1. 28日と 2しゅうかん、どちらが ほんとう?
1. 「28日」と「約2週間」は、どこがちがうのか
1. 28日・45日・約2週間:ちがいは「数え始める場所」にある
はだの いちばん 外がわには、表皮と いう うすい 層が あります。表皮の 下で あたらしい 細胞が 生まれ、上へ 上へと おしあげられて、さいごは あかに なって はがれます[1]。この 入れかわりは「28日ほど」と せつめいされる ことが 多いのです。
ところが、いちばん 外がわの 角層だけなら、2しゅうかん ほどで やくめを おえて はがれると いわれます[2]。
どちらも まちがいでは ありません。「どこの 時間を はかるか」が ちがうのです。たとえば、学校の 校門から 教室まで 歩く 時間と、教室に いる 時間は、ちがいますよね。それと にて います。「28日」は 表皮ぜんたいを 通る 時間、「2しゅうかん」は 角層に いる 時間の めやすです。
ある 研究を あわせると、表皮の 下の 生きた 細胞の 層を 通るのに 13日ほど、そのあと 角層で 13〜14日ほど かかります。たすと 26〜27日で、「28日」に ちかい 数に なります[3]。
ただし、これは たとえ話です。本当の 細胞は 道を 歩くのでは なく、下から おされて 上がって きます。
肌の一番外側には表皮があります。表皮の深いところで新しい細胞が生まれ、上へ押し上げられ、最後は垢として出ていきます。この入れかわりにかかる日数は、一般に「約28日」と説明されます[1]。
ところが、表皮の中でも一番外側の角層だけを見ると、細胞は約2週間(14日)で役目を終えてはがれ落ちる、と説明されます[2]。さらに、一番深い基底層で新しい細胞が作られる時点から数えると約45日、そこから進んで表皮の中で細胞が育ち始める時点から数えると約28日という説明もあります[2]。
整理すると、28日と45日のちがいは、主に「どこから数え始めるか」です。いっぽう約2週間は、数え始める場所のちがいではなく、角層の中にいる時間の目安です。測り方や部位で幅があります。どれかが間違いなのではなく、数えているものがちがう数字なのです。
この関係は、足し算で確かめられます。オートラジオグラフィー(放射性の目印をつける方法)を使った複数の研究をまとめた資料では、表皮の生きた細胞の層を通る時間が約13日、角層が約13〜14日で、合わせて約26〜27日です[3]。「約28日」に近い数字になります。28日は「一般にそう説明される値」として受けとめるのが安全です。
では、角層の中には、細胞がどれくらい重なっているのでしょうか。
表皮のターンオーバーは、表皮幹細胞から生まれた角化細胞が上層へ押し上げられ、最終的に垢として排出されるまでの過程で、一般に約28日と説明される[1]。一方、最外層の角層に限れば、細胞は約14日で役目を終えて脱落すると説明される。さらに、基底細胞が新しい細胞を作る時点を起点にすれば約45日になる[2]。
では、これらは矛盾するのか。そうではない。28日と45日の差は主に起点のちがいであり、約2週間は角層内の滞在時間の目安で、測定法や部位による幅を持つ。起点と終点を決めずに「入れかわり」と呼ぶから、数字が散らばって見えるのである。オートラジオグラフィーを用いたヒト表皮の研究を集計した資料では、生きた細胞の層(有棘層側)の通過に約13日、角層に約13〜14日で、表皮全体では約26〜27日になる[3]。「28日」と近いが、同じではない。そして角層だけの数字は、28日ではなく約2週間のほうである。
28日は、ここでは「一般にそう説明される」値として扱い、基底層での誕生から脱落までの全期間と同一視はしない。
角層だけで見れば、約2週間という幅の中身が気になる。まず、その層の姿から見ていく。
2. 角層は、どんな 細胞が かさなって いるの?
2. 薄い角層は、死んだ細胞が何層も重なってできている
2. 角層の構造:核のない細胞が重なった、薄い外壁
角層の 細胞は、角質細胞と よばれます。すでに 生きては おらず、ひらたい 形を して います。本の ページのように、何まいも かさなって、かわら屋根のように 外からの ものを ふせいで います。
かさなって いる 数は、しらべた 本に よって ちがいます。10〜20まいほどと 書かれて います。
ある 研究では、うでの 内がわを しらべて、かさなりの 数は うでの 先がわで 17まい ほど、上がわの 内がわで 14まい ほどでした[4]。場所に よって、数が ちがう のです。
ただし、かわら屋根は たとえです。本当の 角層の 細胞は、くっついて、水分を ためる しくみも もって います。
角層の細胞(角質細胞)は、核のない、平たい細胞です。すでに生きてはおらず、瓦屋根の瓦のように何層も重なって、外からの刺激を防ぎ、体の水分が逃げるのを抑えています。
重なる層の数は、資料によって書き方がちがい、10〜20層ほどと幅があります。場所や人で変わると見るのが自然です。
前腕と上腕の内側を調べた研究では、層の数は前腕で平均約17層、上腕内側で約14層でした[4]。層の数も、通過時間に関係します。
では、角層の入れかわりの日数は、実際にはどうやって測るのでしょうか。
角層は、核を失った角質細胞(コルネオサイト)が重なった層である。資料により層数の書き方には幅があり、おおむね10〜20層とされる。部位や個人でも異なると考えられる。
実測の一例では、層の数は前腕で平均17.0層、上腕内側で14.3層と報告されている。年齢による層数の差は見られず、部位による差があった[4]。つまり、角層の通過時間の部位差は、層の数のちがいと、1層あたりに要する時間のちがいの両方で説明される。
層の数と通過時間は、どのように測られたのか。次に、測定の方法を見る。
3. 日数は、どうやって はかるの?
3. 蛍光色素を使った、日数の測り方
3. ダンシルクロライド消失法:角層の通過時間はどう測られたか
むかしから つかわれて きた 方法が あります。ひかる 色素を はだの 角層に ぬり、紫外線の ライトで てらして、ひかりが なくなるまでの 日数を 数える のです[4]。
角層の 細胞が はがれると、色素も いっしょに なくなります。ひかりが 見えなく なった 日が、角層が 入れかわった 日です。
この 研究では、わかい おとなで 18〜20日ほどでした。うでの 先がわで 19.8日、うでの 内がわで 17.7日です[4]。
あれ、「2しゅうかん」より ながいですね。方法や 場所が ちがうと、日数も ずれるのです。ですから 「2しゅうかん」は 目安と 考えて ください。ほかの 研究では、13〜14日という 数字も あります[3]。
1まいの 細胞が 角層で すごす 時間は、わかい 人で 30時間ほど、つまり 1日と 少しです。17まい かさなって いれば、およそ 20日と 見つもれます(けいさんは がいさんで、はかった 19.8日と ぴったりでは ありません)。
角層の日数を測る昔ながらの方法に、蛍光色素ダンシルクロライドを使うものがあります。色素を角層に染め、紫外線ランプ(ウッド灯)で照らして、光が消えるまでの日数を数えるのです[4]。角層の細胞がはがれ落ちると、色素も一緒に失われるので、光が見えなくなった日が入れかわった日の目安になります。
この方法で、若い成人の角層通過時間は、前腕で19.8日、上腕内側で17.7日と報告されています。つまり約18〜20日です[4]。放射性の目印を使った研究の約13〜14日[3]より少し長く、「約2週間」は、方法や場所によって幅のある目安だと分かります。
1層あたりにかかる時間も、同じ研究で見積もられています。若い人で30時間ほど(約1日と6時間)です[4]。前腕が約17層なので、30時間なら17×30=510時間で約21日、28時間なら17×28=476時間で約19.8日です。かけ算はあくまで概算ですが、実測の19.8日に近い値になります。
この方法では、年齢でも差が出ます。次の章で見ましょう。
角層の通過時間(transit time)は、ダンシルクロライドの消失法で測られてきた。蛍光性のダンシルクロライドを角層に染色し、ウッド灯の下で蛍光が消えるまでの日数を計る方法で、角層の細胞が脱落するとともに標識も失われる性質を利用する[4]。
若い成人では、前腕で19.8日、上腕内側で17.7日、つまり約18〜20日であった[4]。オートラジオグラフィーを用いた研究の約13〜14日[3]とは、数日の開きがある。測る方法・部位・対象者が異なるため、「約2週間」は目安として幅を持たせて読むべき値である。
1層あたりの所要時間は、同研究で若年群が28〜30時間ほどと見積もられている。前腕の17層に30時間を掛けると510時間(約21日)、28時間なら476時間(約19.8日)で、実測の19.8日に近い。30時間での積(約21日)と実測値の差が示すとおり、1層の時間は概数なので積は概算にとどまるが、層の数と1層の時間の積が通過時間をおおむね説明する。
次に問題になるのは、年齢である。
4. 年を とると、入れかわりは はやく なる? おそく なる?
4. 年齢で、角層の入れかわりはどう変わるのか
4. 加齢で通過時間は延びるが、層の数は変わらない
おなじ 方法で、年を とった 人も しらべて います。こちらでは、わかい 人より 8〜9日 ながく かかりました[4]。うでの 先がわで 28日ほど、内がわで 25日ほどです。
角層の かさなる 数は、年を とっても かわりません。その かわり、1まいに かかる 時間が ながく なります[4]。
べつの 研究では、年を とると JAG1と いう たんぱく質が へり、上の 層へ うつる ながれが よわく なって、入れかわりが ゆっくりに なると 報告されています[1]。人工の 皮ふを つかった 実験も ふくむ 研究で、くわしい ことは これからです。
年を とると おそく なるのは、体が わるく なった のでは ありません。日数が ながいのは、ごく しぜんな ちがいです。
同じ方法で、高齢の人も調べられました。前腕で約28日、上腕内側で約25〜26日と、若い人より約8〜9日長くなっています[4]。
注目したいのは、層の数は年齢で変わらなかった点です。つまり、年齢による差は、層が増えたからではなく、1層あたりに時間がかかるようになったことで生まれていました[4]。
その理由の一つとして、2021年に日本メナード化粧品と藤田医科大学が発表した共同研究があります。加齢でJAG1というたんぱく質が減ると、上の層へ移る流れが弱まり、表皮の入れかわりが停滞した、という報告です。人工皮膚のモデルを使った実験を含みます[1]。企業との共同研究で、まだ「期待される」段階の話なので、断定はできません。
「年を重ねると入れかわりがゆっくりになる」こと自体は、角層の測定でも、表皮の研究でも、同じ方向を指しています。
では、細胞はどのように「はがれる」のでしょうか。
高齢群では、前腕で約28.1日、上腕内側で約25.5日と、若年群より約8〜9日長い。層の数は年齢で変わらず、差は1層あたりの所要時間の延長で説明される[4]。ここでは年齢を細かく区切らず、「若い成人」と「高齢の人」の比べにとどめる。
表皮全体のレベルでは、日本メナード化粧品と藤田医科大学の共同研究が、加齢によるJAG1の低下で、上層へ移る流れが弱まり、ターンオーバーが停滞したと報告している。人工皮膚モデルによる実験を含む[1]。ただし企業との共同研究で、「期待される」段階の知見を含むため、因果の断定は控えるべきである。
角層の測定(遅くなる)と、表皮の研究(停滞する)は、同じ方向を指す。ただし両者は別々の手法・別々の階層の話であり、同じメカニズムだと結論づけられるわけではない。
残る問いは、角層の細胞が実際にどのようにして「はがれる」のか、である。
5. 角層の 細胞は、どうやって はがれるの?
5. 細胞をつなぐ「留め具」を、酵素が切る
5. コルネオデスモソームの分解:脱落を担う酵素の働き
角層の 細胞は、おたがいに 「とめがね」のような ものでつながって います。この とめがねを、コルネオデスモソームと いいます[5]。
角層の 中ほどでは とめがねが のこって いて、細胞は しっかり くっついて います。ところが、外がわに 近づくと、酵素と いう はたらきものが とめがねを 切ります[5]。すると、細胞は すきまが できて、はがれ落ちるのです。
いつも 切れて いたら 角層は ぼろぼろです。でも 中ほどでは 切れず、外がわだけで 切れるので、ちょうど いい あつさが たもたれます。
この しくみが うまく はたらくから、角層は 毎日 すこしずつ はがれても、うすい まま たもたれて いるのだと 考えられて います。
角質細胞どうしは、コルネオデスモソームという留め具でつながっています。角層の中ほどでは留め具が残っていますが、外側へ進むと、カリクレインなどのタンパク質分解酵素が留め具を切ります。外側では、留め具のあった場所が隙間(ラクナ)に置きかわっていると報告されています[5]。
中ほどで切れず、外側だけで切れるのが重要です。全体が一度に切れたら角層は崩れますし、切れなければ細胞はいつまでも残り、角層は厚くなってしまいます。
こうして、はがれる仕組みが調節されていることで、毎日少しずつはがれ続けても、角層は薄いまま保たれます。
角質細胞の間は、コルネオデスモソームという接着構造で結ばれている。角層中層ではこの構造がほぼ保たれるが、最外層では電子密度の高い隙間(lacunae)に置きかわる。この過程は、細胞外のカリクレイン類(セリンプロテアーゼ)による分解で進むと報告されている[5]。
この分解が中層ではなく最外層で起きる点が要だと考えられる。中層でも起きれば角層は維持しにくく、外層で起きなければ細胞が残って厚くなるはずだからである。接着の維持と分解の場所の使い分けが、角層の厚さを保つ鍵になっていると読める。
ここまでを合わせると、約28日(表皮全体の一般的な説明)、約2週間(角層の滞在時間の目安)、1層あたり約1日余り(若年)、最外層の脱落、という入れ子の構造で入れかわりが説明できる。この分解の調節が年齢や乾燥でどう変わるかは、まだ研究が続いている分野である。
6. 数字を じぶんで たしかめて みよう
6. 数字の読み方と、確かめ方
6. 数字のずれを自分で再現し、原典に当たる
きょう できる こと
カレンダーに、今日から 14日後と、28日後に しるしを つけて みましょう。2つの しるしを ならべて、「角層の めやす」と「表皮ぜんたいの せつめい」の 2つの 数字を くらべて みましょう。
また、1まいの 細胞が 角層で 30時間として、たとえば 10まい かさなって いると 考えると 何日かかるか、計算して みましょう。(30×10=300時間。24で わると 12.5日です。)
しらべる とき
「肌の 入れかわり」と いう ことばを きいたら、「どこから どこまでの はなし?」と 考えて みましょう。
カレンダーに印をつける
今日から14日後と28日後に印をつけ、「角層の滞在時間の目安は14日、表皮ぜんたいの一般的な説明は28日」という2つの数字を目で見て比べます。そのうえで、たとえば10層と仮定して、1層30時間で計算します(10×30=300時間=12.5日)。10層は角層の代表値ではなく、計算の練習用の仮の数です。
広告やニュースの数字を読む
化粧品の宣伝などで「28日」「45日」「○日で生まれ変わる」と書かれていたら、「どこからどこまでを数えているのか」を探してみましょう。基底細胞から数える45日説と、表皮の中から数える28日説があり、数え方のちがいなのかもしれません。
もっと知りたいとき
入れかわりの測定は、[4]が原典です。英語の論文で、層の数や1層あたりの時間が表で示されています。はがれる仕組みは[5]で、写真つきで見られます。
数え方のずれを再現する
1層あたりの所要時間(30時間)に層数をかけ、通過時間を見積もってみる。たとえば10層と仮定すれば300時間(12.5日)、17層なら510時間(約21日)となる。実測の19.8日との差から、積は概算だと分かる。数えるものや条件を変えると数字が変わる、という本稿の主題を、手元の計算で追体験できる。
広告・報道の数字の読み方
「28日」「45日」などの数字に出会ったとき、どこを起点とし、どの層(表皮全体か角層か)を指すかを確認する習慣をつけると、数字のずれの多くは説明がつく。
原典を読むなら
測定の原典は[4]で、ダンシルクロライド消失法の手順、層数、年齢・部位別の通過時間が表にある。分解の仕組みは[5]。「約28日」という数字そのものの原典は、皮膚科学会などの資料に当たるのが次の一歩になる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。
- 日本メナード化粧品・藤田医科大学 プレスリリース(2021-07-20). https://www.atpress.ne.jp/news/267970 (表皮のターンオーバーの流れ/加齢とJAG1)
- 美的GRAND編集部(解説:次田哲也氏). https://www.biteki.com/skin-care/trouble/2098437 (28日・45日・角層約2週間の数え方)
- BioNumbers BNID109215(Weinstein & Van Scott 1965; Rothberg 1961 の集計). https://bionumbers.hms.harvard.edu/bionumber.aspx?id=109215 (表皮ぜんたい約26〜27日の内訳)
- Journal of the Society of Cosmetic Chemists 32(1) 角層通過時間(ダンシルクロライド消失法). https://library.scconline.org/v032n01/19 (蛍光色素による日数の測定/年齢・部位の差/層数)
- Corneodesmosome degradation に関する研究(PMC3447115). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3447115 (細胞をつなぐ留め具と酵素)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
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