1. どうして 書庫は 暗いの?
1. 本を読めないほど暗いのは、なぜか
1. 光による劣化と閉架式の書庫 ── 暗さと出入りの制限
国立国会図書館は、日本で たった 1つの 「のうほん図書館」です。日本で 出た 本を あつめて、100年後、200年後の 人にも わたす ことを、大じな やくめと して います[1]。
そのため、ほとんどの 本は 書庫に しまわれ、書庫に 入れる 人も かぎられて います[1]。書庫は 暗く して、光で 本が いろを かえるのを ふせいで います。
本を つかう ときは、おなじ 本が 光に あたり つづけない ことが 大じなのです。でも、きずを つくる ものは 光だけでは ありません。
2. 外が じめじめしても、書庫は だいじょうぶ?
2. 外の湿度が変わっても、書庫の湿度を保つ
2. 温度・湿度の管理 ── 65%の目安と、60%で始める空調
書庫の 中は、温度が 22度、しつどが 55%ぐらいに なるように して います[1]。
2013年の 夏、東京本館では、1日の へいきんで 外の しつどが 40%から 90%まで ゆれたのに、書庫の 中は 50〜60%だったと いいます[2]。
しつどが 65%を こえ つづけると、カビが でやすく なると されます。そこで、書庫の しつどが 60%を こえる ころから、くうちょうを うごかす やりかたも あります[2]。
カビを ふせぐ 目あては 65%ですが、これより 下なら ぜったい 出ない、と いう ことでは ありません。
書庫の目安は、温度22℃、湿度55%前後です[1]。湿度が大事なのは、カビと関係があるからです。湿度がずっと65%を超えると、カビが発生する確率が高まるとされ、書庫内が60%を超える頃から空調を動かす運用も紹介されています[2]。
2013年夏、東京本館では、1日の平均で外気の湿度が40〜90%と変動した一方、書庫内は50〜60%でした[2]。
温度と湿度は、セットで考えます。同じ量の水蒸気でも、温度が高いと相対湿度は低く、温度が低いと高くなるためです[2]。ただし、65%は目安で、それ以下ならカビが出ないという意味ではありません。
空気を整えても、中に虫やカビを持ち込まれては意味がありません。次の章では、それをどう防ぐかを見ます。
NDLの一般書庫は、温度22℃・湿度55%前後を目安に管理される[1]。湿度が重視されるのは、恒常的に65%を超えるとカビの発生確率が高まるとされるからで、書庫内が60%を超える頃から空調の運転を始める運用例もある[2]。65%は目安であり、それ以下ならカビが出ないという意味ではない。
実例として、2013年夏の東京本館では、1日の平均で外気の湿度が40〜90%の幅で変動したのに対し、書庫内は50〜60%だった[2]。ある年の一例である。
温度と湿度を同時に管理するのは、相対湿度が温度に連動するためで、同じ水蒸気量でも温度が高いほど相対湿度は低くなる[2]。では、環境が整った書庫に、虫やカビの原因をどう入れないのか。
3. 虫や カビを、どうやって 入れないの?
3. 虫もカビも、書庫の入り口で止める
3. 虫菌害の対策 ── IPMと搬入前の処置
書庫に 入る 人は、くつを はきかえたり、くつカバーを つけたり します。足もとの ねばねばした マットで、よごれを おとす ことも あります[3]。
虫が いないかを 知る ために、ねばねばした わなも おいて います。わな には、どんな 虫が いくつ ついたかを、ときどき しらべます[3]。
ふるい本屋さんで 買った 本や、いただいた 本は、書庫に 入れる 前に、虫や カビを なくす しょりを します[3]。
くすりを なるべく つかわず、いろいろな やりかたを 組み合わせる 考えかたを IPM と いいます[3]。
書庫に入る人は、内履きに替え、靴カバーを着け、足元の粘着マットで汚れを落とします。外から汚れや虫を持ち込まないためです[3]。
虫に食われやすい和紙の資料を多く置く区域や、人の出入りが多い場所には、虫を捕る粘着トラップを置き、虫の種類と数を定期的に確かめています[3]。虫が「どこに、どのくらいいるか」を知れば、手を打つ場所が決まります。
古書店で買った資料や寄贈資料など、虫やカビが疑われるものは、書庫に入れる前に、低酸素濃度殺虫法や酸化プロピレン燻蒸で殺虫・殺菌の処置をします[3]。
こうした考え方はIPM(総合的有害生物管理)と呼ばれます。薬剤をできるだけ使わず、複数の対策を組み合わせて、虫やカビを許せる範囲に抑えるものです。もとは1960年代に農業で生まれ、1990年代に博物館などの文化財保存へ、さらに図書館へも広がりつつあります[3]。
では、虫もカビも防いだのに、本そのものがもろくなっていたら、どうするのでしょう。
NDLの虫菌害対策は、IPM(総合的有害生物管理)の考え方に立つ。IPMは、薬剤をなるべく使わず、複数の対策を組み合わせて、虫やカビの発生を許容水準内に抑える方法で、1960年代に農業で生まれ、1990年代に博物館・美術館などの文化財保存に、そして図書館にも広がりつつある[3]。
運用の中身は、まず入れないことである。書庫では内履き・靴カバー・足元の粘着マットで汚れを持ち込まない。虫の食害を受けやすい和紙資料を多く置く区域や、人の出入りが多い場所では、補虫用粘着トラップで種類と数を定期的に確認する[3]。見えない虫の状況を、数で把握するための手段である。
そして、外から来る資料が最も大きな入口になる。古書店で購入した資料や寄贈資料など、虫・カビが疑われるものは、搬入前に低酸素濃度殺虫法や酸化プロピレン燻蒸で処置する[3]。では、環境と衛生が整っていても進む劣化には、何が対処するのか。
4. 紙が じぶんで ぼろぼろに なるって ほんと?
4. 紙そのものが、ぼろぼろになることがある
4. 酸性紙 ── 内側から進む劣化と、その調査
本の 紙の なかには、つくる とき に くすりを くわえた 「さんせい紙」が あります[1]。たくさん 早く つくる ための くふうでした。
この 紙は、時間が たつと、さわった だけで くずれる ように なる ことが あります[1]。
そこで 国立国会図書館は、本の 紙を 強く する 方ほうを ためしたり、どのくらい いたんで いるかを しらべたり して います[4][5]。
紙を大量に作る効率を上げるため、製造の過程で薬品が加えられました。こうしてできた紙は酸性紙と呼ばれ、繊維の状態によっては、時間が経つと触れただけで砕けるようになります[1]。書庫の環境を整えても、紙自体が内側から弱るのです。
NDLは、2009年度に、紙の酸を取る大量脱酸性化処理の2方法を、複本245冊とテスト用77冊で試し、どちらも脱酸性化に有効で、処理した資料の安全性にも問題がないと確かめました[4]。酸の取り方の仕組みは、別の記事で詳しく扱っています。
また、1950〜1990年代刊行の和図書を、10年ごとの5つの群に分け、各群から無作為に選んで、本文紙の強度・酸性度・変色と製本の状態を調べる調査もしました[5]。どの本から手を打つかを決めるには、全体の様子を知る必要があるからです。
それでも、すでに穴があいたり、破れたりした本は残ります。どう直すのでしょう。
酸性紙は、生産効率を上げるために製造過程で薬品が加えられた結果できた紙で、繊維の状態によっては、時間が経つと触れただけで砕けるようになる[1]。保管環境を整えても、この劣化は紙の内側から進みうる。
NDLは2009年度、大量脱酸性化処理の2方法(DAE法とBK法)を、複本245冊とテスト用77冊で試し、どちらも脱酸性化として有効で、処理済み資料の安全性にも問題がないと確認した[4]。原理の詳細は別記事に譲る。
対策の優先順位を決めるには、劣化の実態を知る必要がある。そこでNDLは、1950〜1990年代刊行の和図書を10年ごと5群に分け、各群から無作為抽出して、本文紙の強度・酸性度・変色と製本状態を調べた[5]。ただし、結果の数値は資料の本文に明記されていないため、ここでは書かない。では、すでに壊れた部分は、どう直すのか。
5. あいた あなは、どう 直すの?
5. 紙の穴を、水と楮の繊維で埋める修理
5. 修理の原則とリーフキャスティング ── 可逆性と記録
国立国会図書館では、本を 直す ときに 守る きまりが あります。もとの すがたを 大切に する こと、あとで もとに もどせる やりかたに する こと、なにを したか 記ろくを のこす ことです[6]。
では、虫に 食われて 紙に あなが あいたら? 国立公文書館という べつの きかんの 方ほうを 見て みましょう。水を ながして、こうぞという 木の せんいを あなに ながしこみ、うめて いきます[7]。
この マニュアルには、くわしい 作業の 手じゅんが のって います[7]。
これは 国立公文書館の 方ほうで、国立国会図書館が 同じ やりかたを して いると いう ことでは ありません。
NDLの修理の基本は、原形の尊重、原資料に使われている手法の尊重、あとで元に戻せる可逆的な方法、修復の記録、修復材料の保存性と安全性への配慮です[6]。
別の機関の例ですが、国立公文書館には、虫食いなどの穴を水流で埋める「リーフキャスティング」のマニュアルがあります(2012年)。水流で楮の繊維を穴に流し込み、紙の欠けを繊維で補うやり方です[7]。
このマニュアルには、作業前の準備から穴を埋めるまでの手順が、くわしく紹介されています[7]。
NDLの保存フォーラムの報告では、修理の技法として、繕い、和紙での裏打ち、漉嵌が紹介されました。その報告は、修復の記録を資料と一緒に残すことが重要だと述べています[8]。
直しても、本を開くたびに傷む危険は残ります。そこで次の手が出てきます。
NDLは修理に際して、原形の尊重、原資料に用いられている手法の尊重、可逆的方法、修復の記録化、修復材料の保存性・安全性への留意を原則とする[6]。過剰に直さず、後世の人が別の方法を選べるようにするための考え方である。第36回保存フォーラムの基調報告も、原形保存・可逆性・安全性・記録を挙げ、記録は資料とともに保存することが重要と述べた[8]。
穴の埋め方には幅がある。同報告は、繕い(つくろい)、和紙での裏打ち(うらうち)、漉嵌(すきばめ)などの技法を紹介する[8]。ここでは、国立公文書館のリーフキャスティング・マニュアル(2012年)を例にする。これはNDLの方法ではない。
虫食いなどの穴を、水流で楮(こうぞ)チップの繊維を流し込んで埋める方法である。マニュアルは、作業前の準備から穴を埋めるまでの手順を具体的に示している[7]。
ただし、修理を重ねても、本を何度も開けば負担は残る。では、原本をなるべく開かずに、中身を使ってもらうには。
6. 本を 休ませながら、中みを 見せる 方ほうは?
6. 原本を休ませて、中身は画面で読めるようにする
6. デジタル化による原本保護 ── 媒体変換の方針と電子情報の課題
国立国会図書館は、2000年度から、もっている 本の デジタル化を すすめて います[9]。本を なんども ひらくと、よごれたり やぶれたり します。それを さけて、本を 休ませる ためです。
もう 1つの ねらいは、さがしやすく、つかいやすく する ことです[9]。
ただし、デジタルの データにも なやみが あります。よみとる きかいや しくみが ふるく なって、つかえなく なる ことが あるからです[1]。
だから、本も データも、まもる 人の しごとは つづきます。
NDLは2000(平成12)年度から、所蔵資料のデジタル化を進めています。目的の1つは、原本を利用に出すことで生じる汚れや破れを避ける、原本の保護です。もう1つは、検索や利用のしやすさを高めることです[9]。
保存のための媒体変換は、デジタル化が原則で、マイクロフィルム化は外部機関との関係で必要なものなどに限られます。対象は、唯一性・希少性、劣化の状況、利用の需要などを考えて選びます[6]。
デジタルなら安心、というわけでもありません。データを再生する機器やシステムが旧式になって使えなくなる問題があり、電子情報の保存は課題とされています[1]。紙も電子も、守る仕事は続くのです。
NDLは2000(平成12)年度から所蔵資料のデジタル化を進めている。目的は、紙資料の原本を利用に供することによる汚損・破損を避けること(原本保護)と、検索・利用の利便性向上である[9]。修理の章で見た「触る回数を減らす」考え方を、利用の側から支える手段になっている。
原資料保存のための媒体変換は、デジタル化が原則で、マイクロ化は外部機関との関係で必要なものなどに限られる。対象は、唯一性・希少性、劣化状況、利用ニーズなどを勘案して選ぶ[6]。
ただし、デジタルデータにも、再生に必要な機器やシステムが旧式化して使えなくなるという問題があり、電子情報の保存は課題である[1]。紙に対する暗さや湿度管理と同様、デジタルにも「100年先まで読めるか」という問いが生じる。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
おうちの 本だなの 本を、せ中から 見て みましょう。まどの 近くに あった 本は、せびょうしの いろが うすく なって いるかも しれません。光が 本に あたる ことと、かんけいが あるか、かんがえて みます。
出かけてできること
図書館で、本の きずの つくろい あとを さがして みましょう。なおした あとの ある 本を 見つけたら、ていねいに あつかいます。
こうしきの 情報
国立国会図書館の ホームページに、本を まもる 取りくみの せつめいが あります。おうちの 人と 見て みましょう。
今日できること
家の本棚の本を、背表紙から見てみましょう。窓際に置いてあった本は、色が薄くなっていないでしょうか。見つけたら、光が当たる時間や場所との関係を考えてみます。
出かけてできること
図書館で、傷んだ本や修理の跡のある本を探して、どんな直し方かを観察してみましょう。直した本は、特にていねいに扱います。
公式情報
国立国会図書館の「資料保存」のページに、温湿度管理や虫菌害対策、修理の考え方が載っています。このページの下の「参考にした情報源」にある、国立公文書館の「リーフキャスティング・マニュアル」(2012年)も、読み比べてみるとよいでしょう。
今日できること
自宅の本棚で、背表紙の退色の度合いを、置き場所(窓際か、奥か)と比べてみる。光による劣化の話が、身近な本でどう現れるかを確かめる手がかりになる。
出かけてできること
図書館で、傷みや修理の跡のある資料を探し、どんな方法で直されているかを観察する。
公式情報
NDLの「資料保存」(温湿度管理、虫菌害等の対策、資料保存の考え方)のページと、国立公文書館のリーフキャスティング・マニュアル(2012年。参考にした情報源の[7])を読み比べると、機関ごとの修理の考え方の共通点と差が分かる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
国立国会図書館の公式資料を軸に、修理の例は国立公文書館の資料で補った。数値は各資料に書かれた範囲だけを使った。
- 国立国会図書館「資料保存リーフレット」 https://www.ndl.go.jp/file/preservation/manual/preservation.pdf (使命・書庫の環境・劣化要因・酸性紙・電子情報の課題)
- 国立国会図書館「温湿度管理」 https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/collectioncare/humiditycontrol.html (湿度65%の目安・2013年の例・温度との関係)
- 国立国会図書館「虫菌害等の対策」 https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/collectioncare/pestcontrol.html (IPM・トラップ・搬入前の処置)
- 国立国会図書館 カレントアウェアネス E1138 https://current.ndl.go.jp/e1138 (2009年度の大量脱酸性化処理の試行)
- 国立国会図書館 カレントアウェアネス 調査報告 No.8 https://current.ndl.go.jp/report/no8 (和図書の劣化調査の設計)
- 国立国会図書館「資料保存の考え方」 https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/collectioncare/scheme.html (修理の原則・媒体変換の方針)
- 国立公文書館「リーフキャスティング・マニュアル」(2012年) https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/leafcasting_manual_2012.pdf (穴を水流で埋める修理の手順。国立公文書館の例)
- 国立国会図書館 カレントアウェアネス E2877(第36回保存フォーラム報告) https://current.ndl.go.jp/e2877 (修復の原則と技法の紹介)
- 国立国会図書館「資料のデジタル化」 https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/digitization/index.html (デジタル化の目的)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
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