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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

すっぱい みずうみに、ウグイだけが すめるのは なぜ?

強い酸の湖で、ウグイだけが暮らせるのはなぜか ── えらの細胞の分担という手がかり

宇曽利湖(pH約3.5)のウグイ ── 塩類細胞が担う酸排出と中和の仮説(2003年の研究から)

分野:生きもの

あおもりけんの おそれざんに、さんが とても つよい みずうみが あります。そこに すんで いる さかなは、ウグイと いう さかな ひとつの しゅるいだけです[2]。

ふつうの さかなは すめない みずなのに、どうして ウグイは そこで くらせるのでしょう。この きじを よむと、ウグイの えらの なかの はたらきと、けんきゅうした ひとたちの かんがえが わかります。

青森県の恐山にある宇曽利湖は、湖の水が強い酸性です。そこで暮らす魚は、ウグイ1種類だけだと論文に書かれています[2]。

ふつうなら魚が生きるのはむずかしそうな水なのに、なぜウグイはそこで暮らせるのでしょうか。この記事を読むと、えらの細胞の中でどんな分担が起きていると考えられているのか、そしてそれがどこまで分かっているのかが分かります。

宇曽利湖(青森県・恐山)は、pH約3.5という強い酸性の火山湖で、魚類はウグイ(Tribolodon hakonensis)1種のみが生息すると報告されている[2]。ふつう体液の酸性化やナトリウムの流出が起こりそうな環境で、なぜ生きられるのか。

2003年の研究は、その力が主にえらの塩類細胞にあると示し、細胞の外側と内側のタンパク質が分担する仮説を提案した。この記事を読むと、その仮説の中身、Hiroseらの総説での紹介、そして2003年時点でまだ推定にとどまる部分が分かる。

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1. どんな みずうみに さかなが すんで いるの?

1. 魚が1種類だけ暮らす湖は、どんな湖なのか

1. 宇曽利湖の環境 ── pH約3.5の火山湖と「1種のみ」の言い方

うそりこは、かざんの あとに できた みずうみだと いわれます。みずの さんの つよさは、pH という かずで あらわします。この みずうみは、pH が 3.5 ぐらいです。pH は ちいさい ほど、さんが つよいのです[1]。

みずうみの そこから、りゅうかすいそと いう ガスが にじみ出し、それから りゅうさんが できて、さんに なると かんがえられて います[1]。

こんな ところに、どうして ウグイは すめるのでしょう。まず、ウグイの からだが なにを まもらなければ いけないのか、見て みましょう。

宇曽利湖は、恐山のカルデラにできた火山湖です。湖水のpHは約3.5で、報告によって3.4〜3.8ほどの幅があります。pHは数字が小さいほど酸性が強いことを表します。湖底から硫化水素がしみ出し、それが硫酸になるため酸性になるとされています[1]。

この湖には魚がウグイ1種だけすんでいる、と論文は書いています[2]。論文は、この湖を世界中の湖と比べているわけではないので、この記事では「世界一」とは書かず、「強い酸性の湖」と書きます。

では、これほど酸性の水の中で、魚の体は何を守らなければならないのでしょうか。

宇曽利湖は恐山カルデラの火山湖で、湖水のpHは3.4〜3.8程度(約3.5)とされる。湖底から硫化水素が湧き、それが硫酸に変わることで酸性になるとされる[1]。なお、科研費の研究概要ではpH3.6〜3.7と書かれており、資料によって数値に幅があるため、本稿では「約3.5」と幅で扱う[4]。

Hirataらは、「厳しい条件にもかかわらず、1種の魚が生息する」と記述した[2]。この「1種のみ」は湖の魚類相についての記述であり、論文は他の湖との比較をしていない。したがって以下では「世界一」のような最上級の言い方を使わない。

では、強酸性の水に常にさらされるこの魚は、体の何を守っているのか。

2. ウグイは からだの なにを まもって いるの?

2. 酸の中で、魚の体は何を守らなければならないのか

2. 守る対象は血しょうのpHとナトリウム ── 主役は塩類細胞

さかなの からだの なかには、ちが あります。ちが さんに かたむくと、からだが よわって しまいます。それと、からだの なかの ナトリウムと いう しおの なかまも、にげて しまいます。

けんきゅうでは、この ウグイは、ちが さんせいに なるのも、ナトリウムを うしなうのも ふせげる ことが わかりました[2]。

その ちからは、おもに えらに ある 「えんるいさいぼう」と いう さいぼうの はたらきだと しめされました[2]。

魚のえらは、水と直接ふれる場所です。酸性の水の中では、体の中の血液の液体部分(血しょう)が酸性に傾いたり、体の塩分のもとであるナトリウムが外へ出ていったりする心配があります。

2003年の研究で、宇曽利湖のウグイは、血しょうが酸性になることもナトリウムを失うことも防げると示されました。その力は、主にえらの「塩類細胞」のはたらきによると書かれています[2]。塩類細胞は、えらにある、塩分を出し入れする細胞です。

では、塩類細胞の中では、酸性の水に対してどんな変化が起きているのでしょうか。

Hirataら(2003)は、宇曽利湖のウグイが血しょうの酸性化とナトリウムイオン(Na⁺)の損失を防げることを示し、その能力は主にえらの塩類細胞(chloride cell)に帰せられると結論した[2]。塩類細胞は、塩分の出し入れを担う、えらの細胞である。

強酸性の水ではH⁺濃度が高いため、体内のpHが下がる方向に力がかかる。同時にNa⁺の損失も起こりうるため、この2点を保つことは、酸性環境で生きるために大切だと考えられる。ところが、塩類細胞がそれをどう実現しているのか、は別の問いである。

そこで研究グループは、酸性の水にしたときに塩類細胞で何が変わるかを調べた。

3. さんの みずで、えらの さいぼうは どう かわるの?

3. 酸性の水にすると、塩類細胞で何が増えるのか

3. 酸性化で増える5つの分子 ── NHE3は細胞の外側に局在

けんきゅうした ひとたちは、さんせいの みずに した ときに、えんるいさいぼうで なにが ふえるかを しらべました。ふえたのは、ごしゅるいの 「はたらきもの」でした[2]。

それぞれ、さいぼうの そとがわに いたり、うちがわに いたり します。ここで だいじなのは、えらが まるごと つくりかわる のでは ないと いう ことです。ふえるのは、とくていの たんぱくしつです。

この 5つは、ひろせさんたちの まとめにも、おなじように ふえたと かかれて います[3]。

酸性の水にしたとき、塩類細胞で5種類のタンパク質が増えました。ナトリウムとカリウムにかかわるポンプ(Na⁺-K⁺-ATPase)、炭酸脱水酵素II、NHE3(ナトリウムと水素イオンを入れかえる運び屋)、重炭酸とナトリウムを運ぶ装置(Na⁺-HCO₃⁻共輸送体1型)、そして水の通り道のアクアポリン3です[2]。

場所にも特徴がありました。NHE3は細胞の外側(水に面した側)に、残りは内側(体の中に面した側)にありました[2]。ここで注意したいのは、えらが別物に作りかわるわけではなく、増えるのが特定のタンパク質だという点です。

Hiroseらの総説にも、同じ5つが、pH3.5の湖のウグイで酸性化によって大きく増えたとあります[3]。細胞は、えらの中で小さな袋のような形(ろ胞状)に並んでいます[2]。

外側と内側に分かれて並ぶのは、偶然でしょうか。それとも、役目の分担を表しているのでしょうか。

酸性化に応じて塩類細胞で増加が確認されたのは、Na⁺-K⁺-ATPase、炭酸脱水酵素II(CA-II)、NHE3(Na⁺/H⁺交換体3型)、Na⁺-HCO₃⁻共輸送体1型、アクアポリン3の5種である。免疫組織化学により、これらは塩類細胞に局在し、NHE3は頂端膜(水に面した側)、ほかは基底側の膜(体内側)にあることが示された[2]。

Hiroseら(2003)の総説も、pH3.5の湖のウグイでこれらが酸性化により顕著に誘導されたことを述べ、Na⁺保持と酸塩基調節の作業仮説につながったとする[3]。ただし総説での紹介は、著者が一部重なるため、独立した追試とは同じではない。また、増えたのは特定のタンパク質であって、「えらが作り替わる」と読むのは行き過ぎである。

ここで、位置の分担が意味を持つのではないかという問いが立つ。

4. えんるいさいぼうは、ふたてに わかれて はたらくの?

4. 外側で酸を出し、内側で血を中和する分担

4. 外側のNHE3と内側の共輸送体 ── 分担の仮説と鍵分子

ふねに みずが はいって きたと おもって ください。そとに みずを かきだす ひとと、なかで うめあわせの ざいりょうを はこぶ ひとが いたら、ふねは しずみにくく なります。

けんきゅうした ひとたちは、えんるいさいぼうも にたような ふたてに わかれて いるのでは ないかと かんがえました。さいぼうの そとがわでは、さんの もとを そとへ はこびます。うちがわでは、さんを よわめる じゅうたんさんを ちへ おくります[2]。

ただし、これは かんがえで、まだ たしかな こたえでは ありません。それに、ふねの たとえと ちがって、さいぼうの ひとつ ひとつが、じぶんで かってに うごいて いるのでも ありません。

研究者たちが考えた分担は、次のようなものです。細胞の外側にあるNHE3が、ナトリウムと引きかえに、酸のもとである水素イオン(H⁺)を外へ出します。内側にあるNa⁺-HCO₃⁻共輸送体が、重炭酸(HCO₃⁻)を血に送って、酸を中和します。ナトリウムポンプと炭酸脱水酵素IIは、それを支える力を出します[2]。

たとえば、水が入りこむ船で、外へ水をかき出す人と、中で中和の材料を運ぶ人が分かれて働くようなものです。ただし本当は、人ではなくタンパク質が、決まった向きに物を運んでいるだけです。

論文はこれを「おそらく(Most likely)」という言い方で書いています。つまり、証明された事実というより、有力な仮説です。科研費の研究概要でも、NHE3が細胞の外側にあることが免疫染色で示され、酸に耐える仕組みの鍵になる分子と考えられると書かれています[4]。

重炭酸の材料は、どこから来るのでしょうか。

著者らが提案する機構はこうである。頂端側のNHE3がNa⁺と引きかえにH⁺を細胞外へ排出し、基底側の起電性Na⁺-HCO₃⁻共輸送体1型が重炭酸を血液側に供給して中和する。Na⁺-K⁺-ATPaseとCA-IIは、その駆動に必要な勾配や材料を供給する[2]。

原文は「Most likely」と推定の言い方であり、この機構はあくまで仮説段階にある。それでも、外側にあるNHE3がH⁺排出を担い、内側の共輸送体が中和の材料を送るという分担は、5分子の局在という実測結果から導かれた筋の通った説明である。科研費の研究概要でも、NHE3は「酸耐性機構の鍵分子」と考えられ、酸性水の個体で中性水より発現が増え、頂端膜にあることが免疫染色で示された[4]。

なお、2003年以降にこの仮説がどう更新されたかは、本稿の資料では扱っていない。では、重炭酸の供給源は何か。

5. すっぱさを けす ざいりょうは どこから くるの?

5. 中和の材料は、どこから来るのか

5. グルタミン酸脱水素酵素の増加 ── アンモニアと重炭酸の供給源の示唆

さんを けすには、ざいりょうが いります。それは からだの なかで つくられる はずです。

けんきゅうでは、さんに なれた ウグイで、ある こうそが、えら いがいの いろいろな ところでも ふえて いました[2]。この こうそは、からだの なかの ぶっしつを くずすときに はたらき、アンモニアと じゅうたんさんが できるのを たすけます。

それが やくに たって いる かもしれない、と かんがえられて います。

酸に慣れたウグイでは、グルタミン酸脱水素酵素という酵素が、えらだけでなくさまざまな組織で増えていました。グルタミンという物質が分解されるときにはアンモニアと重炭酸ができるため、それが体の酸を中和するのに役立っているかもしれない、と論文は述べています[2]。

これも「示唆される」という段階です。ただ、えら一か所だけでなく、体の中の別の組織も酸への備えに加わっている可能性を示す手がかりといえます。

ウグイが酸性の水で暮らすしくみを、少し見てきました。ここからは、湖の場所やウグイの動きを確かめてみましょう。

Hirataら(2003)は、酸適応したウグイの多様な組織でグルタミン酸脱水素酵素の発現増加も観察し、グルタミンの異化で生じるアンモニアと重炭酸が重要な役割を果たす可能性を示唆した[2]。塩類細胞の分担で必要になる重炭酸の供給源の一つ、という読み方である。

「示唆」にとどまる点が重要である。塩類細胞内の分担(局在から推定される機構)は5分子の局在という直接の観察に支えられるが、この酵素と重炭酸供給の関係は、増加を観察した段階にある。確かな部分と仮説の部分を分けて読むと、この研究の強みと残る問いが見える。

では、この湖のウグイを、自分の目で確かめる道はあるのか。

じぶんでも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

今日できること

いえに ある ちずちょうで おそれざんの うそりこを さがして みましょう。みずうみから ながれ出る かわは、しょうづがわ ひとつだけだと いわれます[1]。

出かけてできること

かんこうあんないには、はつなつに、みずうみの そばの ゆうほどうで、かわを のぼる ウグイが 見られると あります[5]。いく ときは、じかんと はいれる ところを、おうちの ひとと じぜんに たしかめて ください。

今日できること

家にある地図帳で恐山の宇曽利湖を探し、湖から流れ出る川を見つけてみましょう。流れ出る川は正津川だけだとされています[1]。1本しか出口がない湖の水が、どんな魚を育てているのかを想像できます。

出かけてできること

観光案内には、初夏に湖畔の遊歩道を歩くと、川をのぼるウグイが見られるとあります[5]。行く前に、時期と立ち入れる場所を、公式の案内で確かめてください。

資料を読むなら

Hirataら(2003)の原論文は、PubMedで要旨が読める[2]。まず日本語で書かれた科研費の研究概要を読むとよい[4]。英語が読めるなら、任意で同じ5分子についてHiroseら(2003)の総説と読み比べると、確かな部分と仮説の部分がどこで分かれるかが見える[3]。

出かけてできること

観光案内には、初夏に湖畔の遊歩道で、川をのぼるウグイが見られるとある[5]。出かける前に、時期と立ち入れる範囲を最新の公式案内で確かめておきたい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

湖の環境は百科事典と観光案内に、えらの仕組みは2本の論文と科研費の研究概要に依拠した。pHの数値は資料で幅があるため、幅で示した。

  1. Lake Usori (Wikipedia) https://en.wikipedia.org/wiki/Lake_Usori (湖の環境・酸性になる理由・流出河川)
  2. Hirata et al. 2003, Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12531781/ (1種だけの魚・塩類細胞・5分子・分担の仮説・酵素の増加)
  3. Hirose et al. 2003, Comp Biochem Physiol B https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14662288/ (同じ5分子についての総説)
  4. KAKEN 課題12660163「魚類塩類細胞の多様性」 https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-12660163/ (NHE3が鍵分子と考えられること・pHの別の数値)
  5. tabi-mag(青森の観光案内) https://tabi-mag.jp/ao0175/ (遊歩道で見られるウグイ)

なおした ところ

更新履歴

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