1. ふると 音が する。なかの ざいりょうは どこへ いった?
1. 型に入れた材料を、わざわざ流し出す
1. 中空の理由 ── 壁ができたところで、内側の未固化のゾルを出す
ソフビの にんぎょうは、かたに えきたいの ざいりょうを 入れる ところから はじまります[1]。この ざいりょうは、ゾルと よばれる、どろっと した ものです。
かたを あたためると、かたの かべに ふれた ところから、うすい かわが できて いきます。そこで かたを ひっくりかえして、まだ かたまって いない ざいりょうを 出します[1][2]。
のこった うすい かわが、にんぎょうの からだです。だから なかは からっぽ。では、かわの あつさは なにで きまるのでしょう。
ソフビは、塩化ビニル(塩ビ)という材料でできた、中が空っぽの人形です。材料は「ゾル」と呼ばれる、塩ビの細かい粒が液体に混ざったもので、これを金型に入れて熱すると、固まりかけた状態の「ゲル」になります[1]。
この加熱の途中で型をひっくり返すと、型の壁に近いところは薄い皮になっていますが、真ん中はまだ液体のままです。ここで固まっていないゾルを流し出すので、人形は空っぽになります[1][2]。中身をくり抜いたのではなく、中身が固まる前に出してしまう作り方です。
中が空っぽだと、材料が少なくて済み、人形は軽くなります。壁を薄く焼けば、さらに軽くなります[4]。子どもが手に持って遊ぶおもちゃに、この軽さは向いています。
では、この皮の厚さは、どうやって決めているのでしょうか。
ソフビを手に取ると、頭や足の裏に小さな穴があり、中は空洞だ。この空洞は、完成後にくり抜いたものではない。型にゾル(塩ビの細かい粒が液体に混ざったもの)を入れて熱すると、熱い金型に触れている側から固まりかけの「ゲル」になり、内側には未反応のゾルが残る。そこで型をひっくり返して未固化の分を取り除くため、壁だけが残る[1][2]。
この方法はスラッシュ成型と呼ばれる[1]。型の外側から熱が伝わるので、固まる順番は外側が先、内側が後になる。だから、途中で止めて内側を出せば、外側の薄い層だけが残る。一方、型を満たしたまま最後まで加熱すれば、中身の詰まった塊になる。中空は、この「途中で止める」ことで初めて作れる形である。
ここで次の問いが出る。止めるタイミングが少し違えば、壁はどう変わるのか。
2. かべの あつさは、なにで きまる?
2. 加熱時間で、壁の厚さが変わる
2. 加熱時間と壁厚 ── 190℃・2分は「一工房の例」にすぎない
こうじょうでは、かたに ざいりょうを 入れたあと、あつい あぶらの おふろに かたを つけて あたためます[3]。さいしょに あたためる じかんの ながさで、かわの あつさが かわります。ながいと あつく、みじかいと うすくて かるく なります[4]。
ある こうぼうの れいでは、あぶらの おふろは およそ 190ど、つける じかんは 2ふんほどです[2]。みずが ふっとうする 100どより、ずっと あつい おんどです。
ただし 190どと 2ふんは、1つの こうぼうの れいです。どこの こうじょうも おなじ とは かぎりません。
工場の説明では、型にゾルを入れたあと、減圧や遠心機の力で気泡を抜き、金型を加熱して壁を作ります。その後、型をひっくり返して余分なゾルを戻し、もう一度加熱して仕上げ(本焼き)、最後は水で冷やして型から取り出します[3]。
壁の厚さに大きく関わるのは、最初の加熱(仮焼き)の時間です。長く熱すると厚くなり、短いと薄く軽く仕上がります[4]。熱が外から内へ進む時間で、固まった層の厚みが変わるからでしょう。
つまり同じ型を使っても、加熱の時間を変えるだけで、厚めの人形にも、薄くて軽い人形にもできます。時間の長さが、壁の厚さを動かすつまみになります。
ある工房の例では、約190℃のオイルバスに2分ほど浸けるそうです[2]。水が沸騰する100℃よりおよそ90℃高い温度です。ただしこれは一工房の例で、温度も時間も、人形の大きさや材料で変わると考えられます。数字は目安として読むのがよいでしょう。
工程の説明を複数の工房で見比べると、流れはほぼ共通している。型にゾルを流し込み、減圧や遠心機で気泡を抜く。金型を加熱して壁を作り(仮焼き)、型をひっくり返して余分なゾルを戻す。再び加熱して本焼きし、水で冷やして型から取り出す[3][2]。気泡を抜くのは、壁の中に空気が残ると、薄い壁に穴や弱い部分ができやすいためと考えられる。
壁の厚さに大きく関わるのは、最初の加熱(仮焼き)の時間である。長いと厚く、短いと薄く軽く仕上がる[4]。熱は型の外側から内側へ進むので、時間が長いほど固まった層が内側へ育つ。つまり同じ型でも、時間だけで壁の厚さを変えられる。
注意したいのは数字の扱いだ。約190℃のオイルバスに約2分という値は中空工房の本焼きの例で、仮焼きの時間を示すものではなく、全社共通の値でもない[2]。加えて、金型の素材や1つの型で作れる個数は、資料によって書き方が分かれるため、ここでは数字を挙げない。
では、その壁の外側の形、つまり怪獣のうろこや顔のしわは、どこから来るのか。型の中に、何かが刻まれているはずである。
3. うろこや かおの しわは、どうやって かたに うつすの?
3. 蝋の原型から、型の内側に形を写す
3. 原型から金型へ、形を写す
うろこや しわの もとに なる かたちを、げんけいと いいます。げんけいを 作る 人は、げんけいしと よばれます[1]。
ソフビの げんけいは、ろうで 作る ことが 多いと いわれます。ろうは、あとで とかして とりのぞけるからです[1]。げんけいしは、しりょうや みほんを 見ながら、じかに かたちを つくる ことが 多いそうです[1]。
その げんけいから かたを 作ります。かたの 中には、うろこや しわが うつって います。
ソフビの型の中の形は、まず原型から生まれます。怪獣のうろこや顔のしわが型の内側に彫られているのは、原型の形を写しているからです。原型を作る職人は原型師と呼ばれ、資料や見本を見ながら、直接形を作る場合が多いとされます[1]。
原型は、あとで溶かして取り除ける蝋(ワックス)で作ることが多いといわれます[1]。製造の流れは、原型、蝋型、金型、試しの成型、本番の成型、そしてバリ取りと塗装の順です[3]。
型を使って作る大量生産の方法のほかに、ガレージキットなどでは「焼き出し」という、型を壊して中身を取り出す方法もあります[1]。うろこやしわは、型の内側に彫られた形が、ゾルが固まるときに壁の外側に写ったものです。
型の内側の形は、原型から写し取られる。ソフビの原型は、型から溶かして取り除ける蝋で作ることが多く、原型師が資料や見本を見ながら直接造形する場合が多いとされる[1]。製造は、原型、蝋型、金型、テスト成型、本番成型、バリ取り・塗装の順に進む[3]。
なお、ガレージキットなどの小規模な製作では、型を壊して中身を取り出す「焼き出し」と呼ばれる方法もある[1]。量産では型を繰り返し使うので、取り出しやすさが条件になり、一方の焼き出しは1個ずつ作る前提になる。この違いは資料に明記された比較ではなく、方法の説明から読み取った整理である。
ここまでで形は決まる。ただ、型から出てきたばかりの人形は、まだ完成品の顔をしていない。何が足りないのか。
4. かたから 出した あとにも、しごとが のこって いる
4. 型から出したあと、余りを切り、色をのせる
4. バリ取りと塗装 ── 合わせ目の余りと、影をつける吹き付け
かたから 出した にんぎょうには、かたの あわせめに、うすい はみだしが ついて います。これを バリと いいます[3]。バリを 切って、きれいに します。
そのあと、ぬりものを する しょくにんが、エアブラシで とくせいの えのぐを ふきつけます。ぜんたいに くらい 色を ふいて、すぐに ふきとると、くぼみに かげが のこって、ふかい かげに なります[5]。
じっさいの かいじゅうの ような ようすが、これで でて きます。
型から出した人形の合わせ目には、薄い余りがはみ出しています。これをバリといい、切って整えます。そのあと塗装し、部品があれば組み立てます[3]。
塗装を担当するのは、原型とは別の専門の職人です。エアブラシで特製の塗料を吹き、まず全体に暗い色を吹いて、すぐに拭き取ります。くぼみには暗い色が残り、深い影になります[5]。型で写した細かい彫りは、この影づけで目に見えやすくなります。
型から取り出しただけでは完成ではなく、人の手が最後に表情を決めます。
型から取り出した人形の合わせ目には、薄い余りがはみ出している。これがバリで、まず切り落とす[3]。続いて塩ビ用の塗料で塗装し、必要なら組み立てる[3]。
塗装は、原型師とは別の専門の職人が担う。ある紹介記事は、エアブラシで特製の塗料を吹き、全体に暗い色を吹いてすぐ拭き取ると、くぼみに色が残って深い影になる、と説明している[5]。型で写した細かい彫りは、色の濃淡があって初めて目に見えやすくなる。成型で形を、塗装で表情を決める、という分担になっている。
ただし、この影づけの手法は一例として紹介されたもので、すべての工房に共通とは書かれていない。
では、これほど手間のかかる中空の人形が、なぜ日本のおもちゃの主役になったのか。その前に何が使われていたのか。
5. ふるい おもちゃの そざいから、どう かわったの?
5. 燃えやすいセルロイドから、ソフビへ ── 1954年と怪獣ブーム
5. セルロイドからの交代 ── 1954年の人形と、1966年の怪獣ソフビ
ソフビの まえに、おもちゃには セルロイドが よく つかわれて いました。でも もえやすい しんぱいが あって、1950ねんだいに、おもちゃに つかう ことが きびしく された、と じてんの ウィキペディアには あります。その かわりに ソフビが つかわれ はじめた そうです[1]。
にほんで さいしょの ほんかくてきな ソフビの にんぎょうは、1954ねんの ますだやの「ミルクのみにんぎょう」と いわれて います[5]。
1966ねんには、マルサンしょうてんが ウルトラQの かいじゅうを ソフビにして うりだし、大ヒットしました[5]。作る ほうは、かわいい どうぶつの ソフビを 作って いた しまだがんぐにも、一部を まかせたそうです[5]。
ちかごろは、べつの そざいを つかう ものも あります[1]。
ソフビより前に、おもちゃの素材として使われていたのがセルロイドです。Wikipediaの記述では、燃えやすいため玩具への使用が規制され、その代わりとして1950年代にソフビが使われ始めたとされます[1]。規制の法令名や年までは、書かれていません。
日本で最初の本格的なソフトビニール製人形は、1954年のマスダヤ(増田屋斎藤貿易)の「ミルク飲み人形」とされています[5]。
ソフビが広く知られる転機が、1966年です。マルサン商店が「ウルトラQ」の怪獣のソフビを発売し、第一次怪獣ブームで大ヒットしました。製造の一部は、それまでかわいい動物のソフビを作っていた島田玩具に任されたと伝えられます[5]。動物から怪獣へと、同じ中空の作り方で形を変えていったことになります。
素材も固定されたものではありません。可塑剤(材料を柔らかくする薬品)のフタル酸エステルが問題視され、熱可塑性エラストマーなどが使われるようになった例もあります。全製品がそうなったわけではありません[1]。
Wikipediaの記述では、ソフビは、セルロイドに替わる素材として1950年代に使われ始めたとされる。セルロイドは発火の危険から玩具への使用が規制されていた[1]。規制の時期は「1950年代」という大まかな書き方で、細かな年までは示されない。
日本初の本格的なソフトビニール製人形は、1954年のマスダヤ(増田屋斎藤貿易)の「ミルク飲み人形」とされる。この記述は複数の紹介記事で一致するが、当時の資料そのものを読んだわけではないので、「とされる」にとどめる[5]。
転機は1966年である。マルサン商店が「ウルトラQ」の怪獣ソフビを出し、第一次怪獣ブームで大ヒットした。製造の一部は、かわいい動物のソフビを作っていた島田玩具に委託されたという[5]。動物向けの中空の技術を、そのまま怪獣の形に使ったわけだ。同じ製法で、題材だけが替わったことになる。
素材は今も動いている。ソフビの可塑剤であるフタル酸エステルが問題視され、熱可塑性エラストマーが使われるようになった例がある。Wikipediaの記述に基づく例で、全製品がそうなったとは言えない[1]。ここまでの流れから、ソフビは「ある素材の特徴(熱で固まる、薄い壁を作れる)を、時代の事情に合わせて使い続けてきたもの」とも読める。
6. おうちの ソフビで、からっぽの あかしを さがして みよう
6. 手元のソフビで、穴・合わせ目・軽さを見る
6. 手元のソフビを観察する ── 穴と合わせ目、そして資料の読みどころ
ソフビの にんぎょうが あれば、手に とって みましょう。ないときは、おもちゃやさんで 見るだけでも だいじょうぶです。
まず、あたまや あしの うらに、ちいさな あなが ないか さがします。つぎに、からだを ぐるりと 見て、たてに 走る うすい せんが ないか 見ます。かたの あわせめの あとです。
さいごに、かるく ふって みます。からから 音が するかは、にんぎょうに よって ちがいます。つよく おしたり、やぶいたり、はなして 中を 見たり しては いけません。
ソフビ人形が手元にあれば、次の3つを見てみましょう。①頭や足の裏に、中とつながる小さな穴はあるか。②体をぐるりと見て、縦に走る薄い線(型の合わせ目の跡)はあるか。③手に持った重さは、大きさのわりに軽いか。
家に人形がなければ、おもちゃ売り場で見るだけでも構いません。強く押したり、分解したり、中をのぞこうとして壊したりはしないでください。
もっと知りたいときは、製造工程を紹介している工房のページ[2]や[3]が、日本語で読めます。工程の流れを、この記事の順番と見比べてみると、気づくことがあるかもしれません。
観察のしかたは3つある。頭や足の裏に中とつながる穴があるか。合わせ目の線が体のどこを走っているか。手に持ったときの重さが、大きさのわりに軽いか。穴は、成型中に型を傾けて未固化のゾルを流し出す口の跡と考えられるが、資料に明記された説明ではなく、第1章からの推測である。強く押したり、分解したりはしない。
資料を読むなら、まず次の3点に注目するとよい。①中空工房やHashyの工程説明[2][3]は、190℃や2分といった数字を示すが、一工房の例であること。②怪奇里紗の説明[4]は、時間と壁厚の関係を述べること。③1954年と1966年の話は、DeepTokyoの記事[5](英語)が中心で、原典の確認が課題として残っていること。
今回の資料では示されていない問いも残る。たとえば、規制の具体的な法令名や、子ども向けの玩具の素材基準の細かい変遷は、厚生労働省などの公的資料にあたる価値がある。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:事典の記述、製造工房の説明、玩具の紹介記事を使った。何に使ったかは、それぞれの項目に書いている。
- Wikipedia「ソフトビニール」。https://ja.wikipedia.org/wiki/ソフトビニール (作り方の概要、原型、セルロイドからの移り変わり、素材の例について。事典の記述)
- 中空工房「ソフビ製造工程」。https://kenelephant.co.jp/chukukobo/how-to-make-sofvi/ (型をひっくり返して未固化のゾルを出す手順、約190℃・約2分の例について。工房の説明)
- Hashy「ソフビの製造工程」。https://www.figure-oem.com/blog/2514 (脱泡から塗装までの工程の流れについて。製造会社の説明)
- 怪奇里紗「ソフビ成型の工程」。https://kaikilisa.com/ソフビ/seikei (焼く時間と壁の厚さの関係について。作り手の解説)
- DeepTokyo「Sofubi」の紹介記事。https://deeptokyo.jp/en/anime_manga/3622/ (1954年の人形、1966年の怪獣ソフビ、塗装の手法について。英語の紹介記事)
なおした ところ
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