1. 1びょうに 1かい、どこかで 目の おくが うつされる
1. 世界のどこかで、約1秒に1回撮られている検査
1. 年間約3000万件 ── 切らずに網膜の断面を得る検査
この メモを 読んで いる あいだにも、世界の どこかで だれかの 網膜が うつされて います。網膜は、目の いちばん おくに あって、ものを 見る ための ひかりを うける ところです。
この けんさを OCTと いいます。1ねんに 3000まん かいほど、目の けんさとして おこなわれて いると いわれます[3]。
ひかりを あてて しらべるので、からだを きらずに すみます[4]。でも、ひかりで どうやって おくの だんめんが わかるのでしょう。
2. ひかりの 時間は、どうして 時計で はかれないの?
2. 超音波と同じ考えなのに、なぜ光では時計が使えないのか
2. 光の往復時間 ── 電子時計の限界と、干渉という迂回路
おなかを おとで 見る けんさでは、おとが かえって くる 時間を はかります。とおい ところほど、かえるのが おそく なります[2]。
ひかりでも、おなじ かんがえが つかえそうです。ところが、ひかりは とても はやくて、かえって くる 時間の ちがいが ちいさすぎます。でんしの 時計でも はかれません[2]。
たとえば、おとは 1びょうに 1500メートルほど。ひかりは 1びょうに 30まんキロメートルほど すすみます。ひかりは おとの 20まんばいも はやい、という けいさんに なります。
そこで 時計を つかわず、べつの ほうほうを つかいます。それが、ひかりの かさなりです。
遠いほど遅く戻る、という共通の考え
超音波検査では、音が戻るまでの時間が長いほど、反射した場所は遠いと分かります。OCTも同じ考えですが、光で同じことをしようとすると壁にぶつかります。光の戻る時間の差があまりに小さく、電子時計でも測れないのです[2]。
どれくらい小さいのか
目安を計算してみます。体の中の音は秒速約1.5キロメートル、光は真空中で秒速約30万キロメートルです。割ると約20万倍で、光のほうがそれだけ速いことになります。たとえば深さ5.3ミリを往復する光は、約3.5×10−11秒(約280億分の1秒)で戻ります(この計算は真空中の光速を使った目安で、実際の目の中では光がやや遅くなります)。
時計が使えないなら、どうするのでしょうか。測るのは時間そのものではなく、光の波が重なったときの強め合いと弱め合いです[2]。
超音波と同様、反射波が戻るまでの時間が遠さに比例するという考え方は、OCTにも当てはまる。ただし光では時間差があまりに小さく、電子時計では測れない。そこで干渉法で測る[2]。
桁の感覚をつかむために、検算をしておく。体内の音速を約1.5km/s、光速を約3×10⁵km/sとすると、比は約2×10⁵で、光は約20万倍速い。深さ5.3mmを往復する光(キヤノンの機種の撮影深さ)は、10.6×10⁻³m÷3×10⁸m/s≒3.5×10⁻¹¹秒、つまり約280億分の1秒で戻る。これは真空中の光速による目安で、実際の組織中では光速が下がるため値は多少変わる。
いずれにせよ、この桁の時間差を直接数える時計は使えない。干渉法は、時間そのものを測る代わりに、光の波の重なり方で遅れを読みとる迂回路といえる。次は、その重ね方を見る。
3. ひかりを 2つに わけて、もう1ど かさねる
3. 光を2つに分け、基準の光と重ねると何が分かるのか
3. 参照光と干渉 ── 波の強め合い・弱め合いで深さを読む
いけに 石を 2つ おとすと、ふたつの なみが かさなります。かさなった ところでは、なみが 大きく なる ところと、きえる ところが できます。これを 干渉と いいます[1]。
OCTは、ひかりを 2つに わけます。1つは かがみで はねかえして、くらべる ための「きじゅんの ひかり」に します。もう 1つは 目の おくへ とどけます[1]。
目の おくの いろいろな ところから もどって きた ひかりと、きじゅんの ひかりを かさねて、どれくらい つよめ あって いるかを しらべます。それが 絵に なります[1]。
ただし、ひかりの なみは 目に 見えません。いけの なみは、ようすを 思いうかべる ための たとえです。
池の波紋のように重なる光
水に石を2つ落とすと、波紋が重なって、大きくなる場所と消える場所ができます。光にも波の性質があり、波と波が重なると強め合ったり弱め合ったりします。これが干渉です[1]。
基準の光という「ものさし」
OCTは、光を2つに分けます。一方は鏡で反射させて、基準になる参照光にします。もう一方は目に当て、網膜のいろいろな層から戻ってきた光を、参照光と重ねます。参照光の道のりと、ある深さから戻る光の道のりが合うと、はっきり干渉が起きます。そのときの干渉の強さを測り、情報を処理して画像にします[1]。
この方法は、低コヒーレンス干渉と呼ばれます。奥行き方向の構造を分けて測り、超音波のパルスエコー画像に似た断面の画像を、光で作ります[3]。ところが、目の奥から返る光はとても弱い。その弱さをどう乗りこえたのかが、次の話です。
OCTは光の干渉を利用する。光を2つに分け、一方を鏡で反射させて基準の参照光とし、網膜の各層から戻った光と重ね、干渉の強さを測って画像化する[1]。干渉とは、波と波が重なるときに強め合ったり弱め合ったりする現象である。
用いるのは低コヒーレンス干渉で、試料の奥行き方向の構造を分けて測り、超音波のパルスエコー画像に似た断面像を光でつくる(1991年のScience論文の要旨を紹介した総説による)[3]。参照光の道のりと、ある深さから戻る光の道のりが合うときに干渉が起きるので、参照光との重なりの強さが、その深さでの反射の強さの代わりになる。
ただし網膜のように反射が弱い対象では、戻る光自体が微弱で、感度が足りなければ干渉も読みとれない。この弱さを越えた経緯が、1991年の論文につながる。
4. 1991ねんの はっぴょうで、なにが かわったの?
4. 弱い網膜の光を、どうやって拾ったのか ── 1991年の論文
4. 感度の壁と光ファイバー ── 1991年のScience論文まで
OCTの もとに なる 考えは、1991ねんの ろんぶんで しられます。アメリカの MITの 学生、デビッド・ファン さんと、エリック・スワンソン さん、フジモト さんたちの しごとです[2]。
フジモトさんは 1986ねんに、みじかい ひかりの パルスを つかい、ひふの そうや ウサギの かくまくの あつさを 見わけて いました。でも、網膜のように ひかりを あまり はねかえさない ところは、見る ちからが たりませんでした[2]。
そこで ちからに なったのが、スワンソンさんです。人工えいせいから くる よわい ひかりを みつける つうしんの しごとを して いた 人で、ひかりの ファイバーを つかい、ひかりを うまく かさねる ほうほうを もちこみました[2]。
はじめて うつせた 絵の くわしさは、12〜17マイクロメートル。さいぼうと おなじくらいの 大きさです[2]。
皮膚や角膜はできたのに、網膜がまだだった
最初の論文は、1991年にScienceに載りました。MITのフジモト研の学生デビッド・ファン、MITリンカーン研のエリック・スワンソン、フジモトらによるものです[2]。
フジモトは1986年に、超短パルスレーザーで皮膚の層やウサギの角膜の厚さを区別できていました。ただ、網膜のように反射の弱いものを見る感度が足りませんでした[2]。
人工衛星の通信の経験が、網膜の弱い光に役立った
足りない部分を補ったのが、衛星からの弱い光の信号を検出する通信の経験をもつスワンソンです。光ファイバーを使って光を効率よく干渉させる方法をもちこみました[2]。
最初の画像の分解能は12〜17マイクロメートルで、細胞ほどの大きさです[2]。1マイクロメートルは1000分の1ミリですから、約60〜80分の1ミリまで見分けられた計算です(この換算は私たちの目安です)。
1991年のScience論文は、MITのフジモト研の学生デビッド・ファン、MITリンカーン研のエリック・スワンソン、フジモトらによる[2]。初期画像の分解能は12〜17μmで、細胞ほどの大きさ。1μmは1000分の1mmなので、約60〜80分の1mmまで区別できた計算になる(この換算は目安)。これは初期の値で、のちの装置より粗い[2]。
この論文には前史がある。フジモトは1986年、超短パルスレーザーで皮膚の層やウサギの角膜の厚さを区別できたが、反射の弱い網膜を見る感度が足りなかった。ここで必要だったのが、衛星からの弱い光信号を検出する通信の経験をもつスワンソンだ。光ファイバーで光を効率よく干渉させる方法を持ちこみ、弱い反射でも検出できる道が開けた[2]。
1991年の論文では、時間差を干渉で測る考えと、弱い信号を拾う技術が組み合わされた。では、1本の測定からどうして画像になったのか。
5. 1本の せんが、どうして だんめんの 絵に なるの?
5. 1本の線を並べて断面にする ── 山の連なりから画像へ
5. 1次元の反射データから断面像へ ── 走査と速度の向上
ファンさんは、ある ことに 気づきました。網膜の てまえの ふちより おくにも、はねかえりの 山が たくさん 出て いたのです[2]。
そこで、ひかりの はしを すこしずつ よこに うごかして、ならべれば、1本の せんの ばしょの じょうほうが、だんめんの 絵に なると かんがえました[2]。
たての 1れつずつ いろを ぬって いく ますめの 絵と おなじです。1993ねんには、生きて いる 人の 網膜を うつした さいしょの 絵が えられたと いわれます[3]。
さいしょの そうちは、おくゆきを 1てんずつ はかったので、おそく なりました。その あとの ほうほうでは、おくゆきの じょうほうを いちどに あつめられます。そくどが ぐんと あがりました[3]。
反射の山が並んでいた
ファンは、網膜の手前の縁より奥にも、反射のピーク(山)が多数出ることに気づきました。そこで、光のビームを横に動かして並べれば、1次元の位置情報が断面の画像になると考えました[2]。
たて1列ごとに色を置いていく方眼の絵のように、1本ずつの測定が横に並んで、1枚の断面になります。
1993年、生きた人の網膜へ
生きた人の網膜を撮った最初のOCT像は、1993年に報告されたとされます[3]。
遅かった測り方が、速くなった
最初期のOCTは、深さ方向に光の道のりを動かして、1点ずつ測るタイムドメイン方式で、速くはありませんでした。のちのフーリエドメイン方式(スペクトラル方式など)は、深さ方向の情報を同時に集めます[3]。測定の速さが大きく上がったと紹介されています[3]。
ファンは、網膜の手前の縁より奥にも多数の反射ピークが現れることに気づいた。ビームを横にずらして並べれば、1次元の位置情報(Aスキャン)を断面像に変換できる、と考えた[2]。反射が層の数や位置に対応しうる、という見立てを、走査と配列によって画像に仕立てた発想である。
ここで速度が課題になる。最初期のタイムドメイン方式は、深さ方向に光路を動かして1点ずつ測るため遅かった。のちのフーリエドメイン方式(スペクトラル方式・掃引光源方式)は、深さ方向の情報を同時に集めることで、測定速度を大きく向上させた[3]。
生きた人の網膜を撮った最初の像は1993年とされる(Swansonらの報告)[3]。では、こうして得た断面で、医師は何を見ているのか。
6. 目の おくの だんめんは、お医者さんの なにを たすけるの?
6. 網膜の断面から、医師は何を確かめているのか
6. 臨床での使われ方 ── 網膜のむくみ・神経線維層の厚み・抗VEGF薬との関係
OCTの だんめんを 見ると、網膜の むくみや、しんけいの せんいの あつみが わかります[1]。
めの びょうきの はやい 時期の はっけんや、治療の あとの ようすを 見る ことに つかわれます[1]。緑内障などの びょうきの 名まえが 出てくる ことが あります。
2000ねんだいの はじめに、あたらしい くすりが 出て、OCTの つかいみちが 一気に ひろがったと いわれます[2]。くすりが きいて いるかを 見るのに、だんめんの 絵が やくだつ からです。
ひかりを あてて、からだを きらずに しらべます。からだを きらずに おくを 見る、という ねがいが、ひかりの かさなりで かなったのです。
むくみと厚みを断面で見る
網膜や神経線維層の断層画像を撮ると、網膜のむくみや出血などの状態が分かります。緑内障、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症といった病気の早期発見や、治療の経過観察に使われます[1]。
2000年代の新しい薬と、広がる使い道
2000年代の初め、加齢黄斑変性の抗VEGF薬が登場すると、OCTの利用が一気に広がったと紹介されています。治療が効いているかを見るために欠かせなくなったからです[2]。
撮れる範囲は機種によって違う
キヤノンのSS-OCTという機種は、スキャン幅23ミリ、深さ約5.3ミリで、硝子体から網膜・脈絡膜・強膜の境界までを一度の撮影で写せます[1][4]。これは特定の機種の値で、OCT全般の値ではありません。
OCTの断層像からは、網膜のむくみ、出血、神経線維層の厚みなどが分かり、緑内障、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症などの早期発見や経過観察に使われる[1]。
2000年代初めに加齢黄斑変性の抗VEGF薬が登場すると、治療が効くかを確かめる手段としてOCTの利用が一気に広がったと紹介される[2]。この関係は、ラスカー財団のページで紹介されている。
装置の性能は機種で異なる。キヤノンのSS-OCTは、スキャン幅23mm、深さ約5.3mmで、硝子体から網膜・脈絡膜・強膜の境界までを一度の撮影で写せるとされる[1][4]。この値はその機種のものであり、OCT全般の限界ではない。
ここまでの流れは、時間差が測れないという壁を、干渉と、弱い光を拾う工夫で越えたという一本の線でつながる。
7. みずの なみを ふたつ つくって、かさなりを 見てみよう
7. 洗面器の水で、波が重なる様子を観察する
7. 干渉を水面で再現する方法と、原典の探し方
あらいおけに 水を はって、しずかに なるまで まちます。つぎに、ゆびを 2ほん、ちかくに そっと つけて、なみを つくって みましょう。
2つの なみが かさなる ところを よく 見ます。大きく なる ところと、あまり ゆれない ところが、あるでしょうか。OCTの 「かさなり」は、こうした ようすと にた かんがえです。
ゆかが ぬれないように、おふろの ばや しきものの 上で やりましょう。
洗面器に水を張り、水面が静まるのを待ちます。指を2本、少し離して同時にそっとつけて、波紋を作ってみましょう。2つの波紋が出会う場所を見て、波が大きくなるところと、あまり揺れないところがあるか、観察します。
OCTの干渉も、波が重なって強め合ったり弱め合ったりする性質を使っています。ただし光の波は目に見えず、水の波紋はあくまで様子を思い描くための手がかりです。水をこぼさないよう、お風呂場かタオルを敷いた上で行うと安心です。
もう少し知りたいときは、ラスカー財団のページ[2]に、1991年の論文のころの話が書かれています(英語です)。キヤノンの解説[1]は、日本語で原理をまとめています。
干渉を体感するなら、洗面器の水面に指を2本つけて波紋を重ね、強め合う場所と弱め合う場所を見る。光の干渉の様子を思い描くための手がかりだが、OCTの光は近赤外光で目に見えず、水の波とは別の現象なので、あくまで類推にとどまる。
日本語で読める資料としては、原理と臨床の使われ方はキヤノンの技術解説[1]、近赤外光と非侵襲の特徴は浜松ホトニクスの解説[4]が手がかりになる。1991年の論文の背景と、抗VEGF薬との関係は、ラスカー財団のページ(英語)[2]、検査件数と方式の変遷は総説(英語)[3]に書かれている。
特に、「1986年のフジモトの実験で足りなかった感度を、スワンソンの通信の経験が補った」という1991年の背景は、原典を読むと細部まで確かめられる。どこまでが回想で、どこまでが記録かを区別しながら読むと、記述の強さが違って見えてくる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:メーカーの技術解説、財団のページ、総説論文、メーカーの応用解説を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- キヤノン「OCT 技術解説」。https://global.canon/ja/technology/oct2021s.html (干渉の説明、参照光、臨床での使われ方、機種の仕様について)
- Lasker Foundation "Optical coherence tomography"(英語)。https://laskerfoundation.org/winners/optical-coherence-tomography/ (光の往復時間と干渉、1986年と1991年の経緯、断面像への発想、抗VEGF薬について)
- PMC掲載の総説(OCTの歴史と現状)(英語)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10702586/ (低コヒーレンス干渉、検査件数、1993年、方式ごとの速度について)
- 浜松ホトニクス「OCT(光干渉断層計)」。https://www.hamamatsu.com/jp/ja/applications/medical/oct.html (近赤外光、非侵襲、リアルタイム観察について)
なおした ところ
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