にオンラインで調べたところ、約92%が「止まった」と答えました。ただし、比べる対照群はなく、すべて本人の報告です[5]。92%という数字は、効果の証明ではなく、今後、無作為化試験で確かめる必要があるとされています。
しゃっくりは、ふつうは自然に止まります。2日を超えると持続性、1か月を超えると難治性とする資料があります。2〜3日以上続くときは医師の診察が勧められています[1]。
2021年6月、UTヘルスサンアントニオらは、JAMA Network Openに、強く吸わないと水が出ない管FISSTを報告した[5]。説明では、強い吸引で横隔膜を収縮させ、吸引と嚥下で喉頭蓋が閉じることにより、横隔神経と迷走神経を同時に刺激して止めるとされる[6]。ただし、この作用機序は著者らの説明であり、確定した知見ではない。
249人のオンライン調査では、約92%が「止まった」と自己申告した。これを読むときの注意は3つある。対照群がない。全データが自己申告である。しゃっくりは自然に止まる場合も多い。そのため、92%という数字だけでは管の効果を示せず、著者らも無作為化試験が今後必要としている[5]。
持続時間による分類では、2日を超えると持続性、1か月を超えると難治性とする資料がある。2〜3日以上続く場合は受診が勧められる。資料により境界の書き方が少し異なる[1]。
起源・用途・止め方のどれも、「らしい」の段階にある。その分、問いは開いている。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
しゃっくりが でたら、むりに とめずに、1ぷんに なんかい でるか かぞえて みましょう。「ヒック」の ときに、のどが どう なるか、かんじても みます。くるしい ときは、おうちの ひとに つたえます。
出かけてできること
としょかんで、からだの ほんを さがして、おうかくまくの えを 見て みましょう。むねと おなかの あいだに ある、ドームの ような きんにくです。
こうしきの 情報
MSDマニュアル かていばんの「しゃっくり」の ページに、しゃっくりの せつめいが のって います。
今日できること
しゃっくりが出たら、無理に止めようとせず、1分間に何回出るか数えてみましょう。「ヒック」の瞬間に、のどがどうなるかも感じてみます。苦しいときは、すぐ家の人に伝えます。
出かけてできること
図書館で、からだの本の横隔膜の絵を探してみましょう。胸とおなかの間にある、ドーム形の筋肉です。
公式情報
MSDマニュアル家庭版の「しゃっくり」のページに、原因や受診の目安がまとまっています。
今日できること
しゃっくりが出たら、1分あたりの回数と間隔を数えて記録し、数分後に変化があるかを見る。無理に止めずに、自然に止まるまでの様子を観察するだけでよい。
出かけてできること
図書館で生理学の入門書を探し、横隔膜と迷走神経・横隔神経の位置関係を図で確かめる。
公式情報
MSDマニュアル家庭版「しゃっくり」で受診の目安を確認できる。仮説の原典は、Howes(2012)とStrausら(2003)の要旨が公開されており、英語だが読み比べると、同じ現象に別の問いを立てていることが分かる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
しゃっくりの仕組みと民間療法はMSDマニュアルに、進化・乳児についての仮説は論文の要旨と解説に、強く吸う管は論文と大学の発表に依拠した。論文ページの一部は原文を開けず、要旨や紹介記事で確認した範囲の内容を使っている。
- MSDマニュアル家庭版「しゃっくり」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/03-消化器系の病気/消化器系の病気の症状/しゃっくり (仕組み・誘因・民間療法・持続時間)
- Howes D. (2012) Hiccups: A new explanation for the mysterious reflex. BioEssays. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3504071 (35ミリ秒・胎児・ゲップ反射説・二酸化炭素)
- Straus C. et al. (2003) A phylogenetic hypothesis for the origin of hiccough. BioEssays 25:182-188. https://dc2.philarchive.org/rec/STRAPH (おたまじゃくし・えら呼吸の名残説)
- UCL News (2019) Newborn baby hiccups could be key to brain development. https://www.ucl.ac.uk/news/2019/nov/newborn-baby-hiccups-could-be-key-brain-development (新生児の脳の電気反応・Clin Neurophysiol 130:2216-2221)
- JAMA Network Open (2021) FISSTの報告. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8214157 (249人の調査・92%・限界)
- UT Health San Antonio news. https://news.uthscsa.edu/team-describes-science-based-hiccups-intervention/ (FISSTが止める理屈の説明)
- Whitehead K. et al. (2019) Hiccups in newborn infants evoke cortical responses. Clinical Neurophysiology. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1388245719308588 (13人の脳活動の原著論文)
なおした ところ
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