1. かぞえる まえに、きかいは なにを うたがうの?
1. 数える前に、機械は「1枚だけか」を疑う
1. 計数の前提 ── 「1枚ずつになっているか」の確認
おさつが 2まい くっついて 出て きたら、こまります。かぞえる ほうも、うけとる ほうも、まちがえて しまいます。
ある 会社の とっきょでは、2まい いじょうが かさなって はこばれて きたとき、それを 出し口へ おくらず、あつめる はこへ まわす ように なって います[1]。
この とっきょでは、おさつは 1まいずつ おくられ、ほんものか、いくらの おさつかを しらべてから、いくらの おさつが なんまいか かぞえられます[1]。
だから「かぞえる」とは、まず「1まいずつに なって いるか」を たしかめる しごとでも あります。ただし、これは とっきょの 一れいで、すべての きかいが この とおりとは かぎりません。
出金のとき、2枚が重なったら
お札が2枚くっついて出てきたら、利用者も銀行も困ります。ローレル精機の特許には、2枚以上が全部または一部重なって搬送されている場合、出金口に送らず回収ボックスへ回収する構成が書かれています[1]。
数える仕事の中身
同じ特許では、お札は1枚ずつ、短い辺を進行方向に合わせて送られます。本物かどうか、いくらの札かを判別してから、金種ごとに数えられます[1]。日立の還流式ATMの解説でも、入れられたお札はまず1枚ずつ分離され、識別部で金種や偽造の有無を読み取ってから、一時的に置く場所へ送られると説明されています[5]。
つまり流れは「1枚ずつに分ける→調べる→数えて仕分ける」です。ただし特許は各社の一例で、すべての機種の動きを言い切れるわけではありません。
では、束から1枚だけを引き出すという最初の関門は、どうやって越えるのでしょうか。
出金や入金の処理で、2枚が重なったまま通過すれば、枚数も金額も狂う。ローレル精機の特許は、2枚以上の紙幣が全部または一部重なって搬送されている場合に、出金部へ送らず回収ボックスへ回収する構成を示す[1]。同じ特許では、紙幣は短辺が搬送方向と平行になるように1枚ずつ送られ、真正かつ流通可能なものが金種別に計数される[1]。
日本機械学会の資料が説明する日立の還流式ATMでも、入出金口に入れた紙幣はまず1枚ずつ分離され、識別部が金種と偽造の有無を読み取ってから一時スタッカへ送られる[5]。つまり計数は「分離→識別→仕分け」の最後の工程で、最初に成立させるべき条件は「1枚ずつになっていること」だ。
ただし特許は各社の方式の一例で、現行の市販機すべての動作を示すものではない。では、紙の束から1枚だけを取り出す操作自体は、どう実現されるのか。
2. たばから 1まいだけ、どうやって ひきだすの?
2. 束の下の1枚だけを、摩擦で引き出す
2. 繰り出し機構 ── 摩擦力と逆転ローラの釣り合い
おさつの たばから、1まいだけ ぬくのは、むずかしい ことです。かみは すべりやすく、うえの おさつも いっしょに ついて きがちだからです。
ある 会社の とっきょでは、たばの いちばん したの 1まいだけを、ベルトと こすれる ちからで おくり出します。その うえの おさつは、ぎゃくむきに まわる ローラーで、もとの ばしょへ おしもどされます[2]。
ひっぱる ちからと、もどす ちからの 引っぱりあいです。ただし これは、おさつを とりこむ そうちの せつめいで、出す がわの しくみと おなじとは かぎりません。
「引く力」と「戻す力」
グローリー工業が1997年に出願した特許では、積んだお札の最下層の1枚だけを、搬送ベルトとの摩擦で繰り出し口から送り出します。それより上のお札は、逆向きに回る逆転ローラの回転で、元の空間へ戻されます[2]。引っぱる力と、押し戻す力の綱引きのような仕組みです。先端を見張るセンサで重なりを見つけたら、搬送を止める制御も使われます[2]。
1回転で1枚
日立オムロンの2006年出願の特許では、ピックアップローラの外周の一部が出っ張っていて、1回転で1枚を出す構造になっています。押しつける力が足りないと、空振りしたり、次のお札を連れて出てしまったりするので、その押圧を検出することが課題とされています[3]。
摩擦は強すぎても弱すぎてもいけません。だから、どんなに丁寧に分けても、まれに2枚が来てしまう前提で、次の検査が用意されています。
グローリー工業が1997年に出願した特許は、受入空間に積んだ紙幣のうち最下位の1枚だけを搬送ベルトとの摩擦で繰出口から繰り出し、それより上位の紙幣は逆転ローラの回転で受入空間へ戻す方式を示す[2]。先端検知センサで重なりを見て搬送を止める制御も併用される[2]。ただしこれは紙葉類の取込み装置の説明で、出金側の方式と同一とは限らない。
日立オムロンの2006年出願の特許は、外周の一部が出っ張ったピックアップローラで「1回転で1枚出し」する方式を採る。押圧が不足すれば空出しになり、繰出タイミングがずれて次の紙幣にくっついて出る「連れ出し」も起きるとされ、押圧の検出が課題に挙げられている[3]。
摩擦で1枚を選ぶ方式は、引き出す力と戻す力の釣り合いに依存し、押圧や紙の状態で結果が変わる。したがって機構だけで重送を完全に防ぐのではなく、後段で検出する設計になる。その検出に使われるのが光だ。
3. ふたまい かさなったら、ひかりで わかるの?
3. 光を通すと、重なりは「見える」
3. 透過画像による重なりの検知と基準データとの比較
おさつに ひかりを あてると、うしろから ひかりが すけて 見えます。1まいと 2まいでは、すけかたが ちがいます。
ある とっきょでは、おさつを ひかりが とおった ようすを がぞうに して、いくらの おさつの 「おてほん」と くらべます。2まい かさなると、すけた ようすの もようが かわるので、かさなりも 見つけられると いいます[4]。
かさなりが 見つかった おさつは、出し口へ 出さずに、はこへ もどします[1]。
透けた画像を、お手本と比べる
ローレルバンクマシンの特許は、紙幣に光を通して得た透過画像の色のデータを、金種ごとの基準データと比べて、金種や、受け入れられない紙幣(偽造・外国紙幣など)を見分ける方法を示しています。反射した光のデータも併用します[4]。
2枚以上が重なると、透過画像のパターンが変わります。だから同じ画像データが、重なりを見分けることにも使えます[4]。
見つけたあと、どうするか
出金のとき、重なりが見つかったお札は、出金口へ送らず回収ボックスへ回収する、というのが前の章の特許でした[1]。出す前に弾くので、利用者の手元に2枚が出てくることを防げます。
重なりのほかに、お札の向きを調べる仕組みもあります。向きはどう確かめるのでしょうか。
ローレルバンクマシンの特許は、紙幣に光を通して得た透過画像の色度データを、メモリに記憶した各金種の基準透過画像と比べて、金種や受け入れできない紙幣(偽造・外国紙幣など)を判別する。反射画像の色度データも併用する[4]。
2枚以上が重なると透過画像のパターンが変わるため、同じデータが重なりの判別にも使える[4]。この特許の方式では、透過画像のデータを、真偽・金種・重なりの判別に使っている。
重なりが検出された紙幣は、出金時には出金口へ送られず回収ボックスへ回収される[1]。ただし、これらは特許に書かれた一例の方式で、現行機の内部方式を示すものではない。技術誌の紹介では、金融端末に光学センサ(可視光・赤外線・紫外線)に加えて磁気センサや厚みセンサを載せる機器があるとされる[9]。
4. おさつは、むきも しらべて いるの?
4. お札の向きは4通り。先に当ててから調べる
4. 投入方向の判定 ── 4方向の基準波形と二乗和
おさつを ATMに 入れる とき、おもてか うらか、うえか したか、ぜんぶ ばらばらに なります。むきは 4とおりも あります。
ある とっきょでは、まず 4つの むきの 「おてほん」を つくって おきます。入れられた おさつを それぞれと くらべて、いちばん にて いる むきを、入れられた むきと みなします[6]。
むきを さきに きめると、そのあとの しらべる けいさんが すくなく なります。ただし これは 1996ねんに 出された とっきょの 一れいです。
向きは4通り
お札を入れる向きは、表向きで右、表向きで左、裏向きで右、裏向きで左の4通りです。三洋電機の1996年の特許では、本物のお札からあらかじめ4つの方向の基準になる波形を求めておき、入れられたお札の波形との差の二乗の合計がいちばん小さい方向を、投入方向とみなします[6]。向きを先に決めると、あとの照合の計算が少なくなる、という考え方です[6]。
出す前に、向きをそろえる
グローリーの2017年出願(2021年登録)の特許には、お札の表裏・天地を読み取る識別部と、お札をひっくり返す反転部があり、出すお札の向きをそろえる構成が書かれています。入金のときに反転の仕組みを2つ通すと時間がかかるので、入金と出金で反転の役割を分ける工夫も書かれています[7]。
ここまで「1枚に分ける」「重なりを見る」「向きを知る」を見てきました。本物かどうかは、どうやって決めるのでしょうか。
投入された紙幣の向きは、表右・表左・裏右・裏左の4通りある。三洋電機の1996年出願の特許は、真券から4方向の標準センサ波形を求めておき、投入紙幣の波形との差の二乗和が最小になる方向を投入方向とみなして、その方向に対応する標準波形とだけ比べて真偽判定を行う[6]。4つ全部と比べるより、向きを決めてから1つと比べるほうが計算量が減る、という筋道だ。ただしこれは当時の特許の一例で、現行機の方式とは限らない。
出金側では、グローリーの2017年出願(2021年登録)の特許が、紙幣の表裏・天地を読み取る識別部と反転部を備え、出金する紙幣の向きをそろえる構成を示す。入金時に2つの反転機構を通すと時間がかかるため、入金処理では第2反転部、出金処理では第1反転部を経由または迂回させ、役割を分ける[7]。
入れるときは向きを「当て」、出すときは向きを「そろえる」。この特許では、入金と出金で反転部の使い方を分け、処理時間を短くする工夫をしている。向きが決まってから照合する、という順序は、重なりの検知や真偽判定の前提にもなる。
5. にせものや よごれた おさつは、どう なるの?
5. 本物と汚れの見分けは、ATMの外にも続く
5. 真偽・汚損の判定と、還流という発想
ATMは、おさつが ほんものかも しらべます。ひかりの がぞうの ほかに、じきを つかう センサも のって いる、と しょうかいされて います[9]。
また、いちど 入れられた おさつを、もんだいが なければ、また 出す ときに つかう ATMも あります。よごれが つよい おさつは、もう つかわない はこに 入ると いわれます[10]。
これと にた ことを、日本ぎんこうも して います。もどって きた おさつの まいすうを たしかめ、にせものでないか しらべ、いたみぐあいから、また つかえるかを みわけます[8]。
還流式ATMは、入れたお札を出金に使う
還流型のATMは、入金されたお札を識別して、問題のないものを出金に再利用します[8]。情報処理学会の研究報告の紹介では、金種を判定したあと、金種に応じた基準で偽造や汚損の判定をし、汚れの強いお札は還流しない金庫に入る、とされています[10]。技術誌の紹介では、金融端末に光学センサ(可視光・赤外線・紫外線)のほかに、磁気インクの情報を読む磁気センサを載せる機器があるとされています[9]。
日本銀行がしていること
日本銀行は、金融機関から戻ってきたお札の枚数を確かめ、偽造や変造がないか真偽を鑑定します。傷み具合から、もう一度流通させてよいかも判別しています[8]。日本銀行も、戻ってきたお札を調べて、再び流通させるか決めています。
還流型ATMは、入金された紙幣を識別し、問題のないものを出金に再利用する。情報処理学会の研究報告を紹介する要約では、金種判定ののち金種に応じた基準で偽造判定・汚損判定を行い、汚損の強い紙幣は還流しない金庫に収められる[10]。また三菱電機の技報の紹介によれば、金融端末には可視光・赤外線・紫外線の光学センサ、磁気インクの情報を読む磁気センサ、厚みセンサなどが載る機器があるとされる[9]。
ATMの外側でも、同じ発想は使われる。日本銀行は、受け入れた銀行券の枚数を確認し、偽造・変造がないか真偽を鑑定したうえで、損傷や汚染の度合いから再度の流通に適するかどうかを判別している[8]。「1枚ずつ数える→調べる→再び流す」という流れは、ATM1台の中でも、中央銀行の側でも似た形をしている。
残る問いは、重なりを光で見つける考え方を、身の回りの紙でどこまで再現できるか、である。
6. かみを 1まいと 2まいで、すかして くらべよう
6. 紙1枚と2枚を、光にかざして比べる
6. 重なりの検知を、光で再現する ── 読む資料のめやす
おさつの かわりに、コピー用紙を つかいます。まどの あかるい ほうへ、1まいを かざして、すけかたを 見ます。つぎに、2まいを かさねて かざします。
2まいの ほうが、くらく 見えるはずです。ATMは、これを ひかりの がぞうで 見て、かさなりを みつける、と とっきょに かかれて います[4]。
たいようを じかに 見ては いけません。かいちゅうでんとうを つかう ときは、人の 目に むけないで ください。
きかいの なかでは、これと にた ことを、ひかりの がぞうで 1まいずつ やって いるのだと、とっきょは つたえて います。
お札のかわりに、コピー用紙で試せます。窓の明るい方へ1枚をかざして、透けぐあいを見ます。次に2枚を重ねてかざし、見え方がどう変わるかを比べます。
2枚にすると、1枚のときより暗く見えるか比べてみます。ATMの特許では、これを光の画像データで見ることで、重なりの判別に使えると説明されています[4]。太陽を直接見ないこと、懐中電灯は人の目に向けないことは、守ってください。
この記事の特許は、出典欄の番号から日本語で読めます。重なりを光で見る話は[4]、束から1枚を引き出す話は[2]が入り口になります。特許は各社の一例なので、機械の実際の動きと同じとは限りません。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:特許公報(Google Patents)、日本機械学会の解説、日本銀行の資料、技術誌・学会報告の紹介を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。特許は各社の方式の一例で、現行機の仕様を示すものではない。
- JP4832026B2「紙幣処理機」(ローレル精機)。https://patents.google.com/patent/JP4832026B2/ja (重なりの回収、1枚ずつ金種別に数える流れについて)
- JP3649879B2「紙葉類取込み装置」(グローリー工業)。https://patents.google.com/patent/JP3649879B2/ja (摩擦と逆転ローラによる1枚の繰り出しについて)
- JP2007182295A「紙葉類繰出装置」(日立オムロンターミナルソリューションズ)。https://patents.google.com/patent/JP2007182295A/ja (1回転で1枚出す繰り出しローラについて)
- JP3535040B2「紙幣判別装置」(ローレルバンクマシン)。https://patents.google.com/patent/JP3535040B2/ja (透過画像による金種・重なりの判別について)
- 日本機械学会 還流式ATMの紙幣取扱い技術(Hitachi/Hitachi-Omron)。https://www.jsme.or.jp/archive/eng/awards/awardsn04-8.html (1枚ずつ分離してから識別する流れについて)
- JPH09245215A「紙幣の投入方向判定方法」(三洋電機)。https://patents.google.com/patent/JPH09245215A/ja (4通りの向きの判定方法について)
- JP6887271B2「紙幣処理装置」(グローリー)。https://patents.google.com/patent/JP6887271B2/ja (表裏・天地の読み取りと向きをそろえる反転部について)
- 日本銀行「銀行券・貨幣の発行・管理の概要」。https://www.boj.or.jp/note_tfjgs/note/outline/index.htm (戻ってきたお札の枚数確認・真偽鑑定・再流通の判別について)
- 三菱電機技報 2016年「高分解能ライン磁気センサ」。https://www.giho.mitsubishielectric.co.jp/giho/pdf/2016/1602204.pdf (金融端末のセンサの種類の紹介について。要約にもとづく)
- 情報処理学会研究報告 還流型ATM向け紙幣識別(2014)。https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/record/106813/files/IPSJ-CG14157008.pdf (金種判定のあとの偽造・汚損判定について。要約にもとづく)
なおした ところ
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