1. ヘリの れんしゅうの きかいを 見た 人たち
1. 訓練装置を見学した操縦士たちが、ふらついた
1. 1950年代のヘリコプター模擬操縦装置と、教官の6割
1950ねんだいの アメリカです。ヘリコプターを うんてんする れんしゅうの きかいが つくられました。ほんものの ヘリに のらなくても、うんてんの れんしゅうが できる きかいです。
この きかいを 見に きた 人の 中に、ふらふらすると いう 人が いました。しかも 見に きた 人の 多くは、ほんものの ヘリを うんてんする 人だったと つたえられて います。[1]
1960ねんの しらべでは、れんしゅうを おしえる 先生の 10人に 6人ほどが、ふらふらしたと 答えました。れんしゅうする 人では 10人に 1人ほどです。ヘリに なれた 人の ほうが ふらふらしやすかったのです。なぜ ヘリに なれた 人の ほうが ふらふらしたのかは、資料からは 分かりません。[1]
1950年代、アメリカのベル・エアクラフト社が、海軍向けにヘリコプターの模擬操縦装置を作りました。その実演を見学した人のなかに、めまいのような不快感を覚えた人がいた、と伝えられています。見学者の多くは、本物のヘリの操縦士でした。シミュレーター酔いの、早い時期の報告の一つとされています。[1]
1960年には、海軍の心理学者らが評価をまとめています。回答した36人のうち28人が酔いを経験し、教官では約6割、訓練生では12%が症状を訴えました。経験が豊かな人のほうが酔いやすかったのです。[1]
症状は訓練を始めて10分ほどで出ることが多く、数時間続くこともあったといいます。経験者ほど酔いやすかった理由は、この資料からは分かりません。
2. ふらふらに なまえが つき、ものさしが できた
2. 「サイバーシックネス」という名前と、酔いをはかる質問票
2. 1992年の用語「サイバーシックネス」と1993年のSSQ
1992ねんに、しらべた 人たちが VRの ふらふらを 「サイバーシックネス」と よびました。[2] ふらふら、はきけ、目の つかれ、頭が いたいなどを ふくむ ことばです。
つぎの 年には、ふらふらの 大きさを はかる しつもんの 紙が できました。16の きもちを 「目の つかれ」「ふらふら」「はきけ」の 三つの グループに わけて たずねる 紙です。3691回ぶんの きかいの データから つくられました。[3]
この 紙は、いまの VRの しらべでも つかわれて います。
3. 目と 体が、ちがう ことを 言う
3. 目は「動いている」、体は「止まっている」
3. 感覚衝突説と、競合する姿勢不安定説
いまの ところ 有力と いわれる 考えは、こうです。ゴーグルの 中の 目は 「わたしは ぐんぐん すすんで いる」と つたえます。でも 耳の おくの ばしょは 「うごいて いないよ」と つたえます。二人の 友だちが ちがう 話を すると、こまって しまいますね。
ただし、ほかにも 考えが あります。まだ どれも、ぜんぶは せつめいできて いません。[2] 車の のりものよいの 話は べつの メモで 読めます。
4. ほんの ちょっとの おくれが こまる
4. 数十ミリ秒の「遅れ」が、酔いにかかわる
4. 表示遅延・DVP仮説・開発者向けの目標値
かがみの 中の 自分が、ほんの すこし おくれて うごいたら、へんな 気もちに なりませんか。VRでも、頭を 回してから けしきが かわるまでの おくれが、ふらふらに かかわると 考えられて います。
むかしの VRの きかいでは、おくれが 0.07びょう ほど あったと つたえられて います。あたらしい きかいでは、0.005びょうより みじかい とされます。頭を 回した ときの ふらふらが、大きく へったと いう 研究も あります。[5]
ただし 本当は、おくれだけが げんいんとは かぎりません。だいがくの けんきゅうしつでは、うごきが おくれる ときの ほかに、けしきが ずっと まわりつづける ときや、右と 左が ぎゃくの ときにも ふらふらが おきました。[10]
鏡に映った自分が、ほんの少し遅れて動いたら、奇妙な感じがしませんか。VRでも、頭を回してから景色が変わるまでの遅れが、酔いに関わると考えられています。
2020年、パルミサーノらは、頭を動かしたときの「仮想の頭の向き」と「実際の頭の向き」の差が大きく、しかも時間とともに変わることが、酔いの引き金だという仮説を出しました。表示の遅れを人工的に変えた実験で、この差と酔いの強さに関係が見られたそうです。仮説であり、確定ではありません。[4]
先行研究によると、初期のOculus Rift DK1の表示の遅れは約72ミリ秒(約0.07秒)でした。のちの機種では補正の仕組みで、基準の遅延は5ミリ秒未満とされ、14倍以上の差があります。遅れの小さい新しい機器では、頭を回したときの酔いが大きく減ったという報告もあります。[5]
2014年のOculusの開発者向け指針は、動きの入力から画面に映るまでを20ミリ秒以下にすることを、理想の目標としていました。これは酔わないことの保証ではありません。[6]
立命館大学の研究室のVR酔いの実験では、動きが遅れて映像に反映される場合のほか、視界が一定の速さで回りつづける場合や、左右の向きが反転している場合にも酔いが起きたと紹介されています。[10]
2020年、Palmisanoらは、HMDでのVR酔いは、頭の動きに対する「仮想の頭の向き」と「実際の頭の向き」の差(DVP)が大きく、時間的に変化することで引き起こされるという仮説を提唱した。表示のラグを人為的に操作した実験で、DVPと酔いの強さの関係が見られたという。仮説の段階である。[4]
先行研究の引用では、初期のOculus Rift DK1の表示ラグは約72ms(0.072秒)で、後年のCV1などは非同期タイムワープ(ATW)で角度方向の遅れをほぼ消し、基準遅延は5ms未満とされる。単純計算で14倍以上の差になる。ラグの小さいHMDでは、頭を回したときの酔いが大きく減ったと報告されている。72msは引用値であり、機種全般の値ではない。[5]
2014年のOculus開発者向けガイドは、動作から画面表示まで(motion-to-photon)を20ms以下、描画を60fps以上(1コマ約16.7ms)にすることを理想の目標に掲げ、遅れとコマ落ちはVRで不快だと述べた。20msは酔いの閾値として示されたものではない。[6]
立命館大学の研究室のページには、実際の動きが遅れてVR映像に反映される、視界が定常回転する、左右の向きが反転している、の3状況でVR酔いが起きたとある。研究室の紹介ページであり、査読論文ではない。[10]
5. 見える ところを、そっと せまくする
5. 動く間だけ、視野をそっと狭める工夫
5. ベクション・視野・動的な視野制限(ビネット)
ひろい けしきが ながれて くると、体は うごいて いないのに 「じぶんが うごいて いる」と かんじる ことが あります。これを ベクションと いいます。見える はんいが ひろいほど、まるで そこに いるような 気もちは 強く なりますが、ふらふらも ふえる ことが あります。[2]
2016ねん、アメリカの だいがくで、うごいて いる あいだだけ、見える はんいを じどうで すこし せまくする やりかたが 考えられました。小さな まどから 外を 見ると、ながれる けしきが すくなく なるのと にて います。30人が きょうりょくした しらべでは、ふらふらしにくく、長く VRに いられた そうです。多くの 人は、せまく なって いる ことに 気づきませんでした。[7]
この しくみは、いまは VRの ゲームなどにも つかわれて いる といわれます。[8]
広い範囲で景色が流れると、体は動いていないのに「自分が動いている」と感じることがあります。これをベクション(自己運動錯覚)といいます。視野が広いほど没入感は増しますが、酔いも増えうるとされ、ベクションと酔いには正の関係があるものの、その仕組みは複雑だと説明されています。[2]
2016年、コロンビア大学のフェルナンデスとファイナーは、動いている間だけ視野を自動でそっと狭める方法を発表しました。小さな窓から外を見ると、流れていく景色の量が減るのに似ています。30人が協力した実験で、参加者は酔いにくく、仮想空間に長くいられ、没入感は下がらなかったと報告されています。多くの参加者は、視野が狭まっていることに気づきませんでした。[7]
この工夫は、画面を流れる映像の量を減らして酔いを軽くするもので、「ビネット」の名前で商用のVRアプリにも広く取り入れられているといわれます。[8]
広視野で流れる映像は、自己が移動しているという錯覚(ベクション)を起こし、VR酔いに先立って起こりやすい。視野が広いほど没入感は増すが酔いも増えうる。ベクションと酔いには正の関係があるが、機構は単純でないとされる。[2]
2016年、コロンビア大学のFernandesとFeinerは、移動中だけ視野を自動的に狭める方法を作り、30人が参加した実験(2群)で、酔いにくく、仮想空間に長くとどまれ、没入感は低下しなかったと報告した。多くの参加者は視野が狭まっていることに気づかなかったとされる。この論文はIEEE 3DUI 2016で最優秀論文賞を受けたと報じられている。[7]
視野を制限する仕組みは、視覚系に入るオプティカルフローの量を減らして酔いを軽くするもので、商用VRアプリにも「ビネット」として取り入れられている。[8]
6. あるく やりかたで、らくさが かわる
6. 「滑らかに歩く」より「ワープ」のほうが楽なことが多い
6. 連続移動と瞬間移動(テレポート)
VRの 中を うごく やりかたは、いろいろ あります。コントローラーで なめらかに あるく やりかたと、行きたい ところに ぱっと ワープする やりかたです。
15人が 3つの やりかたを ためした しらべでは、ワープの ほうが ふらふらしにくい けっかでした。ながれる けしきが ない ぶん、目と 体の ちがいが 小さく なるからと 考えられて います。ただ、どれだけ はなれたかや、道すじが わかりにくく なる という ざんねんな ところも あります。[9]
VRの空間を動く方法には、コントローラーで滑らかに歩く連続移動と、行きたい場所へ一瞬で移るテレポートがあります。
2025年の実験(参加者15人・3方式)では、連続移動よりテレポートのほうが酔いが少ない結果でした。途切れなく流れる視覚の変化がなく、感覚の食い違いが小さいからと考えられています。その代わり、距離感や道順をつかみにくくなるという弱点があります。ただ、人数が少ない研究なので、この結果をそのまま一般化はできません。[9]
7. 人に よって、ちがう
7. 酔いやすさは、人によってちがう
7. 発生率と個人差
ある しらべでは、92人が 10分ほど VRを つかいました。そのうち 65%が ふらふらを けいけんしました。3人に 2人ほどです。つよい ふらふらだった 人は、4人に 1人ほどでした。[2]
この しらべでは、のりものに よいやすい 人は、VRでも よいやすい かたむきが ありました。つかって いる うちに、ふらふらの 大きさは だんだん ふえる 方向に すすみました。人に よって ちがうのは、ふつうの ことです。[2]
ある調査では、92人が心理療法用の2つのVR空間を10分ほど体験し、65.2%がVR酔いを経験、23.9%は重い症状でした。3人に2人ほどと、4人に1人弱です。過去の研究の推定は60〜95%、途中でやめてしまう人は5〜13%と幅があります。全員が酔うわけではありません。[2]
個人差は大きく、この調査では乗り物酔いしやすい人はVR酔いもしやすい傾向がありました。体験している間、酔いの得点は平均して増える方向に進み、年齢が高いほど得点が低く、男女差ははっきりしませんでした。ただし他の研究では結果が違うこともあります。[2]
PMC8886867の調査では、92人(18〜52歳)が心理療法用の2つのVR空間で10分間の没入を体験し、65.2%がVR酔いを経験、23.9%が重い症状だった。文献の推定は60〜95%、5〜13%が途中で中止する。症状が2時間以上残ることもある。1つの調査の値であり、全員が酔うわけではない。[2]
乗り物酔いへの感受性は、VR酔いの独立した予測因子だった。この調査では年齢が高いほど得点が低く、性差は有意でなかったが、他の研究では異なる結果もありうる。10分の体験の間、酔いの平均得点は概して増えていった。[2]
冒頭の問いに戻ると、経験の豊富な操縦士ほど酔いやすかった理由は、ここで挙げた資料では分からない。
じぶんでも しらべて みよう
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
いすに すわって、首を ゆっくり 右や 左に 回して みましょう。見える けしきは、首の うごきと ぴったり いっしょに うごきます。あたりまえに 思えますが、VRの きかいは、この 「ぴったり」に 近づけようと して います。
手もとに あれば、ゲームや えいがの 画面で、カメラが うごく ところを 見て、どんな うごきが 目に 気もちよいか 気づいて みましょう。
首は むりに 回さないで ください。気もちが わるく なったら すぐに 見るのを やめて、大人に つたえましょう。VRの きかいを ためす ことは すすめません。つかう ときは、せつめいしょを 読み、大人と いっしょに してください。
椅子に座って、首をゆっくり左右に回してみましょう。景色は首の動きにぴったり合わせて動きます。あたりまえに感じますが、VRの機械は、この「ぴったり」に近づけようとしています。
手元にあれば、ゲームや映画で、カメラが動く場面を見て、どんな動きだと目が疲れにくいか、気づいたことを書きとめるのも面白いでしょう。
首は無理に回さないでください。気分が悪くなったらすぐに見るのをやめ、大人に伝えましょう。VR機器をためすことは勧めません。使う場合は取扱説明書を読み、大人と一緒にしてください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の事実は、次の資料をもとにしています。Wikipedia は二次資料として、確かめやすい手がかりに使いました。
- Wikipedia「Simulator sickness」 https://en.wikipedia.org/wiki/Simulator_sickness (ヘリの訓練装置の話・姿勢不安定説)
- Focusing on cybersickness(PMC8886867) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8886867/ (用語・感覚衝突説・視野・発生率・個人差)
- Kennedy et al. (1993), Int J Aviation Psychology https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1207/s15327108ijap0303_3 (シミュレーター酔い質問票)
- Palmisano et al. (2020), Frontiers in Virtual Reality https://www.frontiersin.org/journals/virtual-reality/articles/10.3389/frvir.2020.587698/full (DVP仮説)
- Palmisano et al. (2021), Frontiers in Virtual Reality https://www.frontiersin.org/journals/virtual-reality/articles/10.3389/frvir.2021.582156/xml (表示の遅れの改善)
- Oculus VR Best Practices Guide v0.008 (2014) https://s3.amazonaws.com/arena-attachments/238441/2330603062c2e502c5c2ca40443c2fa4.pdf (開発者向けの遅れの目標)
- ScienceDaily「Columbia Engineering」 https://www.sciencedaily.com/releases/2016/06/160614121922.htm (動く間だけ視野を狭める実験)
- Virtual Reality (Springer) 2020, dynamic FOV https://link.springer.com/article/10.1007/s10055-020-00466-2 (視野を狭める仕組みとビネット)
- Scientific Reports (2025)(PMC12276271) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12276271/ (移動方式の比較)
- 立命館大学 島田研究室「VR酔いの生理機序」 https://www.i.ci.ritsumei.ac.jp/wp/vr-sickness (VR酔いが起きた3つの状況)
なおした ところ
更新履歴
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