1. じしんけい 1つで、なにが わかるの?
1. 地震計1台で分かるのは「距離」だけ
1. 1台の地震計の記録から得られるのは、方向のない距離である
じしんが おきると、2しゅるいの ゆれが つたわって きます。さきに くる ちいさな ゆれ(P波)と、あとから くる おおきな ゆれ(S波)です。
P波は S波より 1.7ばいくらい はやく すすみます。だから、とおくで おきた じしんほど、2つの ゆれの あいだが ながく あきます。この あいだの 時間を はかると、じしんの もとまで どれくらい はなれて いるかが わかります。
でも、これで わかるのは 「どれだけ はなれて いるか」だけです。どちらの ほうこうかは、1つの じしんけいでは わかりません。
地震が起きると、まず小さなゆれのP波が届き、少し遅れて大きなゆれのS波が届きます。P波はS波より約1.7倍速く伝わるため、震源が遠いほど、2つの波の到着時刻の差(初期微動継続時間)が長くなります[2]。
この時間差から、震源までのおよその距離が分かります。時間差が長いほど遠く、短いほど近い、ということです。ただし、時間差と距離の関係は、震源の深さや地下のつくりによっても変わるため、あくまで「およそ」の距離です。
地震が起きた最初の地点を震源、その真上の地表を震央といいます[1]。1台の地震計が教えてくれるのは、震源までの距離だけです。東西南北のどちらにあるのかは、その記録には入っていません。
では、方向が分からないまま、どうやって一か所に絞るのでしょうか。
P波はS波より約1.7倍速く伝わるので、震源が遠いほど両者の到着時刻の差、すなわち初期微動継続時間は長くなる[2]。この時間差から、震源までのおよその距離が出せる。時間差が長いほど震源は遠いが、両者の関係は震源の深さや地下の速度構造にも左右されるため、距離は目安として扱う必要がある。
震源は最初に「ずれ」が始まった点、震央はその真上の地表の点を指す[1]。ここで重要なのは、1台の地震計の時間差が与えるのは距離という1つの数値で、方向の情報を含まないことだ。観測点を中心に、その距離を半径とする球面のどこかに震源がある、というところまでしか決まらない。
では、観測点を増やすと、球面の条件はどう絞られていくのか。
2. えんを 3つ かさねると、どうなるの?
2. 3か所の円が1点で重なる
2. 3地点の距離から震源の候補を絞り、到着時刻を合わせて位置を探す
ちずの 上に、1つめの じしんけいを 中心にして、きょりを はんけいに した えんを かきます。じしんは、その えんの どこかで おきたはずです。
2つめの じしんけいの えんを かくと、えんは 2か所で まじわります。3つめを かくと、ぴったり はかれた ときは、3つの えんが 1か所で かさなります。そこが、じしんの おきた ばしょの こうほです。
じっさいの じしんは、はかった 時間に ずれが あるので、えんは ぴったり かさなりません。この 作図は、りそうの かたちです。そのうえ、ちきゅうの なかの できごとなので、えんでは なく 「たま」を つかいます。しかも、ゆれの はやさは ふかい ところほど はやく なります。だから この 作図は、かんたんに した かんがえ方です。
いまは コンピューターが、たくさんの じしんけいの 記ろくを つかって、いちばん よく あう 場所を さがして います。
地図に、地震計の位置を中心にして、距離を半径とする円を描いてみます。1つ目の円のどこかに震源があります。2つ目を描くと、円は2点で交わります。3つ目を描くと、距離が正確なら、3つの円が1点で重なります。3地点以上で距離が分かれば、震源の位置が絞られるというのが、基本の考え方です[3]。実際の観測には誤差があるので、円はぴったり重なりません。
ただし実際の地球の中では、円ではなく球面の交わりを考える必要があります。さらに地震波の速さは深さとともに増すため、この作図はごく近似的な位置しか与えません[3]。
気象庁の実際の計算は、作図ではなく探索です。P波とS波の到着時刻を使い、観測した時刻と、走時表から計算した時刻との差がもっとも小さくなる場所を、計算で探します。この方法は、1910年のGeigerの方法を改良したものです[4]。誤差があっても、観測時刻にもっともよく合う場所を選べるのが、この方法の強みです。
水平の位置は、こうして絞りこめます。では、もう1つの数値、深さはどうでしょうか。
地図上で、各観測点を中心にS-P時間から出した距離を半径とする円を描くと、2地点では交点が2つ残り、誤差がなければ3地点目で1点に絞られる。実際には誤差があるため、円は1点で交わらない。3つの観測点のS-P時間から、それぞれの震源距離を半径とする3つの球面の交点として震源が定まる、と説明されている[3]。ただし地震波の速度は深さとともに増大するので、この作図で得られるのはごく近似的な位置にすぎない。
気象庁が実際に行う震源計算は、この作図の延長ではない。P波とS波の到着時刻を使い、観測時刻と、走時表による計算値との差が最小になる点を探す。手法は、Geiger(ガイガー、1910)の方法を改良したものである[4]。誤差を含む観測に対し、交点を求めるのではなく、観測時刻に最もよく合う場所を選ぶ考え方だ。
水平位置はこうして求まる。しかし同じ計算の中で、深さだけは別の扱いを受ける場面がある。それは何か。
3. ふかさは、どうして むずかしいの?
3. 深さは、観測の網の外で決めにくくなる
3. 深さは決まりにくいことがあり、計算では深さを固定したり、候補を調べたりする
じしんの おきる ふかさは、ちじょうに ちかい ところから、500キロメートルより ふかい ところまで あります。きしょうちょうの はっぴょうでは、2023ねん6がつに、日本海の きたの ふかさ 518キロメートルで マグニチュード6.3の じしんが ありました[5]。
ふかさは、地表の じしんけいだけでは きめにくい ことが あります。だから、ふかさに よって とどく 時間が おおきく かわる ゆれを、てがかりに します。きしょうちょうの やり方では、ふかさが うまく きまらない ときは、いちばん あう ふかさを さがします。ふかさを 1キロメートルずつ かえて、記ろくと いちばん あう ところを えらぶのです。
ちしまれっとう ふきんの あさい じしんは、ふかさを 30キロメートルと きめて けいさんして います。きめた ばあいは、ふかさの うしろに 「F」と しるします。
地震の深さは、地表近くから500kmを超えるものまで幅があります。気象庁の発表によると、2023年6月に日本海北部の深さ518kmでM6.3の地震が起きています[5]。
これほど幅広い深さを、地表の地震計の時刻だけで決めるのは簡単ではありません。そこで、深さによって時間差が大きく変わる波が、手がかりとして使われます(次の章)。気象庁の手引きでは、深さが安定して求まらないときの手当てが決められています。震央を固定して深さを1kmずつ変え、観測との誤差がもっとも小さくなる深さを答えとするのです。千島列島付近の浅い地震は、深さを30kmに固定して計算し、固定したときは深さの後ろに「F」を付けて示します[4]。
深さは「どこかに必ず1つの数字が出る」ものではなく、条件しだいで決まりやすさが変わる数値です。
それなら、深さをもっと確かにする道具はないのでしょうか。
震源の深さには大きな幅がある。気象庁の報告では、2023年6月28日に日本海北部の深さ518kmでM6.3(最大震度3)の地震が発生し、太平洋プレートの内部で起きたとされる[5]。
この広い範囲を、地表の観測点の到着時刻だけで決めるのは容易でない。そこで、次章のpP-P時間のように、深さの影響を強く受ける情報が手がかりとして使われる。気象庁の震源計算には、深さが安定して求まらない場合の規則がある。震央を固定し、深さを1kmごとに変えて誤差が最小となる深さを解とする。千島列島付近の浅い地震は、深さを30kmに固定して計算し、固定した場合は深さの後にFを付す[4]。つまり、深さの数字には、観測から求めたものと、計算上そう置いたものが混ざり得る。
深さが決まりにくいなら、観測の側で何ができるのか。
4. ふかさを たしかに する くふうは なに?
4. 地中に埋めた地震計と、地表ではね返った波
4. 観測井戸の地震計とpP波で、深さの情報を増やす
1つめの くふうは、じしんけいを 土の 中に うめる ことです。ぼうさいかがくぎじゅつけんきゅうじょの 「Hi-net」では、日本れっとうを やく20キロメートルごとに おおう ように、やく800か所に じしんけいを おいて います(2008ねんの すえ)。
ふだんの 小さな ゆれが 少ない ところを えらび、100メートル いじょうの ふかい あなを ほって、その そこに じしんけいを おきます。一ばん ふかい ものは やく3,510メートルです。
2つめの くふうは、はね返った ゆれを つかう ことです。じしんの ゆれは、ちひょうで はね返って おくれて とどく ものが あります。ふかい じしんほど、そのおくれが 大きくなると いわれます。
はね返った ゆれと、さいしょの ゆれの 時間の ちがいを みると、ふかさの てがかりに なります。
1つ目の工夫は、地震計を地面の下に置くことです。防災科研のHi-netは、2008年末の時点で北海道から九州まで約800地点に地震計を置き、日本列島を約20km間隔でおおっています。雑微動(ふだんの小さな揺れ)の小さい場所に、深さ100m以上の観測井戸を掘り、その底に計器を設置します。最も深いものは約3,510mです[6]。
2つ目の工夫は、地表で反射した波を読むことです。震源の近くで地表に当たって跳ね返り、あとから届く波を、pP波と呼びます。USGS(アメリカ地質調査所)の解説では、遠くの観測点でP波とpP波の時間差を読む方法が、深さを決める最も正確な方法とされています。この時間差は、距離が変わってもあまり変わりませんが、深さが変わると大きく変わるからです[7]。
ただし、波の種類を読み違えると、深さが大きくずれることもあります[7]。
こうして、深さの精度は上げられます。では、それが間に合わない場面ではどうするのでしょうか。
観測の側の工夫の1つは、地震計の設置場所である。防災科研のHi-netは、北海道から九州まで約800地点(2008年末時点)に地震計を置き、日本列島を約20km間隔で覆う。雑微動が比較的小さい場所に深さ100m以上の観測井戸を掘削し、孔底に計器を据える。最深は約3,510mである[6]。観測点数は資料の時期によって異なり、約1,000とされる資料もある。
もう1つは、反射して遅れて届く波を読むことだ。震源近くの地表で反射し、遅れて到達するpP波とP波の時間差(pP-P)は、距離の影響が小さく、深さの影響を強く受ける。USGSの解説は、地震記象でこの深部震源相(depth phase)を読む方法が、震源の深さを決める最も正確な方法であると述べる[7]。深さによって、この時間差は大きく変わる。
この方法には条件がある。相の読み違いによって、深さが大きくずれることもある[7]。深さの情報が増えても、読み取る側の判断がそのまま結果に入る。
では、ここまでの精度をそなえた計算は、揺れが来る前の速報にも使えるのか。
5. はやく しらせるのと、ただしく きめるのは、どちらが だいじ?
5. 緊急地震速報は、速さと確かさをどう両立するか
5. 緊急地震速報では、速さと精度がどう入れかわるか
緊急地震速報は、じしんが おきた ちかくの すこしの じしんけいの 記ろくで、すぐに 場所と 大きさを みつもります。きしょうちょうの やく690か所と、ぼうさいかがくぎじゅつけんきゅうじょの やく1,000か所の じしんけいを つかいます。
けいさんと つたえるのに、数びょうは かかります。時間が たつほど 記ろくは ふえて くわしく なりますが、そのぶん、つよい ゆれには まにあわなく なります。
また、いなずまなどで まちがえないよう、2か所いじょうの じしんけいで ゆれが わかった ときに 出します。1か所だけで はんだんして、2か所めが こないときは、ノイズと みて とりけします。
ここまでの計算は、じっくり時間をかけてもよいときの話です。緊急地震速報では、震源付近の少ない観測点のデータから、できる限り早く震源とマグニチュードを推定します。気象庁の約690か所の地震計・震度計に加え、防災科研の約1,000か所の観測網を使います[8]。
解析や伝達には数秒程度かかります。時間がたつほどデータが増えて精度が上がる一方、強い揺れが先に届いてしまうという面があります[8]。
警報の発表には、地震波が2点以上の観測点で観測されたことが条件になっています。落雷などの誤報を避けるためです。1点だけで処理して2点目が来ないときは、ノイズと判断してキャンセル報が出ることがあります[9]。これは発表の条件の話で、2点で震源が決まるという意味ではありません。
速報の位置や深さは、あとで詳しく計算し直した結果と、少しちがうことがあります。それは、速さを優先して、少ないデータで見積もっているからです。
緊急地震速報は、震源付近の少数の観測点のデータから、できる限り早く震源とマグニチュードを推定する。気象庁の約690か所の地震計・震度計と、防災科研の約1,000か所の観測網を利用する[8]。解析と伝達に数秒程度を要するため、情報を待つほどデータは増えるが、強い揺れの到着には間に合いにくくなる、という関係にある。
警報の発表条件には、地震波が2点以上の観測点で観測されることが含まれる。落雷などによる誤報を避けるためである。1点だけで処理を始めて2点目が来なければ、ノイズと判断してキャンセル報が出ることがある[9]。これは発表条件の話であり、2点の記録で震源が決まるという意味ではない。
この速さと精度の入れかわりは、第3章の考え方と地続きである。少ないデータで早く見積もった位置や深さは、時間がたって観測点が増えたあとの再計算とは同じ精度でなく、どちらも目的に応じて使い分けられている。
では、この仕組みを読者が自分の手で確かめるには、どうすればよいか。
6. かみと ひもで、じしんの ばしょを さがして みよう
6. 紙とひもで「円が1点で重なる」ことを確かめる
6. 作図で位置が絞られる様子を確かめ、原典に当たる
きょう できる こと
大きな 紙に、点を 3つ うちます。じしんけいの つもりです。そして、うらで こっそり 4つめの 点を うち、じしんの ばしょに します。
じしんの ばしょから 3つの 点までの 長さを、ものさしで はかります。つぎに、えんぴつに ひもを むすび、ひもを おさえた 点を 中心に、はかった 長さで えんを かきます。3つの えんは、こっそり うった 点で かさなるでしょうか。2つだけで かいたら どうなるかも ためして みましょう。
しらべる とき
きしょうちょうの ホームページでは、まいにちの じしんの 場所と ふかさが のって います。おとなと いっしょに 見て、ふかさが ちがう じしんを さがして みましょう。
紙とひもで試す
大きな紙に、地震計の位置として点を3つ打ちます。別の場所に、震源の位置として点をひとつ決めます。ものさしで、その点から3つの点までの長さを測り(たとえば1cmを10kmに見立てます)、鉛筆にひもを結んで、3つの点を中心に円を描きます。測り方が正確なら、3つの円は決めた点で重なります。少しずれたら、測る長さや円の描き方を確かめてください。2つだけで描いたときと比べてください。
公式情報を見る
気象庁は、震源の位置と深さを地震ごとに公開しています。深さがちがう地震を並べて見ると、深さの数字の幅が実感できます。深さにFが付いた地震があるかも探してみてください。手引きは[4]にあります。
用語は地震本部の用語集[1]、地震計の置き方は防災科研[6]で読めます。気象庁の地震情報で、深さのちがう地震を見比べるのもおすすめです。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- 地震調査研究推進本部「用語集(震源)」 https://www.jishin.go.jp/main/yogo/c.htm (震源と震央の定義)
- 地震調査研究推進本部「地震波」 https://www.jishin.go.jp/resource/terms/tm_seismic_wave/ (P波とS波の速さと時間差)
- コトバンク「震源」 https://kotobank.jp/ (3地点の球面の交点という考え方。「震源」の項)
- 気象庁「地震カタログ利用の手引き」 https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/bulletin/catalog/notes_j.html (震源計算の方法、深さの固定、観測点標高)
- 気象庁 報道発表資料(2023年6月の日本海北部の地震ほか) https://www.jma.go.jp/jma/press/2307/10d/2306sonota.pdf (深い地震の例)
- 防災科学技術研究所「Hi-netとは」 https://www.hinet.bosai.go.jp/summary/?LANG=ja (観測井戸の地震計)
- USGS "Determining the Depth of an Earthquake" https://www.usgs.gov/programs/earthquake-hazards/determining-depth-earthquake (depth phase。英語)
- 気象庁「緊急地震速報のしくみ」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/eew/shikumi/shikumi.html (速さと精度)
- 気象庁「緊急地震速報(警報)及び(予報)について」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/eew/shikumi/shousai.html (2点以上の発表条件)
なおした ところ
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