1. しろい おこめは、さいしょから しろかった?
1. 野生のイネの赤い米は、なぜ白くなったのか
1. 赤から白へ ── Rc遺伝子の欠失が広がった理由として何が考えられているか
野生の イネの こめつぶは、そとがわの かわが あかい いろを して います。いまの しろい おこめは、その あかい イネが かわって できたと されます[4]。
しろく なった もとは、Rc という いでんしの ひとつの かわりでした。しらべた ひんしゅの ほとんどが、この かわりを もって います[4]。
むかしの のうかは、どうして しろい ほうを えらんだのでしょう。ありそうな わけが、いくつか あげられて います。しろい ほうが はやく にえて、たきぎが すくなくて すむ。もみがらが とりやすい。びょうきや むしが、しろい つぶの なかでは 見つけやすい。そう かんがえる けんきゅうしゃが います[5]。
野生のイネの米粒は、外側の皮(果皮)が赤い色をしています。白い米への変化は、Rc遺伝子の1か所の欠失が原因で、調べた白米の品種の97.9%がこの変異をもっていました。2つ目の変異は3%未満でした[4]。この割合は調べた品種の中での数字で、世界の米粒すべての割合ではありません。
この変異はジャポニカで起こり、インディカへ広がったとされています[4]。では、昔の人たちはなぜ白いほうを残したのでしょうか。コーネル大学の発表では、研究者が3つの利点を挙げたと伝えています。赤い米より早く煮えるので燃料が少なくてすむこと、もみ殻が取りやすいこと、病気や虫が白い粒のなかでは見つけやすいことです[5]。
これは研究者の推測で、当時の人が実際にそう考えたと確かめられた話ではありません。
野生イネの赤い果皮色は、Rc遺伝子のフレームシフトを起こす欠失1つで白色に変わる。この欠失は現在の白米品種の97.9%に見られ、同じRc内の別の変異は3%未満にとどまる[4]。分母は調査した白米系統であって、世界の米粒全体ではない。変異はジャポニカで生じ、インディカに広がったとされる[4]。
では、なぜ同じ変異が広まったのか。Cornell Chronicleは、研究者が挙げた理由として、赤米より早く煮えて燃料が少なくてすむこと、もみ殻が取りやすいこと、病気や虫が白い粒の中で見つけやすいことを紹介している[5]。これは推測であり、選択を行った当時の人々の意図が記録で裏づけられたわけではない。
ただし、色の変化は栽培化の一部にすぎない。野生のイネにはもう1つ、人の手を悩ませる性質がある。実った種が、穂からこぼれ落ちるのである。
2. たねが おちる イネから、どうやって おこめを とるの?
2. 実ると種が落ちるイネは、どうすれば収穫できるのか
2. 脱粒性の喪失 ── 離層と、sh4・qSH1が示したこと
野生の イネは、みのると たねを じめんに おとします。ふくろの くちが ひらいた かばんから、なかみが ぽろぽろ こぼれるようです。ただし、本当の しくみは、たねと ほの つなぎ目に ある「りそう」と いう ところが できるかどうかで きまります[1]。
のうかが かりとる ときに、たねが おちて しまったら、あまり とれません。だから、おちにくい イネが のこされて いったと かんがえられて います。
この「おちにくさ」に かかわる いでんしが、いくつか 見つかりました。
野生の植物は、子孫を増やすために種を飛ばしたり落としたりします。ところが、人が刈り取って食べるには、種が落ちにくいほうが都合がよくなります。落ちにくさは、穂のつけ根に「離層」という種が外れる部分ができるかどうかで決まり、離層がうまくできない株は、種が穂に残ります[1]。
この性質の変化は、栽培の初期にとくに大事にされた選び方の1つだったとされています[1]。
見つかった遺伝子の1つが、sh4です。離層が正常にできるのを助ける遺伝子で、変化すると離層の発達がじゃまされます。もう1つのqSH1では、遺伝子のスイッチにあたる部分の1文字の違いで離層ができなくなり、種が落ちなくなることが、2006年に示されました[2]。
では、sh4が変わるだけで、種は落ちなくなるのでしょうか。
野生イネ(O. rufipogon)から栽培イネ(O. sativa)への変化では、脱粒性の喪失が最も重要な選抜形質の1つとされる。約1万年前に栽培化されたと考えられ、脱粒性は穂軸と小穂の間の離層形成に左右される[1]。収量を安定させるには、離層が形成されにくい株が残る必要があった。
代表的な遺伝子がsh4(Mybタイプの転写因子)で、変異すると離層の正常な発達が妨げられる[1]。これとは別に、2006年にKonishiらは、qSH1の5'調節領域の1塩基多型(SNP)により離層が形成されなくなることを示した[2]。この関連は主にジャポニカで強く、sh4とqSH1を混同しないよう注意したい。
ここまでは「1つの遺伝子の変化で落ちなくなる」ように読めるが、2022年の研究はこの見方を修正した。
3. たねが おちなく なるには、いくつ いでんしが かかわるの?
3. 種が落ちなくなるまでに、3つの遺伝子が関わった
3. sh4だけでは足りない ── qSH3とSPR3が組み合わさった2022年の報告
2022ねんの けんきゅうで、ひとつの いでんしが かわるだけでは、たねは あまり おちにくく ならないと わかりました[3]。
ほの かたちを きめる いでんしも あります。ひらいた ほが、とじた ほに かわると、たねが ほから はなれにくく なります。ほの かたちと あわせて 3つの いでんしが そろった とき、とれる たねの わりあいが おおきく ふえたと ほうこく されました[3]。
ほの かたちは 目に 見えます。だから、とじた ほが えらばれた ことが、ほかの いでんしを あとから 受けつぐ きっかけに なったのかも しれません。
神戸大学や国立遺伝学研究所などの2022年の研究によると、sh4の変異だけでは種は落ちにくくならず、この研究ではqSH3という別の遺伝子の変異も必要でした。さらに、穂の形を決めるSPR3が関わっています。野生型は穂が開き、変化すると穂が閉じます。この研究で作った系統では、1つや2つの遺伝子が変わるだけでは収穫できる割合はあまり変わらず、3つの変化を組み合わせたときに初めて、大きく増えたと報告されています[3]。
この研究の要約には、目に見える穂の形の変化が選ばれたことが、sh4とqSH3を順に取り込む後押しになった、という段階的なモデルが書かれています。人が遺伝子を意図して選んだとは言えず、穂の形という見えやすい手がかりが選ばれた結果である可能性が示されています。
いまのイネは、種が落ちにくいだけではありません。もう1つ、目に見える大きな変化があります。
神戸大学・国立遺伝学研究所ほかの2022年のPNAS論文では、sh4の変異だけでは脱粒性が十分に失われず、qSH3の変異も要ることが示された。加えて、穂の開閉を決めるSPR3(野生型は開いた穂、変異型は閉じた穂)が関わり、この研究で作った系統では、1つや2つの遺伝子の変異では収穫率が大きくは変わらず、3つの変異を組み合わせたときに初めて大きく上がった[3]。栽培化の最初期の段階を示す結果として報告されている。
要旨が示す段階的モデルは、SPR3が制御する閉じた穂という目に見える形態が選ばれたことが、sh4とqSH3を順に取り込む後押しになり、その結果、脱粒性の喪失に至ったというものである。選択の対象が見えやすい形質だったという点が、2つの遺伝子の取り込みを説明する鍵になる。ただし「意図して選んだ」と読むのは行き過ぎで、結果として選ばれた可能性にとどまる。qSH3の変異は、インディカとジャポニカには保存されているが、circum-aus群にはないと、同じ要旨は記している。
種が落ちず、色が白くなる。それでも、まだ「いまのイネの姿」にはなっていない。
4. じめんを はう イネが、どうして まっすぐ 立ったの?
4. 地面を這うイネが、まっすぐ立つようになった
4. 匍匐から直立へ ── PROG1遺伝子のアミノ酸置換
野生の イネは、じめんに はうように ひろがります。いまの イネは、まっすぐ 立って そだちます。
この ちがいにも、いでんしが かかわって います。PROG1 という いでんしの、アミノさんが ひとつ かわった ことが、そだつ かたちの へんかに かかわったと されます[6]。
まっすぐ 立てば、たくさんの イネを、せまい たんぼに ならべて うえられます。
野生のイネは、地面を這うように横へ広がります。栽培されるイネは、まっすぐ上に立って育ちます。2008年、PROG1という遺伝子のタンパク質のアミノ酸1つの置き換えが、この変化に関わったことを報告しました[6]。
立ち姿が変わると、田んぼに多くの株を並べて植えやすくなります。種が落ちない、色が白い、立って育つという変化は、それぞれ別の遺伝子が関わっていて、いまのイネは、それらを重ねて受け継いできたことになります。
野生イネは匍匐型(prostrate)で、栽培イネは直立型である。Jinら(2008)は、亜鉛フィンガー型の転写因子をコードするPROG1のアミノ酸置換が、栽培化の過程で人為選択を受けて、野生型から栽培型の草型への転換をもたらしたと報告した[6]。ここまでに見た脱粒性(sh4・qSH3・SPR3)や色(Rc)も合わせ、栽培化には複数の遺伝子の変化が積み重なっている。
なお、この記事で扱った遺伝子は、全体のごく一部である。休眠性や穂の長さなどの変化に関わる遺伝子は、ここでは名前を挙げていない。
では、これらの変化はいつ、どこで始まったのか。
5. イネは、どこで はじめて つくられたの?
5. イネの栽培は、どこで始まったのか ── 遺伝学と考古学の見方
5. 起源地論争 ── 珠江中流域説(遺伝学)と長江中流域説(考古学)
さいぼうの なかの いでんしを しらべる 人たちは、ちゅうごくの みなみにある、珠江と いう かわの ちゅうりゅうの あたりで、さいしょの イネが うまれたと かんがえました[7]。
いっぽう、むかしの いせきから 見つかった、やけた おこめを しらべる 人たちは、ちがう かわの あたりだと かんがえて います[8]。
どちらも、まだ 話しあいが つづいて います。
2012年のNature論文は、野生イネ446系統と栽培イネ1083系統のゲノムを調べ、ジャポニカ米は中国南部の珠江の中流域にいた野生イネの集団から最初に栽培化された、と報告しました。インディカは、そのジャポニカが各地の野生イネと交わって生まれたとされています[7]。
いっぽう考古学では、長江中流域の遺跡から見つかる炭になった米などをもとに、稲作の起源を長江中流域に求める説があると紹介されています[8]。遺伝学と考古学で、見ている場所が違います。
約1万年前に栽培化されたという大まかな年代は、資料で共通しています[1]。どちらの説も、いまも検討が続いている途中の話として読むのがよいでしょう。
Huangら(2012、Nature 490:497)は、野生イネ446系統と栽培イネ1083系統のゲノムを解析し、イネの栽培化は中国南部の珠江中流域に生育していた1つの野生イネ集団から始まり、ジャポニカが生まれたとした。インディカは、その後ジャポニカが各地の野生イネと交雑して生じたと報告している[7]。
これに対して考古学では、彭頭山遺跡など長江中流域の炭化米を根拠に、長江中流を稲作の起源とみる説がある[8]。出典は教育用の解説サイトで、二次資料である。遺伝学の「どの野生集団が祖先か」と、考古学の「いつ・どこで栽培の痕跡が出るか」は、問いの立て方が異なる。そのため、片方だけを根拠に1つの起源地に断定しないほうがよい。
約1万年前という栽培化の目安は、育種学会誌の総説とも矛盾しない[1]。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
おうちの おこめの ふくろを 見て、ひんしゅの なまえを さがして みましょう。おなじ しろい おこめでも、ひんしゅは いろいろ あります。
出かけてできること
おうちの おこめの ふくろや、おみせの ふくろの ひょうじで、「はくまい」「げんまい」「あかまい」などと かいて ないか さがして みましょう。いろの ちがいも 見て みましょう。
こうしきの じょうほう
にほんいくしゅがっかいの ざっし「Breeding Science」の ホームページで、イネの ろんぶんを さがせます。
今日できること
家にある米の袋で、品種名と産地を見てみましょう。白い米の品種が、たくさんあることが分かります。調べた白米品種では、ほとんどが同じRcの変化をもつと報告されています。そのことを思い出しながら眺めてみてください。
出かけてできること
家やお店の米袋の表示で、「白米」「玄米」「赤米」などの書き分けがないか探してみましょう。品種名や、色についての説明が書かれていれば、見比べてみてください。
公式情報
日本育種学会の学術誌Breeding Scienceに、栽培イネの脱粒性についての論文が公開されています。神戸大学や国立遺伝学研究所の発表も、研究の背景を知る手がかりになります。
もっと知りたくなったら
2012年のNature論文(Huangら)には、野生イネと栽培イネのゲノムを比べた方法が書かれています。日本語で読むなら、[3]で挙げたJST Science Japanの報道が入り口になります。
今日できること
家にある米の袋で、品種名と産地を確認する。白米として流通する品種の多くがRcの同じ変異を共有するという報告(97.9%)と、実際の品種の多様さを重ねて考える。
出かけてできること
赤米・黒米など有色米を扱う店で、白米と並べて色以外の違い(粒の形、もみ殻の付き方の説明など)を見比べる。
資料を読むなら
Sweeney et al. (2007) PLoS Genetics 3(8):e133、Konishi et al. (2006) Science 312:1392、Huang et al. (2012) Nature 490:497、神戸大学ほか(2022)PNASが原典である。原文でどの系統を何本調べたかを確かめると、「97.9%」の分母が読み取れる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
遺伝子の話は、日本育種学会誌と、各論文の要旨・報道発表に依拠した。数字は、資料に書かれた範囲のものだけを使った。
- Breeding Science 64(3), 2014(日本育種学会) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbbs/64/3/64_199/_html/-char/en (栽培化の時期・脱粒性・離層・sh4)
- Konishi et al. 2006, Science 312:1392 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16614172/ (qSH1のSNPと離層)
- 神戸大学ほか 2022 PNAS(JST Science Japan の報道) https://sj.jst.go.jp/news/202208/n0829-01k.html (sh4・qSH3・SPR3の組み合わせ)
- Sweeney et al. 2007, PLoS Genetics 3(8):e133 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17696613 (Rc遺伝子と白米)
- Cornell Chronicle 2007「Today's white rice is mutation spread by early farmers」 https://news.cornell.edu/node/275691 (白い米が好まれた理由として挙げられたこと)
- Jin et al. 2008, Nature Genetics「Genetic control of rice plant architecture under domestication」 https://www.nature.com/articles/ng.247 (PROG1と草型)
- Huang et al. 2012, Nature 490:497(JST科学ポータルの紹介) https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20121026_01/ (珠江中流域での栽培化)
- 世界史の窓「稲作の起源」 https://y-history.net/appendix/wh0203-005.html (考古学側の説の紹介。二次資料)
なおした ところ
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