1. 海の 音は、ほんとうに 海の 音?
1. 海から遠くても、海の音がする
1. 問いの整理 ── 聞こえる音の候補
貝がらを 耳に あてると、ざあー、と 音が します。ふしぎなのは、海から とおい 家の 中でも 聞こえる ことです。
音の 出どころは、三つ 考えられます。貝がらが 音を 出して いるのか、海の 音が のこって いるのか、まわりの 音なのか。まず、いちばん 大きな ヒントを 見て みましょう。
音の出どころの候補
貝がらを耳にあてると、波の音のようなものが聞こえます。この音の出どころとして、まず思いつくのは、貝がらが自分で音を出している、あるいは海の音が中に残っている、という考えです。
もうひとつ、まわりにある音が関係しているのではないか、という考えがあります。次の章から、この三つのうちどれが資料で支持されているかを、静かな部屋の話を手がかりに絞っていきます。
2. しずかな 部屋では どうなる?
2. 防音の部屋では、何も聞こえない
2. 防音室での聞こえ方 ── 環境音が必要である
まったく 音が しない 部屋では、貝がらから 何も 聞こえない、と 研究者が 話した と つたえられて います[2]。
まわりの 音が なければ、海の 音も しないのです。ですから、貝がらが 音を 出して いる わけでは なさそうです[3]。
ふだんの 家には、人の 声や、とおくの くるまの 音などが あります。その 小さな 音が、貝がらに 入って きて いるのでしょう。
音のない部屋で聞いてみたら
オックスフォード大学の神経科学者アンドリュー・キング氏は、完全に防音した部屋では貝がらから何も聞こえない、背景の音が必要だと話したと報じられています[2]。
オーストラリアのABCサイエンスの記事も、まわりの音がなければ「貝の中の海の音」はしない、と説明しています[3]。もし貝がらが音を出しているのなら、静かな部屋でも聞こえるはずです。聞こえないということは、主な音のもとは貝がらの外にある、と考えられます。
ふだんの部屋は、音に満ちている
ふだんの家では、話し声、空調、遠くを走る車など、小さな音がいつも混ざっています。貝がらは、そのざわざわした音を受け取る側にまわっています。
3. 貝がらは、音を えらぶ ふしぎな ふくろ
3. 貝がらの中は、音を選ぶ「共鳴器」
3. 共鳴器としての貝がら ── 特定の周波数を強め、ほかを弱める
まわりの 音は、貝がらの 中の あなに 入ると、行ったり 来たり します。そのとき、ある 高さの 音は 強く なり、ほかの 音は よわく なると いわれます[4]。これを きょうめいと いいます。
色つきサングラスみたいに、貝がらは ある 高さの 音を 目立たせます[3]。ただし、本当に 一つの 音だけを 通す わけでは ありません。
からの びんに 口を つけて ふくと、ぼー、と 鳴ります。びんに 水を 入れて 空気の 入る ところを 小さく すると、音は 高く なります[5]。あなの 大きさで、えらばれる 音が かわるのです。
反響して、強められる
Wikipediaの英語版は、貝がらの音を、まわりの環境音が貝がらの空洞の中で反響し、強められて生じたものだと説明しています[1]。貝がらは、音を出す側ではなく、受け取った音を形づくる側です。
音の色つきサングラス
解説記事では、貝がらは、ある高さの音を強め、ほかを弱める「共鳴器」だと説明されます[4]。ABCサイエンスの記事は、これを色つきサングラスの音版にたとえています[3]。色つきサングラスのように、貝がらはある高さの音を目立たせます。ただし、特定の音だけを通すわけではなく、あくまでたとえです。
びんの音で考える
空のびんの口に息を吹きかけると、ぼー、と鳴ります。これは共鳴器の一種のヘルムホルツ共鳴器の働きで、鳴る高さは、容器の内側の体積、口の広さ、口の管の長さで決まります。びんに水を入れて内側の体積を減らすと、音は高くなります[5]。ただし、貝がらが厳密にこの共鳴器にあたるとは限らないので、あくまで仕組みを考えるためのたとえです。
日本語の資料にも、貝がらの中の体積に合う音の波が共鳴して強まる、という回答が収められています[7]。元の資料は確かめていません。
ABCサイエンス系の解説では、貝がら(ホラガイ)は周囲の雑音をとらえ、ある周波数を増幅し別の周波数を減衰させる共鳴器として働くとされる[4]。色つきサングラスの音版というたとえもあるが[3]、特定の音だけを通すわけではない。英語版Wikipediaの記述は、環境音が空洞内で反響(reverberation)と音響的増幅を受けて共鳴音になる、というものである[1]。
共鳴器の一種であるヘルムホルツ共鳴器では、共振周波数は容器の内容積・開口部の面積・管の長さで決まる。瓶に水を入れて内容積を減らすと音が高くなるという記述がある[5]。ただし、貝がらが厳密にヘルムホルツ共鳴器とみなせるかどうかは資料からは分からず、ここでは共鳴の考え方を示す例として使う。
国立国会図書館のレファレンス協同データベースには、貝殻内の容積に合う音波が固有振動数として共鳴して強まる、という回答が収められている[7]。回答の元の資料は確かめていない。実測値がないため、具体的な周波数は書かない。
4. コップや 手でも、音は するの?
4. 貝がらでなくても鳴る
4. 貝がらでなくても、空洞があれば似た音がする
からの コップや、手を まるめて 耳に あてても、にた 音が すると いわれます[1]。貝がらが とくべつな わけでは なく、中が あなに なって いれば よいのです。
ABCの 記事は、ある 研究を しょうかいして います。コップが きょうめいする 高さで、耳もとの マイクは、コップが ない ときより およそ 15デシベル 大きく はかった そうです[3]。でも 元の 研究は 見て いないので、「そう いわれる」くらいに 考えて おきましょう。
5. どうして 「海」に 聞こえるの?
5. 低い音と、脳の思いこみが「海」をつくる
5. 「海」と聞こえる理由 ── 低周波の類似と、脳の解釈
海の 音は、ひくい 音が 多いと いわれます[2]。貝がらが つよく する 音も、ひくめの 音です。だから、にて 聞こえるのかも しれません。
それに、耳に あてて いるのは 貝がらです。「貝がらだから 海」と 思って 聞くと、のうは ざわざわした 音の 中から 「海」を 見つけ やすく なります[3]。
聞こえかたは 人に よって ちがいます。なみの 音、風の 音、海の 中の 音、など、いろいろな 答えが あります[6]。
海の音も、低い音
カーティン大学のブレナン=ジョーンズ氏は、海の音も低い周波数の音なので、貝がらでとらえた音と似て聞こえると話したと報じられています[2]。似た高さの音が並ぶと、耳は同じものだと感じやすくなります。
脳は、ざわざわの中に「海」を探す
ABCサイエンスは、脳は周囲の混沌とした音から規則性を見つけるのがとても得意で、文脈に合わせて解釈する、と説明します[3]。貝がらを耳にあてるという場面が、「海」という答えを選ばせやすくするのでしょう。
聞こえ方は人それぞれ
ラジオ関西の記事には、街で聞いた話として、波の音、風の音、海の中の音、と答えが分かれたことが載っています[6]。この記事に科学的な解説はなく、あくまで一例です。同じ貝がらでも、聞こえる「海」は人によって少しずつ違うようです。
6. 「血の ながれる 音」って ほんとう?
6. 血の流れの音だという説は、なぜ疑われるのか
6. 血流説の再検討 ── 逸話的な反証と、残る不確かさ
「耳の 中の 血の ながれる 音だ」と 言う 人も います。でも、はしって 血の めぐりが はやく なっても、貝がらの 音は 大きく ならない、と いわれて います[3]。
ただし、これは ふつうの たいけんの 話で、きちんと した じっけんでは ないようです。また、耳の 中の 音が まったく かんけいない、とまでは いえません。
「走っても変わらない」
貝がらの音は耳の中の血の流れの音だ、という説は昔から語られます。ABCサイエンスは、浜辺を走って血圧が上がっても、貝がらの「海の音」の大きさは変わらない、という例を挙げて、この説に疑問を示しています[3]。
それでも残る、不確かさ
ただし、この「走っても変わらない」は体験に基づく説明で、厳密に測った実験ではありません。環境音が主な音のもとだと説明される一方で、体の中の音も共鳴で強められる場合があるかもしれません。どれくらい関わるのかは、確認できた資料からは判断できません。
血流の音だという説に対し、ABCサイエンスは、浜辺を走って血圧が上がっても、貝がらの「海の音」の大きさは同じだと述べる[3]。ただし、これは逸話的な説明であり、条件をそろえて測った実験の報告ではない。
環境音が主な音源と説明される一方、体内音も共鳴器で強調される場合があるかもしれない。確認できた資料では、その寄与の程度は判断できず、血流・体液の寄与をゼロと断定する根拠もない。したがって、環境音の共鳴を主要な要因とみなしつつ、体内の音の寄与は未解決として残す。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
おうちで、からの コップを、耳の そばに そっと あてて みましょう。手を まるめても だいじょうぶです。ぎゅっと おしつけては いけません。
音が するかな。テレビを つけた ときと、けした ときで、ちがいが あるかな。
もっと 知りたい ときは、国会図書館の 日本語の ホームページ「レファレンス きょうどう データベース」を、おうちの 人と 見て みましょう。
今日できること:空のコップや、まるめた手を、耳にそっとあててみます。強く押しつけないでください。同じ場所で、テレビや水の音があるときと、それを止めたときとで、聞こえ方がどう違うか、感じたことを言葉にしてみます。貝がらがなくても聞こえることは、この記事の説明と合うでしょうか。
公式情報:国立国会図書館の「レファレンス協同データベース」に、貝がらの音についての日本語の回答が載っています[7]。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:英語の解説記事、日本語の百科事典的な資料と、国立国会図書館のレファレンス事例を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Wikipedia「Seashell resonance」。https://en.wikipedia.org/wiki/Seashell_resonance (環境音の共鳴、コップや手でも起こることについて)
- IFLScience「Why Can You Hear The Ocean In Seashells? The Answer Isn't What You Think」。https://www.iflscience.com/why-can-you-hear-the-ocean-in-seashells-the-answer-isn-t-what-you-think-67796 (防音室での発言、海の音が低い音であることについて)
- ABC Science「Why do you 'hear the ocean' in a shell?」(2012)。https://www.abc.net.au/science/articles/2012/05/15/3500938.htm (環境音が要ること、サングラスのたとえ、血流説への疑問、脳の解釈、コップの15デシベルについて)
- How Everything Works「Why does the ocean roar inside a shell?」。https://howeverythingworks.com/why-does-the-ocean-roar-inside-a-shell/ (共鳴器としての働きについて)
- Wikipedia日本語版「ヘルムホルツ共鳴器」。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%A0%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%84%E5%85%B1%E9%B3%B4%E5%99%A8 (共振周波数を決めるもの、瓶に水を入れると音が高くなることについて)
- ラジトピ(ラジオ関西)2025年2月22日の記事。https://jocr.jp/raditopi/2025/02/22/619193/ (聞こえ方が人によって違うことについて)
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベース。https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?page=ref_view&id=1000047344 (日本語での共鳴の説明について)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。