1. ミッキーの なまえは、くにで ちがうの?
1. ミッキーの名前は、国によってちがう
1. 国別のミッキーの名前 ── Topolino・Musse Pigg・Mikki Hiiri
ミッキーマウスは、せかいじゅうに ファンが います。でも、どこでも「ミッキーマウス」と よばれる わけでは ありません。
イタリアでは「トポリーノ」です。ざっしの なまえも、おなじ トポリーノです[1]。スウェーデンでは「ムッセ・ピッグ」、フィンランドでは「ミッキ・ヒーリ」と いわれます[3]。フィンランドの「ヒーリ」は、ネズミと いう いみです[3]。
イタリアの「トポ」も、ネズミに ちかい ことばだと いわれます。そこに 小さい ようすを たす おわりの 音が ついて、「ちいさな ネズミ」の ような ひびきに なると いう せつめいも あります。
それなら、この なまえは いつ、どうやって うまれたのでしょう。
ネズミの意味をもつ名前が多い
ミッキーの名前は国によって異なります。ヨーロッパの資料には、イタリアは Topolino、スウェーデンは Musse Pigg、フィンランドは Mikki Hiiri、ドイツ語圏は Micky Maus と挙げられています。日本は、英語名を音で写した「ミッキーマウス」です[3]。
フィンランド語の hiiri は、ネズミを表す言葉です[3]。イタリアの Topolino も、ネズミを表す語に、小さいことを示す語尾を足した形だと説明されることがあります。つまり「ちびネズミ」のような響きになりますが、語の成り立ちは、辞書で調べてみるのもおもしろいでしょう。
英語名をそのまま使う国もあれば、自分たちの言葉で呼び直す国もあります。では、その名前の雑誌に、いったい何が起きたのでしょうか。
2. ざっしの なまえが、ほかの ネズミに かわった?
2. 雑誌の題名が、別のネズミの名前に変わった理由
2. 第3号での改題 ── 「Topo Lino」と権利の手続き
イタリアの ざっし「トポリーノ」の 1ごうは、1932ねんの 12月31日に 出ました[1]。いまから 90ねん いじょう まえです。
ところが 3ごうめ(1933ねん 1月14日)で、ざっしの なまえが「トポ・リーノ」に かわりました[2]。のっていた ネズミも、ミッキーでは ありませんでした。ながい ズボンに くつを はいて、がっこうの かばんを もった べつの ネズミだったと いいます[2]。
ミッキーを つかう ための 手つづきが、まだ おわって いなかった からだと いわれます[2]。そして 5ごうめで、「トポリーノ」に もどりました[2]。
つまり ミッキーの なまえは、ことばの 音だけでなく、まわりの おとなたちの 事じょうにも、ふりまわされる ことが あったのです。
創刊3号目の「入れ替わり」
イタリアの Topolino 誌の創刊号は、1932年12月31日に出ました。ミッキーのイタリア語による初めての物語が載ったと説明されています[1]。
ところが3号目、1933年1月14日に、題名が「Il giornale di Topo Lino」に変わりました[2]。出版社のネルビーニは、ミッキーを使う権利の手続きが済んでいなかったため、といわれます。載せたのはミッキーではなく、長ズボンにくつ、通学かばんの姿をした別のネズミでした[2]。
その後、権利が整い、5号目で題が Topolino に戻ったと伝えられています[2]。名前が変わった理由は、言葉の都合だけではなかったことになります。
名前はそれより前から
ただし、Topolino という名前自体は、それ以前からイタリアで使われていたといわれます。雑誌の題名が一時的に変わっても、名前そのものが生まれ直したわけではありません[2]。
Topolino 誌の創刊号は1932年12月31日で、ミッキーのイタリア語による初の物語が載った[1]。ところが Il Fatto Quotidiano によれば、第3号(1933年1月14日)で題が「Il giornale di Topo Lino」に変わり、ミッキーの代わりに、長ズボン・靴・通学かばんの姿の別のネズミが載った。出版社ネルビーニの権利手続きが済んでいなかったため、と説明される。権利を得たのちの第5号で、題は Topolino に戻った[2]。
この経緯が示すのは、名前の置きかえには、言葉の問題のほかに、権利という制度の条件も絡むことだ。Topolino という名前自体は、雑誌の創刊より前から使われていたとされる[2]。
3. ドナルドは「ちびガチョウ」にも「カッレ」にも なる
3. ドナルドは、国によって「ちびガチョウ」にも「カッレ」にもなる
3. ドナルド・ダックの国別名 ── Paperino と北欧の名前
つぎは、ドナルドダックです。イタリアでは「パペリーノ」と いいます。「ガチョウの こども」に ちかい ことばから きた、「ちびガチョウ」の ような なまえだと いう せつめいが あります[4]。
スウェーデンでは「カッレ・アンカ」、スペインでは「パト・ドナルド」です。ノルウェーは、ドナルド・ダックの ままです[5]。
おなじ アヒルでも、くにに よって つけかたが ちがいます。ことばに あわせて 作りなおす くにも あれば、そのまま つかう くにも あるのです。
では、ドナルドの おいっこたちは、どんな なまえに なって いるのでしょう。
動物の名前にする国、人の名前にする国
イタリアの Paperino は、ガチョウのひなを表す papero から来た名前で、「ちびガチョウ」の意味だという説明があります[4]。ただし、この説明はウェブ上の言語の解説に付いた発言で、断定はしにくい点です。
北欧では、スウェーデンが Kalle Anka、デンマークが Anders And、フィンランドが Aku Ankka、アイスランドが Andrés Önd です。いずれも、人によくある名前と、アヒルを表す語を組み合わせた形に見えます。スペインは Pato Donald で、ノルウェーは Donald Duck のままです[5]。
同じアヒルでも、動物の名前に寄せる国と、親しみやすい人名に寄せる国があります。ドナルドの甥たちの名前は、さらに国ごとの差が大きいのです。
ドナルド・ダックの国別名は、イタリアが Paperino、スウェーデンが Kalle Anka(カッレ・アンカ)、デンマークが Anders And、フィンランドが Aku Ankka、アイスランドが Andrés Önd、スペインが Pato Donald で、ノルウェーは Donald Duck のままである[5]。
Paperino は、ガチョウのひなを指す papero に由来し「ちびガチョウ」の意とする説明があるが、これはウェブ上の言語解説に付いた発言にもとづく[4]ため、断定しない。北欧の名は、人名として通じる語とアヒルを表す語を組み合わせた形に見える。つまり動物名に寄せる型(Pato Donald)と、人名として親しめる型(Kalle Anka など)が併存し、英語名の音をそのまま使う国(ノルウェー)もある。名前の置きかえは、各国の言葉の語感に、出版側が自由に合わせた結果と読める。
4. おい 3人の なまえは、どうして 音を そろえるの?
4. 甥3人の名前は、なぜ「音をそろえた3つ」になるのか
4. ヒューイ・デューイ・ルーイの国別名 ── 音の反復を写す翻訳
ドナルドには、おいが 3人 います。えいごでは ヒューイ、デューイ、ルーイ。3人とも 音が にています。
この 3人の なまえも、くにごとに かわります。イタリアは「クイ・クオ・クア」、デンマークは「リップ・ラップ・ルップ」です[6]。
どの くにの なまえも、3つの 音が よく にて います。ひとりずつ ばらばらの なまえに しないで、ならべると リズムが そろう ように しているのです[6]。
デンマークの「リップ・ラップ・ルップ」は、アヒルの 鳴き声に つながる 音だと いう せつめいも あります[4]。ただし、これは ネットの コメントで、たしかな 話では ありません。
音を反復させる訳し方
ヒューイ・デューイ・ルーイは、英語では似た音が続く3人組です。イタリアでは Qui, Quo e Qua、スウェーデンでは Knatte, Fnatte och Tjatte、デンマークでは Rip, Rap og Rup、フィンランドでは Tupu, Hupu ja Lupu と呼ばれます[6]。
Wikipedia の解説では、翻訳された名前は、英語の名前が似た音を繰り返す形をまねすることが多いとされています。ポーランド語の Hyzio, Dyzio, Zyzio も同じ形です[6]。意味を訳さずに、「3人でひと組の音のリズム」を移しているわけです。
鳴き声かもしれない
デンマークの Rip, Rap og Rup は、デンマーク語でアヒルの鳴き声を表す音に通じる、という説明が、ウェブの言語解説のコメント欄にあります[4]。ただし、これは1つの説明で、確かな定説とまでは言えません。
甥の3人は、イタリアで Qui, Quo e Qua、スウェーデンで Knatte, Fnatte och Tjatte、デンマークで Rip, Rap og Rup、フィンランドで Tupu, Hupu ja Lupu と呼ばれる。ポーランドは Hyzio, Dyzio, Zyzio だ[6]。
各国の名前は、英語名の語頭や語尾の音の反復をまねる傾向がある[6]。意味を訳せば3人の名は別々の語になってしまうが、音の反復を写せば、3人でひと組という性格が保たれる。多くの言語で同じ方法が選ばれた理由の1つと考えられる。
デンマーク名 Rip, Rap og Rup については、デンマーク語でアヒルの鳴き声を表す語に通じるという説明がウェブ上の言語解説のコメント欄にある[4]。一次資料ではない1つの説明にとどまるため、確かな根拠とはいえない。
5. 日本の だじゃれは、えいごに なると どうなる?
5. 日本語のだじゃれは、英語でどうなる? ── フシギダネの場合
5. 日本語の言葉遊びの再設計 ── Fushigidane と Bulbasaur
ポケモンの「フシギダネ」は、日本ごでは「ふしぎ」と「たね」を あわせた なまえです。「ふしぎだね」と いう だじゃれにも なっているという せつめいが あります[7]。
でも、この だじゃれは、日本ごが わかる 人でないと たのしめません。そのまま えいごに すると いみが つたわりません。
そこで えいごでは「Bulbasaur」と いう、ちがう なまえに なりました。「バルブ」(きゅうこん)と「ダイナソー」(きょうりゅう)を くっつけた ことばだと いわれます[7]。せなかの きゅうこんと、きょうりゅうの ような すがたを あらわして います。
ほかにも、「かもが ねぎを しょって くる」と いう ことわざから できた「カモネギ」は、えいごでは まったく ちがう はつそうの なまえに なりました[8]。
つまり、なまえは、いみを うつす だけでなく、その くにの ことばで たのしい ものに 作りなおされる ことが あるのです。
日本語のだじゃれは、そのままでは訳せない
フシギダネは、「不思議」と「種」を合わせた名前で、「不思議だね」のだじゃれにもなっていると説明されます[7]。ただし、だじゃれの部分はファン向けの辞典サイトにもとづく説明で、やや弱めの根拠です。
英語名の Bulbasaur は、恐竜のような見た目と、背中の大きな球根(bulb)を合わせた造語とされます[7]。日本語の「不思議だね」の響きは英語では伝わらないため、見た目を説明する、別の発想の名前になったと考えられます。
だじゃれが、別の発想の名前になる例
カモネギは、ことわざ「鴨が葱をしょって来る」(おいしい話が向こうから来る、という意味)をもとにした名前です。英語名の Farfetch'd は、別の発想の名前になっています。ソーナンスは「そうなんす」という返事が元で、英語名は Wobbuffet です[8]。
名前を訳す作業は、意味を移すだけでなく、遊びそのものを作り直す仕事になることがあるのです。
フシギダネの名は、「不思議(fushigi)」と「種(tane)」の組み合わせで、「不思議だね」のだじゃれにもなっていると説明される[7]。このだじゃれの指摘は、ファン運営の辞典サイトの記述が根拠で、扱いは慎重にしたい。
英語名 Bulbasaur は、恐竜(dinosaur)のような見た目と背中の球根(bulb)を合わせた造語とされ、アメリカの子どもにも親しみやすいよう、見た目を説明する名前にしたという[7]。日本語のだじゃれは、音と意味が重なる点が魅力だが、その重なりは日本語に固有で、直訳すると失われる。英語名では、別の発想で組み立て直されている例がある。
この傾向は他の例にもある。カモネギは、ことわざ「鴨が葱をしょって来る」(意外だが好都合なこと)の略とされ、英語名は Farfetch'd だ。ソーナンスは日本語の返事「そうなんす」にちなむとされ、英語名は Wobbuffet である[8]。名前の置きかえは、意味を直訳する方法と、遊びを作り直す方法のどちらかを、キャラクターごとに選ぶ作業と読める。ただし、各英語名がどんな経緯で決まったかの一次資料は、今回の材料に含まれない。
6. すきな キャラクターの なまえを、こえに だして みよう
6. 好きなキャラクターの名前を、声に出して聞いてみる
6. 出口 ── 名前の「音」に注目する観察と、資料の読みどころ
すきな キャラクターの なまえを、ゆっくり こえに だして みましょう。どこかに、ことば あそびが かくれて いませんか。
「ふしぎだね」の ように、ふつうの ことばに きこえる 部分が あるかも しれません。おうちの 人にも「どこが おもしろい?」と きいて みてください。
としょかんで、がいこくの えほんが 日本ごに なった 本を さがすのも おすすめです。おくづけや あとがきに、なまえを どう 日本ごに したかが かいて ある ことが あります。
好きなキャラクターの名前を、声に出して読んでみましょう。ふつうの言葉に聞こえる部分や、同じ音のくり返し、だじゃれがないか探してみます。友だちや家族にも「この名前のどこが好き?」と聞くと、気づかなかった工夫が見つかります。
図書館で、外国の絵本や漫画が日本語になった本を開くのも手です。あとがきや訳者の言葉に、名前をどう日本語にしたかが書かれていることがあります。
もっと読みたくなったら、Wikipedia の Topolino の項目[1]や、Il Fatto Quotidiano の記事[2]、Planet Word の解説[8]を開いてみてください。
観察としては、好きなキャラクターの名を声に出し、音の反復・だじゃれ・既存語との重なりを探してみる。外国語の作品の日本語版があれば、訳者あとがきなどに、名前の置きかえの理由が書かれていることがある。
資料としては、Topolino の創刊の経緯は Wikipedia の Topolino の項目[1]と Il Fatto Quotidiano の記事[2]、ポケモンの言葉遊びは Planet Word の解説[8]が読みやすい。いずれも英語かイタリア語だが、各国名の比較は Wikipedia の項目から入れる[5]。なぜその名前になったかの一次資料(出版社・権利者の記録)は今回の材料になく、さらに調べる価値のある問いだ。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:Wikipedia の各項目、Il Fatto Quotidiano の記事、Language Log の記事、Planet Word(博物館)の解説を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。Wikipedia や Language Log のコメント欄は二次資料で、断定には使っていない。
- Wikipedia「Topolino」。https://en.wikipedia.org/wiki/Topolino (イタリアのミッキー誌の創刊について。二次資料)
- Il Fatto Quotidiano「Il Topolino italiano compie 90 anni」(2022年10月29日)。https://www.ilfattoquotidiano.it/2022/10/29/il-topolino-italiano-compie-90-anni-ecco-le-rocambolesche-avventure-delle-prime-uscite-in-edicola-come-quando-si-chiamo-topo-lino/6835320/ (第3号での改題について。報道)
- Wikipedia「Mickey Mouse」。https://en.wikipedia.org/wiki/Mickey_Mouse (ミッキーの国別名について。二次資料)
- Language Log「Duck names」。https://languagelog.ldc.upenn.edu/nll/?p=50608 (Paperino の語源や Rip, Rap og Rup の説明について。コメント欄の発言を含む)
- Wikipedia「Donald Duck」。https://en.wikipedia.org/wiki/Donald_Duck (ドナルドの国別名について。二次資料)
- Wikipedia「Huey, Dewey, and Louie」。https://en.wikipedia.org/wiki/Huey,_Dewey,_and_Louie (甥3人の国別名と訳し方について。二次資料)
- Wikipedia「Bulbasaur」。https://en.wikipedia.org/wiki/Bulbasaur (フシギダネと Bulbasaur の名前の成り立ちについて。二次資料)
- Planet Word「The Wonderful World of Wordplay in Pokémon」。https://planetwordmuseum.org/the-wonderful-world-of-wordplay-in-pokemon/ (カモネギ・ソーナンスなど日本語の言葉遊びと英語名について)
なおした ところ
更新履歴
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