1. ちいさな バナナは、ぜんぶ おなじ?
1. 小さなバナナは、大きさだけでは見分けにくい
1. 「モンキーバナナ」と島バナナ ── 大きさの数字だけでは決め手にならない
くだものやさんで、ゆびほどの ちいさな バナナの ふさを みた ことは ありますか。「モンキーバナナ」と よばれて います。
沖縄には、よく にた ちいさな バナナが あります。「島バナナ」です。
モンキーバナナは、おもに フィリピンから くる ものです。ながさは 10センチから 12センチ はんほど といわれます[1]。島バナナは 7センチから 9センチ ほどで、かわが うすく、リンゴや キウイのような すっぱさが あります[5]。
ただ、バナナの ながさは、しりょうに よって すうじに はばが あります。おおきさだけでは、わけにくいのです。
では、なにで ちがいを いうのでしょう。しりょうは「かた」を つかいます。
果物売り場で、指ほどの小さなバナナの房に「モンキーバナナ」と札がついているのを見たことがあるでしょうか。沖縄へ行くと、よく似た小さなバナナが「島バナナ」の名前で並んでいます。
資料によると、日本でモンキーバナナと呼ばれるのはレディーフィンガー系のAA型の栽培品種で、主にフィリピンから輸入され、長さは10〜12.5cmほどです[1]。島バナナは、沖縄県や小笠原諸島で栽培される小型のバナナの呼び名で、はっきりした定義はありません。実は100〜150g、長さは7〜9cmほどで、皮が薄く、リンゴやキウイのような酸味があるといいます[5]。昔ながらの品種は10cm未満とも書かれます[3]。
ただ、バナナの大きさの数字は資料によって幅があります。大きさだけでは見分けにくそうです。そこで資料が持ち出すのが、遺伝子の「型」です。植物図鑑ではモンキーバナナはAA型、琉球新報の記事では島バナナ(小笠原種)はAAB型と紹介されています[1][3]。AとBは、いったい何の記号なのでしょうか。
まず、2つの名前が指すものを分ける。日本でモンキーバナナと呼ばれるのは、レディーフィンガー系のAA型(二倍体)の栽培品種で、主にフィリピンから輸入され、長さは10〜12.5cmとされる[1]。一方、島バナナには明確な定義がなく、沖縄県や小笠原諸島で栽培される小型バナナの総称である。実は100〜150g、長さ7〜9cm、皮は薄く、リンゴやキウイのような酸味を感じるという[5]。
数字だけを比べると島バナナのほうが短いが、サイズの数字は資料によって幅がある。つまり、大きさや味の印象は、両者を区別する決め手になりにくい。そのため、栽培品種の分類では、遺伝子の型が拠り所になる。植物図鑑ではモンキーバナナはAA型[1]、琉球新報の記事では島バナナは小笠原種と呼ばれるAAB型と紹介されている[3]。
では、AとBは何を表す記号か。ここから先は、祖先の野生バナナの話になる。
2. AとBは、なんの しるし?
2. AとBは、野生のバナナ2種の記号
2. A・Bの記号と倍数性 ── 二倍体と三倍体は何がちがうか
バナナの なかまの もとに なった のは、のはらに いる 2しゅるいの バナナだと いわれます。ひとつが「A」、もうひとつが「B」の しるしです[6]。
いきものの からだには、せんしょくたいと いう ものが あります。その セットの かずが、バナナでは ちがいます。
たとえば、えんぴつの 12ぼん セットを ふたつ もって いる ひとと、みっつ もって いる ひとを おもいうかべて ください。モンキーバナナの AAは、Aの セットが 2くみ、これを二倍体と いいます[1]。島バナナの AABは、Aが 2くみ、Bが 1くみで、3くみです[8]。
ただし ほんとうは、えんぴつの かずでは なく、いきものの からだを つくる もとの セットの かずの はなしです。
さて、セットが 3くみに なると、バナナに なにが おきるのでしょう。
栽培されているバナナのもとは、野生の2つの種、Musa acuminata(A)とMusa balbisiana(B)だとされます[6]。品種名に出てくるAやBは、この祖先の種を表す記号です。
記号の数は、染色体のセットの数を表します。染色体は、生きものの体をつくる情報が入っている小さなものです。そのセットを2組もつものを二倍体、3組もつものを三倍体といいます。AAは、Aのセットが2組の二倍体で、モンキーバナナはこれにあたります[1]。AABは、Aが2組とBが1組の合計3組で、三倍体にあたり、島バナナはこちらに数えられます[3][8]。
えんぴつの12本入りセットを2つ持っている人と、3つ持っている人を思いうかべると近いでしょう。ただし、本当は物の数ではなく、体をつくる情報のセットの数の話です。
見た目はよく似ていても、モンキーバナナは2組、島バナナは3組と、持っているセットの数がちがいます。ではセットが3組になると、バナナには何が起きるのでしょうか。
栽培バナナの祖先は、野生のMusa acuminata(A)とMusa balbisiana(B)である[6]。品種のゲノム構成は、この2種に由来する染色体のセットの数と組み合わせで表記する。AAはAのセットを2組もつ二倍体、AABはAを2組、Bを1組もつ三倍体である。モンキーバナナ(AA)は二倍体であり、島バナナ(AAB)は三倍体という区別になる[1][3][8]。
ここで「栽培バナナは三倍体」と一括りにしないことが大切になる。国際的な遺伝資源の機関の整理でも、栽培化されたバナナの「ほとんど」が三倍体で、野生の二倍体より丈夫で多く実るとされる一方、例外もある[6]。モンキーバナナのような二倍体の栽培品種は、その例外側に入る。
なお、AABの仲間のうち、太平洋の太いでんぷん質のバナナは、Aの亜種banksiiとBBの野生種の交雑から生まれた三倍体と報告されている[8]。ただし、島バナナがこれと同じ系統かどうかは、この資料からは言えない。
では、セットが3組になると何が変わるのか。それは、野生のバナナの実を想像するとよく分かる。
3. のはらの バナナは、たねだらけ
3. 野生のバナナは種だらけ、栽培品種の多くは三倍体で種ができにくい
3. 種だらけの野生種と、種ができにくい三倍体 ── 食べる実になった条件
のはらの バナナの み実を、わって みたと します。なかに、たねが ぎっしり はいって います[6]。そのままでは、たべにくそうですね。
のはらの バナナは、セットが 2くみの二倍体で、たねが たくさん できます[6]。
いま おみせに ならぶ バナナの おおくは、セットが 3くみの三倍体で、たねが できにくいのに み実が なります。のはらの ものより、じょうぶで たくさん みのる ことも わかって います[6]。
たねが なくても、バナナは ふえます。そこに、ひとの てが はいりました。
野生のバナナの実を割ってみると、中は種だらけです。野生の種は二倍体で、実の中に種がたくさんできます[6]。果肉を楽しみたい人にとっては、そのままでは食べにくい実でしょう。
いま売られている栽培品種の多くは、三倍体です。三倍体は種ができにくく、それでも実がなり、野生の二倍体より丈夫で、たくさん実ることも知られています[6]。バナナが「種の少ない果物」として食べられるのは、三倍体の品種が多いおかげです。
ここで、モンキーバナナ(AA)が二倍体であることを思い出してください。栽培品種のなかにも、二倍体のものが残っています。「栽培バナナは全部三倍体」ではないのです。
種ができにくくても、バナナは増えます。次の問いは、その増え方と、人が果たした役目です。
野生のバナナの実には、種がたくさん入る。野生種は二倍体で実は種だらけとされ、これが食用としての利用を妨げる条件になってきた[6]。これに対し、栽培品種の多くは三倍体で、種ができにくいのに実がなり、しかも野生の二倍体より生育が旺盛で収量が多い[6]。
人が食べるバナナにとって、種が少ない性質は大きな利点になる。実の中に種が少なければ、食べられる部分が増えるからである。
注意したいのは、二倍体の栽培品種も実在する点である。モンキーバナナ(AA)は二倍体であり[1]、「栽培品種はすべて三倍体」とは言えない。つまり、種のなさと倍数性は別々の話として整理する必要がある。
種ができないのであれば、新しい株はどう増えるのか。そして、なぜバナナの型が広い地域に分布するのか。次の章では、その答えを人の移動に探る。
4. ひとが バナナを はこんで、まぜた
4. 人が株を運び、種どうしを交雑させた
4. 栄養繁殖と交雑 ── 遺伝子型の分布が示す人の運搬
バナナは、たねで ふやすのでは なく、かぶから でる あたらしい めを うえて ふやす やりかたが あります。ひとは、その かぶを ふねや てで あちこちへ はこんだ ようです[7]。
さらに、ちがう しゅるいの バナナが まじって、あたらしい かたの バナナが うまれました。しゅるいの ちがう なかま どうしが まざる ことを「交雑」と いいます。バナナの 今の すがたは、ひとが はこんで、まぜた ことで できた と かんがえられて います[7]。
そのなかで、マレーシアが ふるさとと される品種に 「Sucrier(スクリエ)」と いう AAの なかまが あります。あまさが ひょうかされて、いちばん ひろく そだてられて いる AAの品種と いわれます[2]。
では、こうして ひろがった バナナが、沖縄には どう たどり ついたのでしょう。
種ができにくくても、バナナは増やせます。親の株のわきから出る新しい芽を植えれば、同じ性質の株ができるからです。ある研究は、バナナの遺伝子型が広い地域にまたがって分布していることは、人が株を運ばなければ説明しにくいと述べ、運ばれたのは主にこうした増やし方の形だっただろうと考えています[7]。
運ばれた先で、野生種や亜種どうしが出会い、交雑も進みました。栽培化は、交雑と人の移動の組み合わせで進んだと、この研究は整理しています[7]。別の資料では、ニューギニアがその重要な地域とされています[8]。
そうして生まれた品種群のひとつに、モンキーバナナと同じAA型のSucrier(スクリエ)があります。マレーシア原産とされ、最も広く栽培されるAA型の品種で、甘さが評価されています。フザリウム萎凋病(パナマ病)に強いともみなされています[2]。日本のモンキーバナナとまったく同じものとまでは言えませんが、同じAAの仲間です。
こうして世界に広がったバナナのなかに、沖縄の島バナナも入っています。その旅は、どんなものだったのでしょうか。
種のできにくい三倍体の栽培品種は、種子では増えにくい。そこで鍵になるのが、親株から出る新芽で増やす栄養繁殖である。ペリエらの研究は、バナナの栽培化に関わる遺伝子型の地理的分布が、広い地域にわたる人による植物の運搬、おそらく栄養繁殖の形での運搬を必要とすると論じた[7]。つまり、種子で自然に広がったのではなく、人が株を運んだと考えないと分布が説明しにくい。
運ばれた先で、野生種や亜種どうしが出会えば交雑が起こる。栽培化は、こうした交雑と人の移動の積み重ねで進んだとされる[7]。別の遺伝学の資料は、ニューギニアを重要な地域として挙げる[8]。
AA型の例としてSucrierがある。マレーシア原産とされ、最も広く栽培されるAAゲノムの栽培品種で、甘さが評価され、フザリウム萎凋病(パナマ病)に強いと考えられている[2]。モンキーバナナ(AA)と同じ系統の仲間だが、日本のモンキーバナナがSucrierそのものだとは言えない。
こうして広がった型のうち、島バナナ(AAB)は、どの道を通って沖縄に着いたのか。次の章で、言い伝えと文献の記述を分けて読む。
5. 島バナナは、どう 沖縄に きたの?
5. 島バナナは、フィリピンから小笠原を通って沖縄に着いたといわれる
5. 島バナナ(小笠原種)の来歴 ── 伝承と1888年導入の文献、そして生産者の減少
島バナナは「小笠原種」とも よばれます。フィリピンの み実の みじかい バナナが、おがさわらを とおって 沖縄に わたり、そこで そだつように なった、と いわれて います[3]。
むかしの ぶんけんには、1888ねんに おがさわらから 沖縄けんに はいった と かく ものも あります[4]。
いまの 島バナナは、台風や 病気に よわく、たくさん つくる ことも むずかしいと いわれ、つくる ひとが へって きて います[3]。
それでも、すっぱさの ある ちいさな あじを たいせつに そだてる ひとが、沖縄に います。
この バナナを、じぶんの めで しらべるには、どうしたら いいでしょう。
島バナナは小笠原種とも呼ばれ、フィリピンの実の短いバナナが小笠原を通じて沖縄に渡り、根づいたといわれています[3]。「といわれています」とあるとおり、これは言い伝えの形で語られている話です。
年号の入った記述もあります。沖縄の農業に関する文献には、小笠原種のシマバナナは1888年に小笠原から沖縄県に導入された、と書くものがあります[4]。
いま、島バナナは病害虫や台風に弱く、大量に作ることもできないため、生産者が減っているとされます[3]。品種のちがいは、こうした育てやすさにも関わっているのかもしれません。ただし、この関係は資料には書かれていないので、ここではそこまで言い切りません。
では、この小さなバナナを自分の目で確かめるには、どうすればよいでしょうか。
島バナナの来歴には、2層の情報がある。1つは伝承で、フィリピンの果指が短いバナナが小笠原を経て沖縄に渡り、根づいたと「言われる」というものである[3]。もう1つは文献の記述で、沖縄の農業関係の文献に、シマバナナ(小笠原種)は1888年に小笠原から沖縄県に導入されたものだ、とある[4]。
この2つは整合的に見えるが、同じ強さでは扱えない。前者は伝聞の形で語られ、後者は1つの文献の記述である。そのため本稿は、導入年を事実として断定せず、「そう書く文献がある」にとどめる。
こうして根づいた島バナナは、いま生産が減っている。病害虫や台風に弱く、大量生産ができないことが理由として挙げられる[3]。大型の三倍体品種は、強さと収量を人が選び抜いた結果でもあるので、小型で酸味のある島バナナが、その流れと別の道を歩んできたと読める。ただし、この対比自体は資料に書かれた因果ではなく、本稿の読みである。
では、手元でこの「型のちがい」を、どう観察の出発点にできるだろうか。
6. おみせで ながさと うまれを たしかめよう
6. 売り場の小さなバナナで、長さと産地を確かめる
6. 出口 ── 売り場で測る/糸芭蕉と原典
おみせで ちいさな バナナを みつけたら、パッケージの うまれた ばしょを よんでみましょう。モンキーバナナは、フィリピンと かかれて いる ことが おおい はずです[1]。
かってきたら、ものさしで ながさを はかって、この はなしの 数字と くらべます。かわの あつさも、ゆびで さわって みて ください。たべる ときは、おうちの ひとに きって もらって くださいね。
バナナの なかまの 糸芭蕉という きの せんいから、沖縄の ぬのが つくられる ことも あります[9]。バナナは たべる だけの なかまでは ないのです。
家に買ってきた小さなバナナがあれば、少し観察してみましょう。まずパッケージの産地を読みます。モンキーバナナは主にフィリピンから輸入されるとされます[1]。
次に、定規で長さを測ります。この記事で見た10〜12.5cmという数字や、7〜9cmという数字と、自分の手元のバナナを比べてみます。皮の厚さも、指で触って見てみます。沖縄の島バナナは皮が薄いとされるので[5]、その点も参考になります。食べるときは、家の人に切ってもらいましょう。
バナナの仲間は、食べるだけではありません。沖縄の織物、芭蕉布は、糸芭蕉というバナナの仲間の繊維から作られます[9]。島バナナのように、地域に根づいた植物を見つめると、人の暮らしとのつながりがさらに見えてきます。
型を表すAやBの記号は、その植物の長い旅の履歴書のようなものです。次に果物売り場でバナナを見るとき、その旅を思いだせるかもしれません。
手元で試すなら、小さなバナナを買い、パッケージの産地を読み、定規で長さを測り、皮の厚さを触って確かめるとよい。モンキーバナナは主にフィリピンから輸入され[1]、島バナナは沖縄県などで栽培される[5]。ただし、サイズには資料でも幅があり、大きさだけで品種や型を当てることはできない。この限界を知ること自体が観察の収穫である。
原典に当たるなら、沖縄の来歴を、琉球新報の記事[3]と沖縄の農業関係の文献[4]を読み比べるとよい。
バナナの仲間は食用だけではない。沖縄の芭蕉布は、糸芭蕉の繊維を糸にして織られる織物である[9]。糸芭蕉は食用バナナの直接の祖先ではないので、同じ「バナナの仲間」でも、用途と遺伝的な位置づけは別に確かめる必要がある。小さなバナナから、バナナの仲間の広がりを調べてみるのも面白い。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:植物図鑑、国際的なバナナ研究の情報サイト、琉球新報とマイナビ農業の記事、沖縄の農業関係の文献、遺伝資源の機関の解説、栽培化に関する論文、フランスの研究機関の論文、国立美術館の芭蕉布の紹介を使いました。
- 植物図鑑「レディーフィンガーバナナ」。 https://botanic.jp/plants-ra/ladyfi.htm (モンキーバナナの型・産地・長さ)
- ProMusa「Sucrier」。 https://promusa.org/Sucrier (AA型の品種群の説明)
- 琉球新報「島バナナ」の記事。 https://ryukyushimpo.jp/region/entry-4518019.html (島バナナの来歴と生産の現状)
- 沖縄の農業関係の文献(沖縄大学リポジトリ)。 https://okinawauniversity.repo.nii.ac.jp/record/877/files/No4p1.pdf (1888年導入の記述。抜粋で確認)
- CGIAR Genebanks「Banana」。 https://genebanks.cgiar.org/resources/crops/banana/ (野生種と栽培品種の倍数性)
- Perrier et al. (2011) PNAS のバナナ栽培化の論文。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3136277/ (栽培化と人による運搬)
- Interspecific introgression ... New Guinea(HAL)。 https://hal.inrae.fr/hal-03992055 (AAB型の由来とニューギニア。抜粋で確認)
- 国立美術館「沖縄の芭蕉布」。 https://www.nact.jp/artcommons/user/detail/78747 (糸芭蕉と芭蕉布)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
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