1. めざましの まえに、からだは おきて いたの?
1. 目覚ましが鳴る前、眠っている体は何をしているのか
1. 起きる1時間前に増えるホルモン:眠りの中で始まる準備
1999ねんに、ある けんきゅうチームが みじかい ほうこくを だしました。「なん時に おきる」と いしきして ねると、おきる 1じかんほど まえに、ちの 中の ホルモンが はっきり ふえる、というのです[1]。
ホルモンは、からだの 中を めぐって、はたらきを かえる ものです。ここで ふえたのは、ACTHと いう ホルモンです。ねむって いても、からだは「もうすぐ あさだよ」と じゅんびを はじめて いる ようです。
めざましを つかわなくても、おきたい 時こくごろに 目が さめる ことが あります。ただ、なん人で ためしたのか、すべての 人に あてはまるのかは、この ほうこくの ようしだけでは わかりません。
1999年、研究者たちが『Nature』に短い報告を出しました。起きる時刻を意識して眠ると、起床の約1時間前に、血液中の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が目立って増える、という内容です[1]。
ホルモンとは、血液にのって体をめぐり、体の調子を切りかえる物質のことです。眠っている本人は何も感じていないのに、体のほうは「そろそろ朝だ」と準備を始めていることになります。起きる時刻への「予想」が、準備を前倒しにしたと読める結果です。
目覚ましなしでも、起きたい時刻ごろに目が覚めることがあります。ただ、この報告の要旨だけでは、何人の協力を得て、どの時刻に起きると伝えた条件だったのかまでは分からないので、「誰でも必ずそうなる」とは言えません。
この報告(Born ら、1999)の核心は、起床前のホルモンの動きが、時刻の「予期」で変わるという点にある。起きる時刻を意識して眠ると、起床の約1時間前に血中のACTHが顕著に増えたという[1]。ACTHは副腎皮質刺激ホルモンというホルモンの1つである。眠っている本人の意識とは別に、体の側が「いつ起きるか」を織りこんで準備を前倒ししているらしい。
この現象は、目覚ましなしでも起きたい時刻にかなり正確に目が覚める人がいる、という日常の経験とつながる。ただし、ここで引ける根拠は論文の要旨レベルである。対象者の人数や、伝えた起床時刻などの実験条件は要旨からは分からないため、「誰でも」「毎回」とは書けない。1つの短い報告として読むのが妥当だ。
では、そもそも朝の体は、起きる前後にどんな変化を見せるのか。次の章で、体の側の変化を整理する。
2. あさの からだは、なにが かわるの?
2. 朝に向けて、体の中ではどんな変化が進むのか
2. 血圧・体温・心拍が上がる:日中の活動に備える体
ヒトの からだは、あさの じかんに むけて、血圧や 体温、しんぞうの どきどきが、ひるまに うごく ために かわって いきます[2]。
よるには、メラトニンと いう ホルモンが でて、からだを やすませます。こうした へんかは、およそ 1日(24じかん)の くりかえしで おきて います。
では、「そろそろ あさだ」と いう ときを、からだの どこが しって いるのでしょう。
体内時計の朝の時刻に向けて、血圧、体温、心拍数などが、日中の活動に備えて変わっていきます。夜にはメラトニンというホルモンが出て、体は眠りに入ります。こうした体のはたらきは、およそ1日、つまり約24時間の周期で上がり下がりしています[2]。
ここで大事なのは、目が覚めたあとに慌てて体が動き出すのではなく、上がり始める準備のほうが、すでに眠りの終わりごろから進んでいると考えられている点です。先ほどのACTHの増加は、その準備の一部だと読めます。
起床前の体温や血圧が、具体的に何時ごろ、どれくらい動くのかという数値は、ここでは扱いません。示せるのは「上がり始める」という向きまでです。
では、「そろそろ朝だ」という時刻は、体のどこが知っているのでしょうか。
体内時計の朝の位相に向けて、血圧・体温・心拍数などは日中の活動に備えて変化する。夜にはメラトニンが分泌されて睡眠に入る。これらの生理現象は約24時間の周期で変動する[2]。
起床前の準備という見方に立つと、前章のACTHの増加も、この「上がり始め」の一部として位置づけられる。ただし、起床の何分前から体温や血圧が、どの程度動くのかという数値は、このメモで使える資料に含まれていない。ここでは向きだけを述べ、数値は書かない。
肝心なのは、これらの変化が「目が覚めてから」起こるのではなく、眠りの終わりのうちに始まっていると考えられる点だ。そうなると、時刻を測っている装置が体のどこかにあるはずだ。それはどこにあるのか。
3. からだの 時計は、どこに あるの?
3. 時刻を知っているのは、脳の中の小さな時計
3. 直径2mmに満たない時計:視交叉上核と、壊すとリズムが消える実験
からだの 時計の ちゅうしんは、脳の 中に あります。「視交叉上核」と いう ところで、ヒトでは まるい ところの はばが 2ミリにも なりません[2]。
ネズミの けんきゅうで、この ところを こわすと、ねたり おきたりする 1日の リズムが きえました[3]。ここは、ねる・おきる リズムの ためには たいせつな ところ なのです。
この 時計は、ぴったり 24じかんでは ありません。ヒトでは、へいきんで 24.18じかんと ほうこくされて います[6]。まいにち すこしずつ ずれて しまいます。
体内時計の中枢は、脳の視床下部にある「視交叉上核(しこうさじょうかく)」と呼ばれる小さな場所です。人では直径が2ミリ足らずしかありません[2]。
この場所を壊すと、眠りと目覚めの24時間のリズムが消えてしまうことが、動物の研究で示されています。名古屋大学のマウスの研究(2020年)では、昼のあいだは視交叉上核の神経が、覚醒に関わる別の神経(CRF神経)を抑え、夜になって視交叉上核の活動が減ると、その抑えがゆるんで覚醒度が上がる、という道すじが報告されました[3]。
ただし、マウスは夜行性の動物です。昼に活動する私たちヒトで同じことが起きているかは、さらなる研究が必要とされています。「脳の時計が、ヒトの朝の目覚めを同じ仕組みで決めている」と言い切ることはできません。
この時計には、もう1つ特徴があります。体の時計が刻む1日は、人では平均24.18時間という報告があり[6]、地球の1日よりほんの少し長いのです。放っておくと、毎日少しずつ遅れていきます。
この時計は、朝の準備の中身にも関わっているのでしょうか。
体内時計の中枢は、視床下部にある視交叉上核で、ヒトでは直径2mmに満たない[2]。ここを破壊すると、睡眠・覚醒の24時間のリズムが失われる。名古屋大学環境医学研究所のマウス研究(Science Advances、2020年)は、そのしくみの一端を示した。昼には視交叉上核の抑制性の神経(GABA神経)が、覚醒を促すCRF神経を抑えて覚醒度を下げる。夜になって視交叉上核の活動が下がると抑えがゆるみ、CRF神経がオレキシン神経を通じて覚醒度を上げる、という道すじである[3]。
ここには限界がある。この結果は夜行性のマウスのもので、昼行性のヒトでの睡眠・覚醒の調節は、さらなる研究が必要とされている[3]。そのため、この道すじをそのままヒトの「朝の目覚めの仕組み」とするのは行きすぎである。
もう1つの重要な数値は、ヒトの体内時計の固有周期だ。Czeisler らの1999年の研究では、平均24.18時間と報告された[6]。地球の自転周期である24時間とは約11分のずれがあり(0.18時間×60分)、時計は何もしなければ毎日少しずつ遅れる計算になる。そのため、毎日の時刻合わせが必要になる。
この時計は、起きる前の準備のタイミングにも関与しているのか。起床時刻の影響を取りのぞいた実験が、その手がかりになる。
4. おきる じゅんびは、時計の しごとなの?
4. 起きたあとのホルモンの山は、時計が決めているのか
4. 起床後のコルチゾールの上昇は、睡眠ではなく体内時計がつくるのか
おきてから 30ぷんから 60ぷんの あいだに、コルチゾールと いう ホルモンが ふえる はたらきが みられます[4]。ひるまの ストレスに そなえる ための ものと かんがえられて います。
この ホルモンの ふえ方は、ねたか どうかだけで きまるのでしょうか。34人が きょうりょくした じっけんしつの けんきゅうで、しらべました。ねむりの えいきょうを のぞいても、この ふえ方には、時計の リズムが ありました。
ひるに あたる 時間には、ほとんど みられませんでした。つまり、「おきたから ふえる」だけでは なく、からだの 時計も かかわって いる ようです。
ヒトでは、起きてから30〜60分のあいだに、コルチゾールというホルモンが増える反応がみられます。これを「コルチゾール覚醒反応(CAR)」と呼び、起きる時刻に合わせた、ストレスへの備えと考えられています[4]。
この反応は、睡眠の影響を除いても体内時計のリズムを持つのか。それを調べたのが、2022年に発表された、34人が協力した実験室での研究です。睡眠や起床の時刻の影響を別にして調べたところ、CARは体内時計の上で午前3時40分ごろに最大になり、午後にあたる時刻にはほとんど見られませんでした[4]。
ここで注意が必要なのは、「午前3時40分」が体内時計の上の位置であって、実際に目を覚ます時刻ではないことです。時計の位相を、1日を24時間に見立てた目盛りで表したものにすぎません。
起きたときのホルモンの山は、起きた行動だけの結果ではなく、体の時計のリズムも関わって作られている、というのが、この研究の示したことです。先ほどのBornらの報告とあわせると、体は「起きる時刻」と「体内時計」の両方を手がかりに準備していると考えられます。
では、毎日少しずつずれるこの時計を、何が地球の1日に合わせ直しているのでしょうか。
起床後30〜60分のあいだにコルチゾール濃度が上昇する反応は、コルチゾール覚醒反応(CAR)と呼ばれる。起きる時刻に応じたストレスへの備えと考えられている。では、CARは起きたこと(睡眠からの覚醒)への反応にすぎないのか、それとも体内時計が作るリズムを持つのか。この点を分けて調べたのが、2022年に Frontiers in Neuroscience に発表された、34人が協力した実験室での研究である[4]。
この研究では、睡眠の影響を取りのぞいた条件でも、CARは体内時計のリズムを示した。ピークは体内時計の位相で午前3時40分〜45分ごろに当たり、午後に相当する位相ではほとんど見られなかった。ここでの「午前3時40分」は、体内時計の位相の目盛りであり、実際に人が起きる時刻のことではない点に注意が必要だ。
この結果から言えるのは、起床後のコルチゾールの山には、睡眠とは別に体内時計の関与があるということだ。第1章のBornらの報告(起きる時刻の予期で起床前のACTHが増える)と並べると、体は「起きる時刻の予期」と「体内時計の位相」の少なくとも2つの要素を、起床の準備に使っているように見える。ただし、両者がどう噛み合うかは、これらの資料からは分からない。
体内時計は固有周期が約24.18時間でずれていくので、毎日の調整を受けなければ、朝の準備の時刻も少しずつずれてしまう。その調整役は何か。
5. ずれた 時計は、なにで なおすの?
5. 光は、体内時計をどう合わせ直すのか
5. 光が時計をリセットする:視交叉上核とメラトニンの調整
こたえは、光です。目に 光が はいると、脳の 時計に つたわり、時計の 時こくが あわせ なおされます[2]。
光と くらさは、からだの 時計に いちばん おおきな えいきょうを あたえます。目に はいる 光の ようすを うけて、視交叉上核が メラトニンの でる 時こくを ととのえ、よるに おおく つくらせて、ねむく させるのです[5]。
あさの 光は、ずれた 時計を あわせなおす おおきな てがかりの 1つです。「なん分 あびると いい」と いった 数字は、この メモで つかった しりょうには のって いません。
光が目から入ると、視交叉上核の時計遺伝子がリセットされることが分かっています。これで、体内時計と地球の自転とのずれが修正され、時刻合わせができます[2]。
米国の国立衛生研究所に属する機関の解説でも、光と暗さが体内時計に最も大きな影響を与えるとされています。視交叉上核は、目に入る光と暗さの情報を受けて体内時計を調整し、メラトニンが夜に多く作られるようにして眠気を起こします[5]。
平均24.18時間の時計を、光などを手がかりに地球の昼夜に合わせ、そのうえで、起きる時刻の予想も使って、起床前のホルモンを増やす。これが、このメモで見てきた資料から組み立てられる、朝の目覚めの流れです。ただし、これは複数の研究を並べた全体像であって、ひとつの研究がこの順番を丸ごと示したわけではありません。
光を何分浴びればよいか、といった具体的な数字は、ここで使った資料には載っていないので書きません。
光は、視交叉上核の時計遺伝子をリセットする。JSTの記事は、これによって体内時計と地球の自転とのずれが修正され、「時間合わせ」が可能になると説明する[2]。米国国立衛生研究所の機関(NIGMS)の解説も、光と暗さが体内時計に最も大きな影響を与え、視交叉上核が目に入る光と暗さの情報を受けて時計を調整し、メラトニンが夜に多く作られるとしている[5]。
前の章の数値と合わせて考えると、流れが見える。固有周期が約24.18時間の時計は、放置すれば1日あたり約11分ずつ遅れていく。光は、時計を地球の昼夜に同調させる手がかりの1つとして、そのずれを補う。そして時計と、起きる時刻の予期の両方が、起床前のACTHやCARといったホルモンの準備に関わる。
ただし、この流れは複数の研究を重ねて組み立てたものだ。ひとつの研究がこの順番を最初から最後まで確かめたわけではない。マウスの結果をヒトに当てはめられるかや、起床前のホルモン増加の個人差は、なお研究が必要な部分である。光を何分浴びれば何が起きるかといった数値も、ここで使った資料には含まれない。
だから、「朝に光を浴びれば必ず良い目覚めになる」とは書けない。書けるのは、光が体内時計を合わせ直す主要な手がかりの1つで、体は眠りのあいだにも起きる準備を進めているらしい、というところまでである。
6. めざましの まえに おきた あさを、かいて みよう
6. 目覚ましが鳴る前に起きた朝を、書きとめてみる
6. 家で確かめられること、確かめられないこと:記録のしかたと原典
やってみよう:めざましは、いつもどおり セットして おきます。そのうえで、3日ぶん、「めざましの まえに 目が さめたか」と「さめた 時こく」を、ノートに かきましょう。
ホルモンは、おうちでは はかれません。でも、「ねる まえに、あした なん時に おきると きめて ねた 日」と「なにも きめずに ねた 日」を くらべる ことは できます。3日ぐらいでは ちがいが わからない ことも あります。なん日かずつ、おなじ じょうけんで かいて くらべましょう。
ほうこくした 人たちの 文は、『Nature』と いう ざっしに のって います。むずかしい えいごですが、お父さんや お母さんと、タイトルだけ のぞいて みても おもしろいかも しれません。
やってみよう:目覚ましはいつもどおりセットしておき、3日間、「目覚ましの前に目が覚めたか」と「目が覚めた時刻」をノートに書きます。
家ではホルモンは測れません。それでも、「寝る前に、明日は何時に起きると決めて眠った日」と「何も決めずに眠った日」で、目が覚める時刻や、鳴る前に目が覚めるかどうかを比べることはできます。たった数日の記録では、違いを決めつけられません。何日かずつ同じ条件で記録して比べ、出なくても、それも1つの結果と考えます。
原典を読んでみたくなったら、Bornらの報告は『Nature』397巻29〜30ページ(1999年)に載っています。英語ですが、PubMedで題名と要旨が読めます。体内時計とノーベル賞の研究は、このサイトの別のメモでも扱っています。
家庭で確かめられるのは、「いつ目が覚めたか」の記録までである。ホルモンの濃度は測れないので、Bornらのような結果を再現することはできない。それでも、目覚ましは通常どおり設定したうえで、3日間、起床の何分前に目が覚めたかを書きとめ、寝る前に起きる時刻を決めた日と、決めなかった日を比べることはできる。数日の記録ではノイズが大きく、差が出るとは限らない。出なくてもよい。条件の違いと、そこから言えることの限界を体験する練習になる。
資料としては、起床前のACTHの増加は Born J et al., Timing the end of nocturnal sleep, Nature 397:29-30(1999)、CARと体内時計は Front Neurosci(2022)の論文、視交叉上核とCRF神経は名古屋大学のプレスリリースと Science Advances(2020)、体内時計の固有周期は Science 284:2177(1999)がもとになる[1][4][3][6]。それぞれ対象の人数や条件、動物かヒトかが違うので、本文の主張がどの研究に支えられているかを、原典の要旨で確かめながら読むと、このメモの言い切れない部分も見えてくる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の事実は次の資料にもとづきます。要旨だけを確認したものは、本文にその範囲を書きました。
- Born J, et al. Timing the end of nocturnal sleep. Nature 397:29-30 (1999). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9892349 (起床前のACTH増加の要旨)
- JST「クロノメタボリズム」特集記事(京都大学・岡村均教授), JSTニュース2018年3月号. https://www.jst.go.jp/pr/jst-news/backnumber/2017/201803/pdf/2018_03_p04-07.pdf (朝の体の変化、視交叉上核、光によるリセット)
- 名古屋大学 環境医学研究所 プレスリリース(Science Advances, 2020). https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Sci_Ad_201106.pdf (視交叉上核とCRF神経、マウスの結果)
- The circadian system modulates the cortisol awakening response in humans. Frontiers in Neuroscience (2022). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36408390/ (コルチゾール覚醒反応と体内時計)
- NIGMS (米国立衛生研究所) Circadian Rhythms fact sheet. http://www.nigms.nih.gov/education/fact-sheets/Pages/circadian-rhythms (光とメラトニン)
- Czeisler CA, et al. Science 284:2177-2181 (1999). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10381883/ (体内時計の固有周期の平均)
なおした ところ
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