1. 糸の 正体は、なに?
1. 糸の正体 ── うま味のもとがつながったもの
1. 糸引き物質の組成 ── γ-ポリグルタミン酸
なっとうの 糸の 正体は、グルタミンさんという ものが、たくさん つながった ものです[1]。グルタミンさんは、こんぶなどの うまみの もとにも なる ものです。
たとえば、小さな ビーズを 長い ひもに 通した ところを 思いうかべて ください。ビーズが グルタミンさんで、ひもが 糸です。ただし ほんとうは、ビーズどうしが 手を つないで いる ような ものです。
つながって いる 数は、数十から 数千こ くらいと されて います[2]。
2. きんは、いつ 糸を つくるの?
2. 糸をつくるのは、増えるのが止まってから
2. 合成の時期 ── 対数増殖期ではなく定常期
おどろく ことに、なっとうきんは、どんどん ふえて いる 間は、糸を つくりません。ふえるのが とまってから、つくり はじめます[1]。
きんは ふえて いる 間に、なかまの 数を しらせる 小さな ものを 出します。その こさが ある ところまで いくと、糸を つくる しくみが 動きだす ことが わかって います[1]。
クラスに 人が ぎゅうぎゅうに なったら「もう せまいね」と みんなが 気づく ような ものです。
納豆菌は、盛んに増えている間は、糸の物質をつくりません。増えるのが止まってから、つくりはじめます[1]。
その合図になるのが、菌が出す小さなペプチドです。まわりの菌の数が増えると、このペプチドの濃さも上がります。濃さがあるところまで届くと、糸をつくる酵素の遺伝子が働きはじめる、と報告されています[1]。
教室に人がぎゅうぎゅうになれば、だれでも「混んできた」と気づきます。菌は声の代わりに、この物質で仲間の数を知るのです。
納豆菌は、盛んに増殖を繰り返す対数増殖期にはγ-PGAを作らず、増殖が停止する定常期に作る。菌は細胞密度を知らせるペプチド(ComXフェロモン)を分泌し、その濃度は細胞数に比例する。濃度が一定に達すると、γ-PGA合成酵素の遺伝子が発現する[1]。
細胞数に応じて遺伝子の働きを切り替えるこの仕組みは、菌の間の情報のやりとりの一例である。
3. どうして 糸を つくるの?
3. 糸は「非常食」なのか
3. 合成の意味 ── 食料危機への備えという解釈
けんきゅうする 人は、こう 考えて います。なかまが ふえすぎると、やがて 食べものが たりなく なります。そう なる 前ぶれに、きんは 糸を つくる のでは ないか、と[1]。
あまった えいようを、糸に して たくわえて おくのだろう、と 考えられて います。そして あとで 糸を こわして、グルタミンさんに もどし、食べて つかう ことが できます[1]。
じっけんしつで そだてると、二日め ごろから 糸が できはじめ、四日め ごろに いちばん 多く なり、七日め ごろには ほとんど なくなったと ほうこくされて います[1]。これは じっけんしつの はなしで、おみせで 売って いる なっとうが、その とおりに かわる とは かぎりません。
ただし「考えられる」という だんかいの はなしで、きんが 考えて つくって いる わけでは ありません。
菌の数が多いということは、そのうち食べ物が足りなくなる前ぶれです。食品総合研究所の研究者は、糸の合成を「来るべき食料危機への備え」と考えられる、と述べています[1]。
納豆菌は、余った栄養を糸にして蓄えていると考えられています。あとで酵素を使って糸をグルタミン酸に分解し、栄養として取り込みなおします[1]。糸は、いわば菌の非常食入れです。
実験室で育てた野生型の納豆菌では、糸の合成は2日目ごろに始まり、4日目に最大になり、7日目ごろにはほぼなくなる、と報告されています[1]。ただし、これは実験室の培養での値です。店で売っている納豆が、賞味期限のあいだに同じように変わるとは限りません。
「考えられる」という研究者の推論であり、菌が意思をもって備えているわけではありません。
食品総合研究所の研究者は、高い細胞密度は栄養欠乏(食料不足)の前兆であり、γ-PGAの合成は来るべき食料危機への対応と考えられる、と述べる[1]。菌は余剰の栄養素をγ-PGAとして蓄え、後に酵素で分解してグルタミン酸として取り込み、利用する。
野生型の納豆菌の培養では、合成は2日目ごろに始まり、4日目に最大に達し、7日目ごろにはほぼ消失する[1]。実験室の培養での値で、市販納豆の保存中の変化と同一視はできない。
これは研究者の推論であり、意図をもった行動として読むべきではない。糸がファージ(菌に感染するウイルス)への障壁になるという説もあるが、ファージの種類によっては、糸があっても感染する[4]。
4. 糸は、なっとうに とって たいせつ?
4. 糸は品質の目安でもある
4. 糸引きと納豆の品質
けんきゅうする 人の 資料には、糸の ひきかたは なっとうの よさを きめる 大切な ことだと 書いて あります[1]。ほぞんして いる うちに 糸が ひきにくく なる ことは、おいしさが おちる わけの 一つだと されて います。
糸は きんの ための ものでも あり、たべる 人にとっても、なっとうらしさの めじるしに なって いるのです。
研究所の資料では、糸引きは納豆の品質を決める大切な要素で、保存中に糸を引きにくくなることは品質が下がる原因の一つとされています[1]。
糸は、菌にとっては非常食かもしれません。食べる人にとっては、納豆らしさの目印です。同じ糸に、二つの意味があります。
糸引きは納豆の品質を決める大切な要素で、保存中の糸引きの低下は品質劣化の原因の一つに挙げられる[1]。菌にとっての栄養貯蔵物が、食品としては品質の指標として扱われている。
5. 糸を へらした なっとうが ある?
5. 糸を減らした納豆「豆乃香」
5. 糸引きの少ない納豆の開発 ── 菌の選抜という方法
いばらきけんの けんきゅうじょでは、糸が すくない なっとうを つくりました。糸が にがてな 人にも 食べて もらいやすく する ためです[3]。
ふつうの なっとうきんを 何どもうえつぎして、しぜんに かわった きんの 中から、糸の すくない ものを えらびました。できた なっとうには、名前が つけられました[3]。
糸は ずっと へりましたが、かたさや いろ、えいようは ふつうの なっとうと、だいたい おなじでした[3]。
ほかに、ようきの かたちを くふうする、のりのような ものを たす、おからを つかう ほうほうも ありますが、おかねや あじの もんだいが あります[3]。
茨城県の工業技術センターは、納豆の糸が多くの外国人に受け入れられにくいとして、糸の少ない納豆をつくりました[3]。
方法は、普通の納豆菌を何度も植え継いで、自然に変化した菌の中から糸の少ないものを選ぶというものです。できた納豆は「豆乃香」と名づけられました。粘る物質と粘り気は普通の納豆より大きく減り、硬さ・色・栄養成分は同じくらいでした[3]。
糸を減らす方法は、ほかにも容器の形の工夫、増粘剤の添加、おからを原料にする方法などがあります。ただし、設備投資や風味に課題があり、この研究では、菌そのものを選ぶ方法がとられました[3]。
茨城県工業技術センターは、糸引きが外国人に受け入れられにくいとして、継代培養で生じた自然変異株から糸引きの少ない納豆菌(IBARAKI ℓst-1)を選び、納豆「豆乃香」を開発した。粘性物質と粘度は一般的な納豆より大きく減少し、硬さ・色・栄養成分(ポリアミン)は同程度だった[3]。
糸を減らす方法には、容器形状の工夫、糊料の添加、おからを原料にする方法があるが、設備投資や風味の課題がある。同研究は特別な設備投資を避けるため、納豆菌の育種によって糸引きの少ない納豆を作る方法を採った[3]。
「糸は邪魔か、価値か」という問いは、立場で答えが変わる。菌にとっては蓄え、食品としては品質の目安、輸出を考える場合には障壁になりうる。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日 できること
なっとうを 二つの 小皿に わけて、一つは 少しだけ、もう 一つは たくさん かきまぜます。はしで もちあげて、糸の のび方や ねばりを 見くらべて みましょう。かずや じかんを かいて おくと、あとで 見なおせます。
もっと 知りたいとき
本や としょかんの 食べものの コーナーで、「なっとう」や「はっこう」の 本を さがして みましょう。
今日できること
納豆を二つの小皿に分け、一方は少しだけ、もう一方はたくさんかき混ぜます。箸で持ち上げて、糸の伸び方と粘りを見比べてみましょう。混ぜた回数を書いておくと、あとで比べられます。
資料を読む
食品総合研究所の研究ニュース(出典[1])は、納豆の糸の仕組みを、専門家向けにやさしく書いた資料です。図書館の発酵食品の本にも、納豆菌の話が出ています。
今日できること
納豆を二つの小皿に分け、混ぜる回数を変えて糸の伸び方と粘りを見比べる。回数を記録しておくと比較できる。混ぜる回数と糸の量の関係には、資料で確認できていない点があるため、観察の結果を自分の目で確かめる。
資料を読む
出典[1]の研究ニュースは、糸の合成の時期と役割を原文で読める。出典[3]は、糸を減らす納豆の開発を、育種の手順とともに読める。両者の比較から、菌の性質と食品開発のつながりが見える。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
糸の正体・時期・役割は食品総合研究所の研究ニュースを主に、鎖の長さは企業の発表、糸を減らす納豆は産総研の論文、ファージの話は大学の講座資料による。
- 食品総合研究所 研究ニュース No.5(2002)伊藤義文「納豆の糸引きのメカニズムを探る」 https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/naro-se/nfrinews05.pdf (糸の正体・合成の時期・非常食の考え方・品質)
- 味の素株式会社 プレスリリース(2003-06-27) https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/presscenter/press/detail/2003_06_27_1.html (鎖の長さ・DL比)
- 久保・中川「糸引きの少ない納豆『豆乃香』の開発」Synthesiology Vol.11 No.1(2018) https://www.aist.go.jp/pdf/aist_j/synthesiology/vol11_01/vol11_01_p01_p11.pdf (粘り成分・糸を減らす納豆)
- 東北大学 みらい育成プログラム資料(金子淳) https://www.ige.tohoku.ac.jp/mirai/download/hatten1-2013-5.pdf (糸のもう一つの役割の説)
なおした ところ
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