1. ごぜんと ごごは、なにの まえと あと?
1. 午前と午後は、何の「前」と「後」なのか
1. AM・PMの語源 ── ante meridiem と post meridiem
おひるの 12じに、時計を 見て いると します。この ちょうど 12じは、ごぜん でしょうか。ごごでしょうか。
こたえは、どちらでも ありません。ごぜんは「しょうごより まえ」、ごごは「しょうごより あと」と いう いみだからです[1]。しょうごは、おひるの 12じの ことです。
しょうごちょうどは、しょうごの まえでも あとでも ない、ひとつの「てん」です。だから ごぜんにも ごごにも はいりません。
ただし、ふだんの くらしでは、そこまで こまかく わけなくても こまりません。ほんとうに こまるのは、「12じ」と かく ときです。
午前・午後は、英語の AM・PM にあたります。AM は、ラテン語の ante meridiem(正午以前)、PM は post meridiem(正午以後)の略です[1]。meridiem は「正午」を表す言葉で、午前と午後は、どちらも正午を基準にした名前だと分かります。
ここから、ひとつの結論が出ます。正午ちょうどは「正午より前」でも「後」でもないので、AM にも PM にも当てはまりません。アメリカ国立標準技術研究所(NIST)も、12 a.m. と 12 p.m. はあいまいだから使わず、noon(正午)や midnight(真夜中)と書くよう案内しています[2]。
ふだんは、12時を午前か午後かで悩む場面は多くありません。悩むのは、「12時」を紙に書いたり、予約を入れたりするときです。
2. えいごの 12 AM・12 PMは、どっちが ひる?
2. アメリカの資料でも「12 AM」の使い方が割れる
2. 12 AM・12 PMの慣例と、逆の使い方
えいごでは、ごぜんを AM、ごごを PM と かきます。では 12 AM と 12 PM は、どちらが おひるでしょう。
えいごの じしょでは、12 AM は まよなか、12 PM は おひる と する きまりが よく つかわれます[3]。でも、その ぎゃくに つかった れいも あります。
ですから、「12 PM は ひるの こと」と、せかいじゅうで きまって いる わけでは ありません。これは、たくさんの 人が つかう「ならわし」です。
英語圏でも、12時の書き方は割れてきました。アメリカの辞書(American Heritage Dictionary)では、慣例として 12 AM は真夜中、12 PM は正午を表すとされています[3]。
ところが、この慣例とはちがう使い方をした例もあります。アメリカ政府印刷局の文体マニュアルは、2008年版で noon を 12 p.m. とする方向に改めました。つまり、それより前の版は、いまの慣例とはちがう書き方だったことになります[4]。慣例が先にあって、正式な規則はなかったので、時代や使う人によってゆれたのです。
ですから「12 PM は世界共通で昼」とは言えません。慣例にすぎず、規格ではないからです。
英語圏の慣例では、12 AMは真夜中、12 PMは正午を表す(American Heritage Dictionary)[3]。これは、正午に「前」も「後」もないのでAM/PMを当てはめにくい、という構造に対する、便宜的な割りふりといえる。
ただし慣例は規格ではない。米国政府印刷局の文体マニュアルは2008年版でnoonを12 p.m.とする方向に改めており、改める前の版は辞書の慣例とは異なる書き方をしていたことになる。慣例と異なる使い方が実在したことを示す[4]。
したがって「12 PM=昼」を世界共通と書くのは誤りで、慣例にすぎないと留めるのが正確である。なお、辞書の慣例([3])も文体マニュアルの改訂([4])も、いずれも二次的な紹介を経ている。ではこの混乱は、言葉の側にも原因があるのか。
3. noonは、むかし ひるの 3じごろ だった
3. 英語の noon は、昔は午後3時ごろの言葉だった
3. noonの語義の移動 ── 9番目の時間から12時へ
おひるを いみする えいごに、noon(ヌーン)が あります。この ことばは、むかしは ちがう じかんを さして いました。
いまから 1000ねん ちかく まえの えいごでは、日の でから かぞえて 9ばんめの じかん、つまり ごご 3じごろの ことでした[3]。
それが、1300ねん ごろまでに、いまの 12じの いみに なりました。ことばの いみは、じかんが たつと すこしずつ うごく ことが あるのです。
英語で正午を表す noon にも、意外な過去があります。この語は、西暦900年ごろの古英語までさかのぼれます。そのころは、日の出から数えて9番目の時間、今でいう午後3時ごろを指していました[3]。
それが14世紀までに、今の12時の意味に変わりました。オックスフォード英語辞典(OED)の記述によるものです[3]。
ここまでの話から、英語の noon は時代とともに指す時刻が変わったと分かります。時刻の呼び方が時代や場所で動くなら、日本の12時の書き方にも、同じようなゆれがあるはずです。
noonの語源をたどると、西暦900年ごろの古英語にさかのぼり、ローマ式に日の出から数えて9番目の時間(今の午後3時ごろ)を指していた。14世紀までには12時の意味に定着した。OED(Oxford English Dictionary)の記述を紹介した二次資料による[3]。
古代ローマでは、昼と夜をそれぞれ12等分したので、季節によって1時間の長さが変わったとされる。12に分ける習慣そのものは、紀元前1500年ごろの古代エジプトの日時計・水時計にまでさかのぼるという説明があるが、起源には諸説ある。いずれも百科事典的な二次資料による紹介である[4]。
つまり「正午」にあたる語の意味は、動いてきた。では、日本ではどうだったのか。
4. にほんでは、おひるの 12じを どう かく?
4. 日本では、正午の書き方が3通りある
4. 明治5年の布告と、「午前12時」「午後0時」の併存
にほんでも、おひるの 12じの かきかたは、そろって いません。「ごぜん12じ」「ごご0じ」「ごご12じ」の どれも、つかわれて います[5]。
むかしの きまりでは、まよなかを「ごぜん0じ」と「ごご12じ」の どちらでも あらわし、おひるは「ごぜん12じ」と だけ かかれて いました[5]。
ただ、しょうごを 1びょうでも すぎたら、もう ごごです。そこで、すぎた ばあいは「ごご0じ20ぷん」の ように いう ほうが、まぎれにくいと する せつめいも あります[5]。
おひるの 12じは「しょうご」、まよなかの 0じは「しょうし」と いいます。むかしの じかんの よび名の、「うま」と「ね」に もとが あります[5]。
日本でも、正午の書き方は3通りが混ざっています。「午前12時」「午後0時」「午後12時」のどれも使われています[5]。
手がかりは、明治5年(1872年)の太政官布告第337号、いわゆる改暦ノ布告です。解説によれば、この時刻表では、真夜中の正子が「午前0時」と「午後12時」の両方で表されています。一方、正午は「午前12時」としか書かれていません[5]。法令上、「午後0時」という表現は定義にないといいます。
そのため、法律的には午前12時が正しいとしても、正午を1秒でも過ぎれば午後なので、午後零時と表示するほうが混乱しにくい、という考え方があります。国立天文台も、正午過ぎは「午後0時20分」と言うほうがよいとしています[5]。
12時を「正午」、0時を「正子」と呼びます。この字は、昔の十二時辰(1日を12に分けた呼び方)の子(1番目)と午(7番目)に由来します[5]。
日本語でも正午の表記は「午前12時」「午後0時」「午後12時」が混在する[5]。背景として、明治5年(1872年)の太政官布告第337号(改暦ノ布告)の時刻表が、真夜中の正子を「午前0時」と「午後12時」の両方で表し、正午は「午前12時」としか書いていない点が挙げられる。解説では、法令上「午後0時」の定義はないとされるが、布告原文は本稿では確認していないため、「午後0時は誤り」とまでは言えない[5]。
この混在に対しては、法律的には午前12時が正しいとしても、正午を1秒でも過ぎれば午後なので午後零時と表示するほうが混乱しにくい、という見方がある。国立天文台は、正午過ぎを「午後0時20分」と言うよう勧める[5]。
こうした真夜中の「午前零時」は、1920年の第1回国勢調査にも見える。施行令が基準を「大正九年十月一日午前零時ノ現在」と定めた[6]。なお12時を正午、0時を正子と呼ぶのは、十二時辰の子(1番目)と午(7番目)の正刻に由来する[5]。
5. 1にちは、おひるから はじまって いた?
5. 天文学では、1日が正午から始まっていた
5. 天文時から常用時へ ── 1925年1月1日の切りかえ
ふつうの くらしでは、1にちは まよなかの 0じから はじまります。でも、星を しらべる 天文学では、ながい あいだ、おひるから 1にちを かぞえて いました[7]。
これが、1925ねん1がつ1にちから、ふだんの くらしと おなじ、0じ はじまりに かわりました[7]。
だから むかしの 星の きろくでは、12じを さかいに、日づけが かわって いたのです。
午前・午後が正午を基準にしている一方で、1日の区切りは真夜中の0時にあります。日常の暦ではこれを常用時と呼びます。
ところが天文学では、長いあいだ、正午から数える天文時が使われていました。これが1925年1月1日に、常用時と同じ0時始まりに変わりました[7]。たとえば、常用時の1925年1月1日0時は、旧天文時では1924年12月31日12時にあたります[7]。
観測は夜に行うので、夜の途中で日づけが変わらない正午区切りは、天文学者に都合がよかったのだ、と説明されることがあります。ただしこの理由づけは、ここで使った資料には書かれていません。
午前・午後の境が正午にある一方、1日の区切りは常用時では真夜中の0時である。しかし天文学では、長く正午から数える天文時が使われ、1925年1月1日から常用時と同じ0時始まりに変わった。この日、常用時の1925年1月1日0時は、旧天文時の1924年12月31日12時に当たる[7]。
午前・午後の名前が正午を基準にしていることと、日付の切りかえが0時にあることは、別の事情で決まっている。そのため「正午」と「正子」の2つを区別して書かなければ、日付のまたぎが曖昧になりうる。この点は、NISTが日付をまたぐmidnightを曖昧だと指摘するのと同じ構造である[2]。
では、こうした曖昧さを避けるには、どう書けばよいのか。
6. まよわない かきかたは?
6. 迷わない書き方 ── 24時間制と「正午」「午前0時」
6. 曖昧さを避ける表記 ── 24時間制とISO 8601
いちばん まよわないのは、「0じから 24じまで」で かぞえる 24じかんせい(せいは、きまりのこと)です[1]。ごご3じは 15じ、ごご6じは 18じ、と かきます。
12じは、そのまま 12じ。まよなかは 0じ。これなら、ごぜんか ごごかを かんがえなくて すみます。
こんど、えきの じこくひょうや、きっぷ、デジタル時計を 見て みましょう。「12じ」を どう かいて いるでしょうか。24じかんせいの ものも、見つかるかもしれません。
迷わせない書き方のひとつが、24時間制です。国際規格のISO 8601や日本のJIS X 0301で定められています[1]。15時、18時のように書けば、午前か午後かを考えずにすみます。
もうひとつは、言葉で書く方法です。正午や真夜中(正子)とそのまま書きます。NISTは、日付をまたぐ「midnight」が当日の始まりか終わりかあいまいになるので、11:59 p.m. や 12:01 a.m. のように時刻を指定する案も示しています[2]。
身のまわりの時刻表、切符、デジタル時計、予約画面で、「12時」がどう書かれているかを見てみてください。24時間制なのか、午前・午後なのか。正午の書き方に、決まった形がないことが実感できます。
曖昧さを避ける方法は主に2つある。ひとつは24時間制で、国際規格ISO 8601や日本のJIS X 0301が示す。ただし規格本文は未取得で、24時間制の存在を暦Wikiの記述で確かめた範囲にとどまる[1]。
もうひとつは、noonやmidnightと書くか、日付をまたぐ場合に11:59 p.m.や12:01 a.m.と指定する方法である。NISTは、midnightが当日の始まりと終わりのどちらかを曖昧にすることを理由に、後者の案を示す[2]。
時刻表、切符、予約画面、デジタル時計で、12時と0時がどう書かれているかを見比べると、午前・午後が正午を基準にした名前であることの帰結が、日常に残っているのが分かるだろう。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
午前・午後と12時の呼び方について調べるときに使った資料です。
- 国立天文台 暦Wiki「午前と午後」 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/ (AM/PMの語源、24時間制)
- NIST Times of Day FAQs https://www.nist.gov/node/1861431 (12 a.m./12 p.m.の扱い、noon・midnight)
- Grammarphobia「Noon」 https://grammarphobia.com/blog/2007/01/noon.html (12 AM/12 PMの慣例、noonの語義の移り変わり)
- Wikipedia「12-hour clock」 https://en.wikipedia.org/wiki/12-hour_clock (12時間制の起源と、米国政府印刷局の文体マニュアル2008年版の改訂。諸説あり)
- Weblio「12時」(暦Wiki等の引用) https://www.weblio.jp/content/12%E6%99%82 (改暦ノ布告、正午・正子の表記、NICTの見解)
- 総務省統計局 ミニトピックス https://www.stat.go.jp/library/pdf/minitopics18.pdf (第1回国勢調査の基準時刻)
- 国立天文台 暦Wiki「日の始まり」 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/ (天文時と常用時)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。