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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

カタツムリは どうして ゆっくり すすむの?

カタツムリはなぜゆっくり進む? ねばねばを出し続ける歩き方

カタツムリは足の波と粘液で進む ── 粘液づくりの費用と、足場を選ばない歩き方

分野:生きもの

カタツムリが ある いて いるのを 見ると、とても ゆっくりです。1分で 6センチくらい しか すすみません。

ところが、あるく ために いちばん ちからを つかうのは、あしを うごかす ことでは ありません。ねばねばの えきを つくる ことだと いう けいさんが あります。どうして ねばねばを だしながら あるく のでしょう。あしの うごきと、あしの したの えきを 見ると わかります。

こたえを さきに いうと、ゆっくりな わけを とく かぎは 2つ あります。1つは、あしの うらの なみの ところ だけが まえへ うごき、ほかの ところは じめんに とまって いる こと。もう1つは、すすむ みちに ねばねばを しきつづけて いて、それを つくるのに、あるく しごとの 20ばい いじょうの ちからが いる という けいさんが ある ことです。そのかわり、つるつるの ところも ごつごつの いわも あるけます。ゆっくりなのは、どこでも あるける ことと ひきかえ だと かんがえられます。

カタツムリは、1分間に約6センチしか進みません。ところが、歩くために一番エネルギーを使うのは、足を動かす仕事ではなく、粘液をつくる仕事だというモデル計算があります[3]。

粘液を出しながら歩くのは、どんな進み方なのでしょうか。足の動かし方、足の下の粘液、逃げるときの速さ、ガムテープの上の歩き方から、ゆっくり進む歩き方の中身が分かります。

先に答えの見取り図を示します。遅さを決めているのは、主に2つです。1つは足の進み方で、足の裏では波の部分だけが前へ動き、波のない部分は地面に止まっています。波の回数が多いほど速くなります[2]。もう1つは費用の内訳で、進む道に粘液を敷き続ける歩き方のため、粘液づくりに歩く仕事の20倍以上がかかると計算されています[3]。そのかわり、濡れた面でも岩の上でも進めます。遅さは、足場を選ばない歩き方と引きかえになっていると考えられます。

カタツムリが歩くときのエネルギー収支では、粘液をつくる費用が最大の項目で、這うための機械的な仕事の20倍以上になる。これは粘液の性質を組みこんだ数理モデル論文が示した値であり、種や条件によって変わる[3]。

では、足は粘液の上でどう動いて体を進めるのか。粘液にそれだけの費用をかける進み方には、どんな利点があるのか。1分で約6センチという歩みの中身を、足の動き、粘液の性質、速さの変化、足場の幅から読みとれる。

先に答えの骨組みを示しておく。遅さを決めている要因は、少なくとも二つ読みとれる。一つは足の進み方で、腹足では進行波の部分だけが前へ動き、波の間は地面に静止している。這う速さは波の頻度とともに上がる[2]。もう一つは費用の内訳で、モデル計算では粘液の生産が機械的仕事の20倍以上にあたる[3]。この高くつく粘液が、濡れた面や凹凸、粘着面まで歩ける足を支えている。遅さは、この足場を選ばない歩き方と引きかえになっている、と考えられる。

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1. カタツムリは、1分で どれくらい すすむの?

1. カタツムリは、1分間にどれくらい進むのか

1. エゾマイマイの歩行速度 ── 1.05mm/秒を1分・1時間に直す

にほんに すむ エゾマイマイと いう カタツムリでは、ふつうに あるく はやさが 1びょうに 1ミリ ちょっとでした。1.05ミリです[4]。

1分に すると 6.3センチ です。1.05に 60を かけた けいさんです。1じかん あるいても 3.8メートルくらい。ろうかの はしから はしまで いかない かも しれません。

ゆっくり なのは わかりました。では、この あしは どうやって からだを おして いるのでしょう。

日本に住むエゾマイマイというカタツムリで測ると、ふだんの歩く速さは、平均して1秒に約1.05ミリでした[4]。京都大学の研究ニュースにある数字です。

1分に直すと約6.3センチ(1.05×60=63ミリ)、1時間歩き続けたとしても約3.8メートルです。もちろん、ずっと同じ速さで歩き続けるわけではないので、あくまで計算上の目安です。

こんなにゆっくりなのに、カタツムリは確かに前へ進みます。足はどうやって体を押しているのでしょうか。

京都大学の研究ニュースによると、日本在来のエゾマイマイの平均歩行速度は約1.05mm/秒である[4]。これを1分に換算すると約63mm(6.3cm)、1時間では約3.8mになる。ただしこの換算は、実験で測った平均値を一定のまま伸ばした計算値で、実際に1時間歩き続けた記録ではない。

種による差も大きいはずなので、この数字を「カタツムリ全般の速さ」と読むのは避けたい。ここでは、エゾマイマイが普通に歩くときの、一つの基準値として使う。

では、この速さはどんな動き方から生まれるのか。まず足そのものを見る。

3. あしの したの ねばねばは、なにを して いるの?

3. 足の下の薄い粘液が、力を地面に伝えている

3. 粘液の降伏応力 ── 押されると流れ、止まると保つ

カタツムリは、あしが だす うすい ねばねばの そうの うえで、なみを つたえて あるきます[2]。この ねばねばが、ちからを じめんに つたえる はたらきを します[2]。

ねばねばには、ある いじょうの ちからが かかると ながれだす せいしつが あります[2]。はみがきこを おもいだして ください。おさないと じっと して いて、おすと でて きますね。それに にて います。

ただし ほんとうの ねばねばは、はみがきこと おなじ ものでは ありません。にて いる ところが ある、という はなしです。

この ねばねばを つくるのは、ただでは ない ようです。どれくらい たいへんなのでしょう。

カタツムリは、足が出す薄い粘液の層に筋肉の波を伝えて、固い面を這います。この粘液が、進むための力を地面へ伝える役目をします[2]。

粘液には「降伏応力」という性質があります。一定以上の力が加わるまでは流れ出さず、それを超えると流れる性質です[2]。歯みがき粉をイメージすると近く、押さなければ形を保ち、押せば出てきます。ただし歯みがき粉と同じものではなく、似た性質があるという意味です。

止まっている部分は粘液が固まったように踏んばり、動く部分では流れる。足が平らなまま動くと仮定したモデルでは、この使い分けが足の下で力を伝える仕組みとして説明されています[2]。

粘液が足の下で力を伝えるには、つくるためのエネルギーも必要です。どれくらいでしょうか。

陸生の腹足類は、足が分泌する薄い粘液の層に筋肉の波を伝えることで固い面を這い、粘液が推進力を地面に伝える[2]。ここで重要なのが粘液の降伏応力(一定以上の応力がかかるまで流れ出さず、超えると流動する性質)で、足が平らなまま動くと仮定したモデルでは、推力を生む仕組みとして説明される[2]。

身近な例では歯みがき粉が似た性質をもつが、粘液そのものの組成や粘り方まで同じとは言えない。粘液は、静止した足の部分では固体のように力を受けとめ、波の部分では流れて足の動きを許す、という二つの働きを持つものとして説明される。

そうだとすれば、足は粘液を絶えず敷きながら進むことになる。この粘液を用意する費用は、全体のエネルギー収支でどれほどの割合を占めるのか。

4. ねばねばを つくるのは、けいさんでは どれくらい たいへんなの?

4. モデル計算では、歩く仕事より粘液づくりのほうが20倍以上かかる

4. 粘液の生産費用 ── モデル計算では機械的仕事の20倍以上、ナメクジは約12倍と引用される

けんきゅうしゃが つくった けいさんの もでるでは、ねばねばを つくる ことが、あるく ための しごとの 20ばい いじょうの ちからを つかうと されて います[3]。いちばん おおきな つかいみちです。

ただし この 20ばいは、けいさんの うえの あたいです。カタツムリの しゅるいや、まわりの ようすで かわります[3]。

この けいさんの ろんぶんは、ナメクジの むかしの けんきゅうも しょうかいして います。ねばねばを だして はいまわる ことは、ネズミが はしるより 12ばいほど たいへんだと いう ものです[3]。カタツムリでは なく、ナメクジの はなしです。

ここから、ゆっくりな わけが 見えて きます。あしは なみの ところしか うごかさず、すすむ みちには ねばねばを しきつづけます。ちからの いちばん おおきな つかいみちは、あしを うごかす ことでは なく、ねばねばを つくる ことです。だから カタツムリの あるきかたは、はやく すすむ ことより、ねばねばで しっかり ちからを つたえて すすむ ことに むいた しくみ だと かんがえられます。では、ぜんぜん いそげないのでしょうか。

粘液の性質をくわしく調べた数理モデルの論文によれば、粘液をつくることは、腹足類のエネルギー収支で最大の項目です。這うために使う機械的な仕事の、20倍以上にもなると書かれています[3]。

この20倍は、モデル論文が引いた値で、種や条件によって変わります。そこでこの論文は、粘液が「力を受けると流れやすくなる」性質を持つ点に注目しました。この性質があると、這うのに必要な粘液の量が減り、歩く費用が下がると計算されています[3]。

この論文は、別の研究も引いています。ナメクジ(カタツムリではなくナメクジの仲間)の研究として紹介されている値で、粘液を使って這う費用は、ネズミが走る費用の約12倍、その費用の大半は粘液の生産にあるとされます[3]。

ここまでの話から「なぜゆっくりか」に答えると、こうなります。足の裏では波の部分だけが前へ動き、速さは波の回数で上がり下がりします[2]。そして、エネルギーの一番大きな使い道は、足を動かす仕事ではなく、道に敷く粘液づくりです[3]。カタツムリの歩き方は、速く進むことよりも、粘液で力を伝えて確実に進むことに向いたしくみだと考えられます。では、いつも同じ速さなのでしょうか。

モデル論文は、粘液の生成が腹足類のエネルギー収支で最大の成分で、這うための機械的仕事の20倍以上にあたると述べる[3]。20倍はモデルが引く値であり、種や条件で変わるため、一般の定数として読むべきではない。

この論文は、粘液のずり薄化性(力を受けると粘り気が下がる性質)に着目した。ずり薄化性があると、這うのに必要な粘液の量が減り、移動のエネルギー費用が下がる、という結果がモデル計算で得られている[3]。つまり粘液は、高くつく材料であると同時に、使い方しだいで費用を抑えられる材料でもある。

同論文は、Denny(1980、Science)の研究も引く。Lauga と Hosoi の論文が、この研究を引いて、ナメクジ(Ariolimax属)の粘着はいの費用を、ネズミが走る費用の約12倍としている。費用の大半は粘液の生産にあるという[3]。対象はナメクジなので、カタツムリの数字として読んではならない。ナメクジの研究をたどるときは、参考にした情報源[3]にある引用から探せる。

ここまでで、題名の問いに一つの答えが出せる。腹足では進行波の部分だけが前進し、速さは波の頻度に応じて変わる[2]。そして移動の費用で最大の項目は、足を動かす機械的仕事ではなく、通り道に敷く粘液の生産である[3]。カタツムリの這い方は、速さを稼ぐよりも、粘液を介して確実に力を伝えることに費用を払う方式だと考えられる。この方式が足場を選ばない歩き方につながることは、6節で見る。

費用の高い進み方なら、速度を自由に変えにくそうにも思える。実際にはどうなのか。測定結果を見る。

5. カタツムリは、いそぐ ことも できるの?

5. 天敵の刺激を受けると、歩く速さが上がる

5. 刺激後の歩行速度 ── 1.05mm/秒から1.27〜1.35mm/秒へ

できます。エゾマイマイでは、てきに ちかい しげきを うけると、あるく はやさが あがりました[4]。

ふだんは 1びょうに 1.05ミリ。それが 1.27から 1.35ミリに なりました[4]。1.2ばい から 1.3ばい くらいです。

1分に すると 7.6センチから 8.1センチ。ふだんより 1センチ ちょっと ふえる だけ です。それでも いつもより 少し はやく にげて います。

のろまに 見えて、ちゃんと はやさを かえて いる のです。では、あしの うらは どんな ところなら あるけるのでしょう。

京都大学の研究ニュースによると、エゾマイマイは天敵の刺激を受けると、歩行速度を1.2〜1.3倍ほど上げることが分かっています。平均して1.05ミリ/秒ほどから、1.27〜1.35ミリ/秒ほどに速くなったと報告されています[4]。

1分に直すと約7.6〜8.1センチ(1.27×60=76.2、1.35×60=81ミリ)です。ふだんの約6.3センチと比べて、1.3〜1.8センチほど多く進む計算です。

数字は小さく見えます。それでも、足の動かし方を変えて速さを調整している、ということは分かります。

では、そんな足は、どんな足場なら歩けるのでしょうか。

京都大学の研究ニュースは、エゾマイマイが天敵に由来する刺激を受けると、歩行速度を約1.2〜1.3倍に上げることを報告している。平均1.05mm/秒ほどだった速度が、1.27〜1.35mm/秒ほどになった[4]。

1分あたりでは、通常の63mmが76.2〜81mmになる計算で、差は約13〜18mmである。比率(1.27÷1.05≒1.21、1.35÷1.05≒1.29)を確かめると、「約1.2〜1.3倍」という記述と一致する。

2節で述べたように、波の頻度が高いほど這う速さが上がる[2]。速さが変わる理由はこの性質と関係しそうだが、速度上昇が波の頻度の変化によるかどうかは、ここで紹介した資料からは分からない。

速さが変わる足は、足場が変わっても歩けるのか。次は足場の幅を見る。

6. ガムテープの うえでも あるけるの?

6. ガムテープの上でも、ぬれた岩の上でも歩ける足

6. 足場を選ばない足 ── 濡れた面、凹凸、粘着面

カタツムリの あしは、じめんに ついて いる ところが ひろく、ぬれて つるつるな ところや、ごつごつした いわの うえも あるけます[1]。

ガムテープの ような、ベトベトの ところも へいきで あるくと しょうかい されて います[1]。

あしの したに うすい ねばねばが あって、からだの かたちに あわせて あしも かわるから かも しれません。そうだとすると、ねばねばを つくる ことは、たいへんでも わけが あります。

ゆっくり すすむ すがたの なかには、こんな ひみつが つまって います。

カタツムリの腹足は接地面が広く、ぬれて滑りやすい場所でも、ごつごつした岩の上でも歩けます。ガムテープのような粘着剤を塗った場所さえ、平気で歩くそうです[1]。

足は骨のない筋肉で形を変えられ、足の下には薄い粘液の層があります[1][2]。この2つが組み合わさって、足場を選ばない歩き方になっていると考えられます。

波で少しずつ体を送り、粘液で力を伝える。この歩き方なら、粘液づくりの費用は大きくても、遅いかわりに、でこぼこの岩や濡れた面でも進めます。

腹足は接地面が広く、濡れて滑る面やごつごつした岩の上でも歩ける。ガムテープのように粘着剤が塗られた面も歩く、と動物の解説は紹介する[1]。

足は骨のない筋肉で形を変えられ[1]、粘液の層を介して力を地面へ伝える[2]。この2つから、足場の形や質に足が合わせ、粘液が間をうめると考えられる。

以上から、1分で約6センチという遅さは、足場を選ばない進み方と、粘液づくりに大きな費用をかける進み方がセットになった姿として読める。遅さの理由をこの1点だけで説明するのは言いすぎなので、「そういう歩き方だ」という理解にとどめる。

もっと しりたく なったら

見つけたカタツムリで、1分間に進む長さを測ってみる

自分で測り、原典で確かめる

ものさしで はかる

カタツムリを 見つけたら、さわらずに、うしろの はしに ものさしの「0」を あわせて、そっと おきます。1分 たったら、うしろの はしが どこまで すすんだか 見て、すすんだ ながさを はかって みましょう。エゾマイマイの 6.3センチと くらべると おもしろいです。しゅるいが ちがうので、おなじに ならなくて だいじょうぶ です。

きを つけること

カタツムリは てで つかまず、そっと 見ます。さわった ときは、あとで てを あらいます。

測ってみる

カタツムリを見つけたら、手でつかまずに、そばに定規を置いて、時計で1分測ります。進んだ長さを記録し、エゾマイマイの約6.3センチ(平均)と比べてみましょう。種類も場所もちがうので、同じ値にならなくてもかまいません。

止まったまま動かなくなったら、その場で終わりにします。つかまえたり、動かしたりしません。観察のあとは手を洗ってください。

測ってみる

カタツムリを見つけたら、手でつかまずに定規を添え、時計で1分間の移動距離を測る。複数回の測定を平均し、エゾマイマイの約63mm/分と比べる。種や環境が違うため、一致を目的にしない。止まってしまえば測定をやめ、観察後は手を洗う。

原典を読む

速度と刺激の実験は京都大学の研究ニュースにまとまっている。足の波と粘液の力学は、Journal of Experimental Biology の2010年の論文、粘液の費用は Lauga と Hosoi の論文(arXiv)にある。どちらも英語で、要旨から読める。モデル論文の「20倍」が、どの条件の値かを確かめてみるとよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

足の構造とガムテープの話は動物解説、足の波と粘液の力学は実験論文、粘液づくりの費用はモデル論文、歩く速さは大学の研究ニュースによる。ナメクジの約12倍は、モデル論文が引く先行研究の値で、原典は直接読んでいない。

  1. Honda 森の図書館「カタツムリ」 https://global.honda/jp/philanthropy/hondawoods/forest/library/013/ (腹足の構造、歩ける足場)
  2. The mechanics of the adhesive locomotion of terrestrial gastropods, Journal of Experimental Biology (2010) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6514465 (進行波、粘液の降伏応力)
  3. Lauga, E. and Hosoi, A. E., Tuning gastropod locomotion (arXiv) https://arxiv.org/abs/cond-mat/0608363 (粘液づくりの費用、ナメクジの先行研究の引用)
  4. 京都大学 研究ニュース(2023年11月21日) https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-11-21-1 (エゾマイマイの歩行速度)

なおした ところ

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