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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

てのひらや あしのうらには、どうして けが はえないの?

手のひらと足のうらに毛が生えないのはなぜか、毛づくりの合図を止める仕組み

手のひら・足底の無毛皮膚 ── 毛包の欠如とWntシグナル阻害因子Dkk2(マウス、2018年)

分野:からだ

じぶんの てを、ひらいて 見て ください。てのこうには けが ある ひとも いますが、てのひらには ふつう 1ぽんも ありません。あしの うらも おなじです。

けが「はえない」のでしょうか。それとも、なにかが「はやさない」のでしょうか。けんきゅうで わかって きたことを、いっしょに たどって みましょう。

手の甲には毛がある人がいるのに、手のひらには、ふつう毛がありません。足のうらも同じです。

毛が「生えない」のか、それとも体が毛を「生やさない」ようにしているのか。マウスの研究で見えてきた仕組みと、まだ分かっていないことを、複数の資料を突き合わせて見ていきます。

手のひら・足のうら・唇には、通常、毛を作る毛包が存在しない[1]。では、それは「作れない」のか「作らない」のか。2018年にCell Reportsで報告されたマウスの研究は、後者に近い答えを示した[2]。

このメモでは、毛包のない場所と発生の時期、Wntという合図とDkk2による阻害、Dkk2を欠いたマウスの結果、ウサギとの対比、「グリップのため」という推測を整理する。マウスの結果をヒトにそのまま当てはめてはいない。

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1. けの ない ところは、どこに あるの?

1. 毛の「根もと」がない場所は、意外に少ない

1. 毛包のない部位 ── 唇・手のひら・足底

けの ねもとには、もうほうと いう ちいさな ふくろが あります。この ふくろが、けを つくって います。

もうほうは、からだの ほとんどの 皮膚ひふに あります。でも、くちびると、てのひらと、あしの うらには ないと いわれて います[1]。

けが ない ところに、けの ねもとの ふくろも ない。まず、ここが だいじな ところです。

毛包という、毛を作る小さな器官

毛の根もとには、毛包という袋のような器官があり、毛はここで作られます。毛包は体のほとんどの皮膚にありますが、唇・手のひら・足のうらにはない、と医学書の解説にあります[1]。

つまり、手のひらに毛がないのは、「毛が抜けたから」でも「短くて見えないから」でもなく、たいていの人で、毛を作る器官がそもそもないから、ということになります。

研究者は、手のひらや足のうら、手首の内側のように毛のまったくない皮膚を、無毛の皮膚とよんでいます[2]。

毛包は、唇・手のひら・足底を除くほぼ全身の皮膚に存在する[1]。毛のない部位は、通常、毛が抜けている状態ではなく、毛包自体が形成されていない状態である。

Cell Reports(2018)の要旨は、ヒトの手のひら・足底・手首の内側(腹側)と、マウスの足底が完全に無毛の皮膚であると記す[2]。この共通点が、マウスの足底をヒトの無毛皮膚のモデルとして使う根拠になっている。

2. けの ねもとは、いつ できるの?

2. 毛の根もとは、生まれる前につくられる

2. 毛包発生の時期 ── 胎生9〜12週と、出生時にほぼ確定する毛包数

けの ねもとの ふくろは、うまれる まえの、おかあさんの おなかの なかで できはじめます[5]。

けの ねもとの ふくろは、うまれた あとに あたらしく できる ことは、ふつう ないと 考えられて います[6]。

だから、「うまれてから、てのひらに けが はえる ように がんばる」わけには いきません。かぎは、おなかの なかに ありそうです。

おなかの中で始まる毛づくり

ヒトの毛包は、おなかの中の赤ちゃんが9〜12週ごろのときに、作られはじめるとされています[5]。全身で同時に始まるのではなく、波のように場所を変えながら進みます。

毛包はおなかの中で作られ、生まれたあとに新しく毛包ができることは、ふつうないと考えられています[6]。

手のひらに毛が生えるかどうかは、生まれる前の毛づくりの段階で、おおかた決まっているようです。ただ、ヒトの手のひらや足のうらで、その段階に何が起きているかは、まだ分かっていません。

ヒトの毛包発生は、胎生9〜12週に上皮と間充織の相互作用として始まる[5]。発生は全身で同時ではなく、波状に進む。

StatPearlsによれば、毛包は胎児期に発生し、出生後に新たな毛包が形成されることは通常ないと考えられている[6]。

したがって、無毛皮膚は出生後に毛が失われた結果ではなく、胎児期の毛包形成の段階で決まると推定される。ただし、ヒトの手のひら・足底での発生段階は、まだ分かっていない。

3. けを つくる「あいず」を、とめる ものが いた

3. 毛づくりの合図と、それを止める物質

3. Wntシグナルとその阻害因子Dkk2 ── マウス足底での働き

からだの なかでは、「ここに けを つくろう」という あいずが 出て います。この あいずの ことを、けんきゅうする ひとは Wnt(ウィント)と よんで います。

マウスの あしの うらの けんきゅうで、この あいずを とめる ものが 見つかりました。Dkk2(ディックコップ2)と いう、たんぱくしつです[2]。

たとえば、ゆうぐの ごうれいを 思いうかべて ください。「よーい、どん」と いっても、だれかが まえで「まって」と 手を あげれば、みんな はしりだせません。Dkk2は、その「まって」の 手に にて います。ただ、ほんとうの しくみは、もっと ふくざつです。

Wntという合図と、それを止めるDkk2

毛包が作られるときには、Wnt(ウィント)とよばれる、細胞どうしの連絡の道すじが使われます。いわば「ここで毛づくりを始めよう」という合図です。

2018年の研究は、マウスの足のうらで、Dkk2(ディックコップ2)というたんぱく質が、この合図の道すじを抑えていると報告しました。合図が止まるので毛包の発生が進まず、無毛の皮膚ができる、という説明です[2]。

運動会で、スタートの合図が出ているのに、前で誰かが「待って」と手を上げているところを思い浮かべてください。合図は出ているのに、走り出せない。Dkk2の役目は、その「待って」に似ています。ただし実際の仕組みは、もっと複雑です。

この実験はマウスで行われたものです。ヒトの手のひらで同じことが起きているかどうかは、この研究だけでは分かりません。

毛包形成にはWntシグナルが関わる。Cell Reports(2018)の要旨によれば、マウスの足底では、分泌型のWnt阻害因子DKK2が足底の毛包発生を抑制し、無毛の皮膚の形成を可能にしている[2]。

この論文の枠組みは、Wnt阻害因子の発現が場所ごとに限られていることが、有毛皮膚と無毛皮膚の作り分けの土台になる、というものである[2]。

これはマウスでの結果である。ヒトの手のひら・足底でDKK2が同じ働きをするかどうかは、まだ分かっていない。

4. とめて いる ものを とったら、どうなった?

4. Dkk2をなくしたマウスの足のうらには、毛が生えた

4. Dkk2欠損マウス ── 足底に機能する毛包が形成される

けんきゅうする ひとたちは、マウスの Dkk2を、いでんしの はたらきで なくして みました[2]。

すると、ふつうは けの ない あしの うらに、けが つくられました。けの ほかに、あぶらを 出す ところや、けの もとに なる ちいさな さいぼうの ばしょも できて いました[2]。

Dkk2を なくした マウスの あしの うらの 皮膚ひふは、けを つくる ざいりょうを ぜんぶ もって いたのです。ただ、あいずが とめられて いただけ、と 考えられます。

部品はそろっていた

研究者たちは、遺伝子を操作して、Dkk2をもたないマウスをつくりました。すると、ふつうは毛のない足のうらに、外へ伸びる毛、皮脂腺、幹細胞が入る区画をもつ毛包ができ、しかも周期的に生えかわるようになりました[2]。

Dkk2をなくしたマウスの足のうらの皮膚は、毛包づくりに必要な部品を、すでにすべてもっていたことになります。ないのは部品ではなく、動きだすための合図のほうでした。

この毛包が、ふつうの毛のある場所の毛包と似た形で作られていく様子も、報告されています。胎児のころのWntの活動は、最初は広い範囲で高く、しだいに点々とした模様になっていきました[2]。

これはマウスの遺伝子を操作した実験です。人の手のひらに毛を生やせるということではありません。

DKK2を遺伝的に欠失させたマウスの足底には、体外に出る毛、皮脂腺、幹細胞区画を備え、周期的に再生する毛包が形成された。要旨は、足底の皮膚が毛包発生に必要な機構をすべて保持していると結論する[2]。

胎児の足底では、Dkk2がないとWnt/β-カテニンの活性がまず広く高まり、次第に点状のパターンに整う。これは通常の有毛皮膚での毛包の形成過程と似ている[2]。

これは遺伝子改変マウスでの結果であり、ヒトで毛を生じさせられることを示すものではない。

5. うさぎには、あしの うらに けが ある?

5. ウサギは足のうらに毛がある。では、なぜ人は?

5. 種による違いと「グリップ」仮説 ── 確かなことと推測の区別

うさぎの あしの うらには、けが はえて います。ほうどうに よると、うさぎでは、あいずを とめる Dkk2が すくないと いいます[3]。

では、ひとの てのひらに けが ない わけは なんでしょう。この けんきゅうを した ひとの ひとりは、ものを にぎる ためでは ないかと、すいそくして います[4]。

すいそくです。しょうめいされた ことでは ありません。

ウサギとの比べ、そして「にぎるため」という推測

ウサギの足のうらには、毛があります。研究を紹介した報道によると、マウスの足のうらにはDkk2が多いのに対して、ウサギの足のうらでは少ないとのことです[3]。

それでは、なぜ人の手のひらや足のうらには毛がないのでしょうか。共著者のひとりは、「ものをにぎったり、つかんだりするためではないか」と推測しています[4]。

これは研究者の推測で、証明された理由ではありません。Dkk2と男性型脱毛の関係についても、原因と結果かどうかは分かっていないと伝えられています[4]。

報道によれば、マウスの足底ではDkk2の発現が高く、ウサギの足底では発現が低く毛が生える[3]。

ヒトで手のひら・足底に毛がない理由について、共著者のMillarは「グリップのためだと推測している」と述べた[4]。これは推測であり、実証された理由ではない。

研究の限界として、対象は主にマウスで、ヒトでの因果関係は未検証とされる。DKK2と男性型脱毛の関連も、因果かどうか不明と報じられている[4]。

6. じぶんの てや あしを 見て みよう

6. 自分の手と足で、毛のある場所とない場所を見つける

6. 自分でも調べてみたくなったら

てのこうと てのひらを、見くらべて みましょう。ゆびの はらは、どうでしょう。あしの こうと うらも、見て みましょう。

けの ある ところと ない ところの さかいめが、どこに あるか。さがして みると、おもしろいかも しれません。

今日できること

手の甲と手のひら、足の甲と足のうらを見比べて、毛のある場所とない場所の境目がどこにあるかを探してみましょう。指の腹や、指の第二関節のあたりはどうでしょうか。

境目はひとりひとりで少し違うかもしれません。違いがあっても、まちがいではありません。

もっと知りたくなったら

今回のマウスの研究は、Cell Reportsに2018年に載りました[2]。ページの下の「参考にした情報源」から、要旨を読めます。

今日できること

手の甲と手のひら、足の甲と足のうらを見比べ、毛のある部位とない部位の境界を観察できる。指の腹や関節付近の毛の有無も比べられる。

資料を読むなら

原典は、Regional Control of Hairless versus Hair-Bearing Skin by Dkk2(Cell Reports, 2018)の要旨[2]。医学書の解説[1]、胎児期の毛包発生の解説[5][6]も参照できる。ヒトでのDKK2の働きは、今後の研究課題である。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

記事で使った資料の一覧です。参照番号は本文の[ ]に対応します。

  1. MSDマニュアル家庭版「毛髪の成長の概要」 MSDマニュアル家庭版 (毛包のない部位)
  2. Regional Control of Hairless versus Hair-Bearing Skin by Dkk2, Cell Reports 2018(要旨) Europe PMC (マウスの実験と結論)
  3. Medical Xpress(Penn Medicine発表の報道,2018) Medical Xpress (ウサギとの対比)
  4. PhillyVoice(Penn Medicine研究の報道) PhillyVoice (グリップの推測と研究の限界)
  5. UNSW Embryology: Hair Development UNSW Embryology (毛包発生の時期)
  6. StatPearls: Embryology, Hair NCBI Bookshelf (出生時に毛包がそろう)

なおした ところ

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