1. 春の ホウレンソウは、どうして きゅうに のびるの?
1. 春のホウレンソウは、なぜ急に花の茎を立てるのか
1. 春のホウレンソウは、何を感じて花の茎を立てるのか
春に なると、畑の ホウレンソウが きゅうに ひょろっと のびて、先に 花が つくことが あります。これを「とう立ち」と 言います。
ホウレンソウは、日が 長く なると 花を つける 草です。こういう 草を、長日植物と よびます。コムギや レタスも、なかまだと されて います。
反対に、日が みじかく なると 花を つける 草を、短日植物と よびます。イネ、ダイズ、キク、アサガオが、その れいです。
日の 長さへの はんのうが ちがう ことが、花や くきが 出る じきの ちがいに かかわって います。ホウレンソウを 春から 夏の はじめに 育てる ときは、花が つきにくい ものを えらぶ ひつようが ある、と 研究の まとめに 書かれて います。
ところで、日が「長い」「みじかい」って、本当に 昼の ことなのでしょうか。
春から初夏にホウレンソウを育てようとすると、葉が育つ前に花の茎が伸びてしまうことがあります。これが、とう立ちです。ホウレンソウは日が長くなると花をつける植物で、春から初夏の栽培には、とう立ちしにくい品種が必要になると、農業の研究課題の成果にまとめられています[5]。
このように、日の長さが一定以上になると花をつける植物を、長日植物と呼びます。ホウレンソウのほか、コムギやレタスなどが例にあげられます[3]。ダイコンも長日植物の例とする資料があります。
反対に、日が短くなると花をつける植物が、短日植物です。キク、ポインセチア、クリスマスカクタス、ダイズ、イネ、アサガオが例です[3]。日の長さへの反応の向きがちがうことが、花の茎が立つ時期や花の咲く時期のちがいに関わっています。
ところで、この「日の長さ」は、昼の長さのことなのでしょうか。
春から初夏のホウレンソウ栽培では、葉が育つ前に花の茎が立つ抽苔(とう立ち)が問題になり、抽苔しにくい晩抽性の品種が必要とされる。ホウレンソウが長日条件で抽苔するためである[5]。夜間の光でも開花が早まり、とう立ちが起きるとされる。
このように、暗期が一定の長さ(限界暗期)より短くなる光条件で、花芽ができるか、あるいは花芽の形成が促進される植物を、長日植物という[1]。ホウレンソウのほか、コムギ、レタス、ジャガイモなどが例にあげられ、ダイコンを加える資料もある[3]。
逆向きに反応するのが短日植物で、夜の長さが限界を超えると花をつける。キク(秋ギク)、ポインセチア、クリスマスカクタス、ダイズ、イネ、アサガオなどが例である[3]。日長の変化に対する反応の向きの違いが、抽苔や開花の時期に関わっている。
ここで、定義に「暗期」という言葉が使われていることに気づく。長日植物と呼ぶのに、基準は夜側に置かれているのだ。では、昼の長さと夜の長さのどちらが効いているのか。
2. 花が さく ときめ手は、昼なの? 夜なの?
2. 数えているのは、昼ではなく夜の長さ
2. 昼の長さが鍵という考えは、なぜ夜の長さに書きかえられたのか
1920年ごろ、アメリカの 先生の ガーナーさんと アラードさんは、タバコの 一つの なかまを 北の 畑で 育てました。ところが、夏に なっても 花が さきません。それなのに、冬に 温室へ 入れたら、花が さいたと いう はなしです。
二人は、日の 長さが 花を さかせる かぎに なる と 考え、この はたらきに 名前を つけました。タバコや ダイズは、日が みじかい ときに さく なかまに わけられました。
そのあと しらべて みると、「昼の 長さ」だけでなく、夜の 長さも とても だいじだと わかりました。
夜の まん中で ほんの 数分 あかりを つけると、短日植物は 花を つけなく なる ことが あります。夜の あいだ ずっと くらい ことが、だいじなのです。
1920年、アメリカ農務省のガーナーとアラード(Harry A. Allard)は、こんな観察を報告しました。マリーランド・マンモスというタバコの品種を、首都ワシントンより北の畑で育てると、栽培期間中に花をつけません。ところが冬の温室では咲いたのです[4]。二人は日の長さが影響すると考え、この性質を光周性と名づけました(造語はクックの示唆とされています)。タバコやダイズは、日が短いと咲く型に分けられました。
この観察は日の長さの影響を示し、のちに、夜の長さも重要だと分かりました[2]。「短日植物」の名は、昼を基準にした名前が残ったものです。
決め手が夜だと分かる実験があります。短日植物は、夜の途中で数分間あかりをつけると、咲かなくなることがあります。多くの短日植物では、重要なのは暗さが途切れずに続く長さだからです[3]。昼の合計が同じでも、夜が二つに切れてしまえば、植物にとっては長い夜が来なかったことになるのです。
ちなみに、長日植物の側は、夜の長さが限界より短くなると花芽がつきます[1]。夜を切る光は、長日植物には「夜が短くなった」という合図に近く働きます。
では、その境目の長さは、どの植物でも同じなのでしょうか。
光周性の発見は1920年、米国農務省のガーナーとアラードによる。マリーランド・マンモスという晩生のタバコは、首都ワシントンより北では栽培期間中に花をつけなかったが、冬の温室では咲いた[4]。二人は日長の影響を示し、この性質を光周性と呼んだ(造語はクックの示唆とされる)。タバコとダイズは、日が短いと咲く型に分類された。
ここで注意したいのは、当初の解釈と現在の説明がずれていることだ。研究の初期は日長の影響が示され、のちに夜の長さも重要な制御要因と分かった[2]。短日植物が「夜の長さが限界を超えると花を咲かせる」植物であることを考えれば、「短日」は昔の呼び名が残ったものと読める。
夜側が基準であることは、暗期の中断実験が示す。短日植物は、夜の途中に数分間光を当てると咲かなくなる[2]。昼の合計が変わらなくても、連続した暗さが切れると、植物は長い夜を経験していない。多くの短日植物では、途切れない暗さの長さが重要である[3]。花の時期には温度など光以外の要因も関わる。長日植物では、暗期が限界暗期より短くなる条件で花芽ができるので[1]、夜を切る光は「夜が短くなった」という合図として働く。ホウレンソウで夜間の光がとう立ちを早めるのも、この向きと矛盾しない。
では、その「限界」は、植物ごとに決まった一つの値なのか。
3. 「12時間」は どの 草でも おなじなの?
3. 境目の長さは植物ごとにちがい、日の長さを気にしない植物もいる
3. 限界の長さは植物ごとにちがい、日長に反応しない植物もある
「日が 12時間より みじかく なると さく」と 言われる ことが あります。でも これは めやすで、草に よって、また おなじ 草でも ちがう なかまで、さかいめが ちがいます。
キクの なかまの キクタニギクでは、しらべた 二つの なかまで、さかいめが 12時間ごろと 13時間ごろでした。たった 1時間の ちがいが あるのです。
アサガオも 短日植物ですが、あるなかまは、長い 夜を たった 1回 あたえただけで、花の もとが できる とも いわれます。
それから、日の 長さを 気にせずに 花を つける 草も います。トマト、トウモロコシ、キュウリなどです。これらは、日長中立植物と 言います。
「日が約12時間より短くなると咲く」という説明をよく見かけますが、これはおおまかな目安です。種や系統によって、境目は違います[3]。
たとえば、短日で咲くキクタニギクの系統を調べた日本植物生理学会の発表要旨では、境目の日の長さ(限界日長)が約12時間のNIFS-3系統と、約13時間のMatsukawa系統が比べられています。限界日長以下の短日条件では、どちらの系統でも葉で花成に関わる遺伝子CsFTL3のはたらきが強くなっていました[6]。同じ種の中でも、1時間ほどの差があるのです。
短日植物の中には、さらに敏感な系統もあります。アサガオの系統「紫」は、長い暗期をたった1回与えるだけで花芽をつけるとされます。アサガオは、短日植物のモデルとして研究に使われています。
一方、日の長さにほとんど左右されない植物もあります。トマト、トウモロコシ、キュウリ、一部のイチゴなどは、日長中立植物と呼ばれます[3]。日の長さの変化は、すべての植物に共通の合図ではないことが分かります。
では、葉が測った「夜の長さ」は、どうやって茎の先に伝わるのでしょうか。
日長に対する反応の境目は、種や系統によって違う。短日植物とされる「約12時間以下で咲く」という説明は目安にすぎない[3]。キクタニギクを調べた日本植物生理学会の発表要旨では、限界日長が約12時間のNIFS-3系統と約13時間のMatsukawa系統が比べられ、どちらでも、限界日長以下の短日条件で葉の花成関連遺伝子CsFTL3の発現が有意に高かった[6]。同じ種の中でも、限界は1時間ほどずれうる。
反応の強さにも幅がある。アサガオの系統「紫」は、長い暗期を1回与えるだけで花芽をつけるとされる。ただし、これは一系統での記述であり、アサガオ全体に一般化はできない。
さらに、日長に反応しない日長中立植物もある。トマト、トウモロコシ、キュウリなどがその例で、一部のイチゴも含まれる[3]。日長の変化は、すべての植物に共通の合図ではない。
こうして、長日・短日・中立という三つの型と、限界値の幅が見えてきた。次の問いは、葉で測った夜の長さが、離れた茎の先端でどう花の合図に変わるのかである。
4. 葉で 見つけた「夜の 長さ」を、どうやって つたえるの?
4. 葉から茎の先へ届く信号は、長日でも短日でも同じ仲間だった
4. 葉から茎頂へ移る花成の信号:長日植物と短日植物で、同じ仲間のタンパク質が使われる
夜の 長さを 感じる のは 葉です。でも、花が できるのは 草の 先です。葉から 先の ほうへ、何かの 合図が とどくはずだと、昔から 考えられて いました。この 合図の もとは、「フロリゲン」と 名づけられて きました。
2007年、この 正体の 一つが わかりました。シロイヌナズナと いう 長日植物と、イネという 短日植物で、同じ 年に 発表が ありました。どちらも、FTという なかまの ものが、葉で つくられて、先の ほうへ 動いて いくと 分かったのです。
日本の 島本さんたちの 研究では、イネの 場合は、Hd3aという ものでした。この もとを くわえた イネでは、ふつうより 早く 花が さいたと 発表されて います。これは ふつうの イネでは なく、くわえた イネでの はなしです。
長日植物の シロイヌナズナも、短日植物の イネも、FTの なかまの 同じ 花の 合図を つかって います。日の 長さへの はんのうは はんたいに 見えて、体の中では にた ものを つかって いる ようです。
夜の長さを測るのは葉ですが、花ができるのは茎の先端です。葉と茎の先端のあいだを、何か信号が走っているはずだと考えられ、その仮の物質に「フロリゲン」という名がつけられていました。
2007年、同じ年に、離れた場所の二つの研究が、この信号の一つの正体を明らかにしました。コルベシエらのグループは、長日植物のシロイヌナズナで、研究では、FTタンパク質が葉の師部(栄養を運ぶ通り道)でつくられ、茎の先端へ移動して花成を促すことが示されました[7]。日本の島本功らのグループは、短日植物のイネで、フロリゲンがHd3a(FTのイネ版)という遺伝子のコードするタンパク質であることを示しました。研究では、やはり葉の維管束でつくられ、茎の維管束を通って先端へ移ることが示されました[8]。
Hd3aを導入したイネでは、通常より開花がずっと早まったという発表があります。ただしこれは遺伝子導入イネでの結果で、通常のイネの話ではありません。
FTとHd3aを作る遺伝子は、共通の祖先をもつ相同遺伝子です。同じ系統の遺伝子が、長日植物と短日植物の両方で使われています。しかも、日の長さへの反応は、逆向きだと説明する研究があります。シロイヌナズナのFTは日が長くなるにつれて徐々に強まります。一方、イネのHd3aは、短日で強まり、長日では抑えられる、スイッチのような制御を受けるとされます[9]。
ここまで読んで、自分の身近な植物はいつ花を咲かせるのか、気になった人もいるでしょう。夜の長さと花の時期を見比べる方法が、次の章です。
夜の長さを測る葉と、花を作る茎頂が離れているため、両者のあいだに移動する信号があるはずだと考えられ、その仮説上の物質はフロリゲンと呼ばれてきた。この正体の一つが、2007年に二つの研究グループによって、ほぼ同時に示された。
Corbesierらは、長日植物のシロイヌナズナで、研究では、師部の細胞で作らせたFT融合タンパク質が茎頂へ移動することが示され、FTタンパク質が長距離の花成シグナルであると報告された[7]。島本功らのグループは、短日植物のイネで、研究では、フロリゲンがHd3a(FTに当たる遺伝子)のコードするタンパク質であり、葉の維管束で作られ、茎の維管束を通って先端へ移動することが示された[8]。Hd3aを導入したイネでは開花が大きく早まったと発表されているが、これは導入個体での結果であり、通常のイネの開花ではない。
注目点は、長日植物と短日植物で、相同な遺伝子が使われているのに、日長に対する制御の向きが違うことだ。シロイヌナズナのFTは、日が長くなるにつれて徐々に誘導される。これに対して、イネのHd3aは、短日で強く誘導され、長日で抑制されるオン・オフ型の制御を受ける[9]。
少なくともこの二つの植物では、同じ仲間の信号が使われ、日長への反応の向きが違う。ただし、すべての植物で同じ説明が成り立つとは限らない。
5. 夜の 長さを、しらべて みよう
5. 夜の長さを計算し、身近な植物を見る
5. 夜の長さを自分で計算し、花の時期と並べる
きょう できる こと
天気よほうや しんぶんには、日の出と日の入りの 時こくが のって います。いつも 同じ 場所の 日の出から 日の入りまでが 昼で、24時間から その 長さを ひくと、夜の 長さが わかります。1しゅうかんに 1回、ノートに 書いて みましょう。
夜が 長く なって いるのか、みじかく なって いるのか、すこしずつ わかって きます。
みつけたら
花だんや 畑の 草を 見て、いつ 花が さくか、ノートに かいて みましょう。夜に 外の あかりが 当たる 場所の 草が、ほかと ちがう さき方を するか、見くらべて みても おもしろいです。夜に 外へ 出るときは、かならず おとなと いっしょに 行って ください。
夜の長さを計算する
天気予報の天気図や新聞、気象庁のサイトには、日の出と日の入りの時刻が載っています。日の入りから次の日の出までを、24時間から昼の長さを引いて求めると、夜の長さが出ます。1週間ごとにノートに書き、夜が長くなっていくのか、短くなっていくのかを確かめてみてください。ホウレンソウやアサガオが、どの時期に花を咲かせようとするかと、見比べられます。
身近な植物を観察する
花だんや畑、鉢植えの植物について、花が咲いた日をノートに書きとめます。夜に街灯や家の窓あかりが当たる場所の植物は、そうでない場所の同じ植物と咲き方が違うでしょうか。見比べると、夜の暗さが続く長さという考えが、少し身近になります。夜の観察は、必ず大人と一緒に行ってください。
花の時期を昼の長さと並べる
家の植物やご近所の花が咲いた日を、夜の長さの記録と同じページに並べてみましょう。夜が長くなる時期に咲くのか、短くなる時期に咲くのかが見えてきます。キクタニギクの日本語の要旨[6]も、境目の長さの話として読めます。
夜の長さを計算する
日の出と日の入りの時刻は、新聞や気象庁の暦のページで調べられる。24時間から昼の長さを引いて夜の長さを求め、1週間ごとに記録すると、夜の長さの変化を自分の手で確かめられる。ホウレンソウやアサガオの開花期と並べると、限界の考え方が実感しやすい。
身近な植物を観察する
夜に街灯や窓の光が当たる場所の植物と、当たらない場所の同じ種類の植物とで、花の時期が違うかを観察する。ただし、温度や水分など、他の要因も重なるため、因果は1回の観察では決められない。夜間の観察は、必ず大人と一緒に行う。
資料を読むなら
用語の整理には長日植物の辞典項目[1]、例と日長中立植物については[3]、キクタニギクの限界日長は[6]、FTの移動は[7]、イネのHd3aは[8]にある。[9]はFTとHd3aの制御の向きの要約である。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- コトバンク「長日植物」(日本大百科全書・デジタル大辞泉). https://kotobank.jp/word/%E9%95%B7%E6%97%A5%E6%A4%8D%E7%89%A9-97872 (長日植物の定義)
- Wikipedia “Photoperiodism”. https://en.wikipedia.org/wiki/Photoperiodism (短日植物と夜の長さ、暗期の中断)
- Oregon State University Extension, What are short-day and long-day plants? https://extension.oregonstate.edu/es/news/what-are-short-day-long-day-plants (長日・短日・日長中立植物の例)
- Smithsonian Institution Archives. https://siarchives.si.edu/collections/auth_per_fbr_eacp123 (ガーナーとアラードの観察)
- 科研費 課題20580028 研究成果. https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-20580028/205800282010jisseki (ホウレンソウのとう立ち)
- 日本植物生理学会年会要旨(2011)CsFTL3. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspp/2011/0/2011_0_0326/_article/-char/ja (キクタニギクの限界日長)
- Corbesier, L. et al. FT protein movement contributes to long-distance signaling in floral induction of Arabidopsis. Science 316:1030 (2007). https://research.universityofgalway.ie/en/publications/ft-protein-movement-contributes-to-long-distance-signaling-in-flo/ (FTタンパク質の移動)
- 日本学術振興会 島本功 課題資料. https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/25_tokusui/data/kadai_shinki_24/h24_j17_shimamoto.pdf (イネのHd3aとフロリゲン)
- PubMed 23416454. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23416454 (FTとHd3aの制御の向き。概要に基づく。細部は原典論文で)
なおした ところ
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