1. 「せいぶんかいせい」なのに、なぜ のこるの?
1. 「生分解性」のポリ乳酸が、土の上で残る理由
1. 常温では進まないPLAの生分解 ── 加水分解が先に要る
ポリ乳酸は、「せいぶんかいせい」と よばれる ことも ある プラスチックです。
でも、ふつうの つちの なかでは、すぐには なくなりません。ねつと しめりけが たりないと、びせいぶつが たべられる ちいさな かたちまで、くずれて くれないからです[1]。
ところが、こうぼの なかまが この かべを こえる という ほうこくが あります。どんな こうぼなのでしょう。
ポリ乳酸は、工業用のコンポストのような、温度60℃以上・湿度60%以上の高温多湿な環境なら、まず水と反応して小さな分子になります。その小さな分子を、微生物が分解していきます[1]。
ところが、常温の土や海のような低温の環境では、この最初の段階がほとんど進みません。「生分解性」という言葉は、どこでも分解するという意味ではなく、条件つきなのです[1]。
この「条件」を、常温のまま飛びこえる生きものが見つかりました。それは、イネの葉の上にいました。
PLAの生分解は、高分子鎖がいったん低分子まで加水分解されてから、微生物に取りこまれて進む。この加水分解には、60℃以上・湿度60%以上の工業用コンポストのような条件が要り、常温の土壌や海洋環境ではほとんど進まない[1]。「生分解性」の表示は条件つきの性質であり、環境を問わないわけではない。
だから、常温で分解できる生物の側の仕組みが注目される。その候補が、植物の葉の表面にすむ酵母だった。
2. いねの はの うえに、なにが いたの?
2. イネの葉とプラスチックに、共通するものがあった
2. 葉の表面のクチンと生分解性プラスチック ── 研究者が立てた予想
いねの はや もみがらの うえには、こうぼが すんで います。この こうぼの なかまの いくつかの かぶが、30℃で、せいぶんかいせい プラスチックの フィルムを つよく くずしました[2]。
けんきゅうする ひとは、さいしょから この こうぼを ねらって いました。はっぱの おもてを つつむ「クチン」が、せいぶんかいせい プラスチックに にて いるからです。どちらも「エステルけつごう」で つながり、へやの おんどで かたい ものです[2]。
こうぼが はっぱの ものを とかす どうぐを もって いれば、にた プラスチックにも きくかもしれません。そう かんがえたのです。
植物の葉は、表面をクチンという物質でおおっています。研究者は、クチンの化学構造が生分解性プラスチックによく似ていることに目をつけました。どちらも、有機酸がエステル結合でつながっていて、室温では固体です[2]。
そこで、予想が立ちました。葉の表面にすむ微生物が、クチンを分解する酵素(クチナーゼやリパーゼ)を持っているなら、似た構造のプラスチックも分解できるのではないか、というものです[2]。
実際、イネの葉やもみ殻から分けとった酵母 Pseudozyma antarctica の株は、30℃で、PBSやPBSAという生分解性プラスチックのフィルムを強く分解しました[2]。
ここで注意したいのは、酵母がプラスチックを食べるために進化したわけではないことです。葉の表面の物質を分解する酵素が、似た構造のプラスチックにも効く、という説明にとどまります。では、その酵素はどんなものなのでしょう。
3. こうぼの どうぐは、どんな もの?
3. 分解の主役の酵素PaEは、どんな形をしているのか
3. 酵素PaE ── クチナーゼ様酵素と「ランダム切断」
こうぼが だす どうぐは、PaEと いう こうそです。とても ちいさな タンパクしつで、クチンを きる こうそに にて いると いわれます[2]。
はさみで ひもを きる ところを おもって ください。PaEは、プラスチックの ながい ひもの とちゅうを、あちこち きって いきます[3]。ただし ほんとうは、はさみでは なく、くすりの ような はたらきを する たんぱくしつです。
きられた ひもは みじかく なります。みじかく なると、ほかの いきものが たべやすく なります。
PaEは、クチナーゼによく似た、小さなタンパク質の酵素です。電気泳動で測った大きさは約22kDaで、配列から計算した予想値は約20kDaです。数値が少しちがうのは、測り方がちがうためです[2]。
PaEの仕事は、プラスチックの長い鎖のエステル結合を、途中のあちこちでランダムに切ることです[3]。長い鎖を、短い鎖にしていくイメージです。ただし本当は、はさみのような刃ではなく、化学反応を助けるタンパク質が働いています。
PBS、PBSA、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸のような固体のフィルムが、この酵素の標的になります[2]。短くなった鎖は、ほかの生きものが利用しやすい大きさに近づきます。
ところが、ポリ乳酸には、PaEでも手を焼く姿があります。
4. ポリ乳酸は ぜんぶ きれるの?
4. ポリ乳酸の「結晶」が、分解を大きく遅くする
4. 非結晶PLAと結晶PLA ── 約1/1000という壁
ポリ乳酸の ひもは、きれいに ならんで かたまった ぶぶんと、ばらばらに からまった ぶぶんが あります。ならんだ ぶぶんを「けっしょう」と いいます。
PaEが きれると ほうこくされて いるのは、けっしょうに なって いない ほうです[4]。
けっしょうに なった ポリ乳酸の フィルムは、PBSAの フィルムの 1000ぶんの 1ぐらいの はやさでしか くずれませんでした[3]。ほとんど、くずれないのと おなじです。
だから、「ポリ乳酸が ぜんぶ すぐ なくなる」とは いえません。
5. はたけに かけると、どうなるの?
5. 畑のフィルムに酵母の液をかけたら、翌日どうなったか
5. 酵母の培養ろ液を散布し、耕うん後のフィルム片を調べた野外試験
はたけでは、くさを おさえる ために、プラスチックの フィルムを しくことが あります。しごとが おわった あと、この フィルムを あつめるのは たいへんです。
そこで、こうぼを そだてた えきを、フィルムに スプレーしました。つぎの ひ、はたけを たがやして、のこった フィルムの かけらを しらべると、ちいさく かるく なって いました[5]。
おんどが ちがう はつなつと あきぐちの 2かいでも、ききめが ありました[3]。ただし これは、せいぶんかいせい マルチフィルムでの はなしで、ポリ乳酸の はなしでは ありません。
農業では、雑草をおさえるために畑に敷くマルチフィルムがあります。研究チームは、使い終わるタイミングに合わせて、酵母の酵素でフィルムを弱らせる技術を開発しています[7]。
畑にしいたPBAT入りの市販のフィルムに、酵母の培養液をこした液をスプレーして、翌日に耕しました。すると、残ったフィルム片の大きさと重さが、大きく減ったと報告されています[5]。
試験は、初夏(約31℃)と秋口(約14℃)の2つの温度で行われ、どちらの条件でも、酵素液をまいた翌日にフィルムの強度が下がりました。耕したあとに回収した断片は小さくなり、全体の重さも減りました[3]。ただし、これは生分解性のマルチフィルムでの結果です。ポリ乳酸を14℃で分解したという意味ではありません。
では、こうした酵素液は、どうやって作り、どれくらい持つのでしょうか。
農研機構と産総研などの研究は、フィルムが畑に敷かれたまま、耕うんする時期に合わせて分解させる技術として、イネ由来の酵母の酵素を開発している[7]。
実験室での試験では、PBAT入りの市販マルチフィルムの高分子鎖をPaEがランダムに切り、表面が侵食された[5]。野外では、培養ろ液を散布して翌日に耕うんすると、フィルムの強度が下がり、残存フィルム片の大きさと総重量が有意に減った[5]。初夏(約31℃)と秋口(約14℃)の両条件で有効性が確認された[3]。
対象は生分解性マルチフィルム(PBAT入りなど)であり、PLAではない。14℃の結果をPLA分解に持ちこむことはできない。では、実用の酵素液はどう作るのか。
6. こうそを たくさん つくって、ためておけるの?
6. 酵素を大量に作り、常温で保存する工夫
6. 酵素液を大量に作り、長く保存する工夫 ── エタノールとプロテアーゼ破壊株
こうそは、こうぼを そだてた えきの なかに あります。えきを 20%の エタノールに すると、へやの おんどで 6か月 いじょう おいても、はたらく ちからの 6わりぐらいが のこりました。びせいぶつも ふえませんでした[6]。
もう ひとつ、こうぼ じしんの タンパクしつを きる はたらきで、PaEが こわれて しまう ことも わかりました。この はたらきを もつ いでんしを こわした こうぼでは、2にち ちかく たっても 94%、のこりました。ふつうの こうぼでは 55%でした[4]。
酵素液をそのまま置いておくと、傷んだり、微生物が増えたりします。そこで、培養液を20%のエタノールにした酵素液を調べると、常温で6か月以上たっても、はたらく力の約60%が残り、微生物も増えませんでした。酵母そのものは、20%以上のエタノールでは増える力を完全に失いました[6]。
もう1つの問題は、PaEが培養液の中で、酵母が出すタンパク質分解酵素に壊されることです。25℃・48時間で、ふつうの酵母の培養液では活性が約55%まで下がりました。そこで、このタンパク質分解酵素の遺伝子2つを壊した株を使うと、94%が残りました[4]。
こうした工夫を重ねると、畑でフィルムを弱らせる液を、現実的に作れる見通しが立ちます。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
うちに ある プラスチックの ふくろや カップの うらを 見て、「PLA」や「せいぶんかいせい」と かいて ないか、さがして みましょう。見つけたら、「ここでは すぐには なくならない のかな」と かんがえて みます。
出かけてできること
はたけの ちかくを とおるとき、くさを おさえる フィルムが しいて ないか 見て みましょう。はたけには はいらず、とおくから 見ます。
こうしきの じょうほう
のうけんきこうと さんそうけんの ホームページに、この けんきゅうの せつめいが のって います。
今日できること
家にあるプラスチックの袋やカップの裏を見て、「PLA」や「生分解性」と書かれたものがないか探してみましょう。見つけたら、それが「常温の土でもすぐ消える」のか、「条件がそろえば分解する」のか、書かれた条件を読んでみてください。
出かけてできること
畑のそばを通るとき、雑草をおさえる黒いフィルムが敷かれていないか見てみましょう。畑には入らず、道から眺めます。
公式情報
農研機構と産総研のウェブサイトに、この研究の紹介があります。論文の抄録は無料で読めるものもあります。
今日できること
身近なプラスチック製品の材質表示(PLA、PBAT、PBSなど)を調べ、各素材の「分解の条件」が何と書かれているかを比べる。表示の根拠が、60℃以上のコンポストなのか、常温の土なのかを確かめたい。
出かけてできること
畑のそばで、マルチフィルムの敷設状況を遠くから観察し、使い終わった後の扱いを考える。畑には立ち入らない。
公式情報
農研機構と産総研のプレスリリース、およびAMB Express 2011、PLoS ONE 2021、Scientific Reports 2023の各論文の抄録を読み、PLAとPBAT・PBSAのどれが対象かを、研究ごとに表にして確かめるとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
酵素の働きは原著論文と農研機構・産総研の発表に、PLAの分解条件は産総研の発表に依拠する。数値は、各資料に書かれた範囲だけを使った。
- 産総研 プレスリリース「ポリ乳酸の生分解性と伸びの改善」(2024-03-26) https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20240326/pr20240326.html (PLAの分解条件)
- Kitamoto et al. 2011, AMB Express 1:44 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3293741 (イネの葉の酵母・クチンとの類似・PaE)
- 農研機構 研究成果「酵素パワーで生分解性プラスチック製品の分解を加速」 https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/158894.html (ランダム切断・結晶PLAの遅さ・野外試験)
- PLoS ONE 2021, Disruption of protease A and B... https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7968665 (非結晶PLAの分解・PaEの安定化)
- Kitamoto et al. 2023, Scientific Reports 13:2386 https://www.nature.com/articles/s41598-023-29414-1 (畑での散布試験・抄録)
- Ethanol treatment of the culture broth... https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8177473/ (酵素液の常温保存)
- 農研機構 英語版 研究成果ページ https://www.naro.go.jp/english/sdgs/research_result/163712.html (耕すときに合わせて分解させる狙い)
なおした ところ
更新履歴
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