1. のばらが さくと、なにが はじまるの?
1. 野バラが咲いたら、ソープベリーの収穫が近い
1. 野バラの花を、別の植物の実の合図に使う
カナダの せんじゅうみんの 人たちは、のばらが さくと、ソープベリーの みが とれる ころだと 考えて きたと 書かれて います。
ふしぎですね。のばらの 花と、ソープベリーの みは、べつの 木です。それでも 花が さく 日は、その 年の 天気に あわせて 早く なったり おそく なったり します。あたたかい 年は 早く、さむい 年は おそく さきます。ソープベリーの みも、おなじ きせつの かわりめを うけて そだって いるのかも しれません。そうだと すれば、花が 「いま」を おしえて くれるのです。
こういう めじるしに なる 草や 木を、「しひょう しょくぶつ」と よぶ ことが あります。
野バラとソープベリーは、別々の植物です。それなのに、バラの花が咲いたことが、ソープベリーを収穫する合図になる。資料には、カナダの先住民の人たちがこの使い方をしていると書かれています[1]。
理由として考えられるのは、どちらも同じ年の暖かさを受けて育っていることです。暖かい春にはバラも早く咲き、寒い春には遅く咲きます。実の側も、その年の天気に合わせて進みます。花はいわば、「いまの季節がどこまで進んだか」を教える時計の針になるわけです。ここでは、この考え方を「指標植物」と呼んでおきます。
では、日本のカレンダーではだめなのでしょうか。それを確かめるために、まず、庭で使われている花の目印の例を見てみましょう。
この例では、実の成熟の指標になっているのは、実をつける当の植物(ソープベリー)ではなく、別種のバラの開花である[1]。両者が同じ年の季節の変化に反応して進むと考えれば、一方の進み具合から他方を推定できる。ただし、この資料が示すのは「先住民がこの目印を使っている」という記述であり、バラの開花から収穫までの日数の規則は示されていない。
花などの季節的なできごとの時期を調べる学問は、フェノロジー(物候学)と呼ばれる。米国フェノロジー・ネットワークは、これを、植物や動物の年ごとの生活環に関わるできごとの時期と周期的なパターンの研究と説明している[8]。指標植物とは、このうち、ある花の開花を別のできごとの合図として使うやり方のことである。
では、現代の庭仕事では、どんな花が、どんな合図に使われているのだろうか。
2. にわでは、どんな 花を めじるしに するの?
2. 庭仕事では、ライラックやチコリが「合図」になる
2. 大学の園芸情報にある、ライラックとチコリの合図
アメリカの 大学の にわしごとの ページには、こう 書いて あります。「ライラックが まんかいの ときに、インゲンと キュウリと カボチャの たねを まきなさい」。
また、チコリの 花が はじめて ひらいたら、カボチャの つるを いためる 虫から まもる じゅんびを する ころだ、とも あります。
たねを まく 日も、虫に 気を つける 日も、カレンダーでは なく 花が おしえて くれるのです。
アメリカのウィスコンシン大学の園芸情報には、花を目印にした作業の例が並んでいます。ライラックが満開のときに、インゲン、キュウリ、カボチャの種をまく[2]。チコリの最初の花が開くころが、カボチャの蔓につく害虫、スクワッシュ・バイン・ボーラーの被害を防ぐのにちょうどよい時期[2]。
ここで、ふつうのライラックは、年ごとの比べ合いに使う観察の中心的な植物とされています[2]。毎年同じ種類の花を見れば、「今年は去年より何日早い」と言えるからです。
ところで、なぜ花の方が、日付よりも当てになるのでしょう。
ウィスコンシン大学エクステンション(園芸の普及機関)は、ライラックの満開をインゲン・キュウリ・カボチャの播種の合図とし[2]、チコリの初開花を、カボチャの蔓を害するスクワッシュ・バイン・ボーラーへの対策時期の合図としている[2]。種まきと害虫対策という別の作業に、それぞれ別の花が割り当てられている点が特徴である。
この機関が、ふつうのライラックを年ごとの比較の「要」としている点も重要である[2]。基準になる種が決まっていれば、観察者は別の年の同じ花と照らし合わせ、時期のずれを量れる。ここで指標植物は、単なる経験則から、比較可能な観測の対象に変わる。
では、なぜ暦の日付ではなく花なのか。そこには「熱」が関わっている。
3. かれんだーより 花の ほうが、あてに なるのは どうして?
3. 暦の日付は毎年同じなのに、花は毎年ずれる
3. 暦の日付は固定でも、花の時期は積算した熱とそろう
3月10日は、毎年 おなじ 日です。でも、あたたかく なる ころは 年に よって ちがいます。
アイオワ州の 大学の ページに よると、日づけは 年ごとに かわっても、花や 虫の できごとは、それまでに たまった あたたかさと よく そろう ことが 多い そうです。ライラックの 花は、ある 虫が 出て くる ころと かさなる ことが よく ある、とも 書かれて います。
花は、あたたかさを かぞえながら さいて いる ようなもの。だから 日づけより、ずっと 「いまの じき」を あらわすのです。
日付は、暖かい春でも寒い春でも、同じ日にやってきます。ところがアイオワ州立大学エクステンションは、カレンダーの日付は年によって変わっても、植物や虫のできごとは、積算した熱とよくそろう傾向があると説明しています[3]。ライラックの開花が一部の害虫の出現と重なることが多いのも、この傾向の一例だとされています[3]。
積算した熱とは、毎日の気温をたしざんしたもののことで、この資料では「成長度日」という数え方が使われています。開花は、ある範囲の積算温度に対応することが多い、というのが資料の説明です[3]。花は、足し算の目盛りを読み取る温度計のような役をしているわけです。
場所によっても花の時期は変わります。ウィスコンシン大学の資料には、北へ行くほど、そして東へ行くほど、春のできごとが遅れるという「ホプキンスの法則」が紹介されています。北緯1度ごとに約4日、東経1度ごとに約1.25日遅れる、という目安です[2]。北緯が5度違えば、およそ20日の差です。これは北アメリカでの経験則で、そのまま日本に当てはまると決まったわけではありません。
こんなに便利な目印ですが、いつでも当たるのでしょうか。
暦の日付は天候に関係なく固定されている。アイオワ州立大学エクステンションは、暦の日付が年ごとに変わる一方、植物や昆虫のできごとは積算した熱とよく一致する傾向があるとし[3]、開花はしばしば特定の成長度日(GDD:日々の気温から基準温度を引いて足し合わせた値)の範囲に対応するという[3]。ライラックの開花が一部の害虫の出現と重なることが多いという記述も、同じ仕組みで説明できる[3]。
空間的なずれについては、ウィスコンシン大学の資料が、ホプキンスの法則を紹介している。フェノロジーのできごとは、北緯1度あたり約4日、東経1度あたり約1.25日遅れるという[2]。たとえば緯度が5度違えば、およそ20日の差が出る計算になる。ただし二次的な紹介であり、地形や標高による例外は含まれていない。
暦の日付より、積算した熱のほうが花や他の生物のできごとの時期とそろいやすい傾向がある。では、気温だけを頼りにして、どこまで信頼できるのか。
4. 花の めじるしが、はずれる ことは あるの?
4. 気温だけでは決まらない:花の目印の限界
4. 気温モデルの限界と、目印を選ぶ難しさ
あります。大学の ページは、この やりかたが 「気温だけ」を 見て いる と 注意して います。雨や、土の しめりぐあい、日の 長さは、入って いません。
また、自分の 庭は、ちかくの てんきを はかる ところと 気温が ちがう こと も あります。日あたりや かぜの とおり みちで、まわりより あたたかい 場所も、すずしい 場所も あるからです。
だから 花の めじるしは、「だいたいの めやす」として つかい、自分の 目で よく 見て たしかめる ことが たいせつ です。
どの 草の 花が いちばん あてに なるのかを きめる みんなの ものさしは、まだ ありません。
アイオワ州立大学エクステンションは、積算温度の方法が気温だけをもとにしていて、雨や土の水分、昼の長さは含まれないと注意しています。また、庭の微気候は、近くの気象観測所の気温と違うことがあります。だから目安として使い、直接の観察と合わせる必要があるとされています[3]。
もう一つ、花の目印にも向き不向きがあります。実が熟したかどうかを見分けるときの色や硬さの基準は、植物の種類でまったく違います。どの野草を最も信頼できる指標とするかを決める、共通の基準があるわけでもありません。カナダの先住民の人たちの野バラのように、地域の長い観察から生まれた目印が、その土地で強い理由はここにあるのでしょう。
花を合図に、実が近いと分かったら、次に見るのは「実」そのものです。花から実へは、どう移り変わるのでしょうか。
アイオワ州立大学エクステンションは、GDDモデルが気温のみに依拠し、降水量・土壌水分・日長を含まないと明記している。さらに、庭の微気候は近隣の気象観測所の気温と異なる場合があるため、数値は目安であり、直接の観察と併用すべきだとされる[3]。
指標の選択にも限界がある。実の成熟の判定に使う色や硬さの基準は種ごとに大きく異なり、どの野草が最も信頼できる指標かを一つに決める基準は示されていない。今回の資料の範囲で言えるのは、「バラの花がソープベリーの合図になる」という地域の知識や、「ライラックが種まきの合図になる」という庭での例が、それぞれの土地での経験にもとづくことである。
花を合図に実が近いと見当をつけたあと、実際に実が育つ過程は、どのように観察・記録されているのだろうか。
5. 花の あと、みは どう できて いくの?
5. 花びらが落ちたあと、実が育ち、熟すまで
5. 花から実へ:段階を分けて記録する市民科学の方法
花が さいたあと、花びらが とじたり おちたり します。すると、花の まんなかに ある ふくらみが、だんだん 大きく なって いきます。これが みの はじまりです。
ここで 大事な ことが あります。ひとつの 草に、花と みが いっしょに あることも ある のです。花は まだ さいて いるのに、うれた みは まだ ない。そんな ときも あります。
だから よく 見る 人は、「花は さいて いる?」「うれた みは ある?」と、ひとつずつ 分けて しらべます。
うれた みは、「草の 上に うれた みが ひとつ でも 見える」ことで きめる 場合も あります。ただ、中の たねが ぜんぶ 落ちた あとの みは、数えません。
実とは、花が受精したあと、子房がふくらんで、種を含み守る部分になったものです[4]。花びらが閉じたり落ちたりしたあとで、子房がふくらみ始めたら、実が育ち始めた印です[4]。
米国フェノロジー・ネットワークの観察では、花、実のふくらみ、熟した実といった段階を、一つずつ「ある」「ない」で別々に判定します。段階は重なることがあるからです[5]。同じ株で、花はまだ咲いているのに熟した実はまだない、という記録もできます。
何を「熟した実」と数えるかにも、決まりがあります。たとえば、さく果が割れて種がすべて落ちたあとの実は、熟した実に数えません[5]。メイン大学の観察のきまりでは、ワイルドストロベリーは、熟した実が植物の上に1つ以上見えれば「熟した実あり」とされ[6]、実が落ちたり持ち去られたりしたことも、別の項目として記録します[6]。
こうした記録が積み重なると、花の日付から実の日付をどう読めるかが、数字で見えてきます。
ワシントン州のレーニア山国立公園では、市民も参加して、17種の野草の観察を続けてきました。つぼみ、開花、結実、種の散らばりの4つの段階を28の観察地で記録し、2013年から2019年までに4万2000件を超える観察が集まっています[7]。
植物学上の果実は、花の子房が受精後に発達して種子を含んだ構造をいう[4]。花の盛りが過ぎたあとに子房の肥大が始まれば、果実の発生を示す[4]。
米国フェノロジー・ネットワークの観察手順は、各フェノフェーズ(開花、結実などの段階)を個別に「はい/いいえ」で評価する。段階が重なりうるためで、同一個体で「開花中だが成熟した果実はまだない」という記録が成り立つ[5]。何を数えるかも規定されており、さく果が裂開して種子がすべて落ちた後の果実は、成熟果に数えない[5]。メイン大学のワイルドストロベリーの定義では、植物上に成熟果が1つ以上見えれば「成熟果あり」とし[6]、前回の訪問以降の落果や持ち去りは別項目で記録する[6]。
こうして段階を分けるからこそ、データが積み重なる。レーニア山国立公園のMeadoWatchは、17種の野草を対象に、つぼみ・開花・結実・種子散布の4段階を28の調査区で記録し、2013〜2019年に4万2000件以上の観察を集めた市民科学のデータベースである[7]。花の日付と実の日付をそろえて比較できる土台があることが、花を指標にする方法を支えている。
ここまでの資料は北アメリカのものが中心である。では、身近な場所で、同じ見方を試すにはどうすればよいか。
6. 近所の 花で、さいた 日を メモして みよう
6. 近所の花が咲いた日と、実がふくらみ始めた日をつけてみる
6. 身近な植物で、開花日と結実の開始日を記録する
近くの 公園や 道ばたで、毎年 見る 花を ひとつ えらびます。花が さいた 日と、花びらが おちて ふくらみ が 見えた 日を、ノートに 書きます。
来年も 同じ 花で 同じように 書くと、「今年は 早い? おそい?」が わかります。
ただし、野草の みは、食べては いけません。見る だけに します。道路の そばや、人の 家の 庭には 入らず、大人と いっしょに 行きましょう。
近所に、毎年見かける花を一つ決めます。咲き始めた日と、花びらが落ちて子房のふくらみが見えた日を、ノートに書きます。これだけで、あなたの町の「花の暦」の一年分ができます。
翌年にも同じ花で記録すれば、年によるずれが見えてきます。さらに、春の気温の記録と並べると、暖かい年に花が早まるかどうか、自分で比べられます。ウィスコンシン大学の資料がライラックを比較の基準にしたのと、同じ考え方です[2]。
野草の実は、食べずに見るだけにしてください。道路ぎわや人の敷地には入らず、大人と一緒に出かけましょう。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
アメリカの大学・公的機関などの資料から、用語の定義・目印の例・観察の決まりを確認しました。
- Botanical Electronic News #323. https://www.ou.edu/cas/botany-micro/ben/ben323.html (野バラの開花とソープベリーの収穫。研究者による文献調査で報告された例)
- Phenology – UW-Madison Extension Horticulture. https://hort.extension.wisc.edu/articles/phenology/ (ライラック・チコリの目印/ホプキンスの法則)
- Using Growing Degree Days to Manage the Home Garden – Iowa State University Extension. https://yardandgarden.extension.iastate.edu/how-to/using-growing-degree-days-manage-home-garden (積算した熱と開花/気温だけの限界)
- Nature's Notebook Nugget: Flowers Turning to Fruit – USA National Phenology Network. https://usanpn.org/nn/faq/Nugget3 (果実の定義/子房のふくらみ)
- Nature's Notebook Nugget: Focus on Flowers and Fruits – USA National Phenology Network. https://usanpn.org/nn/faq/Nugget8 (段階ごとの判定/熟した実の数え方)
- Wild Strawberry Phenophase Definitions – University of Maine Cooperative Extension. https://extension.umaine.edu/signs-of-the-seasons/indicator-species/wild-strawberry-phenophase/ (熟した実・落果の定義)
- MeadoWatch: a long-term community-science database of wildflower phenology in Mount Rainier National Park. Scientific Data. https://www.nature.com/articles/s41597-022-01206-8 (観察の段階・データ量)
- Why phenology? – USA National Phenology Network. https://www.usanpn.org/about/phenology (フェノロジーの定義)
なおした ところ
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