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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

ワサビの ツーンは、なぜ しばらくすると きえるの?

ワサビのツーンは、なぜしばらくすると消えるのか

ワサビの辛みは、なぜ時間とともに弱まるのか ── すりおろしで生まれる成分の行方

分野:自然

ワサビの ツーンの もとは、おろす まえの ねっこには、まだ できて いません。おろした しゅんかんに つくられて、じかんが たつと へって いきます。

では、あの ツーンは、どうして しばらくすると きえるのでしょう。とんで いく ことと、しんけいが なれる こと。ふたつの わけが わかります。

ワサビの辛みのもとになる成分(AITC)は、根をおろす前にはまだできておらず、すりおろした瞬間に作られます。そして時間とともに減っていきます。

それなら、鼻にツーンと抜けた刺激が、しばらくすると消えるのはなぜでしょうか。成分が空気中へ逃げることと、神経のほうが慣れることの二つが関わっている、と読み取れます。この記事では、その二つが分かります。

ワサビの辛味成分であるアリルイソチオシアネート(AITC)は、配糖体が壊れた酵素反応により、すりおろしの際に生成する[1]。しかも生成後は時間とともに失われる[2]。

では、あのツーンが消えるのは、成分の側の事情なのか、感じる側の事情なのか。揮発・分解でAITCが減ることと、受容体の反応が小さくなる(TRPA1の脱感作)ことの二つが考えられる。ただし、二つがどれだけ関わるかは、資料からは言えない。

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1. おろす まえの ワサビは、からいの?

1. 辛みは、すりおろした瞬間に作られる

1. 辛味成分はいつ生まれるのか ── 配糖体と酵素の反応

おすしに のせる ワサビは、おろし がねで すって つくります。じつは この「する」ことが、とても だいじなのです。

ワサビの 中には、からさの 「たね」と、それを かえる はたらきものが、べつべつに しまわれて います。ふだんは、はなれて います。

おろし がねで さいぼうが こわれると、ふたつが であいます。すると、ツーンの もとが できます[1]。

この もとは、100グラムの ワサビに、およそ 0.3グラム。ほんの すこしです[1]。それでも、あの ツーンを おこすには じゅうぶんなのです。

しまわれている「もと」と、はたらく酵素

静岡県の資料によると、ワサビの辛みは、からし油と呼ばれる成分の仲間によるものです。細胞の中には、からし油の材料にあたる配糖体が入っています。すりおろして細胞が物理的にこわれると、ワサビがもつ酵素が配糖体を分解し、辛みのもとのからし油が作られます[1]。

広島県の研究報告では、この配糖体の代表をシニグリンとし、酸素にふれると酵素のミロシナーゼとの反応でAITC(アリルからし油)が作られる、と説明しています[2]。

量はごくわずか

いちばん多いのはAITCで、生のワサビ100gあたりおよそ0.3gです[1]。100gのうち0.3gですから、割合にすると0.3%ほどです。たったそれだけの成分が、鼻にツンと来る刺激のもとになっています。

静岡県の資料は、ワサビの辛味成分を揮発性のからし油(イソチオシアネート)類とする。細胞内のからし油配糖体が、すりおろしなどで物理的に破壊されると、ワサビ自身の酵素による加水分解が起こり、からし油が生成する[1]。辛味成分のAITCは、すりおろしによって配糖体から作られる生成物であり、配糖体はその前駆体にあたる。

広島県立総合技術研究所の研究報告(No.27、2013)は、前駆体を配糖体のシニグリンとし、すりおろして酸素にふれると、酵素ミロシナーゼとの反応でAITCが生成するとしている[2]。含有量は、最も多いAITCで生ワサビ100gあたり約0.3gである[1]。0.3÷100=0.003、すなわち約0.3%にすぎない。

ここで生じる疑問は、作られたAITCがどこへ行き、どうして辛みを感じさせるのか、という点である。

2. ツーンは、どこから くるの?

2. ツーンの正体は、口から鼻へ抜ける気体

2. 揮発したAITCが三叉神経の受容体を刺激する

ワサビを たべると、した より、はなの おくが ツーンと します。ふしぎですね。

この もとは、ふわっと 空気に まざる せいしつが あります。くちの 中で 気体に なって、はなの おくに とどくのです[3]。

はなに とどくと、そこに ある しんけいが「いたい」「からい」という しらせを 出します[3]。これが ツーンです。

この しんけいには、AITCを つかまえる、ちいさな 「うけとり口」が あります[5]。

気体になって、鼻の神経にふれる

AITCは比較的小さな分子で、沸点は152℃です。ところが、常温や体温ほどでもゆっくり揮発する、と解説されています[3]。口の中で揮発したAITCが鼻の粘膜にふれ、三叉神経の先の知覚神経を刺激することが、ツーンの原因だという説明です[3]。

一般向けの記事も、AITCは揮発性が高く、口から鼻へツンと抜けやすいと説明しています[4]。ワサビの刺激が鼻に来るのは、このためだと考えられます。

痛みのセンサーが、AITCに反応する

2004年の論文は、ワサビやマスタードの辛みのもとであるAITCが、痛みを感じる受容体ANKTM1を活性化することを報告しました[5]。ツーンは、鼻の奥で痛みのセンサーが働いた結果として感じられている、と読み取れます。

AITCは比較的小さな分子で、沸点は152℃だが、常温や体温程度でもゆっくり揮発する[3]。一般向けの解説では、ツーンの原因は、口内で揮発したAITCが鼻粘膜を介して三叉神経の知覚神経終末を刺激するためだと説明される[3]。口から鼻へ抜けやすい性質が、舌より鼻への刺激を強めるという記述もある[4]。

受容体の側では、Jordtらが2004年にNature誌で、AITCが痛覚受容体ANKTM1を活性化して刺激を起こすと報告した[5]。この点は要旨にもとづく。

つまり、気体になったAITCが鼻に届き、受容体が反応するとツーンと感じる。AITCの量や受容体の反応が変われば、感じ方も変わる。

3. ひとつめの わけ。ツーンの もとが、とんで いく

3. 消える理由その1 ── 成分が飛んで、減っていく

3. 消える理由その1 ── 揮発と分解によるAITCの減少

ツーンの もとは、ふわっと とんで いく せいしつを もっています。ですから、おろして おいた ワサビは、じかんが たつと、もとが どんどん へって いきます[2]。

ひろしま けんの けんきゅうでは、おろした ワサビを れいぞうこ(4℃)に おいて、しらべました。9日めには、ツーンの もとが、おおきく へりました。さいごには、どれも さいしょの 100ぶんの 1ほどに なりました。ただ、へりかたには しなものごとの ちがいも ありました[2]。

これは 日にちを かけた しけんで、「口の 中で すぐ きえる」ことを しらべた ものでは ありません。でも、ツーンの もとが ずっと そこに あるわけでは ない、と わかります。

時間とともに失われるAITC

広島県の研究報告は、すりおろしたワサビ中のAITCが時間とともに失われ、辛みがすぐに減ったり消えたりすることが問題だと述べています[2]。AITCは熱にも不安定とされます[2]。

その研究では、すりおろしたワサビを4℃で貯蔵して調べました。9日目にはAITC量が大きく減り、最終的にはどの試料も貯蔵前の約1/100ほどになっていました。ただし、減り方には試料による差もありました[2]。100分の1は、0.01倍ということです。

注意したいのは、この貯蔵試験が数日の単位だという点です。食べている最中の数分間に、何割が飛ぶのかを直接測った資料は、ここでは使っていません。

広島県の報告は、すりおろしたワサビのAITCが時間とともに失われ、辛味成分がすぐに減少・消失することを、加工上の課題として挙げている。生成したAITCは熱に対しても不安定である[2]。

では、どのくらいの速さで減るのか。同報告の4℃貯蔵試験では、いずれの試料も9日目にAITC量が大きく減り、最終的にはいずれも貯蔵前の約1/100(0.01倍)になった。ただし試料間には差があった[2]。この試験は日単位であり、食べる場面の数分間の変化を直接測ったものではない。したがって、「口の中で数分で消える」ことの割合の内訳は、この資料からは言えない。

なお、加熱したAITC水溶液の分解産物には、ニンニクに似た香気成分が含まれるとの報告がある[3]。

4. ふたつめの わけ。しんけいが、なれて しまう

4. 消える理由その2 ── 神経が慣れてしまう

4. 消える理由その2 ── TRPA1の脱感作(タキフィラキシー)

ふろに はいった ばかりの とき、おゆが あつく かんじます。でも、しばらく すると、あまり あつく なくなりますね。からだが、その あつさに なれるのです。

ワサビの ツーンを うけとる 「うけとり口」にも、にた ことが 起きる ことが あります。

けんきゅうでは、とりだした うけとり口に、ツーンの もとを くりかえし あててみました。うすい ときに みじかく あてた あとは、あらうと もどりやすい ものでした。こい ときに くりかえすと、はんのうが どんどん ちいさく なりました[6]。

ただし これは、さいぼうを つかった じっけんです。人の 口の 中でも、おなじ ことが 起きているとは、いいきれません。ふろの はなしも、たとえ です。

くり返すと、反応が小さくなる

2011年の論文は、取り出したTRPA1の電流を調べました。低い濃度のAITCを短時間与えたあとは、洗い流すと反応が戻りやすいものでした。ただし、低い濃度でもくり返すと電流が増えた場合があります。一方、高い濃度(1mM)を何度もくり返すと、反応がだんだん小さくなりました。これを、慣れ(タキフィラキシー)と呼びます[6]。

外の液にカルシウムがあると、この低下はさらに強く速くなりました。4回目の反応は、カルシウムなしでは1回目の約0.31倍、カルシウム1.8mMがあるときは約0.005倍でした[6]。0.005は0.31のおよそ60分の1です。

ここまで言えること

これは培養した細胞の実験です。ワサビを食べた人の感覚で確かめたものではないので、口の中でも同じとは言い切れません。それでも、「成分が減る」だけでなく「感じる側も慣れうる」ことが、ツーンが消える理由の候補になります。

Raisinghaniらの2011年の報告では、単離したTRPA1の電流は、短時間の低濃度刺激後は、洗い流すと電流が戻りやすかった。ただし低濃度AITCの反復では電流が増加した。一方、飽和濃度(1mM)のAITCをくり返すと、電流が漸減するタキフィラキシー(脱感作)が見られた[6]。外液にカルシウムがあると、この低下はより強く速かった。4回目の応答は、カルシウムなしで約0.31倍、1.8mMのカルシウム存在下で約0.005倍で、比は約60である(0.31÷0.005)[6]。

これを口の中に当てはめるとどうなるか。受容体が繰り返しの刺激で反応しにくくなる性質があるなら、AITCが十分に残っていても、感じ方は弱まりうる。ただしこの実験は培養細胞での結果で、人の口の中の濃度や、ワサビを食べる場面での実証ではない。

したがって、辛みが消える理由として言えるのは、前章の「成分が減る」ことに加えて「感じる側が慣れうる」という候補があるところまでである。二つの割合は、資料から決められない。

5. とうがらしは のこるのに、ワサビは?

5. 唐辛子の辛さが残るのに、ワサビは軽く抜ける理由

5. 唐辛子との対比 ── 揮発性が生む「後に残らない辛さ」

とうがらしを たべると、からさが しばらく のこります。ワサビは、すこし ちがいます。

ある きじでは、ワサビの ツーンの もとは 空気に まざりやすく、はなに とどいた あとは かんじにくく なる、と せつめいされて います[4]。

ここまでの はなしを あわせると、ツーンが きえる わけには、もとが とんで へる ことと、しんけいが なれる ことが、かかわって いそうです。

一般向けの記事は、AITCは揮発性が高く、口から鼻へツンと抜けやすいと説明します。受容体を刺激したあとは、ふわりと消えるので、ワサビの辛さは後に残らない、という言い方です[4]。

唐辛子の辛さと比べると、ワサビの辛さは、唐辛子より「後に残りにくい」と感じることがあります。ただし、どれだけ長く残るかを数字で比べた資料は、ここでは使っていません。

ここまでの話をまとめると、ワサビの辛みが消えるのは、成分が飛んで減ることと、神経が慣れうることの両方が関わると考えられます。

一般向けの記事は、AITCの揮発性の高さが「口から鼻へ抜ける」感覚をつくり、受容体を刺激したあとはふわりと消えるため、辛さが後に残らないと説明する[4]。唐辛子の辛さが口に長く残るのとの対比である。ただし残存時間を定量的に比べたデータは今回の資料にはないので、対比は定性的な理解にとどまる。

この節をまとめると、AITCが短時間で感じられなくなる要因として、揮発・分解による減少[2][3]と、受容体側の慣れ[6]の二つが示されている。どちらが主因かは、資料からは決められない。

6. おろしたてを たべる わけを、たしかめて みよう

6. 「おろしたて」が好まれる理由を、確かめるなら

6. 出口 ── おろしてから食べるまでの時間と、読む資料

ワサビを おろす とき、いそいで たべる ほうが よいと いわれる わけが、もう わかりますね。ツーンの もとが、とんで いって しまうからです。

おうちの 人が ほんもののワサビを おろす ときは、すこし そばで 見せて もらいましょう。おろした ばかりの においと、すこし おいた あとの においは、おなじでしょうか。

ただし、はなに ちかづけすぎない ことと、たくさん たべない ことを、まもって ください。からくて、いたい ことが あります。

しずおか県の「わさび」の ページや、ひろしま県の ワサビの けんきゅうほうこくを、おうちの 人と 見て みましょう。

ここまで読んだ人なら、その理由が想像できるはずです。おろして細胞をこわすと、辛み成分が作られます。作られたあとは、飛んで減っていきます。だから、食べる直前におろすのがよいと言われるのでしょう。

もし家で本ワサビをおろす機会があれば、おろしたてと少し置いたものを、大人にそばで見せてもらい、においを比べてみましょう。鼻に近づけすぎないこと、食べすぎないことは守ってください。

もっと詳しく知りたい人は、静岡県の「わさび」のページと、広島県立総合技術研究所の研究報告No.27が入り口になります。

おろしてから食べるまでの時間と辛みの強さの関係は、日常の目安としてよく語られるが、この記事では数値を採らない。もし測るなら、同じ条件でおろして、時間ごとに香りや辛みを記録する方法が考えられる。ただし刺激物なので、食べる量と、鼻や目に近づけすぎないことに注意が要る。

資料を読むなら、辛味成分の生成は静岡県の資料[1]、減少の定量は広島県の研究報告[2]、受容体は2004年のNature論文[5]と2011年のAm J Physiol Cell Physiol論文[6]が入り口になる。揮発しやすいから消えるのか、慣れるから消えるのか。その割合を、人が食べる場面で測った研究が、この先どう書かれるかが、気になる点である。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文で使った資料です。数字や説明は、これらの内容にもとづいています。

  1. 静岡県「わさび」(農産物振興) https://www.pref.shizuoka.jp/sangyoshigoto/nogyo/nosanbutsushinko/kaju/1003330/1027384.html (辛味成分の生成と含有量)
  2. 広島県立総合技術研究所 食品工業技術センター 研究報告 No.27(2013) https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/122619.pdf (シニグリンとミロシナーゼ、貯蔵中のAITC減少)
  3. カガクなキッチン「アリルイソチオシアネート」 https://kagakucook.com/allyl-isothiocyanate/ (揮発性と、鼻の神経への刺激の説明)
  4. ライフハッカー[日本版](2019)ワサビと唐辛子の辛さのちがい https://www.lifehacker.jp/2019/09/199321why-wasabi-heat-feels-different-from-chili-pepper-heat.html (後に残らない辛さの一般向け説明)
  5. Jordt, S.-E. et al. (2004) Nature 427: 260-265 https://link.springer.com/article/10.1038/nature02282 (AITCが痛みの受容体を活性化する。要旨で確認)
  6. Raisinghani, M. et al. (2011) Am J Physiol Cell Physiol 301: C587 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3174566 (TRPA1の慣れ。培養細胞での実験)

なおした ところ

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