1. 木の そとがわと なかがわの 葉は、おなじ?
1. 木の外側の葉と内側の葉を、指でつまみくらべると
1. 陽葉と陰葉は、樹冠のどこでどう分けられるのか
大きな 木の そとがわには、お日さまが よく あたる 葉が あります。なかの ほうには、あまり あたらない 葉が あります。
日なたの 葉を ようよう、日かげの 葉を いんようと よびます。おなじ 木に ついていても、この 2しゅるいは あつさなどが ちがう ことが しられています。
では、「こい 緑は どっち?」と きかれたら、どう こたえれば いいのでしょう。
大きな木を見上げると、枝先の外側の葉には日がよく当たり、幹に近い内側の葉にはあまり当たりません。同じ1本の木なのに、葉が受ける光の量はずいぶんちがいます。
日本生態学会の教材では、陽葉は木の縁につく葉で、特に日のよく当たる南や東向きのものを選ぶとされています。陰葉は木の内部の葉で、日が当たりにくい北向きや中層のものを選びます[1]。この2種類は、厚さや葉の中のつくり、光合成のしかたがちがうと説明されています。
では、色はどうでしょうか。日かげの葉は、日なたの葉より濃い緑に見えるのでしょうか。
同じ個体の葉でも、受ける光の量によって性質が変わる。日本生態学会の教材は、陽葉を樹木の縁につく葉(特に日のよく当たる南・東向き)、陰葉を樹木の内部につく葉(特に日が当たりにくい北向きや個体の中層)と定め、両者の厚さ・解剖的特徴・光合成特性が異なるとしている[1]。
ここで押さえておきたいのは、陽葉と陰葉が別の種類の葉ではなく、同じ木の中の「光環境のちがい」で分けた呼び名だという点である。では、葉の見た目の色はどう変わるのか。クロロフィルの測定値を手がかりに考える。
2. 日なたの 葉は、どうして あつい?
2. 日なたの葉が厚いのは、葉の中の細胞が重なっているから
2. 陽葉が厚いのは、柵状組織の層が増えるためか:シロザの発生過程
日なたの 葉は、日かげの 葉より あついことが おおいです。うすい 葉を 2まい かさねた ときの あつさに、にて いる ことが あります。ただし、ほんとうの 葉は、葉っぱを かさねて できて いるわけでは ありません。
葉の なかには、細胞が ならんで います。シロザという 草を、あかるい ところと くらい ところで そだてた けんきゅうでは、あかるい ほうの 葉は、細胞の そうが 2つ、くらい ほうは 1つでした。
これは シロザだけを しらべた けっかです。すべての 木で おなじとは かぎりません。
葉を縦に切ると、表側の近くに、細長い細胞が柵のように並んだ層が見えます。これを柵状組織といい、光合成の場として大切な部分です。
大阪大学の博士論文の要旨によると、ヒユ科のシロザを明るい環境と暗い環境で育てて比べたところ、明るい環境の陽葉は暗い環境の陰葉より厚く、柵状組織の細胞の層は陽葉で2層、陰葉で1層でした。厚さ方向に細胞が分かれた回数は、陽葉のほうが陰葉の約7倍だったそうです[2]。
つまり、日なたの葉が厚いのは、葉が育つときに細胞が厚さの方向へ多く分かれ、層が増えるからだと考えられます。ただし、これは人工的に光を変えて育てたシロザ1種の結果で、すべての木の数字ではありません。
厚い葉には、もう1つのちがいがあります。緑の素であるクロロフィルの量です。数え方しだいで、結果が変わります。
陽葉が厚いのは、葉の中のどの組織が増えるためなのか。大阪大学の博士論文要旨(矢野)は、ヒユ科のシロザ(Chenopodium album)を光強度360と50 µmol quanta m⁻² s⁻¹の2条件で栽培し、発生過程を比較した。陽葉は陰葉より厚く、柵状組織の細胞層は陽葉で2層、陰葉で1層だった。厚さ方向の細胞分裂(並層分裂)の回数は、陽葉が陰葉の約7倍に達した[2]。
このことから、陽葉の厚さは、葉が発達するときに厚さ方向の細胞分裂が増え、柵状組織の層が重なった結果だと読める。ただし、この数字は人工栽培したシロザ1種のものであり、木本の樹種や野外の樹冠内の陽葉・陰葉に、そのまま当てはめることはできない。
厚さがちがえば、同じ「1枚の葉」でも、面積あたりに含まれる材料の量が変わる。この性質が、次に見るクロロフィルの数え方に響いてくる。
3. 緑の もとは、どっちが おおい?
3. 緑の素は、面積で数えるか重さで数えるかで答えが逆になる
3. クロロフィルは面積あたりと乾燥重量あたりで多い側が逆になる:4種の樹木の比較
葉の 緑いろは、クロロフィルと いう、緑の もとに よります。この りょうを、2つの やりかたで かぞえた けんきゅうが あります。
カエデ・ブナ・シナノキ・モミの 4しゅるいで、面積が おなじ だけ ならべると、あつい 日なたの 葉の ほうが、クロロフィルが おおく ありました。
ところが、おなじ おもさだけ とって くらべると、うすい 日かげの 葉の ほうが おおく ありました。
あつい 葉は、おなじ 面積でも おもく なります。だから、おもさで わると、日なたの 葉は すくなく なるのです。
ドイツの研究チームは、カエデ・ブナ・シナノキ・モミの4種の木で、日なたの葉と日かげの葉を比べました。厚い陽葉は、葉の面積あたりのクロロフィルが多く、薄い陰葉は、乾燥した重さあたりのクロロフィルが多いと報告されています[3]。
理由は、厚さを考えると見えてきます。厚い葉は、同じ面積でも中身がたくさん詰まっていて重くなります。そのため、面積あたりでは陽葉が多くても、重さで割ると、陽葉の数字は小さくなり、陰葉のほうが大きくなるのです。
イチョウとブナを調べた別の研究でも、陽葉は面積あたりのクロロフィルとカロテノイド(黄〜橙色の色素)が多く、光合成の速さも陽葉のほうが上でした。ブナでは、陽葉が1平方メートル・1秒あたり平均8.5マイクロモル、陰葉が1.8マイクロモルで、陽葉は約4.7倍です[4]。
「どちらが多いか」は、何を基準にするかで変わります。では、私たちが目で見る色は、どちらに近いのでしょうか。
Lichtenthalerらは、カエデ・ブナ・シナノキ・モミの4種で陽葉と陰葉を比較した。厚い陽葉は比葉面積が小さく含水率も低く、葉面積あたりの総クロロフィル(a+b)が高い。一方、薄い陰葉は乾燥重量あたりのクロロフィルが高かった。陽葉はクロロフィルa/b比も高い[3]。
なぜ基準で結果が逆になるのか。陽葉は厚く、同じ面積に含まれる乾燥重量が大きい。そのため、面積あたりのクロロフィルが多くても、重さで割ると陽葉の値が小さくなる。分母が変わるだけで、同じ葉への評価が入れかわるのである。
イチョウとブナを対象にしたSarijevaらの研究でも、陽葉は面積あたりのクロロフィルとカロテノイドが多く、a/b比も高かった。ブナの光合成速度は、陽葉が8.5±2.1、陰葉が1.8±1.2 µmol m⁻² s⁻¹(平均値の比は約4.7倍)である[4]。
では、目で見た「色の濃さ」はどう決まるのか。次に、1枚の葉の中にもある表と裏のちがいを手がかりに考える。
4. 1まいの 葉でも、おもてと うらは ちがう?
4. 1枚の葉の中でも、表側と裏側で葉緑体がちがう
4. 同一の葉の向軸側と背軸側:陽葉緑体と陰葉緑体は連続的に変わる
おなじ 木の 葉だけでは ありません。1まいの 葉の なかでも、お日さまの あたる おもての ほうと、あたりにくい うらの ほうで、葉緑体が ちがうと いわれます。
おもての ほうは、クロロフィルが すくなめの 葉緑体で、うらの ほうは、クロロフィルが おおめの 葉緑体です。
うらから 光を あてて そだてると、この ちがいが さかさまに なる ことも あると しめされています。
葉の表側(光が当たる側)には柵状組織が、裏側には海綿状組織ができます。日本植物生理学会のQ&Aでは、1枚の葉の中でも、表側には陽葉型の葉緑体(クロロフィルが少なく、光合成の酵素ルビスコが多い)、裏側には陰葉型の葉緑体(クロロフィルが多い)ができると説明されています[5]。
陽葉型から陰葉型へは連続的に変わり、裏から光を当てて育てると、この関係が逆になるそうです。つまり、葉緑体のちがいは「その葉の場所」で決まるのではなく、「どちらから光を受けたか」で決まる性質のようです。
同じ1枚の中にも「日なた側」と「日かげ側」があるなら、木の外側と内側の葉を比べて「濃い・薄い」と言うだけでは、少し大ざっぱなのかもしれません。
陽葉と陰葉のちがいは、木の中の位置だけでなく、1枚の葉の中にもある。日本植物生理学会のQ&Aによれば、向軸側(表側)には陽葉緑体(クロロフィルが少なく、ルビスコが多い)、背軸側(裏側)には陰葉緑体(クロロフィルが多い)が分化し、組織も表側に柵状組織、裏側に海綿状組織が分かれる[5]。
陽葉緑体から陰葉緑体への変化は連続的である。さらに、背軸側から光を当てて育てると、背軸側に陽葉緑体、向軸側に陰葉緑体ができる。つまり、この差を生むのは葉の「表・裏」という固定した位置ではなく、光がどちらから入るかである[5]。
では、こうした葉緑体やクロロフィルのちがいは、実際に見える色にどれだけ反映されるのか。
5. 見た 目の 緑の こさは、きめられる?
5. 見た目の緑の濃さは、クロロフィルの量だけでは決まらない
5. 色の濃さとクロロフィル量は一致するか:SPAD値と見た目、樹種によるちがい
目で みる 緑の こさは、クロロフィルの りょうだけで きまる わけでは ありません。ほかの 色素や、葉の ひょうめんの かたちでも、かわって みえると いわれます。
木の しゅるいに よっても、ちがいます。おきなわの フクギと いう 木では、日なたの 葉は ちいさくて あつい、という、ほかの 木で よく いわれる とくちょうが、はっきり しませんでした。
だから「日かげの 葉は こい 緑」と、いつも いえる わけでは なさそうです。
日本植物生理学会のQ&Aでは、目に見える葉の色の濃さは、クロロフィルの量だけでなく、カロテノイドやアントシアニンなどほかの色素や、葉の表面の形のちがいにも左右されると説明されています。緑の濃さを測る器械(SPAD値)の数字と見た目が合うのも、ある条件のときだけです[6]。
木の種類によっても、ちがいがあります。C3植物の一般的な比較表では、面積あたりのクロロフィルは陽葉と陰葉で「同程度」とされ、葉緑体1個あたりでは陰葉のほうが多いとされています[7]。先ほどの4種や、イチョウ・ブナでは陽葉のほうが多い報告があるので、「少し多い〜同程度」と幅のある結果として受け止めるのがよさそうです。
沖縄のフクギでは、陽葉が小さくて肉厚で、陰葉が大きくて肉薄という、ほかの木での性質が、はっきり認められなかったと報告されています。生の重さあたりのクロロフィルは、陽葉が1グラムあたり2.24ミリグラム、陰葉が1.98ミリグラムでした[8]。基準が先ほどの乾燥重量とはちがうので、数字を直接は比べられません。
同じ木の日なたと日かげの葉の「見た目の緑の濃さ」を数字で示した資料は、今回の材料の中にはありません。だからこそ、数え方や木の種類で結果が変わることを知って、自分の目で見ると、見え方の理由が少し分かってきます。
見た目の濃さとクロロフィル量は、そのまま一致するとは限らない。日本植物生理学会のQ&Aは、目で見る葉色が、クロロフィル含量とは別に、カロテノイドやアントシアニンなどの色素や葉の表面構造にも左右されると述べる。SPAD値と見た目の対応が成り立つのも限られた条件のときである。このQ&Aは陽葉・陰葉に直接言及していない[6]。
クロロフィル量自体も、資料によって表現が異なる。Björkmanらにもとづく一般表では、C3植物の面積あたりクロロフィルは陽葉・陰葉で「同程度」、1葉緑体あたりでは陰葉で高い[7]。一方、前節の4種やイチョウ・ブナでは陽葉が多かった。そのため、「少し多い〜同程度」と幅をもたせて読むのが妥当である。
樹種による例外もある。琉球大学の研究では、フクギで、陽葉が小型で肉厚、陰葉が大型で肉薄という他樹種に見られる傾向は必ずしも明瞭でなく、生重量あたりのクロロフィル含量は陽葉2.24 mg/g、陰葉1.98 mg/gだった[8]。この値は生重量基準で、前節の乾燥重量基準とは直接比べられない。
以上から、「日かげの葉は濃い緑」という一言は、基準・樹種・色素の影響を切り落とした単純化だといえる。同じ木の日なた側と日かげ側の見た目の差を、同一個体で数値化した資料は、今回は確認できなかった。
6. 葉を 1まい つまんで、あつさを くらべて みよう
6. 外側と内側の葉の厚さを、指で比べる
6. 自分の手で確かめられる差:厚さと、光への透け方
みぢかな 木で、てが とどく ひくい ところの 葉を えらびます。そとがわの 葉と、なかがわの 葉を 1まいずつ、そっと つまんで みましょう。どちらが あつく かんじますか。
つぎに、2まいを 空に かざして、光に すかして みます。すけかたは、どう ちがうでしょう。
道ろや 池の ふちには ちかづかず、おうちの 人と いっしょに、あんぜんな ところで やりましょう。葉は、かならず 1まいだけに して、とりすぎません。
ためしてみるなら、手の届く高さの枝で、緑の葉がついているころに、外側の葉と内側の葉を1枚ずつ選びます。指でそっとつまんで厚さを比べ、次に空にかざして、光の透け方を見ます。厚さのちがいは、柵状組織の層の数と関係しているのかもしれません。
ただし、見た目の濃さがちがって見えても、それがクロロフィルの量のちがいかどうかは、目だけでは決められません。カロテノイドなどほかの色素や、葉の表面の形も関わっているからです。
秋に葉が赤くなる話は、夏の緑の差とは別の話です。道路や池の近くには寄らず、葉は1枚だけを選んで、とりすぎないようにしましょう。
確かめるなら、手の届く高さの枝で、緑の葉がついているころに、樹冠の外側の葉と内側の葉を1枚ずつ選ぶ。指でつまんで厚さを比べ、空にかざして光の透け方を見る。厚さのちがいは、柵状組織の層の数や、葉の乾燥重量・面積の比に関わる可能性がある。
ただし、見た目の濃さの差は、クロロフィル量だけでは説明できない。論文を読むなら、本記事で引いたLichtenthalerらの4種の比較(Plant Physiology and Biochemistry 45巻)と、SarijevaらのイチョウとブナのJournal of Plant Physiologyの論文が、面積あたりと重さあたりの数え方のちがいを比べる入り口になる。出典欄のURLから、要旨を読める。
また、秋の赤い色は夏の緑の差とは別の話である。観察は道路や水辺を避け、葉は1枚ずつにとどめること。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
一次資料(学会・大学・論文)を中心に使った。URLは調べた時点のものである。
- 日本生態学会 教材『葉特性の光環境に対する応答』(宮田理恵) https://esj.ne.jp/education/db/document/00000007.pdf (陽葉・陰葉の定義)
- 矢野覚士 大阪大学博士論文要旨 https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/45131/18412_Abstract.pdf (シロザの厚さと柵状組織)
- Lichtenthaler et al. 2007, Plant Physiology and Biochemistry 45:577-588 Europe PMC (4種のクロロフィル比較)
- Sarijeva, Knapp, Lichtenthaler 2007, Journal of Plant Physiology https://agris.fao.org/search/fr/records/65defa7c0f3e94b9e5d3880b (イチョウ・ブナの色素と光合成)
- 日本植物生理学会 みんなの広場 Q&A『陽葉と陰葉か、表か裏か』 https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4839 (1枚の葉の表と裏の葉緑体)
- 日本植物生理学会 みんなの広場 Q&A『葉のSPAD値と見た目の葉色との関係』 https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4359 (見た目の色とクロロフィル)
- General characteristics of sun and shade leaves in C3 plants (after Björkman 1981; Lambers et al. 1998) https://academic.oup.com/view-large/7476868 (一般的な比較表)
- 中須賀ほか 1987「フクギの樹種特性に関する研究(III)」琉球大学 https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/records/2002940 (フクギの例)
なおした ところ
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