1. ビールの けんきゅうじょで、なにを はかりたかったの?
1. ビール会社の研究所は、なぜ酸性・アルカリ性を数字にしたかったのか
1. 醸造とpH ── アミラーゼが働く範囲と、ソーレンセンの動機
ビールは、むぎの でんぷんを あまい しるに かえて、それを こうぼが アルコールに かえて できます。でんぷんを こわす はたらきを するのが、こうそという 小さな 道ぐです。
この こうそは、さんせいすぎても アルカリせいすぎても、はたらきが おちて、とまる ことも あります[5]。むぎの でんぷんを こわす こうそは、pH5.4〜5.8ぐらいで、いちばん よく はたらくと いわれます[5]。
デンマークの カールスバーグ けんきゅうじょの 所長 ソーレンセンは、こうその けんきゅうを して いました。すいそイオンの おおさが とても だいじだったので、かんたんに あらわす 方ほうとして、1909年に pHの 目もりを つくりました[2]。
ただし、5.4〜5.8は ビールづくりの ふつうの 目やすです。ビールの しゅるいで ちがいます。
では、その 目もりの 数は、どうやって きまるのでしょう。
酵素は、酸性・アルカリ性に敏感
ビールは、麦芽のでんぷんが分解されて糖になり、それを酵母が発酵させてできます。でんぷんを分解するアミラーゼという酵素は、仕込みのpHが5.4〜5.8のあたりでいちばんよく働き、酸性すぎてもアルカリ性すぎても働きが落ち、止まることもあるといわれます[5]。煮沸すると麦汁のpHは0.2〜0.3下がり、pH5前後が酵母の発酵の開始に合うとされます[5]。数字は醸造の一般的な目安で、銘柄によって変わります。
ソーレンセンが作った目盛り
英語版Wikipediaによると、ソーレンセン(1868〜1939年)は、1901年から1938年までコペンハーゲンのカールスバーグ研究所の所長で、酵素とタンパク質を研究していました[2]。酵素の働きには水素イオンの濃度が特に重要だったので、それを簡単に表す方法として、1909年にpHの目盛りを導入しました[2]。
では、その数字は、どんなルールで決まっているのでしょうか。
ビールの仕込みでは、麦芽のでんぷんをアミラーゼが分解する。この酵素はpH5.4〜5.8で最も活性が高く、酸性・アルカリ性のどちらに寄りすぎても活性が落ち、停止することがある[5]。煮沸で麦汁のpHは0.2〜0.3低下し、pH5前後が酵母の発酵開始に適するという[5]。ただし数値は醸造の一般的な目安で、銘柄で異なる。
ソーレンセン(1868〜1939年)は1901〜1938年にカールスバーグ研究所の所長を務め、酵素とタンパク質を研究した。酵素反応では水素イオン濃度が特に重要であり、その簡便な表し方としてpH目盛りを1909年に導入した[2]。ここまでの動機は辞典と英語版Wikipediaの記述による。では、その数値はどう定義されたのか。
2. pHの 「p」は、なにを あらわすの?
2. 「10の−p乗」のpとは何か ── 水素イオン指数のルール
2. 水素イオン指数の定義 ── CH=10⁻ˣとpの由来
水の 中には、すいそイオンと いう、とても 小さな つぶが ういて います。この つぶが おおい ほど、さんせいが つよく なります。
ソーレンセンは、この つぶの おおさを「10を なんども かけあわせた 数」で あらわしました。たとえば すいそイオンの おおさが 0.1(10ぶんの 1)なら pH1、0.01(100ぶんの 1)なら pH2 です(たんいは 1リットルあたりの モルです)[1]。
つまり 数が おおきく なるほど、つぶは すくない のです。pHが 7より ちいさいと さんせい、おおきいと アルカリせいです[3]。
では「p」は なんの あたまもじ でしょう。じつは、ソーレンセン 本人は、はっきり かいて いません。フランス語や ドイツ語の「べきじょう」を いみする ことばの あたまもじと いう せつも ありますが、きまっては いません[3]。
数が 1 ちがうと、どれくらい ちがうのでしょうか。
濃度を「10の−p乗」で表す
水素イオンの濃度(1リットルあたり何モルあるか)をCH、あるいは10のマイナスX乗と表すとき、そのXを水素イオン指数といいます[1]。ソーレンセンは、この指数のpを使ってpHと書くことを提案しました[3]。濃度が0.1モル毎リットルならpH1、0.01モル毎リットルならpH2です[1]。数字が大きいほど、水素イオンは少なくなります。
25℃の純水はpH7で中性、7より小さければ酸性、大きければアルカリ性(塩基性)です[3]。中性がpH7になるのは25℃のときの話で、温度が変わると中性の値も変わります。
pの由来は、はっきりしていない
ソーレンセンは「水素イオン指数」という言葉を提案しましたが、なぜpという文字を選んだかは説明していません[3]。フランス語のpuissanceやドイツ語のPotenz(どちらも「べき乗」の意味)の頭文字とする説もありますが、確定した話ではありません[3]。
ところで、数字が1ちがうと、何がどれだけ変わるのでしょうか。
水溶液中の水素イオン濃度をCH mol/Lとし、CH=10⁻ˣと表したときのXが水素イオン指数である[1]。現在はpH=−log₁₀[H⁺]と書く。CH=0.1 mol/LならpH1、0.01 mol/LならpH2で、pHが1違うと水素イオン濃度は10倍違う[1]。25℃の純水はpH7で、これより小さい水溶液は酸性、大きいとアルカリ性(塩基性)になる。「中性=7」は25℃の条件つきの値である[3]。
ソーレンセンは水素イオン濃度を「10の−p乗」の形で表し、pを「水素イオン指数」と呼んだが、文字pを選んだ理由は本人が明示していない。puissance(仏)やPotenz(独)の頭文字とする説があるものの、推測の域を出ない[3]。では、対数目盛りは日常の値をどう並べ直すのか。
3. 雨と、いの中の えきは、どれくらい ちがうの?
3. 雨と胃液を並べると、水素イオンの濃度は1万倍以上ちがう
3. 雨水と胃液の比較 ── 対数目盛りで約1.3万〜4万倍の差を読む
ふつうの 雨は、空気の 二さんかたんそが とけて、pH5.6に なります[6]。ほんの すこし さんせいです。
いっぽう、たべものを こなす い の えきは、pH1.0〜1.5ぐらいの つよい さんせいです[8]。ふくまれる えんさんには、たべものを こなれやすく し、ばいきんを へらす はたらきも あります[8]。
5.6と 1.5では、ちがいは 4ぐらいに 見えます。でも 1 ちがうごとに 10ばいなので、すいそイオンの おおさは 1まん3000ばい から 4まんばいほど ちがいます(い の えきを 1.0〜1.5と した ときの 計算です)。
ところで、日本の 雨は どうでしょう。1993〜1995ねんどの 全国の へいきんは、4.8〜4.9でした[7]。4.8は、ふつうの 雨の 5.6と くらべて、すいそイオンが 6ばいほど おおい 計算です。
この ものさしを、どうやって はかるのでしょうか。
pHが4ちがうと、水素イオンの濃度は1万倍以上ちがう
気象庁によると、空気中の二酸化炭素が純水に十分溶けたときのpHは5.6で、これがふつうの雨の目安です。酸性雨は、人間の活動で出る酸性の物質を取り込んで、これより酸性になった雨とされます[6]。ふつうの雨のpHは、7ではありません。
胃液は塩酸やペプシンなどを含み、pH1.0〜1.5の強い酸性を示します。塩酸は消化酵素のもとを活性化して食べ物を消化しやすくし、殺菌にも働きます[8]。資料によって値に幅があるため、ここでは「およそ」の値として扱います。
雨(pH5.6)と胃液(pH1.0〜1.5)の差は4.1〜4.6です。10の4.1乗は約1.3万、10の4.6乗は約4万ですから、水素イオンの濃度は約1.3万〜4万倍になります(上限と下限の計算値です)。
日本の雨は5.6より低かった
環境省の酸性雨調査では、1993〜1995年度の降水のpHは、年平均の全国平均で4.8〜4.9でした[7]。10の0.8乗は約6.3なので、pH4.8の雨はpH5.6の雨の約6.3倍の水素イオンを含む計算です。これは1990年代の調査の値で、今の値ではありません。
そもそも、pHはどうやって測るのでしょうか。
雨水は、空気中のCO₂が純水に十分溶けた場合にpH5.6になる[6]。このため酸性雨は「pH7より低い雨」ではない。酸性雨に絶対的な数値の定義はなく、人為起源の酸性物質で酸性化した雨を指し、pH5.6以下を目安に酸性雨と呼ぶことがある[6]。胃液はpH1.0〜1.5の強酸性で、塩酸がペプシノゲンを活性化し、殺菌作用も持つ[8]。ただし資料により幅があり、英語版Wikipediaは1.5〜3.5とするなど一致しないため、値は「およそ」として扱う。
雨と胃液の差は4.1〜4.6で、10⁴·¹≒1.3万、10⁴·⁶≒4万だから、水素イオン濃度は約1.3万〜4万倍になる。胃液のpH1.5と血液のpH7.4の比なら約80万倍(10⁵·⁹)である。日本の降水は、環境省の第2〜3次酸性雨調査で1993〜1995年度の年平均の全国平均がpH4.8〜4.9だった[7]。pH4.8はpH5.6の10⁰·⁸≒6.3倍の濃度にあたるが、1990年代の値であり、現在の値は別の資料で確かめる必要がある。では、この値はどう測られているのか。
4. pHは、どうやって はかるの?
4. pHは2つの方法で測られてきた ── 電極と色の見くらべ
4. 測定法と定義の限界 ── 電極・比色、そしてIUPACの「概念上の定義」
ソーレンセンが 1909年に かいた ろんぶんには、はかりかたが 2つ のって いました。1つは、でんきを つかう 方ほう。もう1つは、しらべたい えきに しひょうやくを くわえて、色を 見本の 色と 見くらべる 方ほうです[2]。色を 見くらべる 方ほうも、同じ ろんぶんに ありました。
ただし、中せいが pH7に なるのは、水の おんどが 25℃の ときです[3]。
さて、この ものさしが いちばん だいじに なる 場所が、わたしたちの 体の 中にも あります。
1909年の論文にあった2つの方法
英語版Wikipediaによると、ソーレンセンの1909年の論文は、酵素の反応での水素イオン濃度の測り方と意味を扱い、2つの測り方を示しました。白金の電極を使う電気的な方法と、指示薬の色を標準の色と見比べる方法です[2]。電極だけではなく、色を見比べる方法も同じ論文にあったことになります。
学校の式は、少し簡略化されている
学校ではpH=−log[濃度]と習いますが、国際的な定義では濃度ではなく「活量」を使います。ただし、1種類のイオンだけの活量は測れないので、pHは単独では測れない概念上の定義とされています[4]。そのため実際の測定は、標準液と比べて行います。
この目盛りは、酸性・アルカリ性を知るだけの道具ではありません。体の中でも、大事な役目をしています。
ソーレンセンの1909年の論文(Biochemische Zeitschrift 21巻131〜304頁)は、2通りの測定法を示した。白金電極を使う電気的方法と、指示薬の標準色との比色法である[2]。色見本による測定も同じ論文にあり、電極だけではない。以上は英語版Wikipediaの記述による。
現在のIUPACは、pHを水素イオンの活量a(H⁺)を使ってpH=−lg a(H⁺)と定義する。単独のイオンの活量には活量係数が要るため、pHは単独では測れず、「概念上の定義」にとどまる[4]。学校で使うpH=−log[H⁺]は、活量を濃度で近似した簡略式である。実際の測定は標準液との比較で行う。では、この狭い意味を持つ値が、生体ではどう扱われているのか。
5. 血の pHは、どれくらい かたよって いいの?
5. 血液のpHは、わずか0.1の幅に守られている
5. 血液のpH7.35〜7.45 ── 緩衝系と「幅0.1」の意味
わたしたちの 血は、ほんの すこし アルカリせいで、pHは 7.35〜7.45ぐらいです[9]。はばは、0.1 しか ありません。
この はばから すこし はずれるだけで、たくさんの きかんに 大きな えいきょうが でると いわれます[9]。だから 体は、血の pHを きびしく ととのえて います。
血の 中には、きゅうに さんせいや アルカリせいに かたむかない ように する しくみも あります。たんさんを つかった しくみです[9]。
ビールの こうそも、わたしたちの 体も、どちらも pHの せまい はばの 中で はたらきます。ソーレンセンが つくった ものさしは、その かんけいを 数で 見せて くれます。
血液は、ほんのわずかなアルカリ性
正常な血液はわずかにアルカリ性で、pHはおよそ7.35〜7.45です。正常範囲から少し外れただけでも多くの器官に大きな影響が出るため、体は血液のpHを厳密に調節しています[9]。
幅の0.1は、水素イオンの濃度にすると約1.26倍(10の0.1乗)です。雨と胃液の差の1万倍に比べると、かなり狭い範囲です。
急な変化から守る、緩衝系
血液のpHは、炭酸と重炭酸イオンなどの化学的な緩衝系によって、急な酸性・アルカリ性への変化から守られています[9]。ビールの酵素も、体の中の酵素も、働く範囲が狭いpHの幅にあります。1909年に作られた目盛りは、その幅を数字で言い表す道具として今も使われています。
6. 自分でも しらべて みたくなったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. 資料の読みどころと、身近な確かめ方
おうちの せんざいや せっけんの うらに、「弱さんせい」や「pH」と かいた ものが ないか、さがして みましょう。見つけたら、どんな 数字が かいて あるか、ノートに うつして みます。かならず、まぜたり なめたり しないでください。
もっと 知りたく なったら、きしょうちょうの さんせいうの ページを、おうちの 人と 見て みましょう[6]。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:辞典、IUPAC、気象庁、環境省、MSDマニュアルを使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- コトバンク「pH」(世界大百科事典)。https://kotobank.jp/word/pH-118874 (pHの提案者・提案年と、10の−X乗の定義について。二次資料)
- Wikipedia「S. P. L. Sørensen」。https://en.wikipedia.org/wiki/S._P._L._Sørensen (研究所での研究、1909年の論文の2つの測り方について。二次資料)
- Wikipedia「pH」。https://en.wikipedia.org/wiki/PH (10倍の目盛り、25℃で純水がpH7、pの由来の説について。二次資料)
- IUPAC Gold Book「pH」。https://goldbook.iupac.org/terms/view/P04524 (活量によるpHの定義と、単独では測れない点について)
- Craft Beer & Brewing「pH」(辞典)。https://www.beerandbrewing.com/dictionary/qeh4iQVXXP (ビール醸造でのpHの目安について。数値は一般的な目安)
- 気象庁「酸性雨に関するFAQ」。https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/env/acid/faq_acid.html (雨のpH5.6と酸性雨の考え方について)
- 環境省 報道発表(酸性雨調査)。https://www.env.go.jp/press/771.html (1993〜1995年度の日本の降水のpHについて)
- コトバンク「胃液」(マイペディア・世界大百科事典)。https://kotobank.jp/word/胃液-430657 (胃液のpHと塩酸の働きについて。二次資料)
- MSDマニュアル家庭版「酸塩基平衡の概要」。https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/12-ホルモンと代謝の病気/酸塩基平衡/酸塩基平衡の概要 (血液のpHの範囲と緩衝系について)
なおした ところ
更新履歴
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