1. つくえ ほどの ワープロが あった?
1. 机ほどの大きさ、630万円のワープロ
1. JW-10 ── 日本初の日本語ワープロの大きさと値段
1979ねんの 2月、とくべつな きかいが とどけられ はじめました。ワープロの「JW-10」です。つくったのは、いまの 東芝の もとの 会社です[1]。
大きさは つくえ ほど、重さは 220キロです。ねだんは 630万円でした[2]。
そのころ、大学を でて はたらき はじめた 人の さいしょの きゅうりょうは、10万円ほどと いわれます[2]。630万円は、その 63か月ぶん。ざっと 5年と 3か月ぶんです。
つぎの 章では、どうして ワープロが 生まれたのかを 見て いきます。
2. どうして 日本語の きかいは むずかしかったの?
2. カタカナしか扱えなかったコンピュータ
2. 前提 ── 日本語入力の壁とタイプライター
日本語の 文は、ひらがなと カタカナと 漢字が まざって います。漢字は とても たくさん あります。
そのころの コンピュータは、とくべつな そうちを つかう ものを のぞくと、あつかえる 日本語の 文字は カタカナだけでした[1]。カタカナだけでは、漢字と かなの まざった 文を 作るのが むずかしいのです。
日本語の タイプライターも ありましたが、あまり 広まらなかったと いわれます。そこで、文章を きれいに、はやく 作る きかいとして、ワープロの せんようきが 生まれたと 話す 記事が あります[8]。
のこる 問いは、「かなを うつだけで、どうやって 漢字まじりの 文に するの?」です。
3. かなで うつと、どうして 漢字に なるの?
3. 読みを打ち、文脈と頻度で漢字を選ぶ
3. かな漢字変換 ── 文節入力・辞書・同音異義語の選択
JW-10は、かなで 文を うって、あとから 漢字と かなの まざった 文に かえる ことが できました[1]。
やり方は こうです。まず、文の 読みを「ぶんせつ」ごとに いれます。ぶんせつは、「わたしは」「はしを」のような、ひとかたまりの ことばです。
おなじ 読みの ことばが いくつか あると、文の つながりと、よく つかわれる ことばかを 見て えらびます[2]。
たとえば「はし」。たべる はしか、川に かかる はしか。前と 後ろの ことばが ヒントに なります。人が 話の つづきで 分かるのと、にて います。ただし 本当は、きかいは 気もちを よむのでは なく、ことばの つながりと、つかわれる 数を 見て います。
じしょには、ふつうの ことばが 5万4千、人の 名前などが 8千 入って いました[2]。
でも、さいしょから うまく いった わけでは ありません。はじめの 実験で、会社の 文書を 正しく かえられたのは、5〜6わりほどと 見つもられました。じしょに ない ことばが おおかったからです[3]。じしょを ふやして、正しさを のばして いきました[2]。
JW-10は、かなで入力した文を、あとから漢字かな交じり文に変換できました[1]。
文の読みは、「文節」ごとに入力します。文節とは、「わたしは」「はしを」のように、文を自然に区切ったひとかたまりです。同じ読みの言葉(同音異義語)が複数あるときは、前後の文脈と、使われる頻度を手がかりに選ぶしくみでした[2]。
たとえば「はし」は、橋・箸・端のどれにもなります。前後の言葉が「食べる」なら箸、「川に」なら橋、と絞れます。人が話の流れで分かるのと似ていますが、機械が見ているのは気持ちではなく、言葉のつながりと使われる回数です。
辞書には、普通の単語が5万4千語、固有名詞が8千語(合わせて6万2千語)登録されていました[2]。
ただし、最初から順調だったわけではありません。開発初期の実験では、実際のオフィス文書の変換率が50〜60%程度と推定されました。辞書に無い語が多かったためです[3]。製品版の精度ではなく初期実験の値ですが、辞書の充実などで変換精度を大きく上げたと説明されています[2]。
4. まちがえても、書き直せる よさ
4. 直せる、挿し込める、とっておける
4. 編集と保存 ── 200ページ・60ページの容量
JW-10は、うった 文を なおしたり、あいだに 足したり できました。紙に うつ タイプライターには なかった よさだと いわれます[2]。
とっておく こともできました。1ページは 40字を 40行と します。1600字です。ディスクには 200ページぶん、フロッピーディスクには 60ページぶん、入りました[2]。
200ページなら、32万字です。かきなおしても 紙を むだに しない。それが、高い ねだんでも、会社が 買う 気に なった 理由の 1つかもしれません。
JW-10では、入力した文を訂正したり、途中に挿入したりできました。これは、タイプライターにない利点だったと説明されています[2]。
保存の量も紹介されています。40字×40行を1ページとして、10MBの内蔵HDDに200ページ分、8インチのフロッピーディスクに60ページ分です。200ページは1600字×200=32万字にあたります[2]。
資料には値段の理由を述べた文は無いので、これは筆者の推測ですが、書き直しやすさと保存できることが、大きな買い物の後押しになったのかもしれません。
JW-10は、訂正・挿入ができ、この点がタイプライターにない利点だった。記録は10MBの内蔵HDDに200ページ分(40字×40行)、8インチFDを使えば60ページ分の保存ができた。200ページは32万字に換算できる(計算値)[2]。
630万円という価格との関係を直接述べた記述は今回の資料に無い。書き直しと保存が購入動機の一部だった可能性は、筆者の推測にとどまる。
5. キーボードにも くふうが あった
5. 親指シフトと、競い合う各社
5. OASYS 100(1980)── 親指シフトキーボードと各社の参入
1980年の 5月に、ふじつうが「OASYS 100」を 発表しました[4]。
この きかいは、「親指シフト」という 名前の キーボードを つけて いました。だれでも 日本語を うちやすい ように、ふじつうが 自分で 作った ものだと いわれます[4]。名前の とおり、親指も 使う しくみです。
ワープロの せんようきは、ふじつうの ほかにも、キヤノンや カシオなど、いろいろな 会社が 作りました[7][5]。会社ごとに くふうを 出して、きそって いたのです。
6. せんようきは、どうして へって いったの?
6. 専用がおよばなかった「何でもできる」パソコン
6. 衰退 ── Windows普及と2001年の撤退・販売終了
せんようきは、文章を 作る ことに しぼった きかいでした。でも、Windowsの パソコンが 広まって、パソコンで 文章を 書く 人が ふえました。
カシオは、せんようきの 売れゆきは 1985ねんごろから すこしずつ へり、Windowsの とうじょうで さらに はやまったと 話して います[5]。
そこで、せんようきで 書いた ものを パソコンへ うつす 道も 作られました。1996年、キヤノンは キヤノワードの 文書や 文字を Windowsで 使える ソフトを 出しました[7]。
2001年の 2月、ふじつうは OASYSの はんばいを おわると 発表しました。前の 年から 新しい 開発を やすんで いて、理由は「ワープロの 市場が 小さく なった」ことでした。これまでに 400万台 いじょうが 出荷されました[6]。親指シフトを 使う 人には、パソコンへ うつる やり方が あんない されました[6]。
2001年の 9月5日には、カシオも せんようきを やめると 発表しました。せいさんは 8月に おわって いて、のこりが なくなり しだい はんばいも おわります。「しごとを つづけるのは むずかしい」と 考えた ためです[5]。
この 記事の 見方ですが、せんようの どうぐは 1つの ことに 強いです。でも、文章 づくりに しぼった きかいは、なんでも できる パソコンが 広まると、えらばれにくく なったのかも しれません。ただし 本当は、ほかにも 理由が あります。ITmediaの 記事は、さいごに 紙に する 場面が へって、画面や ネットで 読む ことが ふえた ことも あげて います[8]。
専用機の市場は縮んでいきました。カシオは、ピークの1985年ごろから徐々に縮小していたところに、Windowsの登場でパソコン市場が急成長し、専用機離れが加速した、と説明しています[5]。ピークの年はカシオの説明で、別の資料では違う可能性があります。
専用機の資産をパソコンに引き継ぐ動きもありました。1996年、キヤノンは「キヤノワード」の文書・外字・登録単語をWindowsで使えるソフトを発売しています[7]。
2001年2月、富士通はOASYSの販売終了を発表しました。前年から新規開発を休止しており、理由は「ワープロ市場の縮小」です。シリーズの累計出荷は400万台以上で、親指シフトの利用者にはパソコンへの移行が案内されました[6]。辞典などには「2000年に生産終了」とするものもありますが、発表そのものは2001年2月です。
2001年9月5日には、カシオが専用機からの撤退を発表しました。生産は8月に中止済みで、在庫がなくなり次第、販売を終えるとされています[5]。
「専用」であることは、文書づくりに絞った強みでした。一方で、何でもできるパソコンが広まるなか、その強みは薄れたのかもしれません。これはこの記事の見方で、資料が理由をこう断定しているわけではありません。ITmediaの解説記事は、最終的な出力が紙から配信へ変わったことも背景に挙げています[8]。
カシオは、専用機市場はピークの1985年ごろから徐々に縮小傾向にあり、Windowsの登場でパソコン市場が急成長して専用機離れが加速した、と説明する[5]。「ピーク1985年」はカシオの説明であり、出荷台数のピーク年を別の年とする資料もあり得る。本稿は台数を扱わない。
移行の動きもあった。1996年、キヤノンは「キヤノワード」の文書データ・外字・登録単語をWindowsで相互利用できるソフトを12月20日から発売した[7]。
2001年2月、富士通はOASYSの販売終了を発表した。前年から新規開発を休止し、理由は「ワープロ市場の縮小」。シリーズ累計出荷は400万台以上、親指シフト利用者にはパソコン移行を案内した[6]。「2000年に生産終了」とする辞典もあるが、発表は2001年2月と読むのが資料に沿う。
2001年9月5日、カシオは専用機からの撤退を発表した。生産は同年8月に中止済みで、在庫がなくなり次第販売終了とされる。理由は、需要が大幅に減少し事業の継続が困難と判断したことだ[5]。
ITmediaの解説は、衰退の背景に、最終的な出力が紙から配信へ変わったことなどを挙げる[8]。文書づくりに特化した「専用」が、汎用のパソコンの普及で優位を保ちにくくなった、というのは筆者の整理であり、資料が単一の理由を断じているわけではない。
7. スマホで「きしゃ」を うって みよう
7. 「きしゃのきしゃがきしゃできしゃした」を変換してみる
7. 出口 ── 同音異義語を変換して、文節の効き方を見る
おうちの 人に 聞いて、スマホか パソコンを かりましょう。
「きしゃの きしゃが きしゃで きしゃした」と、ぜんぶ ひらがなで、スペースなしで うって みます。どんな 漢字が 出ましたか。
つぎに、「きしゃの」「きしゃが」のように、ぶんせつごとに 区切って、1つずつ へんかんして みます。さっきと ちがう 漢字に なるか、見て みましょう。
「記者」「汽車」「帰社」など、いろいろな 「きしゃ」が あります。どれが 出るかは、きかいに よって ちがいます。1979ねんの JW-10も、おなじ ことで なやんだのかも しれません。
スマホかパソコンで、「きしゃのきしゃがきしゃできしゃした」とひらがなだけで入力して、変換してみてください。「貴社の記者が汽車で帰社した」のようになれば、うまくいったことになります。
次に、「きしゃの」「きしゃが」と文節ごとに区切って、1つずつ変換してみましょう。一度に変換した場合と、結果が違うでしょうか。候補に何が並ぶかも見てみましょう。
変換の結果は機種や設定によって変わるので、JW-10と同じ結果になるとは限りません。
原典を読むなら、PC Watchの記事(日本語)がJW-10の大きさ・値段・しくみを説明しています[2]。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:情報処理学会の資料2件、PC Watchの記事4件、開発の経緯をまとめたScrapboxのページ、ITmediaの解説記事を使った。630万円が初任給の何か月分か、200ページの文字数などは、筆者が計算した。
- 情報処理学会 情報処理技術遺産「JW-10」。 https://museum.ipsj.or.jp/en/heritage/jw_10.html (発表と出荷の時期、カタカナしか扱えなかったこと、かな漢字変換について)
- PC Watch「やじうまPC Watch」JW-10の記事。 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/yajiuma/1534464.html (価格・大きさ・重さ、辞書の語数、保存できるページ数について)
- 「JW-10を構成するかな漢字変換技術とワードプロセッサの誕生」(Scrapbox)。 https://scrapbox.io/JW-10/JW-10を構成するかな漢字変換技術とワードプロセッサの誕生 (開発初期の変換率の推定について)
- 情報処理学会 コンピュータ博物館「OASYS 100」。 https://museum.ipsj.or.jp/en/computer/word/0004.html (1980年の発表と、親指シフトキーボードについて)
- PC Watch「カシオ、ワープロ専用機から撤退」(2001年9月5日)。 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010905/casio.htm (市場の縮小の説明と、撤退の発表について)
- PC Watch 富士通「OASYS」販売終了の記事(2001年2月)。 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010207/fujitsu.htm (販売終了の発表、累計出荷台数、パソコンへの移行案内について)
- PC Watch キヤノン「キヤノワード J for Windows」の発表(1996年)。 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/961216/canon.htm (専用機のデータをWindowsで使えるソフトについて)
- ITmedia「ワープロはいずれなくなるか?」。 https://www.itmedia.co.jp/news/article/2102/18/1210218017/ (専用機が生まれた背景と、衰退の背景について)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。