1. じしん計に とっての 「ノイズ」って、なに?
1. 地震計にとっての「ノイズ」は、地震以外のすべての揺れ
1. 地震計の「ノイズ」の定義と、識別の4つの手がかり
じしん計は、ゆれを きろくする きかいです。じしん計に とって、「ノイズ」とは、じしん いがいの ことで きろくされた ゆれ ぜんぶの ことです[1]。
車が とおる ゆれも、こうじの ゆれも、ノイズです。
では、どうやって わけるのでしょう。てがかりは、おもに 4つ あります。ひとつめは、ゆれの すくない ばしょに おく こと。ふたつめは、ゆれ かたの もようと じかん。みっつめは、ゆれが とどく はやさと じゅんばん。よっつめは、AIです。
ひとつずつ、みて いきましょう。
地震計にとっての「ノイズ」とは、地震以外の原因で記録される振動のすべてを指します。USGS(アメリカ地質調査所)のページに、地震学者にとっては伝統的にそう扱われる、と書かれています[1]。車の走行も、工事も、波の打ちつけも、地震の記録から見ればノイズです。
見分ける方法は、1つの決め手ではありません。この記事で追う手がかりは4つです。揺れの少ない場所に置くこと、揺れ方の細かさと時間帯、揺れが届くタイミング、そしてAIです。
まずは、いちばん手前の工夫である「置き場所」から見ていきましょう。
地震計における「ノイズ」は、地震以外の原因で記録されたすべての振動を指す、というのが伝統的な用法である[1]。車・工事・波浪も、地震の解析では除去すべき対象になる。
識別は1つの手法で決まるものではなく、段階を重ねて行われる。本記事で扱う手がかりは、設置場所、周波数と時間帯、観測点間の到達時間差、機械学習の4つである。
最初の手がかりは、ノイズが届く前に減らす発想だ。
2. まず、ゆれの すくない ばしょに おく
2. まず、ノイズが届きにくい場所に置く
2. 設置場所による低減 ── 地下100m以上の観測井戸と震度計の設置基準
いちばん かんたんな くふうは、じゃまな ゆれが とどかない ばしょに おく ことです。
ぼうさい かがく ぎじゅつ けんきゅうじょの 「Hi-net」では、地めんの 下、100メートル いじょうの ふかい いどを ほって、いどの そこに じしん計を おきます[2]。地めんの ちかくは、車や こうじょうの ゆれが 大きいからです。
きしょうちょうの しんど計も、車の とおる ゆれが 大きい ばしょは さけて おきます[3]。
おく たかさも きまって います。しんど計は、ふつう 地めんか、ひくい たてものの 1かいに おきます。たかい たてものの うえの かいは、地めんより 大きく ゆれる ことが あるからです[8]。
いちばん確実なのは、ノイズの届きにくい場所に地震計を置くことです。防災科学技術研究所のHi-netでは、深さ100m以上の観測井戸を掘り、水が入らない丈夫な容器に納めた高感度の地震計を、井戸の底に設置しています。地表は、車や工場、波などの影響による雑微動が大きく、高感度の観測のじゃまになるためです[2]。
気象庁の震度計は、通行車両による揺れが大きな場所などを避けて置かれます[3]。置く高さにも決まりがあります。震度計は原則として地表か低層の建物の1階に置きます。中高層の建物の上のほうの階では、一般に地表より揺れが強くなるからです[8]。
こうして場所を選んでも、ノイズがゼロにはなりません。残った揺れを、記録のほうから見分ける手がかりが次の話です。
最も確実なのは、ノイズ源から物理的に遠ざけることだ。Hi-netでは、比較的雑微動の小さい場所に深さ100m以上の観測井戸を掘り、孔底に水密耐圧性の容器に納めた高感度地震計を設置する。地表は車・工場・波浪などによる雑微動が大きく、高感度観測の障害になるためである[2]。
気象庁の震度計は、通行車両による震動が大きな場所を避けて設置される[3]。設置高さも制約され、震度計は原則として地表または低層建物の1階に置かれる。中高層建物の上層階では一般に地表より揺れが強くなり、同じ地震でも観測値が変わるためだ[8]。
ただし、設置場所を選んでもノイズは残る。都市部の震度計を、すべて深い井戸の底に置けるわけでもない(井戸と震度計の設置基準は、目的が異なる)。残った振動を、記録の側から識別する段階に進む。
3. ひとの かつどうの ゆれは、あさに ふえて、よるに へる
3. 一日の記録を色にすると、人の暮らしが見える
3. スペクトログラム ── 周波数成分と時間帯でノイズを読む
じしん計の きろくには、ゆれの 大きさだけでなく、ゆれ かたの こまかさ(しゅうはすう)も ふくまれて います。この こまかさごとの つよさを、いろで あらわして、じかんを おって ならべた ものを 「スペクトログラム」と いいます[4]。
アメリカ地しつ ちょうさ しょ(USGS)の れいでは、車などの 人の かつどうに よる ひくい ゆれは、よるの あいだ へって、あさ 5じから 6じごろに きゅうに ふえます[5]。
じしんは、よるでも ひるでも おきます。でも、車や こうじの ゆれは、まちの うごきと いっしょに ふえたり へったり します。この ちがいも、みわける てがかりに なります。
4. たくさんの ばしょで、ゆれが とどく じゅんばんを くらべる
4. 複数の観測点に届くタイミングで、地震と音を見分ける
4. 観測点間の到達時間差 ── P波・S波と、空気中を伝わる衝撃波の速さ
ひとつの じしん計だけでは、まよう ことも あります。そこで、たくさんの ばしょの じしん計を くらべます。
じしんの ゆれは、いわの なかを つたわります。ゆれには、はやい「P波」と、おそいけれど つよい「S波」が あって、P波は 1びょうに 7キロメートルほど、S波は 4キロメートルほど すすみます[7]。
いっぽう、ひこうきの 「ソニックブーム」の ように、くうきを つたわる ゆれも あります。これは、いわの なかの じしんの ゆれより おそく つたわります。USGSは、じしん計の あいだの じかんの ずれが、くうきの 中の 音の はやさに あうかを みて、ちがいを みわけて います[6]。
ゆれが どの じゅんばんで、どれくらいの じかんの ずれで とどくかが、てがかりに なります。
1つの地震計だけでは迷うときも、離れた場所の複数の地震計を比べると、手がかりが増えます。地震波にはP波とS波があり、P波は秒速約7km、S波は秒速約4kmで伝わります。P波のほうが速く、S波のほうが揺れが強いという性質があります[7]。
音の衝撃波(ソニックブーム)のような、空気を伝わる現象は、岩の中の地震波より遅く伝わります。USGSは、観測点どうしの時間差が空気中の音の速さに合うかどうかを調べて、地震と衝撃波を見分けると説明しています[6]。
気象庁も、多くの観測点のデータを使うことで、地震が起きたことを素早くとらえています[7]。なお、時間差で見分けると説明されているのは、ソニックブームのように空気を伝わる現象と地震の区別です。
では、地震計の記録をもとに、実際に誰が最終的な判断をするのでしょうか。
観測点が複数あれば、到達時間差が使える。気象庁の説明では、地震波にはP波(秒速約7km)とS波(秒速約4km)があり、P波が先着し、S波は遅いが揺れが強い[7]。この速度差を使うと、P波を検出した観測点のデータから、先に震源を推定できる。
音源が空気中にある衝撃波(ソニックブーム)の場合は、観測点間の時間差が空気中の音速に一致する。これは岩盤中の地震波速度より遅いため、地震とは区別できる、とUSGSは説明している[6]。時間差の大きさが物理的な伝搬媒体を反映する、という原理だ。
USGSが示したのは、ソニックブームのような大気由来の現象と地震の区別である。気象庁は、多くの観測点のデータを使うことで地震の発生を素早く捉えている[7]。複数の観測点で同じ揺れを時間差つきで捉えることは、地震を見つける大きな手がかりになる。
次の問いは、誰が最終判断をするかである。
5. こうじの ゆれが まざった ときは、どうするの?
5. 地震計は揺れを記録し、判断は別の仕組みが行う
5. 記録と解析の分担 ── 工事ノイズが疑われる観測点の扱い
じしん計の しごとは、ゆれを きろくする ことです。きろくを しらべて、しんげんや 大きさを みつけるのは、べつの しくみです。
きしょうちょうの 「きんきゅう じしん そくほう」では、しんげんに ちかい 場所で P波を みつけた じしん計の データを しらべて、しんげんと 大きさを おおまかに もとめ、あちこちの ゆれを よそくします[7]。
こうじの ゆれが まざって いそうな ときは、あえて しんどを はっぴょうしない ことも あります[8]。まちがった ゆれを ほうこく しないための、そなえです。
ここで、地震計と解析の役割を分けておきましょう。地震計は揺れを記録する機械で、震源やマグニチュードの推定は別のシステムが行います。気象庁の緊急地震速報は、震源付近でP波を検知した地震計のデータを解析して震源とマグニチュードを推定し、その結果から各地の揺れを予測します[7]。
データは、たとえばHi-netでは24時間連続でデータセンターへ送られ、震源の決定などに使われます[2]。
それでも工事などのノイズが紛れこむことはあります。気象庁は、震度計の周りの工事などで振動ノイズの影響が考えられる場合、その観測点で揺れがあっても震度を発表しないことがあります[8]。間違った震度を出さないための、慎重な運用です。
しかし、人が一つひとつ疑うには数が多すぎます。そこで機械学習の出番になります。
役割を分けておく。地震計は振動の記録装置であり、震源・マグニチュードの推定は解析システムが担う。緊急地震速報では、震源付近でP波を検知した地震計のデータを解析して震源とマグニチュードを推定し、そこから各地の揺れを予測する[7]。Hi-netは各観測点のデータを24時間連続でデータセンターに伝送し、震源決定などに用いる[2]。
ノイズの影響が考えられる場合の扱いも、運用で決まっている。震度計周辺の工事などの振動ノイズの影響が考えられるとき、気象庁は、その観測点で揺れがあっても震度を発表しないことがある[8]。誤った震度を出すより、出さないことを選ぶ運用である。
ただし、どのような基準でノイズの疑いを判断するのかは、今回の資料に具体的な記述がない。人手での判断には限りがあるので、自動識別が研究されている。
6. AIは、ゆれの もようを みわけられるの?
6. AIは、地震の揺れとノイズをどこまで見分けられるのか
6. 機械学習による識別 ── P波とノイズの正答率と、その解釈
けんきゅうでは、AIに ゆれの もようを おぼえさせる ほうほうが ためされて います。
カリフォルニア工科大学の ある けんきゅうでは、AIが じしんの P波の 99.2パーセントと、ノイズの 98.4パーセントを みわけられた と ほうこく されて います[9]。
ノイズ 1000こを みせると、約 984こは ただしく ノイズだと わかり、約 16こは まちがう、という 大きさです。
ただし、これは 1つの けんきゅうの けっかです。どこでも この とおりに なる とは かぎりません。
カリフォルニア工科大学の研究では、機械学習で地震のP波とノイズを見分ける識別器が作られました。緊急地震速報への応用を目的とした研究で、P波の99.2%とノイズの98.4%を正しく識別できたと報告されています[9]。
数字を実感にすると、ノイズの記録を1000個見せたとき、約984個はノイズと正しく判定され、約16個がP波と間違われる計算です。逆にP波の側は、1000個のうち約992個を正しく見つけ、約8個を見逃します。
ただし、これは1つの研究の結果で、データの種類や地域が変われば、正答率も変わるはずです。ノイズの多い地域では、精度が変わるかもしれません。AIは、設置場所や時間帯、観測点間の時間差といった手がかりに加わる、4つ目の道具です。
機械学習による識別器を緊急地震速報に応用した研究で、地震のP波の99.2%、ノイズの98.4%を識別できたと報告されている[9]。
数字の意味を計算で確かめる。ノイズ1000個のうち、約984個が正しくノイズと判定され、約16個がP波と誤判定される。P波1000個のうち、約992個が検出され、約8個が見逃される。早期警報では、見逃しも誤報も別の意味で問題になるため、片方の正答率だけでは評価できない。
ただし、この数字は特定のデータセットでの結果で、そのまま一般化はできない。特定の周波数帯に強いノイズがある地域で精度がどう落ちるか、非常に小さな地震と背景ノイズの境界をどう決めるか、という問いは残っている。AIは、前の3つの手がかりを置き換えるものではなく、重ねて使う4つ目の手がかりと位置づけるのが妥当だ。
最後に、ノイズの意外な使い道を見る。
7. じゃまな ゆれを、やくに たてる ことも ある
7. 地震学者のノイズが、別の研究では信号になる
7. 雑微動の利用 ── 都市の地下構造を推定する手法
じつは、じゃまな ノイズを、わざと つかう けんきゅうも あります。
USGSの ページには、まちに もともと ある 車や 人の ゆれを 合図として つかい、少ない 4だいほどの じしん計で、地下の ようすを しらべる ほうほうが のって います[1]。
じしんの けんきゅうでは ノイズでも、べつの しらべものでは たからものに なるのです。
ノイズは、いつもじゃまものとは限りません。USGSのページには、都市にもともとある人工的な雑音を地震の信号のように使う方法が紹介されています[1]。調べる範囲の周囲に少なくとも4台の地震計を置き、雑微動から地盤や岩盤のS波の速さ、地下の層のようすを推定する方法で、SPAC法と呼ばれます。
地震の観測から見ればノイズでも、地下の構造を調べる人にとっては、まちの活動そのものが調べるための信号になります。ノイズか信号かは、何を知りたいかで決まります。
ノイズは、目的によっては信号になる。USGSは、都市の既存の人工的な雑微動を地震信号のように利用する方法を紹介している[1]。調査範囲の周囲に少なくとも4台を置き、雑微動から地盤・岩盤のS波速度や層構造を推定する手法で、SPAC法と呼ばれる。
これは識別の話とも通じる。ノイズか信号かは、振動そのものの性質でなく、観測者の目的によって決まる。地震計は、同じ揺れの記録を、地震を知る人にも、地下を調べる人にも渡している。
この視点で、自分でも観察できることがある。
道を とおる 車の ゆれを、てで かんじて みよう
窓や床で、車が通る揺れを手で感じてみる
身近な振動の観察と、公式情報の読み方
今日できること
道に ちかい 部屋で、てのひらを 床か まどに あてて みましょう。車が とおる ときと、しずかな ときで、かんじる ゆれを くらべます。あさと よるでも くらべて みましょう。
道に とびだしたり、車に ちかづいたり しては いけません。おうちの 中だけで やります。
こうしきの 情報
きしょうちょうの ホームページに、しんどけいの おき ばしょや、きんきゅう じしん そくほうの しくみが のって います。
今日できること
道路に近い部屋で、手のひらを床や窓ガラスにあててみましょう。大型の車が通るときと静かなときで、伝わる揺れをくらべます。朝と夜で、車が通るときに感じる揺れにちがいがあるか、家の中から比べてみましょう。道路には出ず、家の中から確かめてください。
公式情報
気象庁の「正確な震度観測を行うために」には、震度計の設置場所の考え方が書かれています。防災科学技術研究所のHi-netのページでは、観測井戸の様子が紹介されています。
今日できること
道路に面した部屋の床や窓に手を当て、大型車の通過時と静かな時間帯の体感を比べる。時刻を記録すれば、スペクトログラムで示された日変化の考え方を、自分の観察で試せる。道路には出ず、屋内から行うこと。
公式情報
気象庁「正確な震度観測を行うために」で設置基準を、Hi-netの概要で観測井戸の仕様を確かめられる。AI識別の原論文(Caltech、機械学習による地震波判別)は英語で、条件を確認するときの一次資料になる。列車振動と地震波形を機械学習で識別する国内の研究もあるが、本記事では扱っていない。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
今回は、ノイズの定義・都市での利用・衝撃波との区別はUSGSの資料、設置場所と震度の扱いは防災科学技術研究所と気象庁の資料、AIによる識別はカリフォルニア工科大学の論文情報を突き合わせた。
- USGS「Seismology in the City」 https://www.usgs.gov/programs/earthquake-hazards/science/seismology-city (ノイズの定義・雑音の利用)
- 防災科学技術研究所「Hi-netとは」 https://www.hinet.bosai.go.jp/summary/?LANG=ja (観測井戸・データ伝送)
- 気象庁「正確な震度観測を行うために」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/shindo-kansoku/index.html (震度計の設置場所)
- USGS「About the Spectrograms」 https://earthquake.usgs.gov/monitoring/spectrograms/about.php (スペクトログラムとは)
- USGS「Examples」 https://earthquake.usgs.gov/monitoring/spectrograms/examples.php (ノイズの日変化の例)
- USGS「How does the USGS tell the difference between an earthquake and a sonic boom?」 https://www.usgs.gov/faqs/how-does-usgs-tell-difference-between-earthquake-and-a-sonic-boom (衝撃波との区別)
- 気象庁「緊急地震速報の仕組み」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/eew/shikumi/shikumi.html (P波・S波・解析の役割)
- 気象庁「震度・マグニチュード・地震情報について」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq27.html (震度計の高さ・工事ノイズの扱い)
- Caltech「Machine Learning Seismic Wave Discrimination: Application to Earthquake Early Warning」 https://authors.library.caltech.edu/records/yepnz-3gh27 (AIによる識別の正答率)
なおした ところ
更新履歴
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