1. 電池に 入れた 電気は、どれだけ もどって くるの?
1. 満タンまで入れた電気は、どれだけ戻ってくるのか
1. 往復効率とは何か:実測値と資料ごとの幅
スマホに 電気を 100 入れたと します。この 電気は、ぜんぶ 使えるでしょうか。
じつは、ぜんぶは 取り出せません。入れた 電気の うち、あとで 取り出せた 分を 往復効率と いいます。たかいほど、むだが 少ない という ことです。
アメリカでは、大きな 電池を 1年 じっさいに 動かして、はかった データが あります。2019年の へいきんは 82ぐらい でした。100 入れると、82ほど もどる という ことです。
ほかの しりょうでも、電池の しゅるいや じょうけんで 少しずつ ちがいますが、8〜9わりの ものが 多いです。のこりの 1〜2わりは、どこへ 行ったのでしょう。
家のスマホを0%から100%まで充電したとします。その電気は、全部使えるのでしょうか。
蓄電に入れた電気のうち、あとで取り出せた割合を往復効率といいます。高いほど、蓄える途中で失われるエネルギーが少ないということです[1]。
アメリカのEIA(エネルギー情報局)が、2019年の大規模蓄電池の運転データを調べています。月ごとの往復効率の平均は82%で、100入れると約82が戻ったことになります。同じ年の揚水発電所(水を高い所に上げて貯める施設)は79%でした[1]。これは大規模用の実測で、家庭用や最近の機種の値とは限りません。
ほかの資料も見てみます。アメリカの研究所PNNLがまとめた表では、リチウムイオン電池が83%、改良した鉛蓄電池が85%、バナジウムレドックスフロー電池とナトリウム硫黄電池が75%です。複数の資料の範囲の中央値を使った値で、製品ごとの保証値ではありません[2]。日本のJST低炭素社会戦略センターの提案書は、リチウムイオン電池のシステムを80〜85%としています[3]。
数字がそろわないのは、電池の種類、調べた条件、年代、どこまでを「電池」に含めたかがちがうからだと考えられます。ひとつの数字に決めず、「8〜9割台」と覚えておくのが安全です。では、残りの1〜2割は、どこへ消えたのでしょうか。
蓄電池の性能を一つの数字で表すとき、よく使われるのが往復効率である。蓄電に入れた電気のうち、あとで取り出せた割合を指し、高いほど蓄える途中の損失が小さい[1]。
EIAは、米国の大規模蓄電池の2019年の運転データから、月平均の往復効率を82%、揚水発電所を79%と報告した[1]。実測値として信頼できるが、米国の大規模用の平均であり、家庭用や新しい機種にそのまま当てはまるわけではない。
ところが、資料をいくつか並べると、同じ種類の電池でも数字が揃わない。PNNLの整理表では、リチウムイオンが83%、改良鉛蓄電池が85%、バナジウムレドックスフロー電池とナトリウム硫黄電池が75%、揚水が81%で、いずれも複数資料の範囲の中央値である[2]。日本のJST低炭素社会戦略センターは、リチウムイオン電池システムを80〜85%、NAS電池とレドックスフローを70%と示す[3]。
この食いちがいは、どれかが誤りだという意味ではなく、測る範囲(電池だけか、周辺機器まで含むか)、条件、年代がちがうためだと考えられる。したがって、「リチウムイオン電池の往復効率は〇%」と一つに断定せず、おおむね8〜9割台と見るのが妥当である。では、残りの1〜2割はどこで失われるのか。
2. なくなった 電気は、どこへ 行ったの?
2. 消えた電気は、どこへ行ったのか
2. 失われたエネルギーの行き先:内部抵抗と熱
電気を 入れて いる ときの 電池や 電気を 入れる きかいを さわると、あたたかい ことが あります。電気の 一ぶが、ねつに なって にげて いるのです。
電池の 中には、電気の 通りにくさ(抵抗)が あります。手と 手を こすり合わせると あたたかく なるように、通りにくい ところを 電気が 通ると、ねつが 出ます。ただし これは たとえで、本当の しくみは もう 少し むずかしいです。
さむい ときは、電池の 中の はたらきが にぶくなり、電気を 出しにくく なる ことが あります。
「さむいと 電池が 弱る」と 言われる のは、そのためです。電気の 通りにくさも、その 理由の 一つと 考えられます。
充電中のスマホや充電器を触ると、あたたかく感じることがあります。入れた電気の一部が熱になって逃げているからです。熱は、電池や充電器の中で生まれます。
電池の側から見ると、犯人の一人は内部抵抗です。電池の中を電気が流れるとき、電池の中にもわずかな電気の通りにくさがあります。電流が流れると、端子の電圧は、何もつないでいないときより「電流×抵抗」のぶんだけ下がります[4]。たとえば抵抗が0.15オームの電池に1アンペアを流すと、電圧は0.15ボルト下がる計算です。
この抵抗は温度でも変わります。家庭用蓄電池の解説でも、冬の低温では往復効率が下がるといわれます[7]。
アメリカのオークリッジ国立研究所の研究は、市販のリチウムイオン電池(18650形)で、充電や放電のあいだに出る熱を測りました。内部抵抗などによる不可逆な発熱は電流と過電圧に左右され、電流を大きくするほど熱が増えたと報告されています[5]。熱は、すべてが抵抗由来ではなく、化学反応にともなう可逆的な熱もあります。
電流が大きいと熱が増えるのなら、ゆっくり入れれば戻りは増えるのでしょうか。
失われたエネルギーの一部は熱になる。その入口の一つが内部抵抗である。電池に電流が流れると、端子電圧は無負荷時より、電流と内部抵抗の積だけ下がる[4]。この電圧降下の分は、外へ取り出せない。
電流が2倍になれば、電圧降下も2倍になる。電圧降下と電流の積を損失の電力とみる単純なモデルなら、損失は電流の2乗に比例し、電流が2倍で損失は約4倍になる。これは理想化した見方で、実際の電池の損失はもっと複雑だが、「速く流すほど損が急に増える」という方向は、次の測定とも合う。ORNLは市販の18650リチウムイオン電池を0.05C〜0.5C、20〜50℃で熱量測定し、内部抵抗などによる不可逆発熱が電流と過電圧に依存し、電流を大きくするほど熱が増えたと報告している[5]。ただし熱には、反応にともなう可逆的な熱(エントロピー熱)もあり、熱のすべてが抵抗由来というわけではない。
内部抵抗は温度でも変わる。家庭用蓄電池の解説でも、冬の低温で往復効率が下がるといわれる[7]。この解説は販売事業者系の二次資料であり、数字は目安として扱う。
熱は、電池や充電器の中で生まれる。熱が電流に左右されるなら、電流を小さくすれば損は減るはずだ。実際に測られているのか。
3. ゆっくり 入れると、もどる 電気は ふえるの?
3. ゆっくり入れると、戻る電気は増えるのか
3. 充放電の速さ(Cレート)と効率の関係
水を コップに 入れる ときを 思いうかべて ください。いきおいよく 入れると、水が あふれたり、とびはねたり します。ゆっくり 入れると、むだが 少なく なります。
電池も にた ところが あります。電池の ことを せつめいする サイトでは、電池 1こ だけを はかると、およそ 20時間 かけて 入れる ゆっくりな 入れ方では、入れた 電気の 99%ほどが もどると されて います。2時間 かけると、97%ほどです。大きな 電池の 82%とは、はかった ものが ちがいます。
もっと 速く 入れると、もどる 電気は さらに 少なく なります。
ただし、水の たとえと ちがって、電池の 場合は 水が こぼれるのでは なく、通りにくさで ねつに なる ことが おもな 理由と 考えられます。
電池の充放電の速さは、Cレートという言葉で表します。0.05Cは約20時間、0.5Cは約2時間かけて入れる速さで、1Cは約1時間です。
アメリカの電池解説サイトBattery Universityによると、リチウムイオン電池のエネルギー効率は、ゆっくり充電した場合、0.05C(約20時間)で約99%、0.5Cで約97%、1Cではさらに下がります。また、充電の電圧は電池の定格電圧より常に高く、ここにも損が出ます[6]。
速く入れるほど戻る電気が減る、という結果は、前の章の「電流が大きいほど熱が増える」と筋が通ります。家庭用蓄電池の解説でも、急速な充放電では内部抵抗で熱が増え、変換効率が下がるといわれます[7]。
ここで一つ、不思議な点があります。電池そのものは97〜99%なのに、第1章の大規模蓄電池の実測は82%でした。この差は、条件がちがうため単純には比べられません。ただ、電池の外にも損の出る場所があることを疑わせます。
充放電の速さは、Cレートで表す。1Cは満充電を約1時間で行う電流、0.5Cは約2時間、0.05Cは約20時間にあたる。Battery Universityによると、リチウムイオン電池の電池単体のエネルギー効率は、0.05Cで約99%、0.5Cで約97%、1Cではさらに低下する。また充電電圧は常に定格電圧より高く、この電圧差にも損が出る[6]。
前章の「電流が大きいほど熱が増える」という報告[5]と合わせると、速く入れるほど効率が落ちる理由に、見通しがつく。家庭用蓄電池の解説でも、高いCレートでは内部抵抗による発熱が増え、変換効率が下がるとされる[7]。
注意したいのは、Battery Universityの値が電池単体のものである点だ。同じ資料の97〜99%と、第1章のEIAの82%[1]は、測る範囲も、電池の種類も、条件もちがう。数字を並べて「差の17ポイントは電池の外の損だ」と決めつけることはできない。ただ、電池本体が97%以上でも、システム全体で8割台になるのなら、電池の外にも損の出どころがあると考えるのは自然である。それは何か。
4. 電池の 外でも、電気は へるの?
4. 電池の外でも電気は減る:制御、配線、変換
4. システム全体の損失:制御用電力、配線、交直変換
大きな 電池は、小さな 電池を たくさん あつめて つくります。それを 見はったり、つなぐ 線を 通ったり する ときにも、電気は 少しずつ へります。
日本の 研究所(JST)の しりょうでは、電池 1この 力より、たくさん あつめた とき のほうが ひくく なる 理由を、見はる きかいが 使う 電気や 線で へる ぶんと 考えて います。
家で 使う 電池でも、電気の しゅるいを かえる きかいを 通ります。ここでも、少し ずつ へると いわれます。
水を 山の 上に 運んで ためる 揚水発電所でも、2019年の アメリカの データでは、もどる 電気は 79ぐらい でした。ためて もどす しくみは どれも、すこしずつ へって しまうのです。
大きな蓄電池は、単電池を大量に集めて作ります。日本のJST低炭素社会戦略センターの提案書は、リチウムイオン電池システムの効率を80〜85%、NAS電池とレドックスフロー電池を70%と示し、電池そのものより低くなる理由を、制御システムが使う電力と配線の損失と推定しています[3]。推定であって、測って分けた数字ではありません。
電池の外で電気の種類を変えるときにも、一部が失われます。電池は直流で電気を蓄え、家のコンセントは交流なので、パワーコンディショナーなどが直流と交流を変換します。家庭用蓄電池の解説では、充電のときの変換効率は92〜97%程度とされ、実運用の往復効率は85〜92%程度が目安といわれます[7]。これは販売事業者系の資料で、数字はやや幅があります。
仮に変換効率が95%だとすると、入れるときと出すときの2回で、0.95×0.95で約0.90です。変換だけで約1割減る計算になります。さらに電池の効率を97%とすると、全体は0.97×0.90≒0.87、約87%で、9割を切ります。これは、私が置いた仮の数字での検算で、実際の機器の値ではありません。
ちなみに、第1章のEIAの実測では、揚水発電所も79%で、100入れて戻るのは約79でした[1]。水を高い所に上げて貯める方式で、電池が電気化学で貯めるのとは別のしくみですが、「貯めて戻す」と必ず一部が減る点は同じです。
電池本体の効率が97〜99%に達しても、システム全体で8割台にとどまるのは、電池の外にも損があるからだ。JST低炭素社会戦略センターの提案書は、リチウムイオン電池システムの効率を80〜85%、NAS電池とレドックスフロー電池を70%とし、リチウムイオンの値が電池本体より低い理由を、単電池を大量に集めたシステムでの制御用電力と配線損失のためと推定する[3]。ページには、これが「往復効率」か「エネルギー効率」かの明記がなく、また推定であるから、数字の読み方には注意が要る。
もう一つは、電気の種類を変えるときに一部が失われることだ。蓄電池は直流で蓄えるが、家庭の電源は交流なので、パワーコンディショナーなどで変換する。ある家庭用蓄電池の解説は、充電時の変換効率を92〜97%程度、実運用の往復効率を85〜92%程度とする[7]。ただしこの解説は販売事業者系の二次資料で、同一記事内でも範囲に不一致があるため、数字は目安にとどめる。
変換の損が往復効率にどれだけ効くかを、仮の数字で検算してみる。変換効率を95%とし、充電と放電の2回で損が出るとすると、0.95×0.95≒0.90で約9割になる。電池単体の効率が97%でも、全体は0.97×0.90≒0.87で9割を切る。これは変換効率を95%と置いた算数であり、実際の機器の値ではないが、「電池の外で積み重なる損」が往復効率の幅を生む仕組みは分かる。
比較として、EIAの米国実測では揚水発電所も79%、PNNLの表では81%である[1][2]。水を使う揚水と、電気化学で蓄える電池は別のしくみだが、どこかで必ず損が出る点は共通する。
5. 手で ためして みよう
5. 充電中の機器に手をあてて、熱を感じてみる
5. 充電中の熱を手で感じる、日本語の資料で確かめる
きょう できる こと
おとなの 人に たのんで、こわれて いないか 見て もらいましょう。あんぜんだと おとなが たしかめた ときだけ、電気を 入れて いる スマホや きかいの 外がわを、手の こうで そっと さわって みます。あたたかい ところが ありますか。ひどく あつい ときや、こわれて いる ときは さわらず、おとなの 人に つたえます。ふとんの 下や、もえやすい 物の そばでは、電気を 入れません。
それが、もどらなかった 電気の すがたの 一つです。
しらべる とき
さいごの 「参考にした 情報源」に ある JST の しりょうを、おとなと いっしょに ひらくと、電池の しゅるいごとの こうりつが ならんで います。
手で確かめる
おとなの人と一緒に、電気を入れている途中のスマホや充電器を、手の甲でそっと触ってみましょう。あたたかい所があれば、それが戻らなかった電気の一部と考えられます(電池の熱か、充電回路の熱かは、手では分けられません)。ひどく熱いときはすぐ離し、おとなに伝えます。布団の下や燃えやすい物のそばでは充電しません。
充電を始めた直後と、しばらくたってから、触った感じを比べるのもよいでしょう。
資料を読むなら
日本語の資料では、JSTの提案書[3]に、電池の種類ごとの効率が並んでいます。読むときは、「電池そのもの」の値なのか、「システム全体」の値なのかを見分けてください。
この記事の数字は、どれも一つの資料の値です。測る範囲や条件がちがえば、数字もちがってきます。
手で確かめる
おとなの人と一緒に、電気を入れている途中のスマホや充電器を、手の甲でそっと触る。あたたかい所があれば、入れた電気の一部が熱になった証拠である。ただし、電池の熱か、充電回路の熱かは、触感では区別できない。熱いときはすぐ離し、布団の下などでは充電しない。
資料を読むなら
日本語の資料としては、JSTの提案書[3]が、電池のタイプ別に効率を示す。内部抵抗の例は[4]、発熱の測定は[5]、Cレートと効率の関係は[6]にある。
読むときは、その数字が「電池単体」か「システム全体」か、「測った値」か「資料の中央値」かを見分けたい。81%と80〜85%の違いも、測る範囲や条件の違いが関係している。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った資料です。数字は、資料ごとの条件が異なります。
- U.S. Energy Information Administration, Today in Energy: U.S. battery storage round-trip efficiency (2021-02-12). https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=46756 (往復効率の定義/米国の実測値)
- PNNL GridPIQ, Energy Storage System Efficiency. https://gridpiq.pnnl.gov/v2-beta/doc/technologies/es/es-efficiency/ (種類別の往復効率の目安)
- JST低炭素社会戦略センター 提案書 fy2019-pp-01. https://www.jst.go.jp/lcs/proposals/fy2019-pp-01.html (日本の電池システムの効率/制御と配線の損)
- Wikipedia, Internal resistance. https://en.wikipedia.org/wiki/Internal_resistance (内部抵抗と電圧降下/低温の例)
- Oak Ridge National Laboratory, Understanding heat generation mechanisms and interplay between Joule heat and entropy. https://www.ornl.gov/publication/understanding-heat-generation-mechanisms-and-interplay-between-joule-heat-and-entropy (電流と発熱の関係)
- Battery University, BU-808c: Coulombic and Energy Efficiency with the Battery. https://batteryuniversity.com/article/bu-808c-coulombic-and-energy-efficiency-with-the-battery (充電の速さと効率)
- 太陽光発電 価格.jp 解説記事(販売事業者系). https://www.taiyoko-kakaku.jp/archives/1118035.html (家庭用蓄電池の実運用の目安。二次資料)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
- 低学年むけで、スマホの「100」の意味、寒さと電池の関係、電池単体の99%と大きな電池の82%のちがい、さわってみる前の安全の確認を分かりやすく直しました。高学年むけで、変換効率と電池の効率を合わせた全体の計算(約87%)を書き足し、中学生むけで「電池単体の効率」と明記しました(先生の目での読み直しによる)。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。