1. 小指を つかわないと、どれくらい 力が へるの?
1. 小指を使わない握力は、人差し指を使わない握力と同じくらい
1. 小指なしの握力は全体の66.2% ── 人差し指なしとの比較実験
ものを ぎゅっと にぎる とき、5本の 指は 同じ 力を だして いるわけでは ありません。50人の 手を はかった 研究では、にぎる 力の うち、小指が だして いるのは 100のうち 15 ほどでした[1]。ほかの 指より ずっと すくない 数です。ところが、小指を つかわないと、力は 3分の1も へります。ふしぎな ちがいです。
では、小指を つかわなかったら どうなるでしょう。12人に 協力して もらった 実験で、にぎる 力を はかる きかいを、小指を つかわずに にぎって もらいました。すると 力は、ぜんぶの 指を つかった ときの 3分の2ほどに なりました[2]。
ひとさしゆびを つかわない ときも ほとんど 同じ 数でした。小指は 力が ちいさいのに、つかわないと 力が ひとさしゆびと 同じくらい へった ことに なります。ただし 12人だけの 実験です。
どうして こんな ことが おきるのでしょう。
握力を測ると、指ごとの持ち分には差があります。健康な50人(100の手)を調べた研究では、握力全体に占める割合は人差し指が約25%、中指が約35%、薬指が約26%、小指が約15%でした。この傾向は、取っ手の大きさや利き手、握力の強さが変わっても同じだったと報告されています[1]。
ところが、小指を使わない状態で握力を測った別の実験では、数字が思わぬ動きをします。健康な12人(19〜64歳)が、ジャマー型の握力計を、全部の指で握る場合、小指を使わない場合、人差し指を使わない場合に分けて握りました。全部の指を使ったときを100%とすると、小指なしは66.2%、人差し指なしは65.8%で、両者の差は統計的に意味のあるものではありませんでした[2]。
つまり、小指を抜くと握力はおよそ3分の1下がり、その下がり方は人差し指と同じくらいでした。ただし、指を失った人ではなく、健康な人が指を使わないようにした模擬の実験で、人数も12人です。15%の小指が、なぜ3分の1ぶんにも効くのでしょうか。
握力に各指がどれだけ寄与するかを、健康な50人・100の手で測定した研究がある。握力全体に占める割合は、人差し指が約25%、中指が約35%、薬指が約26%、小指が約15%で、この傾向は取っ手の大きさ、利き手、握力の強さによらなかった[1]。小指は、一人の持ち分としては最も小さい。
ところが、小指を使わない状態の握力は、この数字から予想されるよりずっと低い。IFSSH 2019の抄録によると、健康な12人(男4・女8、19〜64歳)にジャマー握力計を握らせ、全部の指を使う場合、小指を使わない場合、人差し指を使わない場合を比べた。全部の指を使ったときを基準にすると、小指なしは66.2%、人差し指なしは65.8%で、有意差はなかった(p=0.92)[2]。
注意したいのは、15%と66%が同じ量の言いかえではない点だ。前者は小指が出している力の割合、後者は小指を抜いたときに残る握力の割合で、測り方がちがう。また後者は指を失った人の測定ではなく、健康な人が指を使わないようにした模擬の実験で、人数も12人と少ない。それでも、小さな指を抜くと握力が約3分の1下がり、人差し指なしと同程度だったという結果は、小指の働きを力の大きさだけで見ては足りないことを示す。では、小指は何をしているのか。
2. 小指は、てのそとがわで なにを して いるの?
2. 小指の役目は、握りを外側から支えること
2. 外側から握りを安定させる指 ── 力の大きさでは測れない役割
小指の 場所を 見て みましょう。にぎった とき、小指は いちばん 外がわに あります。ここから ものを ささえて、にぎりを ぐらぐらさせない 役目が あると、せつめいする 記事が あります[3]。
その 記事では、手の はばより 大きな ボトルや ボールを もつ ときに やくだつ と 書いて います。小指を つかわないと ささえる ところが 一つ へって しまいます。小指を つかわない ときに 力が 3分の1ほど へるのは、ささえが ぐらつく ぶんも ふくまれる のかもしれません。ただし、くわしい 理由は、はっきり わかって いません。
また、くすりゆびと 小指は、にぎる 力に 大切だと いわれます。うごく はばと 筋肉の 力の 両方が たいせつです[4]。
小指が持っている力は小さくても、握ったときに占める場所に特徴があります。5本の指の中で最も短く、握った手の最も外側にあるからです。解説記事では、小指は手の外側から物を支えて握りを安定させ、手の幅より大きなボトルやボールを持つときに役立つ指だと説明されています。確立した事実というより、一つの見方です[3]。
こう考えると、先の実験の見え方も変わります。握りの一方の端を支える指がなくなると、残りの指がどれだけ力を出しても、持ち物がぐらつきやすくなるかもしれません。ただし、15%の指を抜いて約3分の1下がる理由は、紹介した資料にははっきり書かれていません。外側の支え役という説明は、「そう考えると筋が通る」という解釈です。
関西医科大学で作業療法を教える先生の講義紹介でも、薬指と小指は握力に重要で、握るための十分な可動域と筋力が必要だと述べられています。小指の動きが悪いと親指の動きも悪くなるというデータもあるとのことで、この指は手の他の部分と関わっていそうです[4]。
15%と66%のずれを、資料はどう説明するのか。実験の論文は、このずれの理由を説明していない。そのため、ここから先は解釈になる。
手がものを握るとき、小指は最も外側にある。解説記事(The Conversationのラウツェンハイザー氏の記事にもとづく紹介)は、小指が手の外側から物を支えて握りを安定させ、手の幅を超える大きなボトルやボールを持つときに役立つと説明する。これは解説での見方で、確立した機能として断定できるものではない[3]。握りの一端を支える指が欠けると、残りの指が出せる力があっても、持ち物の位置を保ちにくくなるのかもしれない。外側の支え役は、一つの有力な読み方である。
関西医科大学の作業療法の講義紹介も、薬指と小指は握力に重要で、握るには十分な可動域と筋力が必要としている。小指の動きが悪いと親指の動きも悪くなるというデータがあるとも紹介されるが、そのデータの出所は紹介文に示されていないので、断定は避けたい[4]。
ここで確認したいのは、握りの安定という役割が、力の数字には表れにくいことだ。つまむ動作でも、小指の位置や関節の動きが、親指と人差し指のつまむ力のそろい方に影響したという10人の実験がある[5]。力を出さない場面でも、小指は何かに関わっているらしい。では、この指は人間の長い歴史の中で、どんな場面で使われてきたのか。
3. むかしの 石の どうぐを つくる とき、小指は つかわれたの?
3. 石器づくりでは、小指も親指や人差し指と同じくらい働いていた
3. 石器づくりの再現実験 ── 第5指(小指)の使用頻度
むかしの 人は、石を わって、ものを きる どうぐを つくって いました。いまから 200万ねんいじょう まえから つづく しごとです。
この 石の どうぐづくりを、石の どうぐづくりに くわしい 職人に さいげんして もらい、どの 指を どれだけ つかうか はかった 研究が あります。すると 小指は どの しごとでも よく つかわれて いて、おや指や ひとさしゆびと 同じくらい、もっと よく つかう ことも ありました[6]。
小指は ずっと むかしから、しごとを ささえる 指だった かもしれません。ただし、手が この ために かわったと 言い切るのは、まだ はやすぎます。
小指が働く場面は、現代の握力計の前だけではありません。2019年に発表された研究では、旧石器時代の石器づくりを再現し、熟練した石器づくりの職人が4種類の作業で各指をどれくらい使うかを測りました。測ったのは、利き手でないほうの手です。
結果は、小指(第5指)がどの作業でもよく使われ、親指や人差し指と同じくらい、またはそれ以上でした[6]。著者は、小指が200万年以上にわたる石器づくりで重要だった可能性を述べています。
「小指のために人類の手が進化した」と言い切れる結果ではありません。しかし、人類が石を割って道具を作っていた長い時間のあいだ、小指が手伝っていた可能性は、手の形を考える手がかりになります。
小指の仕事は、現代の握力計の外にもある。Key、Dunmore、Marzkeの2019年の論文は、旧石器時代の石器づくりを再現し、熟練の石器職人が4種類の石器作りの作業で各指をどれだけ使うかを、非利き手で測定した。その結果、小指(第5指)は全作業でよく使われ、親指や人差し指と同程度か、それ以上だった[6]。
著者は、小指が200万年以上にわたる石器づくりで重要だった可能性があると述べる。ただし、この研究は現代の職人による再現で、小指の働きが人類の手の形を決めたと断定する材料ではない。いえるのは、石を割る作業で小指が脇役とは限らず、握りを安定させる外側の指が、道具づくりにも関わっていた可能性があるということだ。
では、小指が親指と組んで働くという見方に、骨の側から支えはあるのか。
4. 小指は 親ゆびと いっしょに はたらく のかな?
4. 骨に残った筋肉の跡が、小指と親指のチームワークを示す
4. 手の骨の筋付着部と小指・親指の協調 ── 間接的な証拠の限界
2026ねんの 研究で、オランダの むかし(17〜19せいき)の 男の 人だと 考えられる 43人の 手の 骨が しらべられました。骨には、筋肉が くっついて いた あとが のこって います[7]。
その あとの かたちを くらべると、小指を うごかす 筋肉は、おや指の 筋肉の なかまと まとまって いました。小指と おや指が いつも いっしょに つかわれて いた かもしれません。この 研究の 人は、小指は つよく にぎる ときも、こまかく つまむ ときも、手を 安定させる 役だと 考えて います。ただし、これは 骨から わかる ことで、生きて いる 人の 力を はかった ものでは ありません。
つまむ ときにも 小指が かかわる 実験が あります。10人に 協力して もらった 実験で、小指を まげるか のばすかで、つまむ 力の そろいかたが かわりました[5]。
小指は、親指と協力しているのでしょうか。2026年の研究が、手がかりを出しています。オランダの近世(17〜19世紀)の骨格資料から、成人男性または男性と推定された43人の手の骨を調べ、筋肉が付いていた部分の形を分析したものです。
その結果、小指の動きにかかわる筋肉(小指対立筋)は、親指の対立筋など精密な握りにかかわる筋肉と同じグループにまとまりました。小指と親指が日常的に協調していた可能性が示されます。著者は、小指は精密な握りでも強い握りでも、握りを安定させて支える要素だと結論しています[7]。
これは骨に残る筋肉の付き方からの間接的な証拠で、生きた人の筋力を測ったものではありません。ただ、10人が協力した別の実験では、親指と人差し指で精密につまむとき、小指の位置や関節の動きが、つまむ力のそろい方に影響しました[5]。小指は力を出すだけでなく、握りを整える役目もあると考えられます。
小指が親指と協調して働くのかを、骨から確かめた研究がある。Leder と Schrader(2026)は、オランダの近世(17〜19世紀)の骨格資料群から、成人男性または男性と推定された43人の手の骨について筋肉付着部を分析した。小指対立筋は、親指の対立筋など精密な握りにかかわる筋と同じ群にまとまり、小指と親指が日常的に協調していた可能性が示された。著者は、小指が精密な握りでも強い握りでも安定させて支える要素だと結論する[7]。
この論文は、筋肉付着部の形という間接的な証拠にもとづく。生きた人の筋力を測ったものではなく、成人男性とされる43人に限られるので、小指の役割を一般化するときは慎重さが要る。ここで、握力計の実験(12人)、石器づくり、骨の分析を並べると、結果は異なる方法から、小指が握りを支える方向でそろっている。
つまむ動作でも、小指の位置と関節の動きが、親指と人差し指による精密なつまみの力のそろい方(追従誤差)に影響した、という10人の実験がある[5]。ただし仕組みは未解明で、小規模な実験でもある。小指は力を出すだけでなく、握りを整える役目もあると考えられる、という見方が、複数の資料から浮かぶ。
5. 小指に 気づく ものを さがして みよう
5. 傘の柄とペットボトルで、小指の持ち場を探す
5. 小指の持ち場を、家の道具で確かめる
おうちで、二つの ものを もって みましょう。ひとつは かさの もつ ところ。もうひとつは、からか すこしだけ 水を いれた ペットボトルです。
つくえの 上に おいた まま、小指だけ そっと はなして もって みます。かさは ゆれやすく なりますか。ペットボトルは かたむきやすく なりますか。もちにくければ、すぐに ふつうの もちかたに もどしましょう。
小指が どこに あたって いるかも、見て みましょう。小指を うごかす とき、おや指が どうなるかも、見て みてください。
家にあるもので、小指の持ち場を探してみましょう。傘の柄と、空か少量の水を入れたペットボトルを用意します。
ふだんの持ち方で持ったあと、机の上に置いたまま、ほかの指で支えられる範囲で小指だけを離してみます。持ちにくければ、すぐに戻してください。傘は揺れやすくなるか、ペットボトルは傾きやすくなるか。小指が、握った手のどの位置で支えているかも見てみましょう。小指を動かしたとき、親指がどう動くかも、見てみてください。
落としても困らないよう、机の上で試します。数字で比べるのではなく、感じ方のちがいを言葉にしてみる程度の観察です。
家で確かめるなら、傘の柄と、空か少量の水を入れたペットボトルを使う。ふだんの持ち方と、小指だけ離した持ち方で、揺れやすさや傾きやすさを比べる。机の上に置いたまま、ほかの指で支えられる範囲で試し、持ちにくければすぐ戻す。
数字で測る実験ではなく、感覚の記録である。握りの外側を支える指がなくなると何が変わるか、小指を動かしたとき親指がどう動くかを言葉にしておくと、今回読んだ握力計の実験、石器づくりの研究、骨の分析のどれに近い現象かを考える手がかりになる。さらに知りたい読者は、出典の論文の抄録(IFSSH 2019、Key ほか 2019、Leder と Schrader 2026)に当たるとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。論文は抄録・要約で内容を確認しています。
- Talsania JS, Kozin SH. The relative contributions of the digits to grip strength. J Hand Surg Br 23(2):162-6, 1998. https://scholarlyworks.lvhn.org/surgery/848 (各指の握力の割合)
- IFSSH 2019 抄録(German Medical Science)。小指・人差し指を使わない握力の比較。 https://www.egms.de/static/en/meetings/ifssh2019/19ifssh0926.shtml (小指なしの握力)
- ナゾロジー「指の長さはなぜちがう?」 https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/198095 (外側から支える役目の解説)
- 進学ネット 講義「手の機能」(関西医科大学)。 https://telemail.jp/shingaku/academics-research/lecture/g015894 (薬指・小指と握力)
- Nakamura ほか。Asian Journal of Occupational Therapy 11(1), 2016. https://www.jstage.jst.go.jp/article/asiajot/11/1/11_1/_article (つまむ動作と小指の位置)
- Key AJM, Dunmore CJ, Marzke MW. Scientific Reports, 2019. https://doi.org/10.1038/s41598-019-53332-w (石器づくりでの小指の使用)
- Leder D, Schrader SA. American Journal of Biological Anthropology 189, 2026. https://doi.org/10.1002/ajpa.70205 (手の骨の筋肉付着部の分析)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。